400分かかっていた不動産の書類整理が、わずか数十分に。
三井物産が生成AIで切り込む不動産DX――その中核を担う新プラットフォーム「AIDeeD」とは何か。
三井物産は2025年12月17日、生成AIを活用した不動産業務効率化プラットフォーム「AIDeeD」を開発したと発表した。2024年より実証実験を実施し、不動産取引における業務の大幅な効率化を確認した。本実証で得られた知的財産についての特許出願を完了し、2026年春から本格提供を予定している。
AIDeeDは、物件取得時の書類整理から保有期間中のプロジェクトマネジメント、売却時のパッケージ資料作成までの一元管理・運用を実現する。設計図書、行政確認書類、各設備の定期点検報告書などの専門文書を自動で命名・分類・整理し、書類の抜け漏れの確認やリスク事項の抽出が可能となる。三井物産グループ会社における先行利用では、約200ファイルある売却予定物件の場合、従来400分程度かけていた手作業によるファイル命名及びフォルダ整理業務の90%超を削減できた。
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生成AIを活用した不動産業務効率化プラットフォーム「AIDeeD」を開発

【編集部解説】
三井物産が発表した「AIDeeD」は、日本の不動産業界が長年抱えてきた構造的な非効率性に正面から取り組む試みです。不動産取引では膨大な専門文書が発生しますが、これまでその整理・分類・管理は人手に頼らざるを得ませんでした。特に事業用不動産では、設計図書や行政確認書類、設備点検報告書など、法的要件を満たすための文書管理が極めて重要です。
注目すべきは、このプラットフォームが単なる文書管理ツールではなく、物件のライフサイクル全体をカバーする点です。取得時の書類整理から始まり、保有期間中のプロジェクトマネジメント、そして売却時のパッケージ資料作成まで、一貫して生成AIが支援します。これにより、情報の断絶や引き継ぎミスといった従来の課題を解消できる可能性があります。
実証実験の結果は印象的で、200ファイル規模の物件で400分かかっていた作業が90%以上削減されたとのことです。これは単に時間短縮だけでなく、人的ミスの削減やリスク管理の精度向上にもつながります。書類の抜け漏れやリスク事項を自動抽出できる機能は、法的トラブルの予防という観点からも重要です。
背景には、日本の不動産業界が直面する深刻な人材不足があります。複数物件を組み合わせた大規模取引や複雑な金融スキームの普及により、専門知識を持つ人材の需要は高まる一方です。AIによる業務自動化は、この人材ギャップを埋める現実的な解決策となり得ます。
三井物産は特許出願を完了しており、2026年春からの本格提供を予定しています。総合商社が不動産テック分野でこうしたプラットフォームビジネスに乗り出すことは、業界全体のデジタル化を加速させる触媒になるかもしれません。
【用語解説】
生成AI
テキスト、画像、音声などのコンテンツを自動生成する人工知能技術。大規模言語モデルを用いて、人間の指示に応じた出力を生成する。文書の分類や要約、作成などの業務に活用される。
DX(デジタルトランスフォーメーション)
デジタル技術を活用して、業務プロセスやビジネスモデルを変革し、競争優位性を確立する取り組み。単なるIT化ではなく、組織文化や働き方の根本的な変革を指す。
アセットマネジメント
不動産や金融資産などの資産を効率的に運用・管理する業務。不動産の場合、物件の取得から運用、売却までを総合的に管理し、投資収益の最大化を図る。
ディベロッパー
不動産開発業者。土地の取得から建物の企画・設計・建設、販売または賃貸までを手がける事業者を指す。
設計図書
建築物の設計内容を示す図面や仕様書の総称。建築確認申請や施工、維持管理に必要な重要書類である。
事業用不動産
オフィスビル、商業施設、物流施設など、事業目的で使用される不動産。住宅用不動産と区別され、投資対象としても扱われる。
【参考リンク】
三井物産株式会社(外部)
日本を代表する総合商社。金属、機械、化学品、エネルギー、食料など幅広い分野で事業を展開。
【編集部後記】
不動産業界のデジタル化は、私たちの働き方や都市のあり方をどう変えていくのでしょうか。三井物産が開発したAIDeeDは、膨大な書類に埋もれていた不動産業界に、新しい可能性を示しています。
400分かかっていた作業が90%削減されるという数字の裏には、単なる効率化を超えた意味があるように思います。人間がより創造的な判断や戦略立案に時間を使えるようになったとき、不動産取引はどのように進化するのか。みなさんはどのような未来を想像されますか。































