Googleは2026年4月13日、スパムポリシーを拡充し、「バックボタン・ハイジャッキング」をスパムポリシー上の「悪意ある行為」の明確な違反として指定すると発表した。
バックボタン・ハイジャッキングとは、サイトがブラウザの「戻る」ボタンの動作を妨害し、ユーザーが直前のページへ即座に戻れないようにする行為である。該当するページは手動スパム対策または自動降格の対象となり、Google 検索の検索結果に影響が生じる可能性がある。
ポリシーの施行は2026年6月15日で、サイトオーナーには2ヶ月の猶予期間が設けられている。問題を修正したサイトは、Search Console から再審査リクエストを送信できる。
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Introducing a new spam policy for “back button hijacking”
📋 編集部注(2026年4月20日更新):自サイトの違反有無を確認する具体的な手順と、SPAなど正当なHistory API利用との区別について追記しました。
【編集部解説】
まず、この行為の技術的な背景を押さえておきましょう。バックボタン・ハイジャッキングは、ブラウザが標準で持つ「History API」を悪用することで実現されます。通常、ウェブページは履歴を自然な順序で積み重ねますが、history.pushState() や history.replaceState() といったメソッドを不正に操作することで、ユーザーが「戻る」を押した瞬間に意図しないページへ誘導したり、同じページにループさせたりすることが可能になります。スクリプト1行で実装できる手軽さが、悪用の温床になってきました。
では、なぜ今なのか。Googleは以前からこの行為を Google Search Essentials 違反と位置づけていましたが、検索結果への影響はないとしていました。今回の発表はその方針の明確な転換であり、違反件数の増加がGoogleを動かした直接の要因です。2026年3月24日にはスパムアップデートを全言語でリリースしたばかりであり、ユーザー体験の保護に対するGoogleの本気度が改めて伝わります。
注目すべきは、サイトオーナー自身のコードだけでなく、広告ネットワークや外部ライブラリに起因するケースも、サイトオーナーの責任とされている点です。アフィリエイトサイトや広告収益を主軸とするメディアは、気づかぬうちに違反コードを埋め込んでいる可能性があり、今すぐ実装の棚卸しを行うことが不可欠です。
今回のポリシーは、悪意ある行為(malicious practices)のカテゴリに、マルウェアや迷惑ソフトウェアと同列に並ぶ形で追加されました。これは分類上の重み付けとして見逃せません。手動スパム対策が適用された場合、Search Console 上で通知が届きますが、アルゴリズムによる自動降格は通知なく行われます。気づいたときには順位が大幅に落ちているというリスクは、オーガニックトラフィックに依存するパブリッシャーにとってビジネスの根幹を揺るがしかねません。
さらに見落とせないのが、広告への波及効果です。2024年12月、GoogleはGoogleの手動スパム対策を Google Ads の広告掲載資格と初めて連動させました。今回の手動対策が適用された場合、オーガニック検索の降格にとどまらず、広告配信の停止にまで影響が及ぶ可能性があります。検索と広告の両面でリスクを抱えることになる点は、特に広告収益に依存するパブリッシャーが強く認識しておくべきでしょう。
長期的な視点で見れば、このポリシーは単なる「罰則の追加」ではありません。Core Web Vitalsの導入、モバイルファーストインデックス、そして今回のバックボタン保護と、Googleはブラウザ上でのユーザーの「当然の期待」を守る方向に着実に進化しています。開発者・サイトオーナー・広告事業者の三者が連携してユーザー体験を守る責任を持つという文化の醸成を、Googleは検索を通じて促そうとしていると読み取れます。
6月15日まで約2ヶ月。この猶予期間を活用し、サイトの技術的実装を点検することが、すべてのウェブ関係者に求められています。
【2026年4月20日 追記】
今回のポリシーで注意が必要なのは、History APIそのものが禁止されたわけではないという点です。SPA(シングルページアプリケーション)のルーティングや、複数ステップのフォームにおけるページ遷移管理など、ユーザーの操作意図に沿った正当な実装は引き続き許容されます。Googleが問題視しているのは、「ユーザーが意図していないページを履歴に挿入・置換し、戻ることを妨げる」欺瞞的な利用に限られます。
自サイトが対象かどうかを確認する最もシンプルな方法は、実際にGoogle検索からサイトへ訪問し、ブラウザの「戻る」ボタンを押してみることです。即座に検索結果ページへ戻れれば問題ありません。戻れない・別のページに飛ぶ・同じページがリロードされるといった挙動があれば、要確認です。さらに詳しく調べたい場合は、ChromeのDevToolsを開き、Consoleタブで history.length の値をページ読み込み前後で比較するか、Networkタブで予期しないリダイレクトが発生していないかを確認する方法が有効です。自社開発コードだけでなく、広告タグや外部ライブラリを含めた技術スタック全体を対象に確認することを、Googleは明示的に求めています。
