三井住友カード株式会社とマイナウォレット株式会社は2026年1月16日、マイナンバーカードを活用したステーブルコイン決済の連続実証実験プログラムを共同で開始すると発表した。本プログラムでは、マイナンバーカードをウォレットとして利用し、日本円連動型ステーブルコインによるタッチ決済を三井住友カードのstera端末上で実現する。
第一弾の実証実験は2026年1月23日、24日に福岡市の照葉積水ハウスアリーナで開催されるライジングゼファーフクオカ株式会社のホームゲーム会場で実施される。ユーザー認証には公的個人認証(JPKI)を使用し、ブロックチェーン上に発行されている日本円連動型ステーブルコインJPYCで決済を行う。本取り組みは福岡市実証実験フルサポート事業に採択された。将来的には訪日外国人旅行客向けにUSDC等のステーブルコインを利用した決済スキームの検討も進める。
From:
三井住友カードとマイナウォレット、マイナンバーカードを活用したステーブルコイン決済の連続実証実験を共同で開始
【編集部解説】
今回の実証実験は、日本が世界に先駆けて整備したステーブルコイン規制の枠組みの中で、国内独自の決済体験を実現しようとする挑戦です。特に注目すべきは、マイナンバーカードを「ウォレット」として活用するという発想にあります。
2023年6月に施行された改正資金決済法により、日本では法定通貨連動型のステーブルコインが「電子決済手段」として明確に定義されました。この法整備を受け、2025年10月27日にJPYCが日本初の円建てステーブルコインとして正式発行を開始しています。つまり、今回の実証実験は、法整備とステーブルコインの実用化という2つの大きな流れが交わる、まさに絶好のタイミングで行われるものなのです。
従来のブロックチェーン決済では、専用のウォレットアプリのインストールや秘密鍵の管理といった技術的ハードルが普及の障壁となってきました。しかし、マイナンバーカードに搭載された公的個人認証(JPKI)を活用することで、高齢者や子どもを含む幅広い層が、専用アプリなしでステーブルコイン決済を利用できる可能性が開けます。カードをかざすだけというシンプルな操作で、裏側ではブロックチェーン上での価値移転が実行されるという設計は、Web3技術の社会実装における一つの理想形と言えるでしょう。
三井住友カードのstera端末を活用する点も重要です。全国の中小店舗を含む既存の決済インフラ上で新たな決済手段を実現できるため、加盟店側の導入負担を最小限に抑えながら、迅速な展開が可能になります。新しい技術を既存のエコシステムに接続するこのアプローチは、実用化への現実的な道筋を示しています。
将来的なインバウンド対応も視野に入れている点は、さらに大きな可能性を秘めています。訪日外国人がUSDC等の海外ステーブルコインを日本国内の店舗で直接利用できるようになれば、為替手数料や両替の手間を大幅に削減できます。これは単なる決済の効率化にとどまらず、観光立国を目指す日本にとって、インバウンド需要を取り込む新たな武器となり得ます。
ただし、課題も存在します。ブロックチェーン取引にはガス代(処理手数料)が発生し、ネットワークの混雑状況によって変動します。少額決済での利便性を確保するには、この点の最適化が不可欠です。また、マイナンバーカードの普及が進む一方で、カードを持たない層への対応も長期的には考慮する必要があるでしょう。
連続実証実験という形で、複数地域・複数ユースケースでの検証を重ねていく計画も理にかなっています。スポーツイベントでの利用から始まり、商業施設、自治体と連携したデジタル地域通貨、さらには行政手続きや公共料金支払いへと段階的に拡大していく戦略は、各フェーズでのフィードバックを次に活かせる設計です。
日本は暗号資産取引において厳格な規制を敷いてきましたが、ステーブルコインに関しては世界に先駆けて包括的な法制度を整備しました。今回の実証実験は、その制度設計が実際に機能するかを試す試金石となります。公的IDとブロックチェーン技術を組み合わせた「日本モデル」が成功すれば、他国への展開も見据えた新たな決済インフラの輸出につながる可能性もあるでしょう。
【用語解説】
ステーブルコイン
法定通貨や金などの資産に価値が連動するように設計された暗号資産の一種。価格変動が激しいビットコインなどと異なり、価値が安定しているため決済手段として利用しやすい。日本では2023年6月施行の改正資金決済法により「電子決済手段」として定義された。
電子決済手段
