ディズニーは12月11日、OpenAIと10億ドル規模の投資を含む提携契約を締結した。社内では従業員向けに複数のAIツールを導入しており、Microsoft CopilotやAmazonのQ Developerへのアクセスを提供している。OpenAI契約により、従業員は間もなくChatGPTのエンタープライズ版も利用可能になる。
10月2日に導入された「DisneyGPT」というチャットボットは、ITサポートチケットの作成や社内名簿の閲覧、プロジェクトの財務分析などに活用されている。12月のアップデートでExcelやPowerPointファイルのアップロード機能が追加された。DisneyGPTはウォルト・ディズニーの名言を組み込んでおり、想像力、忍耐力、リーダーシップなどのテーマでタグ付けされている。
さらに「Jarvis」というコードネームの高度なエージェント型AIツールも開発中である。JarvisはDisneyGPTより進化しており、従業員に代わってタスクを完了するが、現在は初期段階にある。このOpenAI契約により、ディズニーは主要エンターテインメント企業として初めてAI大手に投資し、同社キャラクターが動画生成ツールSoraで使用可能になった。
【編集部解説】
先日、当メディアではディズニーとOpenAIの10億ドル規模の提携契約を報じました。さらに、その直後に発生したDisneyland ParisのAI音声ナレーション炎上も取り上げています。今回明らかになったのは、これらの外向けの動きと並行して進んでいた、ディズニー社内のAI戦略の実態です。
今回のディズニーとOpenAIの提携は、エンターテインメント業界におけるAI活用の転換点を示す重要な事例です。単なる外部との協業に留まらず、社内システムの整備という二つの軸で戦略を展開している点に注目すべきでしょう。
まず外部戦略について説明します。10億ドルの投資と3年間のライセンス契約により、200以上のキャラクターがSoraやChatGPT Imagesで利用可能になります。これは主要エンターテインメント企業として初めてAI企業に大規模投資を行った事例であり、業界全体の方向性を左右する可能性があります。ディズニーは以前、Midjourneyに対して著作権侵害で法的措置を取っていました。しかし今回の契約では「戦う」のではなく「協業する」道を選択しています。
この戦略転換の背景には、AIによるコンテンツ生成を止められないという現実認識があるでしょう。それならば自社IPを適切に管理しながら収益化する方が合理的だという判断です。契約には共同運営委員会の設置が含まれており、ディズニーはキャラクター使用に関して相当な監視権限を持ちます。
一方、社内戦略も興味深い展開を見せています。DisneyGPTは10月2日にベータ版として導入され、ITサポートチケットの作成、社内名簿の閲覧、財務分析などの業務を支援しています。ウォルト・ディズニーの名言を組み込むという演出は、いかにもディズニーらしいアプローチです。さらに開発中の「Jarvis」は、より高度なエージェント型AIとして従業員に代わってタスクを完了する機能を持つとされています。
従業員の反応は複雑です。Business Insiderの取材に応じた8人中3人が雇用への懸念を表明している一方で、ESPN部門の従業員は「報酬を得るための前例を確立する」と前向きに評価しています。これはクリエイティブ産業におけるAI導入の典型的なジレンマを表しています。
潜在的なリスクも見逃せません。従業員の中には非承認ツールの方が効果的だと感じている人もおり、データセキュリティの懸念が存在します。実際、Business Insiderの取材では一部従業員が個人アカウントで非承認AIツールを使用していることが明らかになっています。先日報じたDisneyland ParisのAI音声ナレーション炎上事件は、こうした品質管理の課題が表面化した一例とも言えるでしょう。
長期的な視点では、この提携が5年から10年後に「巨大な成果」をもたらすかどうかが焦点となります。ディズニーは「ゲームのルールを設定しようとしている」と従業員が語るように、業界標準を作る立場を目指しているようです。外向けのSora提携、社内のDisneyGPT・Jarvis開発、そして現場での品質管理という三つの軸で、エンターテインメント大手がAIとどう共存するかという問いに対する回答を模索しています。
【用語解説】
Sora
OpenAIが開発した短編動画生成AIプラットフォーム。テキストプロンプトを入力するだけで、最大1分間の動画を自動生成できる。2025年9月にローンチされ、ユーザーが簡単に動画コンテンツを作成できるツールとして注目を集めている。
