OpenAI、Anthropic上場前に300億ドル調達を急ぐと報道 企業価値1.4兆ドル超

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OpenAIは提携先の取り分を差し引いた純額で、Anthropicはクラウド経由の売上も含めて、売上を数えていると報じられています。その2社のうち、Anthropicの上場が11月中旬に迫るなか、OpenAIが資金集めを急いでいるとReutersが伝えました。比べられる前に集めたいのだとすれば、比べる物差しはどこにあるのでしょうか。


Reutersは2026年10月19日、OpenAIがAnthropicの上場前に資金調達を急いでおり、企業価値が1.4兆ドルを超える可能性があると、関係者2人の話として報じた。そのうち1人によると、調達額は約300億ドルで、SoftBankグループやMGXなど既存の出資者が参加を交渉している。Anthropicの上場は11月中旬の見込みで、OpenAIはその開示で比べられる前に調達を終えたいという。

OpenAIは年換算の売上を500億ドルとし、年末には年換算700億ドルを見込む。OpenAIは、Anthropicがクラウド経由の契約を総額で計上して売上を水増ししていると非難し、Anthropicは確立した会計慣行に従っていると説明している。OpenAIとSoftBankはコメントを控えた。

From: 文献リンクOpenAI seeks to accelerate fundraising ahead of Anthropic IPO, sources say | Reuters

【編集部解説】

8月に見た「上場の大きさ」の、もう一方の側

8月23日の記事では、Anthropicの上場が、SpaceXの記録に並ぶか上回る規模になりうることを取り上げました。今回の報道は、その上場を目前にした、もう一方の当事者の動きです。

Reutersによれば、OpenAIは約300億ドル(約4兆7400億円、1ドル=158円換算、10月20日の東京市場の水準)を、1.4兆ドル(約221兆円)を超える企業価値で集めようとしています。金額も条件もまだ交渉の段階で、OpenAI自身はコメントを控えています。

「1.4兆ドル」は、1月とは別の数字

OpenAIと「1.4兆ドル」の組み合わせには、見覚えがある方もいるかもしれません。1月の記事で扱った1.4兆ドルは、当時報じられていた、今後8年ほどのインフラ投資の約束の規模でした。今回の1.4兆ドルは、会社そのものに付く値段です。

OpenAIは3月、1,220億ドルの出資の約束を集めた調達を完了し、調達後の企業価値を8,520億ドルと発表しました。1.4兆ドルはその約1.6倍の水準です。今回のReutersの記事は調達前と調達後の別を書いていませんが、Bloombergは9月の時点で、交渉中の1.4兆ドルを調達前の値と報じていました。

比べる物差しが、まだそろっていない

この報道で最も注目したいのは、資金の額よりも、売上の数え方をめぐる対立です。

Reutersによると、OpenAIは提携先の取り分を先に差し引いた純額で売上を計上しています。そのうえでOpenAIは、Anthropicがクラウド事業者を通じて売った契約を総額で計上し、売上を大きく見せていると非難しています。Anthropicは、確立した会計慣行に従っていると説明しています。

たとえば、顧客がクラウド事業者を通じて100ドル分のAIを使い、その一部がクラウド事業者の取り分になるとします。総額で数えれば売上は100ドル、純額で数えれば取り分を差し引いた額です。これは説明のための例で、両社の実際の契約条件ではありません。

米国の会計基準では、顧客に渡す前のサービスを自社が支配しているかどうかで、取引の「本人」か「代理人」かを判断します。本人なら原則として総額、代理人なら手数料などの純額を売上に計上します。会社が自由に選べる表示の方法ではなく、取引の実態で決まるものです。

Axiosは10月8日、両社とも会計基準に沿ったうえで、提携先経由の売上の扱いが違うと報じました。総額と純額の違いがあるだけで、どちらかの処理が誤りだとは言えません。処理が適切かどうかは、契約の実態や収益認識の方針を見て初めて判断できます。

この違いは、すでに数字に表れています。Axiosによれば、以前OpenAIについて報じられた「年換算で約700億ドル」は、Anthropicと比べるために総額の考え方へ寄せた数字で、OpenAIの年換算の売上は約500億ドルでした。今回Reutersが伝えたOpenAIの説明は、現在の年換算の売上が500億ドルで、年末には年換算700億ドルを見込むというものです。以前の比較用の700億ドルとは、時点も数字の意味も異なります。

一方のAnthropicについて、Reutersは、年換算の売上が7月時点で約650億ドル、第3四半期の売上が約168億ドル(第2四半期は約116億ドル)と伝えています。Axiosによれば、Anthropicはクラウド事業者を通じた売上を自社の売上に含めています。ただし、個々の数字のうちどれだけがクラウド経由なのか、OpenAIと同じ条件にそろえるといくらになるのかは、明らかになっていません。

