トークン化預金の銀行間決済に43社 全銀システムの隣にもう一本

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1件1億円未満の振込は、着金こそ即時ですが、銀行どうしの最終決済は当日夕方か翌営業日にずれ込みます。その残りをオンチェーンに載せる実証に、43社が集まりました。名簿には横浜銀行も千葉銀行もりそなも並んでいます。ただ、メガバンク3行の名前はありません。


株式会社DCP、GMOあおぞらネット銀行、アビームコンサルティングの3社は2026年8月26日、金融庁「FinTech実証実験ハブ」の支援案件「トークン化預金の銀行間決済」に43社が参加したと発表した。43社の内訳は、申請者3社、検証の仮説に見解を示す参加銀行、任意で質問や見解を示すオブザーバーである。

横浜銀行、千葉銀行、静岡銀行、ふくおかフィナンシャルグループ、りそなホールディングス、商工組合中央金庫、イオン銀行、auじぶん銀行などが名を連ねる。同案件は2026年4月3日に採択され、決済高度化プロジェクト(PIP)の3件目にあたる。8月20日には参加企業と関係者が集まり、本格的な検証を開始した。

From: 文献リンク金融庁「FinTech実証実験ハブ」支援案件「トークン化預金の銀行間決済」の検証に43社が参加

【編集部解説】

43社の名簿は、日本の銀行の地図として読めます。

参加企業一覧を数えると、申請者が3社、参加銀行の区分に18法人、オブザーバーの区分に22法人。合計43社です。持株会社と傘下の銀行が別々に数えられているため、見出しに立つ法人だけなら37になります。

顔ぶれを見ていくと、輪郭が見えてきます。横浜銀行、千葉銀行、静岡銀行、広島銀行、京都銀行、七十七銀行、常陽銀行、ふくおかフィナンシャルグループ。日本の大手地銀が広く入っています。そこに全国に店舗網を持つイオン銀行が加わり、さらにauじぶん銀行、UI銀行、みんなの銀行といったネット銀行が並ぶ。中小企業向けの専門金融機関である商工組合中央金庫と、3メガバンクに次ぐ規模のりそなホールディングスも名を連ねています。北海道の北洋銀行から九州の鹿児島銀行まで、地理的にもよく散っています。

そして参加銀行とオブザーバーは、役割が分けられています。参加銀行は検証で生じた仮説に見解を提示する立場、オブザーバーは任意で質問や懸念を提示する立場。43社は横並びの署名リストではなく、関与の深さが設計された名簿です。

もうひとつ、名簿の性格を決めているものがあります。

三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行。この3行の名前は、43社の中にありません。

別の案件にいます。この実証を支援している金融庁の決済高度化プロジェクト(PIP)は、2025年11月7日にFinTech実証実験ハブの中に設けられた決済分野特化の枠です。そのPIPの第1号支援案件が、みずほ銀行、三菱UFJ銀行、三井住友銀行に、三菱商事、三菱UFJ信託銀行、Progmatを加えた6者による、ステーブルコインの共同発行でした。

第2号は2026年2月13日に決定した証券決済の高度化です。申込者は野村證券、大和証券に、みずほフィナンシャルグループ、三菱UFJフィナンシャル・グループ、三井住友フィナンシャルグループを加えた5者。振替法上の有価証券をブロックチェーンで移転させ、その決済をステーブルコインと連動させる検証です。

そして第3号が、今回のトークン化預金による銀行間決済にあたります。

並べてみると、メガバンクのグループは第1号と第2号の両方に入っています。方式ごとに陣営がきれいに分かれているのではなく、案件ごとに顔ぶれが組み替わっている。公表資料では、どれか一つを本命とする位置づけは示されていません。同じ支援枠の中で、案件ごとに実証が進められています。決済という領域を、異なる角度から同時に検証する形になっています。

さて、この実証が線を引こうとしている相手は、どこでしょうか。

日本銀行だと思われるかもしれません。けれども、現行の小口内国為替と比べたとき、まず見えてくるのは全国銀行資金決済ネットワーク、通称の全銀ネットです。

全銀システムは1973年に稼働しました。半世紀にわたり、日本の銀行が共同で使ってきた内国為替の決済インフラです。そして全銀ネットは、単なる通信網の運営者ではありません。資金清算機関として、為替取引ごとに送金人側の銀行の債務を引き受け、受取人側の銀行の債権を取得しています。銀行どうしの網の目のような債権債務が、全銀ネットと各加盟銀行のあいだの関係へと組み替えられる。その決済尻が、最後に日本銀行の当座預金で決済されます。

