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Sony BankとJPYCが戦略提携─銀行口座から直接ステーブルコイン購入、エンタメ決済へ

JPYC社は2026年3月2日、Sony Bankおよび同行のWeb3子会社BlockBloomと、日本円ステーブルコイン「JPYC」の活用に向けた戦略的業務提携の基本合意(MOU)を締結したと発表した。

両者はJPYC社が運営するプラットフォーム「JPYC EX」にリアルタイム口座振替機能を導入することを検討している。実現すれば、ユーザーはSony Bank口座から振込手続きなしに直接JPYCを購入できるようになる。また、音楽やゲームなどのエンターテインメントIPとの連携も模索しており、デジタルコンテンツの購入やファン向け特典の提供など、決済と参加を融合した体験の構築を目指す。

Sony Bankは昨夏のBlockBloom設立発表時に、ステーブルコイン・セキュリティトークン・NFTを組み合わせた「Web3金融インフラ」構築の重要性を示していた。

From: 文献リンクSony Bank and JPYC sign MOU to cooperate on a stablecoin linked to entertainment payments

【編集部解説】

今回の提携が注目に値するのは、銀行の預金インフラとステーブルコインが直接つながる仕組みが、日本で具体的に検討され始めたという点です。従来、ステーブルコインを入手するには暗号資産取引所を経由するか、銀行振込で発行プラットフォームに入金するという手順が必要でした。Sony Bank口座からJPYC EXへのリアルタイム口座振替が実現すれば、こうした中間ステップが省かれ、法定通貨とステーブルコインの境界がこれまで以上に薄くなります。

この動きを理解するには、JPYCの現在の立ち位置を押さえておく必要があります。JPYCは2025年8月に資金決済法に基づく第二種資金移動業者の登録を完了し、同年10月27日に正式発行を開始しました。改正資金決済法のもとでステーブルコインは「電子決済手段」として法的に位置づけられており、JPYCは日本国内で唯一のオンショア型日本円ステーブルコインとして運用されています。裏付け資産は銀行預金と日本国債で、1JPYC=1円の価値が維持される設計です。

成長の勢いにも触れておきます。2026年1月末時点でJPYC EXの累計口座開設数は1万3000件、累計発行額は13億円を超えました。月平均成長率は約69%と報告されています。また、直接口座数の約6.2倍にあたる8万以上のウォレットアドレスがJPYCを保有しており、中央集権的なプラットフォームの外側でもトークンが流通していることがうかがえます。2月末時点でのオンチェーン供給量は約2640万ドル相当と推計され、アジア太平洋地域における現地通貨建てステーブルコインとしては最大規模となっています。

資金面では、JPYCは2月下旬にシリーズBの第1クローズを完了し、1.78 billion yen(約12 million USD)を調達しました。リード投資家は東証プライム上場のAsteria Corporationで、BitFlyer Holdings、明治安田生命やJR西日本に関連するファンドなど、暗号資産業界よりもむしろ伝統的な企業・機関投資家が出資者の中心を占めています。この構成は、JPYCがWeb3ネイティブなプロジェクトから、より広い産業基盤に支えられるインフラへと移行しつつあることを示唆しています。

Sony Bank側の戦略も多層的です。同行は昨夏、Web3子会社BlockBloomを資本金3億円で設立し、ステーブルコイン・セキュリティトークン・NFTを組み合わせた「Web3金融インフラ」構想を掲げました。国内では今回のJPYC連携を推進する一方、海外では米国市場向けにドルペッグ型ステーブルコインの発行も計画しています。2025年10月には米国で銀行免許を申請し、子会社Connectia Trustを通じた発行体制の整備を進めているとされています。米国ではGENIUS Actの成立によりステーブルコインの規制枠組みが明確化されたことが、この動きを後押ししています。

エンターテインメントIPとの連携という方向性も、Sony Groupならではの展開です。PlayStation Storeでのゲーム購入やサブスクリプション決済、音楽配信でのファン特典付与、オンラインコンサートでのチップ機能など、具体的なユースケースが想定されています。現在こうした決済の多くはクレジットカードネットワークを経由しており、ステーブルコインによる直接決済が普及すれば、カード手数料の削減とユーザー体験の向上を同時に実現できる可能性があります。

ただし、留意すべき点もあります。今回のMOUはあくまで基本合意であり、リアルタイム口座振替機能の導入時期は明示されていません。また、日本の円建てステーブルコイン市場全体は約2640万ドル規模にとどまり、ドル建てステーブルコインが99%以上を占める約3000億ドルのグローバル市場と比較すると、まだ極めて小さな存在です。さらに、SBI新生信託銀行が2026年第2四半期に信託型円建てステーブルコイン「JPYSC」の発行を目指しており、JPYCにとっては規制面での信頼度が異なる競合が出現する可能性もあります。

とはいえ、銀行預金レイヤーとブロックチェーン決済レイヤーを直結させるという構想は、ステーブルコインの利用を暗号資産に詳しい層から一般消費者へと広げるための重要な一歩です。Sony Groupが持つエンターテインメント資産と銀行インフラを掛け合わせることで、Web3の技術が「実験的なもの」から「日常的なもの」へ移行するきっかけとなるのか。その行方は、日本のデジタル金融インフラの将来像を占ううえでも見逃せません。

