リクルーターの時間の多くが、履歴書の処理やスケジュール調整といった反復作業に消えている。この構造的課題に対し、AIが「指示を待つ道具」ではなく「自ら判断して動くチームメイト」として採用現場に入り込もうとしている。
2026年2月17日、米 uRecruits Inc. はエージェンティックAI搭載の採用プラットフォーム「uRecruits 2.0」を発表した。
会話型AIアシスタント「uR Agent」により、求人作成や履歴書解析等を自律処理する。初期導入では管理業務の最大60%削減、候補者ゴースティングの50%削減、採用期間の30〜50%短縮が報告された。今後、AIの判断に人間の承認を組み込む「Governed Autonomy」フレームワークの追加を予定する。同社は2022年設立、CEOはトーマス・アレクサンダー氏。
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uRecruits’ Agentic AI Helps Recruiters Cut Admin Tasks and Reduce Candidate Ghosting
【編集部解説】
「エージェンティックAI」とは、人間の細かな指示を待たずに、自律的にタスクを計画・実行できるAIシステムのことです。従来の生成AIがユーザーの指示に対して一度だけ回答を返すのに対し、エージェンティックAIは複数のステップを自ら判断して連続的に処理できる点に特徴があります。uRecruits はこの技術を採用領域に持ち込み、求人作成から候補者のスクリーニング、面接調整までをAIエージェント群が並行して処理する仕組みを構築しました。
今回の発表で注目すべきは、「Governed Autonomy」(統制された自律性)というフレームワークの構想です。AIが自律的に動くほどブラックボックス化のリスクが高まりますが、uRecruits は人間による承認・上書きのレイヤーを設け、重要な判断を人間に委ねる設計思想を掲げています。ただし、このフレームワークは現時点では開発中であり、今後のリリースで段階的に実装される予定である点には留意が必要です。
この動きの背景には、採用業務における深刻な非効率性があります。プレスリリースでは「リクルーターは労働時間の約70%を管理業務に費やしている」としていますが、この数値はやや高めの見積もりといえます。IQTalent のリサーチではリクルーターの管理業務が52%、Hireology の調査ではHRリーダー全般の管理業務が約40%と報告されており、情報源によって幅がある点は押さえておくべきでしょう。いずれにせよ、リクルーターの時間の多くが本来注力すべき戦略立案や候補者との関係構築ではなく、反復作業に消えているという構造的課題は業界共通の認識です。
もう一つの課題である「候補者ゴースティング」(候補者が採用プロセスの途中で突然連絡を絶つ現象)も、近年急速に深刻化しています。SHRMの2025 Talent Trends レポートによれば、41%の組織が面接プロセス中に候補者のゴースティングを経験していると回答しています。uRecruits が報告する「ゴースティング50%削減」は、自動リマインダーやフォローアップによりコミュニケーションの空白を埋める手法によるものですが、同社が認めているとおり、これは限定的な初期導入の結果であり、組織規模や職種によって成果は異なる可能性があります。
なお、プレスリリースでは「Fortune Business Insights によると、グローバル採用ソフトウェア市場は2028年までに63億ドルを超える」と記載されています。しかし、Fortune Business Insights が公開している「Recruitment Software Market」の情報では、市場規模は2025年に約30.958億ドルで、2018年〜2025年にCAGR 7.4%で成長するとされています。したがって、当該プレスリリースの「2028年に63億ドル超」という記述は、同レポート公開情報と整合しません。CAGR(成長率)と市場規模の取り違え、あるいは「採用ソフトウェア」ではなく、より広い関連市場(例:タレントマネジメント/タレント獲得領域)など別定義の数値が混在している可能性があります。
技術面では、同社のブログによると uR Agent は OpenAI の GPT-4 と LangGraph アーキテクチャーを基盤としています。複数のAIエージェントを「スーパーバイザーエージェント」が統括し、ユーザーの意図を解釈して適切な専門エージェントに振り分けるマルチエージェント構成を採用しています。
規制環境の面では、この発表のタイミングは示唆的です。EUの「AI Act」では、採用・選考に使用されるAIシステムは明確に「ハイリスク」に分類されており、2026年8月2日から文書化、人間による監視、バイアステスト、監査ログなどの厳格な要件が適用されます。この規制はEU域外の企業にも域外適用され、EU在住の候補者を対象とする採用活動にAIを使用する場合にも適用される可能性があります。違反した場合、最大3500万ユーロまたはグローバル売上高の7%という制裁金が科される可能性があり、採用AI市場にとってコンプライアンス対応は喫緊の課題となっています。
uRecruits が「コンプライアンスファースト」を強調し、説明可能AI(Explainable AI)やバイアスモニタリングをコア機能として位置づけているのは、こうした規制動向を見据えた戦略と読み取れます。一方で、AIによる候補者の自動スクリーニングやランク付けには、学習データに内在するバイアスが再現されるリスクが常に存在します。匿名化やモニタリングはバイアス軽減の有効な手段ですが、それだけで公平性が保証されるわけではなく、継続的な検証と外部監査の仕組みが求められます。
