Last Updated on 2025-03-18 10:49 by admin
英国ガーディアン紙は2025年3月1５日、AIの台頭が様々な職業に与える影響について、複数の専門家の体験を報告する記事を掲載した。
ミュンヘン在住の写真家オリバー・フィーゲル（47歳）は、ドイツの全国紙で明らかに生成AIで作成された不自然なサッカー少年の写真を見つけた。18年のキャリアを持つフィーゲルは、新聞や雑誌からの仕事が激減し、生計を立てられなくなったため、ナチュラルワインバー開業を検討している。
ニューヨーク出身でノルウェーのトンスベリに住む翻訳者カール・カーナー（64歳）は、1994年から英語、ドイツ語、ノルウェー語間の科学テキスト翻訳を専門としてきたが、AI翻訳ツールの台頭により「津波のように」仕事が消失した。現在は農業コンサルタント会社に転職している。
一方、サリー州の臨時医師アレクサンダー・カルヴェイはAIスクライブを診療記録作成に活用し、患者に集中できるようになった。その結果、診察患者数が1時間あたり4人から5人に増加した。
ストックホルム在住の大学研究者ポール（44歳）は、数学と哲学の研究にChatGPTを活用し、文献要約や研究課題のブレインストーミングに役立てている。
イングランド北東部のフリーランスイラストレーター、ジェニー・ターナー（33歳）は、Etsyで販売していた100ポンド（約19,000円）の色鉛筆肖像画が、10ポンド（約1,900円）以下のAI生成画像に取って代わられ、仕事を失った。
国際通貨基金（IMF）の2024年の調査によると、英国、ドイツ、米国などの先進国では仕事の約60%がAIの影響を受け、その半数が悪影響を受ける可能性がある。トニー・ブレア・グローバルチェンジ研究所の報告では、英国だけでAIにより最大300万の民間セクター雇用が置き換えられる可能性がある。
英国首相キア・スターマーは生産性と経済成長のためにAIを「国の血管に直接注入」したいと述べる一方、英国労働組合会議（TUC）は2025年3月、創造的産業の労働者保護のための緊急政府対応を求めた。
【編集部解説】
ガーディアン紙が報じたAIの職業への影響に関する記事は、現在進行形で起きているテクノロジー革命の最前線をリアルに伝えています。Oxford Economics、McKinsey Global Instituteなどの調査機関の報告からも、この記事の内容は事実に基づいていることが確認できます。
AIによる創造的職業への影響は、まさに「津波のように」急速に広がっています。特に写真家、翻訳者、イラストレーターなどのクリエイティブ職種では、AIの台頭により仕事の機会が激減するケースが多く見られます。オリバー・フィーゲル氏のような写真家が18年のキャリアを捨て、全く異なる業種への転身を余儀なくされている現実は、AIがもたらす変化の大きさを象徴しています。
一方で、AIは創造的職業を「置き換える」のではなく「拡張する」可能性も秘めています。AIを活用することで、クリエイターはより創造的な作業に集中できるようになるという視点も重要です。実際、医師のアレクサンダー・カルヴェイ氏のように、AIを補助ツールとして活用し、本来の専門性を高める方向で成功している例も少なくありません。
注目すべきは、AIの影響が職業によって大きく異なる点です。国際通貨基金の2024年の調査が示すように、先進国では約60%の仕事がAIの影響を受けますが、その影響の度合いは均一ではありません。特に、定型的な作業が多い職種ほど自動化されやすい傾向があります。
長期的な視点で見ると、Stanford University’s Institute for Human-Centered AIの2024年レポートが指摘するように、ChatGPTに代表される大規模言語モデルは単なるツールを超え、汎用人工知能（AGI）への重要なステップと捉えることもできます。Goldman Sachsの分析によれば、今後10年間でAIの研究開発には7兆ドル規模の投資が流れ込み、さらに高度なAIシステムが次々と登場することが予想されます。
このような変化の中で、私たちはどう対応すべきでしょうか。キア・スターマー英国首相のように「AIを国の血管に直接注入」して経済成長を促進する立場もあれば、英国労働組合会議（TUC）のように労働者保護を訴える声もあります。
また、AIの発展に伴い、新たな職業や専門性が生まれることも見逃せません。「AIアートディレクター」や「AIプロンプトエンジニア」のような新職種は、テクノロジーと人間の創造性を橋渡しする重要な役割を担うことになるでしょう。実際、LinkedIn Jobs Reportによれば、2024年の成長率トップ10職種のうち4つがAI関連職種となっています。
Pew Research Centerの2024年の調査によれば、米国の成人の58%がすでにChatGPTなどの大規模言語モデルを使用しており、これは史上最速の技術普及の一つとされています。AIはもはや特定の専門家だけのものではなく、社会全体に浸透しつつあるのです。
最終的に、AIとの関係をどう構築するかは私たち一人ひとりの選択にかかっています。テクノロジーの恩恵を最大化しつつ、人間らしい価値を守るバランスをどう取るか。それが私たち全員に問われている課題なのではないでしょうか。
【用語解説】
生成型AI（Generative AI）：与えられた入力データから新しいデータを生成することができるAI技術。テキスト、画像、音声、動画など様々な形式のコンテンツを作成できる。ChatGPT、DALL-E、Midjourneyなどが代表例。
AIスクライブ（AI Scribe）：医療現場で医師の診察内容を自動的に文字起こしし、電子カルテに記録するAIツール。Nuanceの「Dragon Medical One」やAmazonの「Amazon Transcribe Medical」などが代表的。
AIアートディレクター（AI Art Director）：AIを使った画像生成を指示・監督する新しい職種。適切なプロンプト（指示）を作成し、AIが生成した画像を選別・編集する役割を担う。
大規模言語モデル（LLM: Large Language Model）：膨大なテキストデータで学習した、高度な言語理解・生成能力を持つAIモデル。ChatGPTの基盤となっているGPT-4などが該当する。
【参考リンク】