【用語解説】

ステーブルコイン
法定通貨などの資産と価値を連動させることで、価格の安定性を実現するよう設計されたデジタル資産の総称である。ビットコインのような価格変動の大きい暗号資産とは異なり、決済や送金手段としての実用性を重視している。

MOU(Memorandum of Understanding)
日本語では「基本合意書」「覚書」と訳される。法的拘束力を持つ正式契約の前段階として、当事者間の協力意図や検討事項の方向性を定めた文書である。

電子決済手段
2023年施行の改正資金決済法で新たに定義された法的カテゴリーである。法定通貨に裏付けられたステーブルコインがこれに該当し、銀行・資金移動業者・信託会社が発行主体となることが認められている。

資金移動業者(第二種)
資金決済法に基づき、100万円以下の送金を取り扱う事業者の登録区分である。JPYC株式会社は2025年8月にこの登録を完了し、ステーブルコインの発行・償還が可能となった。

セキュリティトークン
有価証券をブロックチェーン上でデジタル化したものである。株式や債券などの権利をトークンとして表現することで、取引の効率化や流動性の向上が期待される。

NFT(非代替性トークン)
ブロックチェーン上で発行される、固有の識別情報を持つデジタルトークンである。デジタルアートやゲーム内アイテムなど、一点物の所有権を証明する手段として活用される。

オンチェーン
ブロックチェーン上に直接記録された取引やデータを指す。透明性が高く改ざんが困難であり、第三者による検証が可能である。

エンターテインメントIP(知的財産)
音楽、ゲーム、映画、アニメなどの創作物に付随する知的財産権を指す。キャラクターやブランドの二次利用・商品化の基盤となる。

GENIUS Act
2025年7月に米国で成立したステーブルコインの規制法である。ドル建てステーブルコインの発行・監督に関する枠組みを定め、金融機関やフィンテック企業の市場参入を促進している。

【参考リンク】

JPYC株式会社(コーポレートサイト)(外部)
日本円ステーブルコイン「JPYC」の発行元。2025年8月に第二種資金移動業者登録を完了、同年10月に正式発行を開始した。

JPYC EX(外部)
JPYCの発行・償還を行う公式プラットフォーム。マイナンバーカードによる本人確認を経て日本円とJPYCを交換できる。

Sony Bank(ソニー銀行)(外部)
ソニーフィナンシャルグループ傘下のネット銀行。2025年9月にソニーグループから分離・上場し、Web3事業を加速している。

BlockBloom株式会社(Sony Bank Topics)(外部)
ソニー銀行100%子会社のWeb3事業会社。2025年10月に事業開始。ブロックチェーン活用のコンサルティング事業を展開する。

Asteria Corporation(外部)
東証プライム上場のIT企業。「ASTERIA Warp」を1万社超に提供。JPYC社シリーズBのリード投資家を務めた。

Soneium(外部)
Sony Groupが展開するEthereum Layer-2ブロックチェーン。デジタルコンテンツクリエイター向けのインフラを提供する。

【参考記事】

Sony Bank Signs MOU to Integrate Yen Stablecoin JPYC(外部)
Cointelegraph報道。JPYCの発行経緯、裏付け資産構造、中立的な枠組み設計、シリーズB資金調達の詳細を補足している。

Sony Bank Has Partnered With The Japanese Yen Stablecoin JPYC(外部)
Coin Edition報道。累計発行額1 billion yen、口座数1万3000件、ウォレットアドレス8万超の数値を記載している。

JPYC Secures ¥1.78 Billion in Series B First Close(外部)
Fintech Observer報道。月平均成長率69%、日次回転率100%超、出資者構成の詳細など成長指標を記載している。

Japan’s Yen Stablecoin Flow: A $26M On-Chain Market vs. the $300B Dollar Monopoly(外部)
ainvest報道。JPYCオンチェーン供給量約$26.4M、グローバル市場$300Bとの比較、JPYSC動向を数値で分析。

Sony Bank Could Issue USD Stablecoin in U.S. Next Year: Nikkei(外部)
CoinDesk報道。Sony Bankの米国ドル建てステーブルコイン計画、銀行免許申請の詳細を日経報道に基づき伝えている。

JPYC raises $12m Series B as mainstream investors back yen stablecoin(外部)
Ledger Insights報道。シリーズB出資者の大半が伝統的企業・機関投資家である点を分析し、産業基盤型への移行を指摘。

【編集部後記】

「銀行口座からステーブルコインを直接買える」──この言葉だけを聞けば、単なる決済手段の追加に思えるかもしれません。しかしその背景には、日本の法制度が整い、銀行がブロックチェーンと正面から向き合い始めたという大きな潮流があります。

Sony BankとJPYCの今回の提携は、まだMOUの段階であり、具体的なサービスの姿が見えるまでには時間がかかるでしょう。しかし、エンターテインメントIPとの接続というアイデアは、ステーブルコインを「金融に詳しい人の道具」から「ファンが自然に使うもの」へと変える可能性を秘めています。

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TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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