uRecruits は2022年設立、2025年ローンチの比較的新しいプレーヤーです。エージェンティックAIという最先端のアプローチを採用領域に適用する試みとして注目に値しますが、初期導入の限定的な実績をもとにした効果数値の評価には慎重さが必要でしょう。今後、導入規模が拡大するなかで、実際の効果検証と規制対応の両面が問われることになります。
【用語解説】
エージェンティックAI(Agentic AI)
人間の逐次的な指示を待たずに、目標に基づいて自律的にタスクの計画・実行・判断を行うAIシステムの総称。従来の生成AIが「一問一答」型であるのに対し、複数のステップを連続的に処理できる点が特徴である。
ATS(Applicant Tracking System)
応募者追跡システム。企業の採用活動において、求人の掲載から応募者の管理、面接調整、内定までのプロセスを一元管理するソフトウェア。1970年代に登場し、現在は多くの企業で標準的に使用されている。
候補者ゴースティング(Candidate Ghosting)
採用プロセスの途中で候補者が突然すべての連絡を絶ち、応答しなくなる現象。SHRMの2025 Talent Trends レポートでは、41%の組織がこの問題を報告している。
Governed Autonomy(統制された自律性)
uRecruits が開発中のフレームワーク。AIエージェントが反復業務を自律的に処理しつつ、重要な意思決定には人間の承認・上書きを必要とする設計思想。現時点では未実装で、今後のリリースに予定されている。
説明可能AI(Explainable AI / XAI)
AIがなぜその判断を下したのかを、人間が理解できる形で説明する能力、またはそれを実現する技術。採用AIにおいては、候補者のランク付けや選考結果の根拠を明示することで、公平性の担保と規制遵守に寄与する。
LangGraph
LangChain が提供するオープンソースのエージェントオーケストレーションフレームワーク。グラフ構造を用いてAIエージェントのワークフローを定義し、状態管理や条件分岐、マルチエージェント協調を実現する。uRecruits の uR Agent はこのフレームワークを基盤技術として採用している。
EU AI Act(EU人工知能規則)
EUが制定した世界初の包括的AI規制法。2024年8月に発効し、段階的に施行される。採用・選考に使用されるAIは「ハイリスク」に分類され、2026年8月2日から文書化、人間による監視、バイアステスト等の厳格な要件が適用される。違反時の制裁金は最大3500万ユーロまたはグローバル売上高の7%。
【参考リンク】
uRecruits 公式サイト(外部)
エージェンティックAI搭載の次世代採用プラットフォーム。会話型AI「uR Agent」を提供する。
uRecruits — Products and Services(外部)
Governed Autonomyの構想、各AIエージェントの機能詳細、導入効果の数値、ロードマップを掲載。
Fortune Business Insights — Recruitment Software Market(外部)
グローバル採用ソフトウェア市場の規模、成長率、セグメント別分析を提供する市場調査レポート。
SHRM — 2025 Talent Trends Report(外部)
69%の雇用主が採用難、41%が候補者ゴースティングを報告したSHRMの調査レポート。
EU AI Act 公式情報ページ(外部)
EU人工知能規則の条文、施行スケジュール、ガイドラインを掲載。採用AIのハイリスク分類の根拠を確認できる。
LangGraph 公式サイト(外部)
LangChain開発のエージェントオーケストレーションフレームワーク。マルチエージェント協調を実現する。
【参考記事】
Where Recruiting Time Goes — And How to Reclaim 30% Capacity(外部)
リクルーターの時間配分を詳細に分析。管理業務52%、ソーシング28%等の内訳を提示した記事。
Candidate “Ghosting” and Employer Competition Are Fueling Talent Shortages(SHRM)(外部)
69%の雇用主が採用難、41%が候補者ゴースティングを報告したSHRMの2025年調査。
Global Recruitment Software Market Set to Reach $3.0 Billion by 2028(外部)
ResearchAndMarketsのレポート。2028年に30億ドル(CAGR 6.3%)成長の予測を提示。
Recruiting under the EU AI Act: Impact on Hiring (FULL Guide 2025)(外部)
EU AI Actが採用活動に与える影響を包括的に解説。2026年8月の期限と義務要件を詳述。
How Agentic UI/UX in Recruitment Turns Complicated Hiring Tasks into Simple Conversations(外部)
uR AgentがGPT-4とLangGraphを基盤とするマルチエージェント構成であることを明記した技術解説。
3 Ways to Save Time on Administrative HR Tasks(外部)
HRリーダーが業務時間の平均40%を管理業務に費やしているとのデータを提示した記事。
【編集部後記】
採用プロセスにAIが深く入り込む時代、「誰がどこまで判断するのか」という問いはますます重みを増しています。効率化の恩恵は大きい一方で、自分の応募書類がAIによってランク付けされていると知ったとき、私たちはどう感じるでしょうか。
採用する側も、される側も、いつかこの技術と向き合う場面が来るはずです。みなさんは、AIが採用に関わることについて、どのようにお考えですか。ぜひご意見をお聞かせください。







