年換算の売上は、短い期間の売上のペースを1年分に引き延ばした数字で、四半期の売上の実績とは別の指標です。現在の年換算の売上と、年末の年換算の見込みとでは、時点も確かさも異なります。会計の扱いに加えて、期間と指標の定義もそろえないかぎり、公表された数字だけで両社の大小は決められません。

上場の開示が、数字を比べる手がかりに

上場の前には、米証券取引委員会(SEC)に出した登録届出書(S-1)が公開され、売上をどう認識しているかを含む財務の情報が、誰でも読める形になります。Anthropicは6月に、この書類の草案を非公開で提出しています。

Reutersは、Anthropicの財務の開示で両社が比べられる前に、OpenAIが調達を終えたいと考えている、と関係者の話として伝えています。記事はその開示が何を指すのかを書いていませんが、上場を控えた時期であることから、登録届出書の公開が念頭にあると読むのが自然でしょう。開示を受けて、OpenAIのサラ・フライヤー最高財務責任者が売上の伸びや見通しについて問われる可能性がある、とも書いています。

OpenAIの側にも、急ぐ理由があるとみられています。Reutersによれば、同社の事情を知る投資家は、巨額のインフラ投資の約束に備えて財務の基盤を厚くするため、そして2027年に計画する上場が市場の悪化でさらに遅れた場合に備えるため、OpenAIには資金が要るとみています。OpenAIは、GPT-6 Astraの公開後に成長が加速したこと、安いモデルの値下げで利用が増えたことを投資家に説明しているといいます。

揺れる相場のなかの「2社の争い」

今回の報道の背景には、相場の変化があります。

Reutersによれば、9月以降、原油価格の変動、債券利回りの上昇、AIの安全性への懸念、AIインフラの費用やデータセンターの借入への注目が重なりました。約500億ドルの借入を抱えるCoreWeaveは、株式と債務の価格が急落しました。フィラデルフィア半導体株指数を構成する企業は、2週間足らずで時価総額を1.6兆ドル失ったとされます。

Reutersによると、上場を取りやめたり延期したりする動きも続いています。Blackstoneが支援するAirTrunkの不動産投資信託、NVIDIAが支援するFirmus、SoftBankグループが支援するSB Energyなどです。Anthropicの上場が終わるまで待つ企業もあるといいます。

Anthropic自身の値付けも定まっていません。Anthropicは2兆ドルを求めていますが、第3四半期が期待に届かなかったとして、一部の投資家は1.5兆ドル前後を主張していると報じられています。この案件に関わっていない法律事務所Willkie Farr & Gallagherのエドワード・ベスト氏は、一般論としたうえで、上場という意味では実質的に2社の争いだとReutersに語っています。Anthropicの上場は、1社の資金調達を超えて、AI企業の値付けそのものを市場が測る場になりつつある、と読むことができます。

Anthropicは10月18日、新しく作る公益基金「Anthropic Public Benefit Fund」に株式の5%を拠出すると発表しました。株主の承認が条件で、企業価値が一定の基準から50%増えるごとに、取締役会の判断で2%ずつ追加します。上場を前に、成長の果実の一部を公益に回す約束を、株式の形で示したことになります。

日本から見る:SoftBankグループの立ち位置

日本の読者にとって身近なのは、SoftBankグループの存在です。

SoftBankグループは10月1日、OpenAIへの追加出資の最後の100億ドルを払い込みました。累計の出資額は646億ドル(約10兆2000億円)、持分は約13%です。Reutersによれば、今回の調達にもSoftBankグループが参加を交渉しています。

OpenAIの企業価値がどこに決まるかは、日本の上場企業が持つ大きな持ち分の評価にもつながります。OpenAIとAnthropicの値付けの行方は、海の向こうの話にとどまりません。

これから開くもの

OpenAIとAnthropicの売上の概数は、両社の公式発表でも示されてきました。ただ、今回取り上げた詳しい数字の多くは、投資家への説明や関係者の話を伝える報道を通じて知られたものです。それぞれの数字が、それぞれの物差しで語られてきたと言えます。

Anthropicの登録届出書が公開されれば、同社の財務や収益認識の方針を、会社自身の開示資料で確かめられるようになります。Reutersによると、OpenAIも2027年の上場を計画しています。契約や会計の違いが自動的に消えるわけではありませんが、公開資料が増えることは、AIの「成長」を比べる確かな手がかりになります。これからの開示で何が明らかになるのかに注目しています。

【関連記事】

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【編集部後記】

SoftBankグループが10月1日に払い込んだ最後の100億ドルは、9月に発行を発表した外貨建ての社債で集めた資金でまかなわれました。OpenAIへの出資の一部は、その社債を買った投資家のお金に支えられていることになります。

