ノートパソコンのファンノイズに悩まされた経験はないだろうか。YPlasmaが発表した世界初のプラズマ冷却ノートPCは、機械式ファンを完全に排除し、厚さ200ミクロンの薄膜で17dBAという実質無音の冷却を実現する。
ニュージャージー州ニューアークとスペインに拠点を置く固体熱管理技術企業YPlasmaは2026年1月2日、CES Las Vegas 2026への参加を発表した。同社はEureka Parkのスタンド60845で、誘電体バリア放電プラズマアクチュエーターを消費者向け電子機器の冷却に応用した世界初のノートパソコンを公開する。
このアクチュエーターは厚さ200ミクロンの薄膜で、機械式ファンを使用せず冷プラズマによるイオン風で冷却を行う。動作音は17dBAで、同一デバイス内で冷却と加熱の両方を生成できる世界初の技術である。ライブデモは2026年1月7日午後4時にVenetian ExpoのHall Gで実施される。
YPlasmaはスペイン国立航空宇宙技術研究所からのスピンオフ企業で、FaberとSOSVの支援を受けている。
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World Premiere: YPlasma to Debut Noiseless Laptop Cooled with DBD Plasma Actuators
【編集部解説】
この発表の核心は、ノートパソコンの冷却方式を機械式から固体へと根本的に転換する試みにあります。YPlasmaが採用するDBD(誘電体バリア放電)技術は、高電圧で空気をイオン化し、電極間に生じる電界によって「イオン風」と呼ばれる気流を発生させる仕組みです。この方式では回転するファンブレードが不要となり、可動部品がゼロという点が革新的といえます。
厚さ200ミクロンという数字の意味を考えてみましょう。これは人間の髪の毛2本分程度の薄さであり、ヒートシンクや筐体の壁面に直接貼り付けられるレベルです。従来のファンが占めていた数ミリの空間が不要になることで、デザイナーはより薄く、より自由な形状のデバイスを設計できるようになります。
17dBAという静音性も注目に値します。これは図書館内よりも静かなレベルで、人間の可聴域の下限に近い数値です。高性能ノートパソコンを使用する際の「ファンノイズ」は、多くのユーザーにとって避けられないストレスでしたが、この技術はその問題を根本から解決する可能性を秘めています。
安全性の観点では、従来のコロナ放電方式との違いが重要です。コロナ放電はオゾンを副生成物として生じさせる可能性がありますが、DBD(誘電体バリア放電)方式は、放電を誘電体で制御することで、従来のコロナ放電と比べてオゾン生成を低減できる可能性があるとされています。YPlasmaは自社設計において安全性を確保していると説明しているが、具体的なオゾン濃度や測定条件は現時点では公開されていません。
ただし、実用化に向けてはいくつかの課題も想定されます。DBD技術は高電圧を必要とするため、専用の電源回路が必要になります。YPlasmaのプレゼンテーションによれば、3Wの熱負荷に対して標準ファンと同等以上の冷却性能を達成していますが、最新のハイエンドプロセッサが発する数十ワットの熱量に対応できるかは、今後の実証が待たれます。
消費電力の面では、別のイオン風冷却企業であるIonic Wind Technologiesがデータセンター向けに最大60%の省エネを主張しているように、適切に設計されれば従来のファンよりも効率的になる可能性があります。しかし、これは冷却システム全体の設計に大きく依存するため、ノートパソコンという限られた空間でどこまで最適化できるかが鍵となるでしょう。
興味深いのは、この技術が冷却だけでなく加熱も可能という点です。つまり、冬場の起動時にバッテリーを温めたり、特定の温度範囲で最適なパフォーマンスを発揮するコンポーネントを能動的に温度管理したりといった、双方向の熱制御が実現できます。これは従来のファンでは不可能だった機能です。
宇宙グレードの技術を民生品に転用するという同社のアプローチも注目されます。航空宇宙分野で培われた信頼性の高い技術が、日常的に使用するノートパソコンに搭載されることで、製品寿命全体を通じた耐久性の向上が期待できます。
長期的には、この技術はノートパソコン以外の領域にも波及する可能性があります。YPlasmaは航空機の空気力学制御、農業用の衛生処理、UAVの推進システムなど、幅広い応用を視野に入れています。特にドローンや小型航空機において、軽量で可動部品のない推進システムは大きなアドバンテージとなるでしょう。
