大阪府の金融実証補助金、初年度は4件2889万円|HashPortら採択

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大阪府と大阪市が募った実証の対象は「ブロックチェーンやAI等の革新的な技術」でした。技術を絞っていません。それでも初年度に選ばれた4件のうち3件が、ステーブルコイン決済です。予算は3社分として積まれ、代表事業者に大阪の会社は1社もありませんでした。


大阪府と大阪市は2026年8月26日、共同事業である大阪府先駆的金融市場等形成支援事業補助金について、令和8年度の交付決定事業を公表した。7月1日から31日までの募集に12件の応募があり、外部有識者からなる検討会の意見を踏まえた審査を経て、4事業に交付を決定した。交付決定額の総額は2889万円である。

採択されたのは、SBI XDC Network APAC(共同事業者TOPPAN、協力事業者Ginco)が1000万円、HashPortが1000万円、マイナウォレット(共同事業者三井住友カード)が764万円、Mi&Tが125万円。補助上限は1件あたり1000万円、補助率は補助対象経費の2分の1以内である。補助事業実施期間は交付決定日から令和9年3月31日まで。同制度は令和8年度に創設された。

From: 文献リンク大阪府先駆的金融市場等形成支援事業補助金

【編集部解説】

大阪府が募集をかけたのは「ブロックチェーンやAI等の革新的な技術」でした。技術を絞っていません。それでも選ばれた4件のうち3件が、ステーブルコインによる決済です。残る1件も、貿易ファクタリングをブロックチェーン上に載せる取り組みでした。交付決定事業一覧の4件の事業概要に、AIという語は一度も出てきません。

この偏りを考える手がかりの一つが、審査の配点です。6項目の合計100点のうち、「先駆性・優位性」と「実証事業後の事業化見通し」が各25点で、合わせて半分を占めます。技術の新しさだけでも、実現可能性だけでも届きません。新しさと、実証の翌年に商売として立つ絵の両方を持っている案件が上位に来る設計です。

いま日本で、この2つを同時に満たしやすい領域がステーブルコインでした。2023年6月施行の改正資金決済法で電子決済手段の枠組みが定まり、2025年10月には、第二種資金移動業者として登録したJPYC株式会社が、電子決済手段であるJPYCの発行を始めています。審査では「事業計画の実現性」の観点として現行法令への抵触も見られますが、案件ごとの採点や採択の理由は公表されていません。制度が先に整っていたことが今回の結果にどう働いたかまでは、公開資料からは分かりません。

選ばれた顔ぶれを見ると、もう一つの性格が浮かびます。少なくとも3件は、今回が初めての実証ではありません。

マイナウォレットと三井住友カードは、実証を重ねてきました。第一弾は2026年1月23日と24日、福岡市の照葉積水ハウスアリーナで、プロバスケットボールチームのホームゲーム会場を舞台にしたJPYCのタッチ決済。福岡市の実証実験フルサポート事業に採択された取り組みでした。第二弾は4月25日、北九州メッセ。ここではiPhoneのマイナンバーカードによるタッチ決済も検証しています。両社はこれを連続的な実証実験プログラムと位置づけ、商業施設、自治体と連携したデジタル地域通貨や給付金、公共料金の支払いなどへ実証フィールドを広げることを検討しています。大阪は、その延長線上にあります。1月の発表で将来の展望として挙げられていた米ドル建てUSDCによるインバウンド対応が、今回は実証計画に書き込まれました。

SBI XDC Network APACとTOPPANも同じです。2026年6月23日から7月6日にかけて、中古車部品輸出を手がけるSSトレーディングの過去取引データを対象に、法人デジタル証明書vLEIと貿易DXアプリケーションを接続した実証を終えています。過去のデータで手順が回ることを確かめた段階でした。大阪で行うのは、2027年1月から3月の「本番実証」です。

つまりこの補助金は、ゼロから実証を立ち上げる入口というより、少なくとも複数の案件では、別の場所で回した実証を次の段階へ進める受け皿として使われています。年度内完了という制約を考えれば、自然な流れでもあります。交付決定から2027年3月31日まで、実質7か月ほど。ここから設計を始める案件より、すでに回した設計を持ち込む案件のほうが、事業化の見通しを説明しやすい。

