株式会社NTTデータ関西は、東京都北区と協定を結び、生成AIを活用した「スマート面談AIナビ AiBou」による実証実験を2026年1月7日から開始した。実施期間は2026年6月30日までの約5か月間で、生活福祉課と保健サービス課における面談業務を対象とする。
東京都北区は令和7年度から全職員が生成AIツールを利用できる環境を整備し、区民サービスと区政運営のDXを推進している。AiBouは面談内容をリアルタイムで理解し、必要な情報を引き出す質問支援を行う業務適応型面談支援アプリである。音声の自動文字起こしと報告書作成支援により、メモ整理や手入力作業を削減する。
訪問面談・窓口対応・電話相談などで活用可能である。今後は認定調査や児童相談など自治体職員の多様な業務に対応し、サービス拡大と製品改善を進める。
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東京都北区と面談業務を効率化する生成AI実証を開始~業務負担軽減と区民サービス向上を目指し、「AiBou」を活用~
【編集部解説】
自治体における生成AI活用が新たな局面を迎えています。総務省の調査によれば、都道府県や指定都市では生成AIの導入率が9割に達している一方、市区町村レベルでは導入済みが約1割、実証実験中や導入検討中を含めても約4割にとどまっています。多くの自治体が抱える共通の課題は、ITリテラシーの不足、専門人材の欠如、そして予算の制約です。
今回のNTTデータ関西と東京都北区の取り組みは、こうした課題に対する一つの実践的な解答として注目されます。特に興味深いのは、議事録作成や文書作成といった汎用的な業務ではなく、「面談業務」という高度に人間的なコミュニケーションが求められる領域に焦点を当てている点です。
面談業務は自治体職員にとって極めて重要な仕事です。生活福祉や保健サービスの現場では、区民一人ひとりの状況を正確に聞き取り、適切な支援につなげることが求められます。しかし現実には、メモを取ることに集中するあまり相手の表情や様子を見逃してしまう、聞き漏れが発生する、報告書作成に膨大な時間がかかるといった課題が存在します。
AiBouが提供する価値は、こうした課題に対する包括的な解決策にあります。音声を自動でテキスト化することで、職員はメモを取る負担から解放され、相手とのコミュニケーションに集中できます。AIが面談内容をリアルタイムで理解し、まだ確認していない事項を提示することで、経験の浅い職員でも漏れのない聞き取りが可能になります。
特に注目すべきは、報告書作成時間を約60%削減できるという具体的な効果です。これは単なる時間短縮ではなく、職員がより本質的な業務、つまり区民との対話や支援策の検討に時間を割けるようになることを意味します。
一方で、生成AIの自治体導入には慎重な検討が必要な側面もあります。AIが生成する文章の正確性をどう担保するか、AIへの依存が職員のスキル低下を招かないか、といった懸念は今後の実証実験で検証されるべき課題です。また、面談という極めてデリケートな場面において、AIの存在が区民との信頼関係構築にどのような影響を与えるかも注視する必要があります。
今回の実証実験は約5か月間という十分な期間が設定されており、聞き取り精度の向上と事務作業時間の削減という明確な検証項目があります。東京都北区長のコメントにもあるように、この取り組みは「行政における生成AIの安全な利活用」のモデルケースとなる可能性を秘めています。
NTTデータ関西は「じちえる」というブランドで自治体DX支援に注力しており、介護認定支援アプリ「ねすりあ」など、現場の声に寄り添った製品開発の実績があります。今回のAiBouも、認定調査や児童相談など他の業務領域への展開が計画されており、自治体職員の働き方を変革する可能性を持っています。
日本の自治体は今、少子高齢化と人口減少という構造的な課題に直面しています。限られた人的リソースで住民サービスの質を維持・向上させるには、テクノロジーの力を適切に活用することが不可欠です。AiBouのような専門特化型の生成AIツールは、その実践的な解決策の一つと言えるでしょう。
【用語解説】
DX(デジタルトランスフォーメーション)
デジタル技術を活用して業務プロセスや組織文化を変革し、新たな価値を創造する取り組み。自治体DXは、行政サービスのデジタル化と業務効率化を通じて住民サービスの向上を目指す。総務省は2020年に「自治体DX推進計画」を策定し、全国の自治体に対して重点的に取り組むべき7つの事項を提示している。
ISMAP(イスマップ)
政府情報システムのためのセキュリティ評価制度。Information system Security Management and Assessment Programの略称。政府が求めるセキュリティ要求を満たしているクラウドサービスを評価・登録する制度で、ISMAP認定を取得したクラウドサービスは政府や自治体が安心して利用できる水準にあることが保証される。
二次学習
AIシステムがユーザーの入力データを学習データとして利用し、AIモデルの性能向上に活用すること。自治体業務では個人情報や機密情報を扱うため、入力情報を二次学習に使用しないことが重要なセキュリティ要件となる。
令和7年度
2025年4月1日から2026年3月31日までの会計年度。西暦では2025年度に相当する。
【参考リンク】
株式会社NTTデータ関西(外部)
NTTデータグループの一員として関西圏を中心に公共・法人・金融分野向けシステムインテグレーションサービスを提供。自治体DX支援に注力。
スマート面談AIナビ AiBou(じちえる)(外部)
NTTデータ関西提供の自治体職員向け生成AI面談支援アプリ。音声自動文字起こし、質問支援、報告書作成支援機能を搭載し作業時間60%削減。
東京都北区(外部)
東京23区の一つ、人口約35万人。令和7年度から全職員が生成AIツールを利用できる環境を整備し、区民サービスと区政運営のDXを推進。
総務省 自治体DX推進(外部)
総務省による自治体デジタル化推進情報サイト。自治体DX推進計画、AI活用・導入ガイドブック、先進事例集などを公開し全国の自治体を支援。
介護認定支援アプリ ねすりあ(じちえる)(外部)
NTTデータ関西提供の介護認定調査業務支援アプリ。自治体職員の現場の声に寄り添った製品開発の実績を持つ。
【参考記事】
生成AIで行政が変わる!自治体の新たな生成AI活用事例を解説(外部)
総務省調査により都道府県・指定都市で導入率9割。北海道当別町で議事録作成時間を1/4に、愛知県日進市で年間858時間の業務削減成功事例を紹介。
自治体における最新生成AI事情まとめ!導入状況や事例を紹介(外部)
総務省調査で市区町村レベルの生成AI導入は9.4%、実証実験中・導入検討中含め39.5%。千代田区のOfficeBot導入事例などを解説。
自治体・官公庁の生成AI活用事例10選|DX推進の現状と課題を徹底解説(外部)
自治体職員調査で6割以上が「職員のITスキル不足」をDX推進の障壁と回答。都道府県・指定都市で導入率9割超、市区町村では約25%にとどまる現状を分析。
自治体におけるAI活用・導入ガイドブック<導入手順編>(総務省)(外部)
総務省が2024年末時点で6割近い自治体がAI導入と報告。生成AI活用の福祉相談業務システム、税関連ボイスボット対応など具体的活用事例と導入手順を解説。
【編集部後記】
生成AIが議事録や文書作成を支援する事例は多く見かけますが、今回のような「人と人との対話」を支援する活用法は新鮮に感じられたのではないでしょうか。面談という、本来最も人間的な営みにテクノロジーがどこまで寄り添えるのか。
また、AIによる効率化で生まれた時間を、職員がより本質的な支援活動に使えるようになるという構図は、私たちが働く様々な現場にも通じる示唆があるように思います。みなさんの職場では、AIに任せられる部分と人間が担うべき部分をどう切り分けていますか。あるいは、どう切り分けるべきだと考えますか。
