エージェント型AI
ユーザーに代わって自律的にタスクを実行するAIシステム。単なる質問応答型のチャットボットとは異なり、複数のステップを踏んで目標を達成する能力を持つ。Jarvisはこのタイプに分類される。
ワラント(新株予約権)
あらかじめ決められた価格で株式を購入できる権利。ディズニーは10億ドルの投資に加えて、OpenAIの追加株式を購入できるワラントも取得している。
Microsoft Copilot
Microsoftが提供するAIアシスタント。Office 365やTeamsなどに統合され、文書作成、メール対応、データ分析などの業務を支援する。
Amazon Q Developer
Amazonが開発者向けに提供するAI支援ツール。コーディング支援、デバッグ、技術ドキュメントの検索などの機能を持つ。
【参考リンク】
OpenAI(外部)
ChatGPTやSoraを開発するAI研究企業。2015年設立。生成AIの分野で業界をリードしており、今回ディズニーから10億ドルの投資を受けた。
The Walt Disney Company(外部)
世界最大級のエンターテインメント企業。映画、テーマパーク、メディアネットワークを展開。200以上のキャラクターをOpenAIのプラットフォームでライセンス提供する。
Sora(OpenAI)(外部)
OpenAIが開発したテキストから動画を生成するAIツール。ディズニーキャラクターを使った短編動画作成が2026年初頭から可能になる予定。
Business Insider(外部)
アメリカのビジネス・テクノロジーニュースメディア。2007年創刊。今回のディズニーの内部AI戦略について、複数の従業員への取材をもとに詳細な報道を行った。
Disney+(外部)
ディズニーが運営する動画配信サービス。Soraで生成されたファン制作動画の厳選コレクションが今後配信される予定。
【参考記事】
The Walt Disney Company and OpenAI reach landmark agreement to bring beloved characters from across Disney’s brands to Sora(外部)
OpenAI公式による発表。ディズニーが10億ドルの株式投資を行い、追加株式購入のワラントも取得すること、3年間のライセンス契約で200以上のキャラクターがSoraとChatGPT Imagesで利用可能になることを明示。
Disney is investing $1 billion in OpenAI and licensing its characters for Sora(外部)
CNNによる報道。ディズニーがOpenAIに10億ドルの株式投資を行い、200以上のキャラクター(ミッキーマウス、ディズニープリンセス、マーベル、スターウォーズなど)をSoraで利用可能にする契約内容を詳述。
Disney to Invest $1 Billion in OpenAI in Major Deal That Boosts Sora in Hollywood(外部)
ハリウッド・リポーターによる分析記事。主要スタジオによるAI企業への大規模投資の先例として、LionsgateとRunwayの契約(2024年9月)と比較。ディズニーの戦略が「対立」から「協業」へ転換したことを指摘。
Disney to invest $1 billion in OpenAI, license characters for Sora AI tool(外部)
ロイター配信記事。ディズニーが10億ドルを投資し、スターウォーズ、ピクサー、マーベルのキャラクターをSoraとChatGPT Imagesで利用可能にする契約を締結。ハリウッドのAI受容における重要な転換点として位置づけ。
【編集部後記】
当メディアでは先日、ディズニーとOpenAIの大型提携と、その直後に起きたDisneyland ParisのAI音声炎上を連続して報じました。今回明らかになった社内AI戦略は、この二つの出来事をつなぐ重要なピースです。外向けの華々しい提携発表の裏で、従業員レベルではすでにAIツールが日常業務に組み込まれ始めていたのですね。
皆さんの職場ではAIツールの導入はどのように進んでいますか?DisneyGPTのように企業文化を反映したツールがあれば、受け入れやすくなるのでしょうか。それとも、品質管理の不安が先に立つでしょうか。ディズニーが他の業界にも影響を与える動きとして、引き続き注視していきたいと思います。