SoftBankグループの決算では、OpenAIの株式は四半期ごとに公正価値で測り直されます。交渉の途中にある1.4兆ドルという数字が、いつ、どんな形で日本の企業の決算書に映るのか。次の決算発表を待ちたいと思います。


【用語解説】

年換算の売上(ランレート)
直近の短い期間の売上のペースを、1年分に引き延ばした数字。会計上の通期の実績ではなく、どの期間を基にするかは会社や報道によって異なる。

総額と純額
売上の計上の仕方。総額は顧客が支払った額をそのまま売上とし、純額は提携先などの取り分を差し引いた額を売上とする。

本人と代理人
米国の会計基準で、総額と純額を分ける考え方。顧客に渡す前のサービスを自社が支配していれば本人として総額で、そうでなければ代理人として手数料などの純額で計上する。会社が自由に選べるものではなく、取引の実態で判断する。

調達前・調達後の企業価値
新しい出資を受ける前の会社の値段を調達前(プレマネー)、出資額を加えた値段を調達後(ポストマネー)と呼ぶ。同じ会社でも、どちらで語るかで数字が変わる。

登録届出書(S-1)
米国で株式を新たに公開する企業が、米証券取引委員会(SEC)に提出する書類。事業や財務諸表を含む。非公開で草案を出して審査を受け、ロードショー(投資家向けの説明)の少なくとも15日前までに公開する仕組みがある。

フィラデルフィア半導体株指数
米国の主な半導体関連企業の株価で構成する株価指数。AI向け半導体の需要を映す目安として見られることが多い。

不動産投資信託(REIT)
投資家から集めた資金で不動産を保有し、賃料などの収益を分配する仕組み。データセンターを対象にするものもある。

【参考リンク】

OpenAI(外部)
ChatGPTやGPT-6シリーズを開発する米国のAI企業。現在は非上場で、2027年の上場を計画していると報じられている。

Anthropic(外部)
対話AI「Claude」を開発する米国のAI企業。公益法人の形をとり、6月に上場に向けた登録届出書の草案を非公開で提出した。

Investing in the public benefit(Anthropic)(外部)
Anthropicが10月18日、新設の基金へ株式の5%を拠出すると発表したページ。株主の承認が条件で、追加の仕組みも示す。

OpenAIへの追加出資(サードトランシェ)の実行に関するお知らせ(ソフトバンクグループ)(外部)
SoftBankグループが10月1日、OpenAIへの最後の100億ドルを払い込み、累計646億ドル、持分約13%になったと伝える。

MGX(外部)
アブダビを拠点とする投資会社。OpenAIの既存の出資者の一つで、今回の約300億ドルの調達にも参加を交渉していると報じられている。

Enhanced Accommodations for Issuers Submitting Draft Registration Statements(SEC)(外部)
登録届出書の草案を非公開で審査し、ロードショーの少なくとも15日前までに公開する手続きを、米証券取引委員会が説明するページ。

【参考記事】

OpenAI annualized revenue $20 billion less than previously reported(Axios)(外部)
OpenAIの年換算の売上は約500億ドルで、以前の700億ドルは比較のため総額に寄せた数字だったと報じた10月8日の記事。

Accelerating the next phase of AI(OpenAI)(外部)
OpenAIが3月31日、1,220億ドルの出資の約束を集め、調達後の企業価値を8,520億ドルとした調達の完了を発表した。

OpenAI busca recaudar US$30.000 millones en nueva ronda con una valoración de US$1,4 billones(Bloomberg Línea)(外部)
OpenAIが少なくとも300億ドルの調達を探り、企業価値は調達前で約1.4兆ドルと報じた、9月29日のBloombergの記事。

Anthropic’s Q3 revenue is said to hit $16.8 billion ahead of IPO(CNBC)(外部)
Anthropicが投資家に、第3四半期の売上が168億ドルに達したと説明したと報じた記事。上場を前にした数字として伝える。

OpenAIへの追加出資に関するお知らせ(ソフトバンクグループ)(外部)
SoftBankグループが2月27日、OpenAIへの300億ドルの追加出資を発表した資料。株式を四半期ごとに公正価値で測ると記す。

AirTrunk puts Singapore REIT listing on hold amid volatility(The Star)(外部)
Blackstoneが支援するAirTrunkが、相場の変動を受けてシンガポールでのREITの上場を見合わせたと伝える10月14日の記事。

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山本 達也 代表社員
合同会社デジタルの窓口 代表。ウェブ解析士。生成AI・サイバーセキュリティ・ 宇宙開発領域を中心に執筆。

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