【用語解説】
History API
ブラウザが標準で持つ JavaScript のインターフェース。history.pushState() や history.replaceState() などのメソッドを使って、ページを実際に遷移させることなくブラウザの閲覧履歴を操作できる。本来はSPA(シングルページアプリケーション)などの快適なナビゲーション実現のために設計された機能だが、バックボタン・ハイジャッキングにも悪用される。
手動スパム対策(Manual Spam Action)
GoogleのWebスパムチームの担当者が個別にサイトを審査し、ポリシー違反と判断した場合に適用するペナルティ。適用されると Search Console 上で通知が届き、検索順位に直接影響する。問題を修正した後は再審査リクエストを送ることで解除を求めることができる。
自動降格(Automated Demotion)
Googleのアルゴリズムが自動的にサイトの検索順位を引き下げる措置。手動スパム対策とは異なり、Search Console への通知なく実施される場合があるため、気づかないうちに順位が大幅に低下するリスクがある。
Core Web Vitals
Googleが定めるウェブページのユーザー体験を測定する指標群。ページの読み込み速度(LCP)、視覚的安定性(CLS)、インタラクション応答性(INP)の3つが現在の主要指標であり、検索ランキングの要素の一つとなっている。
オーガニックトラフィック
広告費を支払うことなく、検索エンジンの自然な検索結果を経由してサイトに訪れるアクセスのこと。多くのWebメディアやパブリッシャーにとって収益の根幹を担う集客源であり、今回のスパムポリシー適用による順位低下はビジネスに直結するリスクとなる。
【参考リンク】
Google Search Central Blog(外部)
Googleが検索に関する公式情報・ガイドライン・アップデートをデベロッパー向けに発信する公式ブログ。今回のポリシー発表の一次情報源でもある。
Google Search Console(外部)
サイトオーナーが検索パフォーマンスを確認し、スパム対策の通知受け取りや再審査リクエストを送信できるGoogleの無料ツール。
Google Search Essentials(外部)
Googleが検索への掲載要件・スパムポリシー・技術仕様を体系的にまとめた公式ドキュメント。ウェブ運営者必読の一次情報源だ。
【参考記事】
Google will penalise sites that hijack your browser’s back button – TNW(外部)
History APIの悪用手法を技術的に解説。第三者ライブラリ経由の違反リスクやGoogleのウェブガバナンス問題にも踏み込んでいる。
Websites that hijack your back button must stop by June 15 – Ars Technica(外部)
技術系読者向けに今回のポリシー変更の意義を解説。施行期限6月15日と手動対策・自動降格の両ペナルティの仕組みに焦点を当てている。
Google Search to penalize back button hijacking schemes – Search Engine Land(外部)
SEO専門家向けに今回のポリシーの実務的影響を分析。広告収益依存のパブリッシャーへの影響とサードパーティスクリプト対応を報じている。
Google sets June 15 deadline to stop hijacking users’ back button – ppc.land(外部)
2026年3月スパムアップデートとの関連性やGoogle Ads広告掲載資格との連動など、実務上の詳細な影響を包括的にまとめている。
Google to punish sites that trap people in with back button tricks – BBC(外部)
一般読者向けにわかりやすくポリシー変更の概要を報道。ユーザーが「操作されている」と感じる不快な体験への共感的な視点が含まれる。
【編集部後記】
「戻る」ボタンを押したとき、思わぬページに飛んでしまった経験、きっと一度はあるのではないでしょうか。私自身もそのたびに、じわりとした不快感を覚えてきました。Googleがこの問題に正面から向き合ったことで、ウェブはほんの少し、居心地のいい場所に近づくかもしれません。
今回の施行は6月15日。サイトを運営している方にとっては、ひとつの「棚卸しの機会」でもあります。使っている広告ツールや外部ライブラリに、意図せず問題のあるコードが混じっていないか、ぜひこの機会に確認してみてください。あなたが普段使うサイト、あるいは運営しているサイトは、どうでしょうか?











