米国のテック業界では、大手企業同士が「提携」を結んで競争そのものを消し去る動きに、規制当局が是正の手を伸ばすケースが続いています。チケット販売のLive NationとTicketmasterに続き、今回は不動産賃貸情報プラットフォームのZillowとRedfinが、米連邦取引委員会(FTC)との独占禁止法訴訟で和解に至りました。
ZillowとRedfinは2026年8月24日、米連邦取引委員会(FTC)およびアリゾナ・コネチカット・ニューヨーク・バージニア・ワシントン各州司法長官との独占禁止法訴訟で和解に達したと発表した。
訴訟の発端は2025年の提携契約で、Redfinは自社サイトにZillowの賃貸物件情報を掲載する見返りにZillowから1億ドルを受け取り、最長9年間賃貸広告事業から撤退することに合意していた。FTCは、Zillowが有力競合のRedfinに金銭を支払って競争をやめさせ、価格引き上げや不動産管理会社への不利な条件提示を可能にした恐れがあると主張していた。和解案では、Redfinの賃貸広告事業への再参入が義務付けられ、不動産管理会社の顧客獲得における制限も撤廃される。両社の提携自体は継続し、RedfinはZillowの物件情報表示を続けつつ、自社の顧客獲得競争を再開できる。
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Zillow and Redfin settle FTC antitrust case
【編集部解説】
FTCの発表によれば、今回の命令は裁定和解命令(stipulated order)という形式を取り、10年間効力を持ちます。2025年合意の核心部分──ZillowがRedfinに1億ドルを支払い、Redfinが25戸以上の集合住宅(マルチファミリー物件)向け賃貸広告事業(ILS=インターネット・リスティング・サービス)から撤退してZillow物件の再掲載に専念する、という取り決め──を撤廃するものです。
Redfinは命令確定から6カ月以内に賃貸広告事業を再開することが義務付けられており、そのための技術基盤の構築、営業担当者や顧客サポート体制の採用、広告展開までが具体的なコミットメントとして明記されています。Zillow側にも、Redfinが元Zillow従業員を採用する際の妨害を禁じる条項や、Redfin再参入後9カ月間、契約解除に3カ月以上を要する既存顧客がZillowとの契約を違約金なしで見直せるようにする義務など、Redfinの再参入を後押しする条件が課されています。
FTC競争局のダニエル・グアルネラ局長は、「競合他社に市場から撤退し競争をやめるよう金銭を支払う行為は独禁法に違反する」と述べた上で、この和解は裁判で勝訴した場合よりも早く確実な結果をもたらすものだと説明しています。FTCと州側の専門家による試算では、Redfinが競争から退いた後、Zillowの顧客である不動産管理会社が支払う広告費は平均で約14.5%上昇したとされています。
なお、Zillow・Redfin両社はもともとこの提携について「入居希望者がより多くの物件情報にアクセスできるようにするための取り組み」だと説明してきました。和解発表後もZillowは自社の発信で、提携は「消費者本位で競争促進的なものであり続けている」との立場を示しており、Zillow Rentals部門の幹部も今回の結果を「賃貸希望者と集合住宅の管理会社双方にとって前向きな結果」と評価する声明を出しています。
「競争をやめる提携」は繰り返されるパターンなのか
TechCrunch原文も指摘する通り、この案件はDOJ(米司法省)とLive Nation・チケットマスターの独禁法訴訟からわずか数カ月後のものです。ただし、両案件の経過は対照的です。
Live Nation・チケットマスター訴訟では、2026年3月に裁判が始まったわずか数日後にDOJと同社が和解に達しましたが、この和解案は構造的な事業分割を求めるものではありませんでした。当初の提訴に加わっていたニューヨーク州のジェームズ司法長官を含む34の司法当局が、この和解を不十分として加わらず訴訟を継続し、2026年4月には陪審がLive Nation・チケットマスターの独占的行為と抱き合わせ販売について、すべての訴因で責任ありとの評決を下しています。
これに対し今回のZillow・Redfin案件では、アリゾナ・コネチカット・ニューヨーク・バージニア・ワシントンの5州がFTCの和解にそのまま加わり、連邦と州の足並みが揃っています。「大手プラットフォームが競合に金銭を払って市場から退場させる」という構図は共通していながら、規制当局側の足並みという点でこの二つの案件はまったく異なる展開をたどりました。同じパターンの提携でも、連邦と州の判断が一致するかどうかで決着の形はこれほど変わり得るということです。
