gumi、スカパーJSAT、日立ソリューションズの3社は2026年2月20日、二次創作における著作権管理の新たな仕組みを検証する実証実験(PoC)を開始した。
「描いて創ろう!公式二次創作グッズ市」と題したイベントを通じ、IP権利元とクリエイター双方の権利を保護しながら、許諾手続きからグッズの製造・販売、売上に応じたライセンス料の分配までを一元管理するモデルを検証する。対象IPはファントム オブ キル、ラグナドール、Chicoa(チコー)の3作品で、権利元としてgumiと1st PLACEが参画する。グッズの製造・販売にはアニメイト、イメージ・マジック、GMOペパボが協力する。
開催期間は2026年4月19日までで、クリエイターの参加申し込みは3月16日が締め切りである。参加クリエイターは初期費用や在庫リスクを負わずにイラストをグッズ化・販売できる。
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クリエイターが安心して二次創作できる環境づくりをめざし、3社協創による実証を開始|株式会社日立ソリューションズ

【編集部解説】
この取り組みの本質は、日本の二次創作文化が長年抱えてきた「グレーゾーン問題」に対して、テクノロジーと仕組みの両面から正面に向き合おうとしている点にあります。
日本のコンテンツ産業は2024年時点で15兆円規模に達し、過去最高を更新し続けています。その成長を下支えしてきた要因のひとつが、ファンによる二次創作活動です。矢野経済研究所による「オタク」市場調査では、2023年度の同人誌市場が前年度比37.9%増と急拡大しており、即売会の復調やデータ販売の定着に加えて、海外向け翻訳版の売上も市場拡大に寄与しています。
しかし、この巨大な創作エコシステムの多くは、著作権法上は「権利者の黙認」という不安定な基盤の上に成り立ってきました。クリエイターにとっては「いつ権利行使されるかわからない」という不透明さが常につきまとい、特にグッズ販売のように物理的な商品が絡む領域では、許諾の境界が曖昧なまま活動が行われてきた側面があります。
こうした課題に対し、近年は権利元側からルールの明文化に向けた動きが加速しています。カプコンは2025年11月に二次創作ガイドラインを公開し、許容範囲を明示しました。pixivが運営するBOOTHでは、一部IPについてライセンス料を自動徴収する仕組みがすでに運用されています。海外ではRobloxが2025年7月にセガや講談社と連携した公式ライセンス制度を発表するなど、「黙認から公認へ」という潮流が世界的に広がりつつあります。
今回の実証実験が注目に値するのは、許諾手続きの定型化からグッズ製造・販売・ライセンス料分配までを一気通貫で管理する「プラットフォーム型モデル」を検証している点です。クリエイターは初期費用も在庫リスクも負わずに参加でき、権利元は個別交渉の手間を省きながら収益を確保できる設計になっています。許諾と対価支払いを仲介する包括的なライセンス管理の発想を、グッズ二次創作という領域に持ち込もうとする試みと捉えることもできます。
3社の座組みにも注目すべき点があります。gumiは「OSHI3」プロジェクトを通じてブロックチェーン技術と推し活経済圏の融合を進めており、今回の実証はその延長線上に位置づけられます。スカパーJSATはWeb3関連やグローバルIP事業への多角化を進めており、日立ソリューションズはファンクラブ向け会員サイト構築の実績を持ちます。IPビジネス、メディア、システム基盤というそれぞれの専門性が組み合わさった構成です。
ポジティブな側面として、この仕組みが定着すれば、クリエイターは法的リスクを気にせず創作に専念でき、権利元はファン経済圏から適切な対価を得られるようになります。とくに参入障壁が下がることで、プロではない個人クリエイターの活動を後押しする効果が期待できます。
一方で、潜在的なリスクも見過ごせません。「公式の仕組み」が整備されることで、その枠組みの外にある二次創作活動が相対的に「非公認」と見なされ、萎縮効果を生む可能性があります。また、ライセンス料率や許諾範囲の設定次第では、クリエイターの自由度が制約される懸念もあります。プレスリリースでは「通常の創作活動を制限するものではない」と明記されていますが、仕組みの運用実態がその精神を貫けるかどうかが今後の焦点となるでしょう。