CES 2026での実機デモンストレーションは、この技術が概念実証の段階を超えて製品化に向かっていることを示す重要なマイルストーンとなります。1月7日のライブデモで、実際の動作状況や冷却性能がどのように示されるか、業界の注目が集まっています。
【用語解説】
DBD(誘電体バリア放電)
Dielectric Barrier Dischargeの略。2枚の電極の間に誘電体(絶縁体)を配置し、高電圧をかけることで空気をイオン化させる放電方式。誘電体が放電を制御するため、コロナ放電と比べてオゾンの発生が少なく、電極の劣化も抑えられる。
イオン風
電界によって加速されたイオン化された空気分子が、中性の空気分子と衝突することで生じる気流。Ionic Windとも呼ばれる。可動部品なしで空気を動かせるため、固体冷却システムの実現に不可欠な現象である。
コロナ放電
尖った電極の周辺に強い電界を発生させ、空気をイオン化する放電方式。イオン風を生成できるが、オゾンが発生しやすく、電極先端が侵食(tip erosion)により劣化するという課題がある。DBDはこれらの問題を解決した次世代技術といえる。
Eureka Park
CESにおけるスタートアップ企業専用の展示エリア。世界中から革新的な技術を持つ新興企業が集結し、投資家やメディア、大手企業との接点を求めて出展する。CESの中でも特に注目度の高いセクションである。
UAV
Unmanned Aerial Vehicleの略で、無人航空機のこと。一般的にはドローンとして知られる。軽量で可動部品のない推進システムは、UAVの飛行時間延長や信頼性向上に貢献する可能性がある。
【参考リンク】
YPlasma公式サイト(外部)
スペイン国立航空宇宙技術研究所からスピンオフした固体熱管理技術企業。DBDプラズマアクチュエーターを用いた冷却技術を開発。
CES 2026公式出展者ディレクトリ(YPlasma)(外部)
YPlasmaのCES 2026出展情報。Eureka Parkスタンド60845の詳細や1月7日午後4時のライブデモ案内を掲載。
INTA(スペイン国立航空宇宙技術研究所)(外部)
スペインの航空宇宙分野における主要研究機関。YPlasmaはこの研究所から技術移転を受けてスピンオフした企業。
【参考動画】
DBD Plasma Actuators – Compact and Efficient Cooling Solutions | YPlasma
YPlasma公式チャンネルによるDBDプラズマアクチュエーターの技術解説動画。3Wの熱負荷に対する冷却性能のデモンストレーションや、従来のファンとの比較が視覚的に示されている。
【参考記事】
World-1st laptop cooled by dielectric barrier discharge to debut at CES 2026(外部)
YPlasmaのDBD技術を用いた世界初のプラズマ冷却ノートPCのCES 2026出展を報じる記事。技術的特徴を詳述。
Ionic Wind explores ionized air for cooling servers, claims a 60 percent cost reduction(外部)
イオン風冷却技術企業のデータセンター向けソリューションを取材。最大60%のコスト削減を主張する事例を紹介。
Energy-efficient cooling thanks to ionic wind(外部)
イオン風による冷却技術の省エネルギー性能に焦点。プラズマアクチュエーターの動作原理とエネルギー効率を分析。
A water cooled, high power, dielectric barrier discharge reactor(外部)
高出力DBDリアクターの設計と冷却に関する学術論文。DBD技術の熱管理特性や電力消費特性の科学的裏付けを提供。
【編集部後記】
高性能なノートパソコンを使っていて、ファンの「ブーン」という音に集中を削がれた経験はありませんか?カフェや図書館で作業中、周囲に気を使いながら使った記憶がある方も多いのではないでしょうか。
YPlasmaの技術は、そんな日常の小さなストレスを根本から解消する可能性を秘めています。1月7日のCESライブデモで実際にどのような体験が提供されるのか、私も非常に興味を持っています。可動部品のない冷却システムが、私たちの働き方や創作活動にどんな変化をもたらすのか。皆さんはどう思われますか?
































