GSMAは2026年2月23日、低・中所得国(LMICs)の中小成長企業を対象とした「GSMA Innovation Fund for Green Transition for Mobile」の立ち上げを発表した。
助成金額は1件あたり10万ポンドから20万ポンドで、支援期間は15〜18か月である。対象地域はアフリカ、中南米、南アジアおよび東南アジアで、従業員250人以下の営利企業が応募できる。応募者には最低25%のマッチングファンディングの拠出が求められる。
ファンドはクリーンエネルギーへのアクセス拡大とモバイル端末のサーキュラーエコノミー推進を柱とし、再生可能エネルギーソリューション、スマートメータリング、リファービッシュモデル、電子廃棄物管理などを支援する。助成金に加え、技術支援、投資家やモバイルネットワーク事業者とのパートナーシップ構築支援も提供される。応募締切は2026年4月6日23時59分(英国時間)である。
From:
GSMA Launches Innovation Fund to Accelerate Green Transition Through Mobile Technology
【編集部解説】
今回のファンドを理解するうえで、まず押さえておきたいのが資金の出どころです。GSMAのイノベーションファンドは2013年から運営されていますが、これまでのラウンドの多くは英国外務・英連邦・開発省(FCDO)やスウェーデン国際開発協力庁(Sida)といった公的開発援助機関が資金を拠出していました。
今回の「Green Transition for Mobile」は、プレスリリースに「a GSMA-funded initiative supported by its members」と明記されており、モバイル業界自身が資金を出す構造に転換しています。これは、グリーントランジションをもはや外部の援助課題ではなく、業界の内部課題として引き受ける姿勢の表れと読み取ることができます。
ファンドが重点を置く「サーキュラーエコノミー」は、技術的な新規性よりも、既存のモバイル端末をいかに長く使い続けるかという実務的な課題に焦点を当てています。国連訓練調査研究所(UNITAR)のデータによれば、世界の電子廃棄物は2022年時点で約6200万トンに達し、2030年には最大8200万トンに膨らむと予測されています。一方、正式にリサイクルされているのは全体の数%に過ぎません。特にアフリカでは回収率が1%未満とされており、今回の対象地域と課題の深刻さが直結しています。
ファンドが支援するリファービッシュ端末のマーケットプレイスや下取りスキーム、リースモデルといったソリューションは、環境負荷の低減と、端末コストの引き下げによるデジタルインクルージョンの両立を狙ったものです。低・中所得国ではスマートフォンの価格が依然としてモバイルインターネット普及の大きな障壁となっており、端末の循環利用は経済的アクセスの改善に直結します。
助成金額は1件あたり10万〜20万ポンド(約2100万〜4200万円、1ポンド=約210円換算)で、過去のラウンドで見られた最大25万ポンドの上限よりやや低い設定となっています。一方で、応募条件として商業収益と実際のユーザーを有していることが求められ、さらに最低25%のマッチングファンディングの拠出が必要です。つまり、アイデア段階のスタートアップではなく、すでに市場で実績を持つ企業が対象であり、実装と拡大に重きを置いた設計であることがわかります。
ポジティブな側面として、このファンドは単なる助成金にとどまらず、技術支援、投資家とのネットワーキング、モバイルネットワーク事業者とのパートナーシップ構築まで含む包括的な支援パッケージを提供します。GSMAが持つMWCなどのグローバルプラットフォームを通じた認知度向上も、新興市場の中小企業にとっては大きな価値を持つでしょう。
一方で、潜在的な課題も存在します。リファービッシュ端末市場は品質保証や消費者の信頼構築が難しく、各国の規制環境も統一されていません。電子廃棄物の越境移動に関する規制や、リサイクル過程での有害物質管理といった問題も、対象地域では十分なインフラが整っていない可能性があります。
長期的に見れば、このファンドが生み出す「エビデンス」の蓄積は、個別企業の成功以上の意味を持ちます。クリーンエネルギーと循環型経済の交差点におけるモバイル技術の有効性を実証するデータは、各国の政策立案や、業界全体のESG戦略に影響を与える可能性があります。モバイル業界がネットゼロ目標を掲げるなかで、通信インフラのエネルギー効率化だけでなく、端末のライフサイクル全体を視野に入れた取り組みが求められる時代に入っています。
【用語解説】
グリーントランジション(Green Transition)
化石燃料に依存した経済・産業構造から、再生可能エネルギーを中心とした持続可能な構造へ移行する過程を指す。エネルギー転換だけでなく、製造・消費・廃棄のサイクル全体を含む概念である。
サーキュラーエコノミー(Circular Economy/循環型経済)