経済産業省は2025年6月に「エンタメ・クリエイティブ産業戦略」を公表し、日本発コンテンツの海外売上を20兆円に引き上げる5カ年計画を示しました。二次創作の適切な制度化は、IPの価値を毀損せずにファンコミュニティの熱量を産業成長へ接続するための重要なインフラとなり得ます。今回のPoCは小規模な実証ですが、その射程は日本のコンテンツ産業全体の構造転換につながる可能性を秘めています。
【用語解説】
二次創作
既存のマンガ、アニメ、ゲームなどのキャラクターや世界観をもとに、ファンが新たに制作する創作物の総称。同人誌、ファンアート、グッズなど形態は多岐にわたる。日本の著作権法上、権利者の許諾なく行う場合はグレーゾーンに位置づけられてきた。
PoC(Proof of Concept)
新しいアイデアや仕組みが実際に機能するかどうかを、小規模な実験によって検証する手法。本格的な事業化の前段階として実施される。
IP(Intellectual Property)
知的財産。コンテンツ業界では、キャラクターや作品タイトルなど、商業的価値を持つ創作物やブランドを指す用語として広く使われる。
ライセンス料
知的財産の使用許諾に対して支払われる対価。今回の実証では、二次創作グッズの売上に応じて権利元へ分配される仕組みの成立可能性が検証される。
クリエイターエコノミー
個人クリエイターがプラットフォームを通じて作品を制作・販売し、直接収益を得る経済圏。従来の企業主導型とは異なり、個人が主体となる点が特徴である。
【参考リンク】
描いて創ろう!公式二次創作グッズ市(外部)
今回の実証実験の公式イベントページ。対象IPの情報やクリエイターの参加申し込みを受け付けている。
gumi公式サイト(外部)
モバイルオンラインゲーム事業とブロックチェーン等事業を展開する東証プライム上場企業の公式サイト。
OSHI3プロジェクト公式サイト(外部)
gumiが推進する「推し活×Web3」プロジェクト。Oshi Tokenを基軸としたトークン経済圏の構築を目指す。
スカパーJSAT公式サイト(外部)
宇宙事業とメディア事業を展開する国内唯一の「宇宙実業社」。Web3関連やグローバルIP事業にも進出。
日立ソリューションズ Fan-Life Platform(外部)
日立ソリューションズが提供するファンクラブ向け会員サイト構築・運営ソリューションの紹介ページ。
1st PLACE公式サイト(外部)
音声合成ソフト「IA」やキャラクターIPの企画開発を手がけるエンタテインメント企業の公式サイト。
経済産業省「エンタメ・クリエイティブ産業戦略」(外部)
2025年6月公表。コンテンツ産業の海外売上高20兆円を目指す5カ年アクションプランの全文を掲載。
【参考記事】
ヒューマンメディア「日本と世界のメディア×コンテンツ市場データベース」(外部)
2024年の日本のコンテンツ市場規模は前年比3.9%増で15兆円超、過去最大。米国は日本の7倍の90兆円超。
デジタルコンテンツ白書2025 — 2024年のコンテンツ産業市場規模は14兆円超え(外部)
デジタルコンテンツ協会の調査。コンテンツ産業市場規模14兆288億円、ネットワーク区分が全体の45%に。
2023年度国内「オタク」市場~「同人誌」市場が成長(印刷ジャーナル)(外部)
矢野経済研究所の調査に基づく報告。2023年度の同人誌市場は前年度比37.9%増と最も高い成長率を記録。
エンタメ・クリエイティブ産業戦略(経済産業省・PDF)(外部)
世界のコンテンツ市場規模135兆円、日本発の海外売上5.8兆円。2033年までに20兆円を目指す戦略文書。
カプコンが二次創作のガイドラインを制定した背景(NiEW)(外部)
カプコン知的財産部と文化庁著作権課へのインタビュー。ガイドライン明文化の狙いと経緯を紹介。
3社が二次創作グッズの著作権管理モデルを実証(Plus Web3 media)(外部)
今回の実証をWeb3視点から報道。許諾から収益分配の一本化でクリエイターの法的リスク軽減を指摘。
【編集部後記】
二次創作は「黙認」という曖昧な土台の上で発展してきました。今回の実証実験は、その関係を「公認」へと再定義しようとする試みのひとつです。もしみなさんがクリエイターとして、あるいはファンとして二次創作に関わった経験があるなら、「安心して創れる仕組み」とはどんな形が理想でしょうか。
権利を守ることと、創作の自由を守ること。この両立の行方を、一緒に見守っていければと思います。







