東京都と並べると、大阪の設計思想が見えてきます。

東京都は2026年4月17日から6月30日まで、ステーブルコイン社会実装促進事業補助金を募集しました。補助上限は1件4000万円、補助率は対象経費の3分の2。上限額は大阪の4倍で、補助率も手厚い。ただし対象は国内で発行された日本円建てステーブルコインのユースケースに限られ、応募には都内に登記簿上の本店または支店があることが求められます。

大阪は逆の設計です。上限1000万円、補助率2分の1以内と規模は控えめ。しかし技術は限定せず、応募できるのは「日本国内の法人又は個人」で、所在地の要件がありません。求められるのは、実証を府内で行うことと、実証後に府内から事業を展開する具体的な計画を持つことです。

この差は、実際の採択に表れました。代表事業者4社を所在地で見ると、SBI XDC Network APACとHashPortは東京都港区、マイナウォレットは東京都千代田区、Mi&Tは和歌山県和歌山市。大阪府内に本社を置く代表事業者は1社もありません。所在地を問わず、大阪で実証して大阪から広げる計画があればよい、という設計が、そのまま結果に出ています。

なかでもMi&Tは、大阪公立大学発ベンチャーの認定を受けたITスタートアップで、設立は2025年1月。実証の舞台は大阪公立大学キャンパス周辺商圏の飲食店・小売店5店舗程度で、交付決定額は125万円です。同じ枠のなかで、1000万円の案件と並んでいます。

金額の幅は8倍。大企業連合による本番実証と、設立2年目のスタートアップによる商圏5店舗の取り組みが、同じ制度で並走する構図です。技術も所在地も狭く限定せず、府内での実証とその後の事業展開計画を求める設計が、この幅につながったと見ることができます。

大阪という土地の文脈も効いています。HashPortが手がける「HashPort Wallet」は、大阪・関西万博の「EXPO2025デジタルウォレット」をリニューアルしたものです。会期中に多くの来場者が触れたウォレットが、閉幕から1年3か月ほどを経て、大阪の小売店やレストランの決済実証に戻ってきます。Mi&Tは大阪公立大学発。国際金融都市OSAKA戦略が掲げる「先駆けた取組で世界に挑戦する『金融のフロントランナー都市』」という像に、素材のほうから寄ってきた形です。

予算の置き方と、これから明らかになること

この補助金にいくら積まれていたかは、大阪府の予算編成過程公表から読み取れます。細々事業「先駆的金融市場等形成支援事業」のうち、金融実証事業関連補助金は3000万円。積算は「10,000,000円×3社」です。審査会の報酬・旅費・会場使用料を加えた事業全体は30,309千円で、要求額がそのまま査定額になっています。

注目したいのは財源です。30,309千円のうち15,154千円が、大阪市負担金として特定財源に立っています。府市の共同事業という説明が、金額の面でもほぼ折半という形で裏づけられています。

実際の交付決定は4件、総額2889万円。3社分として積んだ枠に、4件が収まりました。ただし、積算上の「3社」が正式な採択予定件数を意味するかは、公表資料からは分かりません。12件の応募に対する4件という結果が、基準に達したものが4件だったのか、ほかの事情があったのかも同じです。公募要領には「大阪府の予算の範囲内で補助金交付額を決定するため、補助事業に採択された場合でも、交付決定額が申請額を下回る場合があります」と明記されており、上限に届かなかった2件が減額によるものか申請額どおりかも、これから示される部分です。

実施場所も、いくつかは調整中です。マイナウォレットの案件は大阪府内に所在するイベント施設・商業施設で複数の候補先と調整中、SBI XDC Network APACの案件は採択後に府内へ設置する予定の申請者連絡事務所などと記されています。年度内完了という時間の制約のなかで、これらがどこに落ち着くかは、実証の中身そのものを左右します。

事業者側の資金負担も、あらかじめ知っておきたい点です。この補助金は原則として補助事業完了後の精算払で、実施期間中は全額を自己負担で支出します。完了後に実績報告と検査を経て交付され、検査の結果次第では実際の交付額が交付決定額を下回ります。今回の2889万円は現時点の交付決定額であり、最終的な交付額ではありません。補助の対象になるのはシステム等開発費、装置の購入や借用の費用、調査・分析費、広報活動費などで、人件費は対象外です。