この和解は「抑止力」になるのか
今回の命令に、Zillowへの金銭的な制裁は含まれていません。求められているのは、問題となった契約条項の撤廃と、Redfinの再参入を実現するための一連の行動です。Redfin側には命令の期限を守れなかった場合の金銭的なペナルティが設けられている一方、Zillow自身が今回の合意によってどの程度の経済的な負担を負うことになるのかは、確認できた情報からは判然としません。
この手法──競合に金銭を払って市場から締め出すこと──が独禁法違反として明確に否定された今回の事例は、プラットフォーム経済で同種の提携を検討する他業種の企業にとっても無視できない先例になり得ます。ただし、それが実際に同種の提携の抑止につながるかどうかは、今後同様のケースがどれだけ規制当局に持ち込まれ、どのような結果に至るか次第でもあります。
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【編集部後記】
普段利用しているアプリやサービスの裏側で、企業同士がどんな条件で提携し、どこまで競争しているのかを、私たちが知る機会はほとんどありません。今回の件は、その一端が独占禁止当局の目を通してようやく可視化された一例だと言えそうです。同じような「競争をやめる提携」は、まだ他のどんな業界のどんなプラットフォームの裏側に眠っているのか。そんなことをふと考えさせられる一件でした。
【用語解説】
ILS(Internet Listing Service)
賃貸物件の検索・掲載を行うウェブサイトの総称。Zillow RentalsやRent.com、ApartmentGuide.comなど、renter(入居希望者)とproperty manager(不動産管理会社)をつなぐプラットフォームを指す業界用語。
裁定和解命令(Stipulated Order)
裁判所の判決を待たず、当事者間の合意内容を裁判所に届け出て法的拘束力を持たせる和解形式。今回はFTC・5州とZillow・Redfinの間で締結され、地裁判事の承認・署名により法的効力を持つ。
マルチファミリー物件(Multifamily Property)
25戸以上の住戸を持つ集合住宅を指す業界区分。今回の訴訟は、この区分の賃貸広告市場における競争排除が争点となった。
【参考リンク】
Zillow公式サイト(外部)
米国最大級の不動産情報プラットフォーム。物件検索、賃貸情報、住宅ローン関連サービスを提供。
Redfin公式サイト(外部)
仲介手数料の低さを特徴とする米国の不動産テック企業。2025年7月にRocket Companiesが買収を完了。
FTC(米連邦取引委員会)競争局(外部)
独占禁止法違反の摘発・是正を担う部局。今回の命令の一次情報源。
FTCによる2025年9月の提訴発表(外部)
今回の和解に至った訴訟が最初に提起された際の発表。提携の詳細な経緯を確認できる。
独禁法違反の通報窓口(FTC)(外部)
プラットフォーム企業の競争制限的な行為に懸念がある場合、米国の消費者・事業者が申し立てを行える窓口。
【参考記事】
FTC Secures Order Resolving Antitrust Concerns with Zillow-Redfin Agreement — FTC(外部)
今回の命令の具体的な条件、グアルネラ局長のコメントを一次情報として掲載するFTC公式発表。
Zillow settles FTC claims it paid Redfin to stop competing on listings — CNBC(外部)
提携後にZillowの広告費が平均約14.5%上昇したとする専門家試算を報じる。
What to know about the DOJ settlement with Live Nation and why the trial continues — WHYY(外部)
DOJとLive Nationの早期和解に複数州が加わらず、訴訟を継続した経緯を報じる。
After the Verdict: Navigating the Live Nation/Ticketmaster Antitrust Fallout — Crowell & Moring(外部)
2026年4月の陪審評決でLive Nation・チケットマスターが全訴因で責任を認められた経緯を解説する法律事務所レポート。
Attorney General James and Coalition of States Win Trial Against Live Nation and Ticketmaster — ニューヨーク州司法長官公式発表(外部)
訴訟を継続し勝訴した司法当局数(ニューヨーク州含む34)を確認できる一次情報。
