ここが面白いところです。銀行間決済に第三者が介在する構造は、今に始まったものではありません。日本銀行の沿革によれば、内国為替集中決済制度が実施され、その決済事務を日本銀行が担当するようになったのは1943年8月。全銀システムの稼働より30年も前です。ただし、その役割を担う主体は時代とともに入れ替わってきました。全銀ネットが引き受けているのは、その最新の形です。

今回の実証が試そうとしているのは、この現在の銀行間決済とは別のやり方です。ただし既存の決済システムとの連携も検討対象に入っているため、全銀ネットを置き換える実証だと決めつけることはできません。

現行の仕組みは、すでに金額で二層に分かれています。

1件1億円未満の小口振込は、全銀ネットが清算し、受払差額を日本銀行の当座預金でまとめて決済します。コアタイム分は原則として当日の16時15分、モアタイム分は翌営業日の16時15分。一方、1件1億円以上の大口振込は、取引ごとに日銀ネットの即時グロス決済で処理されます。

そして利用者から見える着金は、2018年10月のモアタイムシステム稼働によって、平日夜間も土日祝日も即時になりました。参加状況や接続時間は金融機関ごとに異なりますが、全銀システム全体としては24時間365日の取引に対応しています。

整理すると、日本の銀行振込は、着金の速さはすでに達成し、大口ではRTGSも実装済みで、小口の最終決済だけが後刻に残っている。その残った部分を、金額の大小によらずオンチェーンで動かせるか。43社が検証する中心的な論点の一つが、そこにあります。金融庁は、実務上の有用性や実現可能性、法的な論点の整理も検証の対象に挙げています。

検証される方式は3つの方向から示されています。

民間銀行の1行が幹事行となって銀行間決済を自行内で処理するTD幹事行方式。銀行間決済をステーブルコインで行うTD-SC連携方式。そして既存の決済システムに連携させる方式です。3つめは、8月の公表文で初めて明示されました。接続先はまだ特定されていません。複数の実現方式を並べて検証していることが、この実証の設計の特徴です。

日本銀行も、同じ場所を向いています。

2026年3月3日のFIN/SUM 2026で、日本銀行の植田和男総裁は中央銀行マネーのトークン化の可能性に言及しました。ブロックチェーン上の資産を中央銀行マネーで決済する方法として、チェーン上にトークン化した中央銀行マネーをのせるやり方と、既存の中央銀行マネーのシステムとブロックチェーン上の取引システムを連結させるやり方の両方が挙げられています。

さらに日本銀行は、日銀当座預金によるブロックチェーン上の決済を技術検証する内部のサンドボックスを進めており、今後は既存システムとの連携方法や、国内における銀行間決済への活用も探求したいとしています。これは今回の実証と重なる領域です。実際、4月3日の閣議後記者会見では、片山さつき財務大臣兼内閣府特命担当大臣が今回のトークン化預金の実証に触れた直後に日銀のサンドボックスを挙げ、相互の実験に関する情報や知見を共有して金融庁と日本銀行で連携すると述べています。

民間43社の線と、日本銀行の線が、同じ場所に向かって同時に伸びている。7月21日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2026」でも、トークン化預金を含むオンチェーン金融の推進が明記されました。

半世紀の共同事業に、もう一本の線が引かれようとしています。

全銀システムは、金融機関の違いを越えて送金できる共通基盤を、50年以上にわたって支えてきました。地方の信用金庫の口座からメガバンクの口座へ、当たり前のようにお金が届く。その相互接続を成り立たせてきたのが、共同でインフラを持つという選択です。

今回参加した43社の多くは、その既存インフラを日々使っている側でもあります。既存の仕組みを使う金融機関自身が、次の銀行間決済のかたちを検証している。実用化の時期については、8月25日付の日本経済新聞を引用する複数の媒体がDCPは2027年度を目指すと報じていますが、8月26日の3社公式発表に時期の記載はなく、金融庁が示す想定期間は2026年4月から当面のあいだとされています。

43社の一覧は、次の決済インフラを考えるための最初の一枚になるかもしれません。

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【編集部後記】

金融庁の決済高度化プロジェクトの支援案件を、第1号から順に開いてみました。第1号がメガバンク3行によるステーブルコインの共同発行、第2号が証券会社とメガバンク持株会社による証券決済、そして第3号が今回のトークン化預金です。半年ちょっとで3件が並びました。