「作って、使って、捨てる」という直線的な経済モデルに対し、製品の修理、再利用、リファービッシュ、リサイクルを通じて資源を循環させる経済モデル。本記事では、モバイル端末の寿命延長と電子廃棄物削減の文脈で用いられている。
リファービッシュ(Refurbishment)
使用済みの製品を検査・修理・清掃し、品質基準を満たした状態で再販売すること。新品よりも低価格で市場に提供されるため、端末のアフォーダビリティ向上に寄与する。
デジタルインクルージョン(Digital Inclusion)
年齢、所得、居住地域、障害の有無などにかかわらず、すべての人がデジタル技術やインターネットにアクセスし、その恩恵を受けられる状態を指す。
スマートメータリング(Smart Metering)
電力やガスなどの使用量をデジタルで自動計測・通信する仕組み。リアルタイムでの消費量把握や遠隔制御が可能になり、エネルギー管理の効率化とコスト削減に貢献する。
マッチングファンディング(Matching Funding)
助成金の受給者が、助成元からの資金に対して一定割合の自己資金を拠出する仕組み。本ファンドでは助成申請額の最低25%の拠出が求められ、受給者の事業への本気度と持続可能性を担保する役割を果たす。
ESG
Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)の頭文字。企業の持続可能性を評価する枠組みとして、投資判断や経営戦略に広く用いられている。
LMICs(Low- and Middle-Income Countries/低・中所得国)
世界銀行の所得分類に基づく区分。本ファンドの対象地域であるアフリカ、中南米、南アジア、東南アジアの多くの国がこれに該当する。
ネットゼロ(Net Zero)
温室効果ガスの排出量と吸収・除去量を差し引きしてゼロにすること。モバイル業界全体として達成を目指しており、本ファンドもその戦略の一環に位置付けられている。
【参考リンク】
GSMA公式サイト(外部)
モバイルエコシステムを統合するグローバル組織。政策提言、技術標準化、MWCの運営などを行う。
GSMA Innovation Fund ポータルページ(外部)
イノベーションファンドの過去ラウンド情報、採択企業ポートフォリオ、応募ガイドラインなどを掲載している。
GSMA Innovation Fund for Green Transition for Mobile(プレスリリース)(外部)
2026年2月23日付の公式プレスリリース。ファンドの概要、対象者、提供内容、応募スケジュールを記載。
国連持続可能な開発目標(SDGs)(外部)
2030年までの達成を目指す17の国際目標。本ファンドはエネルギー、産業、持続可能な消費、気候変動に関連する。
【参考記事】
GSMA launches new fund for green transition projects in LMICs(外部)
Developing Telecomsの報道記事。助成金額のドル換算や支援内容、応募条件の要点を詳述している。
GSMA announces Green Transition Innovation Fund for mobile enterprises(外部)
Innovation Villageの解説記事。プレレベニュー企業は対象外であることを明記し、応募要件を詳しく説明。
GSMA Innovation Fund(公式ポータル)(外部)
2013年以来150以上の組織を支援した実績データを掲載。過去ラウンドの資金構造との違いを確認できる。
17 Shocking E-Waste Statistics In 2026(外部)
TheRoundupの電子廃棄物統計。2030年の74.7 Mt予測やアフリカの回収率0.9%などのデータを掲載。
50+ E-Waste Statistics 2026(外部)
DTP Groupの包括的統計レポート。2030年の82 Mt予測や347 Mt超の未リサイクル廃棄物蓄積推計を掲載。
GSMA Innovation Fund for Climate Resilience and Adaptation(外部)
2023年MWCバルセロナ発表の過去ラウンド。12社を選定し10万〜25万ポンドを助成した実績がある。
1 GBP to JPY – British Pounds to Japanese Yen Exchange Rate(Xe.com)(外部)
編集部解説の円換算(1ポンド=約210円)の根拠。2026年2月22日時点の実勢レートを参照した。
【編集部後記】
モバイル端末を「使い捨てる」時代から、「循環させる」時代へ。この転換は、新興国だけの話ではないかもしれません。
私たちが日常的に手にするスマートフォンの製造・廃棄の連鎖が、地球のどこかで誰かのデジタルアクセスや環境に影響を与えていると想像すると、テクノロジーとの向き合い方について、改めて考えるきっかけになるのではないでしょうか。みなさんは、使わなくなった端末をどうしていますか?








