改正資金決済法で新たに定義された概念。法定通貨の価値と連動した価格で発行され、発行価格と同額で償還を約するデジタル通貨を指す。デジタルマネー類似型のステーブルコインがこれに該当し、銀行や資金移動業者のみが発行できる。
公的個人認証(JPKI)
マイナンバーカードに搭載された電子証明書による本人確認の仕組み。Japanese Public Key Infrastructureの略。行政手続きのオンライン申請などで利用され、高い認証強度を持つ。
ブロックチェーン
分散型台帳技術。取引記録を暗号技術で鎖のようにつなぎ、複数のコンピューターで分散管理することで、改ざんが困難で透明性の高いデータ管理を実現する。暗号資産やステーブルコインの基盤技術。
ウォレット
暗号資産やステーブルコインを保管・管理するためのデジタル財布。通常は専用アプリやハードウェアを用いるが、今回の実証実験ではマイナンバーカードをウォレットとして活用する。
ガス代
ブロックチェーン上で取引を処理する際に発生する手数料。ネットワークの混雑状況によって変動する。イーサリアムなどのパブリックチェーンでは、この手数料が少額決済での課題となることがある。
Web3
ブロックチェーン技術を基盤とした次世代インターネットの概念。中央管理者を必要とせず、ユーザー自身がデータを管理できる分散型のウェブを目指す。暗号資産、NFT、分散型金融(DeFi)などがWeb3の代表的な応用例。
インバウンド
訪日外国人旅行客のこと。または海外から日本への観光需要を指す。今回の実証実験では、将来的に訪日外国人が保有する海外ステーブルコインでの決済を可能にすることも視野に入れている。
福岡市実証実験フルサポート事業
福岡市が先進的な技術やサービスの実証実験を支援する制度。実証実験を行う企業に対して、実施場所の提供、関係者との調整、広報支援などを行い、新技術の社会実装を後押しする。
【参考リンク】
三井住友カード株式会社(外部)
1967年設立の総合決済事業者。次世代決済プラットフォーム「stera」を展開し、全国の加盟店にキャッシュレス決済インフラを提供。
マイナウォレット株式会社(外部)
2023年設立。マイナンバーカードと公的個人認証を活用したデジタル資産ウォレット「マイナウォレット」を開発。
JPYC株式会社(外部)
日本円連動型ステーブルコイン「JPYC」の発行・償還を行う企業。2025年10月27日より国内初の正式発行を開始。
【参考記事】
マイナカードでJPYCタッチ決済、三井住友カードが決済実証(外部)
1月23-24日の福岡でのバスケットボール試合会場での実施内容と将来的な展開計画を報道。
三井住友カード、マイナカードでステーブルコイン決済 まず福岡市で実証(外部)
日本経済新聞による報道。将来的なUSDCなど米ドル建てコインによる訪日客向け決済スキーム検討に言及。
円連動のステーブルコイン「JPYC」を買ってみた カード支払いにも(外部)
2025年10月27日発行開始のJPYCについて、実際の発行手順や利用方法を体験レポート形式で紹介。
【国内初】日本円ステーブルコイン「JPYC」および発行・償還プラットフォーム「JPYC EX」を正式リリース(外部)
JPYC社の公式プレスリリース。3年で10兆円規模の発行残高実現を目指すビジョンを示す。
国内初の円建てステーブルコイン、金融庁承認へ JPYCが秋にも発行(外部)
世界のステーブルコイン市場規模が2500億ドル超(約37兆円)に拡大している状況を報道。
ステーブルコインに関する法規制の概要とポイント解説(外部)
EY Japanによる改正資金決済法の解説。2023年6月施行で電子決済手段として定義された経緯を詳述。
ステーブルコインとは?種類や日本における整理、仕組みなどをわかりやすく解説(外部)
三井住友FGによる解説。2025年9月時点で約3000億ドル(約44兆円)の市場規模データを提供。
【編集部後記】
スマホアプリのインストールすら必要ない、カードをかざすだけのブロックチェーン決済。そんな未来がすぐそこまで来ているのかもしれません。みなさんは、財布の中のマイナンバーカードが「デジタルウォレット」になる世界を想像できますか。
高齢の両親や小学生の子どもたちも、難しい操作なしで最先端の決済技術を使える。そんな「誰一人取り残さない」というビジョンに、私たちは大きな可能性を感じています。一方で、プライバシーやセキュリティへの懸念も当然あるでしょう。みなさんなら、この技術をどう評価されますか。ぜひご意見をお聞かせください。



