そして、補助は交付して終わりではありません。採択事業者は補助事業年度の終了後3年間、毎年4月15日までに事業化状況報告書を提出します。実証実験を実証で終わらせないための仕組みが、制度の側に組み込まれています。

ステーブルコインの実店舗決済は、この1年で各地の実証が点として立ち上がってきました。大阪府が選んだ4件は、その点をつなぐものです。決済から清算まで、あるいは法人確認から代金回収までを、一続きで回そうとしています。実証の目的が「動くかどうか」から「回り続けるかどうか」へ移りはじめている。初年度の採択結果は、その移行を映しているように見えます。

【関連記事】

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本文で比較した東京都の制度を扱った記事。対象を国内発行の円建てに限る設計思想と、補助率3分の2という手厚さの背景を解説している。

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今回の採択につながる第一弾、福岡での実証を報じた記事。マイナンバーカードをウォレットとして使うという発想の意味を論じている。

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HashPortが決済をPOSレジの中へ入れる実証を扱った記事。今回の大阪の決済・清算基盤と何が違うのか、読み比べる材料になる。

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国際金融都市OSAKAの構想とステーブルコイン決済の接点を扱った記事。万博で得た成果が大阪にどう残るのかという流れが見える。

【編集部後記】

公募要領の対象外経費の欄に、人件費が並んでいます。システムを組むのも、店を回って端末を置くのも、動くのは人です。そこは自前で持ってください、という設計になっています。

補助率は2分の1で、しかも精算払。3000万円の枠に4件が収まったという話の裏側で、事業者はまず全額を立て替え、人件費は最後まで自分で抱えることになります。実施場所が決まったころに、もう一度追いかけたいと思います。


【用語解説】

ステーブルコイン
法定通貨と価値が連動するよう設計されたデジタル通貨。日本の法令上の呼称ではなく、資金決済法では「電子決済手段」として整理される。

電子決済手段
2023年6月施行の改正資金決済法で定められた区分。発行の形態により資金移動業型、信託型、銀行発行型があり、規制の建て付けが異なる。

第二種資金移動業者
資金決済法に基づく登録区分。1回あたりの送金上限が100万円に制限される。JPYC株式会社は2025年8月にこの登録を受けている。

JPYC
日本円と1対1で交換できる電子決済手段。JPYC株式会社が2025年10月に発行を開始した。

USDC
米ドル建てのステーブルコイン。米Circleが発行する。今回は訪日客向けのインバウンド決済で使われる。

ファクタリング
保有する売掛債権を支払期日の前に一定の手数料を差し引いて売却し、資金を調達する仕組み。法的には債権の売買(債権譲渡)にあたる。

vLEI
verifiable Legal Entity Identifierの略。国際規格ISO 17442に基づく世界共通の法人IDであるLEIと、検証可能な資格証明を組み合わせたデジタル証明書。法人と、その法人に属する個人の実在をオンラインで確認できる。

貿易DXアプリケーション
貿易取引の書類や債権情報をブロックチェーン上で扱う業務システム。SBI XDC Network APACが自社のブロックチェーン基盤上で提供する。

本番実証
過去のデータを使った検証ではなく、実際に発生する取引を対象に行う実証。交付決定事業一覧では、SBI XDC Network APACの案件の実施時期にこの語が使われている。

精算払
補助事業の完了後に補助金を支払う方式。事業期間中の経費は事業者が全額を立て替える。

交付決定額
補助金の交付を決定した時点での金額。事業完了後の実績報告と検査を経て確定額が決まるため、下回ることがある。

補助率
補助対象経費のうち補助金でまかなえる割合。本補助金は2分の1以内、東京都の同種制度は3分の2。

特定財源
使途が特定された財源。この事業では大阪市負担金が該当する。

予算編成過程公表
大阪府が予算の要求額・査定額とその積算内訳を公開している仕組み。事業ごとの積算単価まで確認できる。

実証実験フルサポート事業
福岡市が実証実験の場や関係者との調整を支援する制度。マイナウォレットと三井住友カードの第一弾はこの採択案件として実施された。

事業化状況報告書
補助事業年度の終了後3年間、毎年4月15日までに提出が求められる報告書。実証の後に事業化が進んだかを追跡する。

国際金融都市OSAKA戦略
大阪府・大阪市が経済界などとともに掲げる方針。「金融をテコに発展するグローバル都市」と「先駆けた取組で世界に挑戦する『金融のフロントランナー都市』」の2つの都市像を置く。