決済の実証実験は、これまで単発の出来事として語られがちでした。番号が振られると、点だった案件が並びになる。連番というのは、それだけで意思の表明に見えてきます。


【用語解説】

トークン化預金(TD)
銀行預金をブロックチェーン上でトークンとして表現したもの。預金であることは変わらない。預金トークンとも呼ばれる。

ステーブルコイン(SC)
価値の安定を目的とするデジタル資産。日本では資金決済法上の電子決済手段にあたり、預金ではない。

内国為替
国内の金融機関どうしで行う送金や取立の取引。銀行振込はこの仕組みの上で動いている。

資金清算機関
銀行間に生じた債権債務を引き受け、清算する機関。日本の内国為替では全銀ネットがこれにあたり、銀行どうしの関係を、清算機関と各加盟銀行の関係に組み替える役割を担う。

内国為替集中決済制度
銀行間の為替取引を一か所に集めて決済する仕組み。1943年8月に実施され、当初は日本銀行が決済事務を担当した。

全銀システム
全国の金融機関を相互に接続する内国為替の決済インフラ。1973年に稼働した。運営は全国銀行資金決済ネットワークが担う。

モアタイムシステム
全銀システムの稼働時間を広げ、平日夜間や土日祝日の振込に対応した仕組み。2018年10月に稼働した。参加状況と接続時間は金融機関ごとに異なる。

即時グロス決済(RTGS)
取引を1件ずつ、その都度決済する方式。日本では1件1億円以上の内国為替が、日銀ネットを通じてこの方式で処理されている。

決済尻
一定時点までの取引を差し引きした結果、金融機関どうしで最終的に受け払いすべき金額のこと。

日銀ネット / 日銀当座預金
日本銀行が運営する決済インフラと、金融機関が同行に持つ当座預金。銀行間の資金決済は、最終的にこの当座預金の振替で完了する。

幹事行
本実証の方式の一つで、銀行間決済を自行内で処理する役割を担う民間銀行を指す。

FinTech実証実験ハブ / 決済高度化プロジェクト(PIP)
金融庁が前例のない実証実験を支援する枠組みと、その中に2025年11月7日に設けられた決済分野特化の枠。本件はPIPの3件目にあたる。

【参考リンク】

株式会社DCP(外部)
トークン化預金DCJPYのプラットフォームを提供する事業者。本実証の申請者の1社である。

GMOあおぞらネット銀行(外部)
本実証で代表銀行を務めるネット銀行。法人向け決済やAPI連携に強みを持つ。

アビームコンサルティング(外部)
本実証の申請者の1社。金融領域のコンサルティングとして検証の設計を担う。

金融庁「FinTech実証実験ハブ・決済高度化プロジェクト(PIP)」支援決定案件について(2026年4月3日)(外部)
今回の案件の支援決定を公表したページ。想定期間と検証の枠組みが示されている。

金融庁「FinTech実証実験ハブ・決済高度化プロジェクト(PIP)」支援決定案件について(2025年11月7日)(外部)
決済高度化プロジェクトの第1号案件。メガバンク3行を含む6者が申込者に並ぶ。

金融庁「決済高度化プロジェクト(PIP)の設置について」(外部)
決済高度化プロジェクトの設置を知らせるページ。支援のチェック項目が読める。

全国銀行資金決済ネットワーク「内国為替取引・資金清算の仕組み」(外部)
全銀システムの資金清算の仕組み。全銀ネットが担う債務引受と債権取得の説明がある。

日本銀行「新金融エコシステムにおける中央銀行の役割」(外部)
植田総裁がFIN/SUM 2026で語った、中央銀行マネーとブロックチェーンの接続構想。

【参考記事】

ネット・地銀など全国40行、8月中にもトークン化預金の送金実証へ=日経(外部)
日本経済新聞の報道をもとに、実証の規模と2027年度の実用化目標を伝えた記事。

「FinTech実証実験ハブ・決済高度化プロジェクト(PIP)」支援決定案件について(2026年2月13日)(外部)
決済高度化プロジェクトの第2号案件。証券決済とステーブルコインの連動を検証する。

「トークン化預金の銀行間決済」の取り組みが金融庁「FinTech実証実験ハブ」の支援案件に採択(外部)
4月の3社共同リリース。この時点では実現方式が主に2つとして示されていた。

ゆうちょ銀行が2026年度中に「トークン化預金」提供へ、DCJPY採用で(外部)
ゆうちょ銀行がDCJPYの提供を表明した際の記事。預金保険の扱いにも触れている。

商工中金法の改正・政府保有株式の自己株式取得(外部)
商工中金の政府保有株式が2025年6月に全部売却された経緯をまとめた公式ページ。

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山本 達也 代表社員
合同会社デジタルの窓口 代表。ウェブ解析士。生成AI・サイバーセキュリティ・ 宇宙開発領域を中心に執筆。

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