大阪公立大学発ベンチャー
大阪公立大学の研究成果や人的資源を活用して創業した企業に対する、同大学の認定制度。

【参考リンク】

大阪府予算編成過程公表 令和8年度当初予算 国際金融都市推進事業費(外部)
細々事業「先駆的金融市場等形成支援事業」の積算が読める。補助金3000万円は1000万円×3社で立てられ、大阪市負担金は15,154千円。

大阪市 先駆的金融市場等形成支援事業補助金について(外部)
大阪府との共同事業として、大阪市側から制度の概要を説明したページ。応募手続きと採択結果は府のページへ案内する構成になっている。

大阪府 国際金融都市OSAKAの実現に向けた取組み(外部)
補助金のほか、金融系外国企業の誘致、ワンストップ支援センターの運営、戦略的広報まで、国際金融都市OSAKAの施策がまとまった入口である。

東京都産業労働局 ステーブルコイン社会実装促進事業補助金(外部)
上限4000万円・補助率3分の2で、対象は円建てに限る。本文で比較した都の制度の交付要綱と募集要領がここに置かれている。

株式会社HashPort(外部)
大阪・関西万博のデジタルウォレットを手がけたWeb3企業。設立は2018年7月で、本社は東京都港区。会社概要と投資家の一覧が載る。

マイナウォレット株式会社(外部)
マイナンバーカードをそのままデジタル資産ウォレットとして使うサービスを開発する企業。2023年6月設立で、本社は東京都千代田区にある。

Mi&T株式会社(外部)
大阪公立大学発ベンチャー認定のITスタートアップ。教育・研究・公共領域のシステム開発を手がける。本社は和歌山県和歌山市にある。

JPYC(外部)
日本円建て電子決済手段JPYCの公式サイト。発行と償還はJPYC EXというプラットフォームで行い、対応チェーンは順次拡大している。

【参考記事】

TOPPANとSBI XDC Network APAC、法人デジタル証明書活用によるファクタリング取引のオンライン化実証を実施(外部)
2026年6月23日から7月6日にかけて実施した実証の発表。SSトレーディングの過去取引データを対象に、vLEIと貿易DXアプリケーションを接続し、法人確認の自動化と債権情報の真正性を検証したとする。TOPPANが2025年9月に国内企業として初めてvLEIの適格発行機関に認定された経緯も記されている。

三井住友カードとマイナウォレット、マイナンバーカードを活用したステーブルコイン決済の連続実証実験を共同で開始(外部)
2026年1月16日付。第一弾を1月23日・24日に照葉積水ハウスアリーナで実施すると告知した原文。実証フィールドを商業施設や地域通貨、公共料金へ広げることを「検討しています」と書いており、USDCによるインバウンド決済も将来の展望として挙げている。

マイナウォレット、三井住友カードとステーブルコイン決済の連続実証実験 第二弾を北九州メッセで実施(外部)
2026年4月21日付。第二弾を4月25日に実施すると告知。第一弾で得た知見をもとに、福岡県在住者向けの追加特典、購買行動と連動したインセンティブ、iPhoneのマイナンバーカードによるタッチ決済を検証対象に加えた。

Mi&T、サービス料金のJPYC払いに対応(外部)
2026年7月27日付。個人向けサービスの利用料に加え、法人向けシステムの開発費や保守・運用費の支払いにJPYCを受け付け始めたとする。会社概要から、本社が和歌山県和歌山市、設立が2025年1月23日であることが確認できる。

東京都、円建てステーブルコインの社会実装支援 最大4000万円補助(外部)
2026年4月17日付。補助率3分の2、募集期間6月30日までという制度の枠組みに加え、円建ての流通量を増やしたいという都担当者の説明と、小池百合子知事の記者会見での発言を伝える。

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山本 達也 代表社員
合同会社デジタルの窓口 代表。ウェブ解析士。生成AI・サイバーセキュリティ・ 宇宙開発領域を中心に執筆。

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