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8月20日【今日は何の日?】「交通信号設置記念日」信号機のいままでとこれから

[更新]2025年12月23日

 - innovaTopia - (イノベトピア)

その日、銀座に新しい光が灯った

1931年8月20日、午前。東京・銀座の尾張町交差点に、見慣れぬ装置が設置されました。赤・黄・青の3色の光が自動で切り替わる信号機です。この日、銀座や京橋など34ヶ所に同時設置されたこの装置を前に、多くの通行人は戸惑いました。それまで交通整理は警察官の「挙手の合図」や「信号標板」で行われていたため、色の光で指示されても、その意味が分からなかったのです。

実は日本初の自動信号機は、その1年前の1930年3月23日に日比谷交差点に設置された米国製のものでした。中央柱式のその信号機には「ススメ」「チウイ」「トマレ」と文字が書かれていました。しかし1931年8月20日の設置こそが、3色灯信号機の本格運用の始まりとして記憶されています。

色の光が交通を制御する。当時としては革新的だったこのシステムは、今では世界中のあらゆる交差点で当たり前の光景です。この「当たり前」は、どのように生まれ、どこへ向かうのでしょうか。

爆発から始まった信号機の歴史

世界初の試み――1868年、ロンドン

世界初の信号機は、爆発しました。 1868年、ロンドンのウエストミンスターに設置されたガス式信号機は、緑と赤の光で馬車の交通を整理するはずでした。しかし起動から3週間後、ガス爆発を起こして撤去されます。

この失敗の背景には、深刻な社会問題がありました。1866年のロンドンでは、馬車による交通事故で1000人以上が死亡、1300人超が負傷していたのです。交通制御は、都市の生存に関わる課題でした。

電気の時代へ

20世紀に入り、信号機は電気の力を得ます。1914年8月8日、オハイオ州クリーブランドに世界初の電気式信号機が設置されました。そして1918年、ニューヨーク5番街に現在と同じ赤・黄・緑の3色システムが初めて登場します。

日本では1919年、東京・上野に「信号標板」が試験設置されました。「進メ」と「止レ」の標板を手動で切り替える方式です。技術は着実に進化していきました。1934年には押しボタン式信号機が登場。歩行者が少ない交差点で車を優先させるため、横断者がボタンを押して信号を切り替える仕組みです。1955年には音響信号機、1963年には感応式信号機が実装されました。

日本独自の工夫

横型という選択

信号機を横型にしたのは、日本独自のアイデアです。最初の米国製信号機は縦型でしたが、京都の交差点に横型が設置されました。観光地である京都には道路標識、看板、街路樹が多く、縦型では最上部の赤信号が見づらかったのです。実用的な理由から生まれた形が、今では日本の標準になっています。

見えない人、色が区別しにくい人へ

LED信号機では、黄色を青や赤より明るく点灯させています。色覚障害への配慮です。2012年には福岡市で、赤表示の部分に「×」印を付けた信号機が試験設置されました。この「×」印は、特定の色覚特性を持つ人にのみ見えます。

雪国の課題

LED化により、新たな問題が生まれました。発熱量が小さくなったため、雪が溶けずに信号機に付着してしまうのです。着雪防止フードや、斜め下に向けた「フラット型信号灯器」で対応する地域が見られます。技術の進歩は、常に新しい課題を連れてきます。

LED革命がもたらしたもの

1993年、青色LEDが発明されました。翌1994年7月、愛知県名古屋市の市役所交差点に、世界初のLED式青色矢印信号機が設置されます。

LED化の効果は明確でした。消費電力が60W白熱電球の3分の1から10分の1に削減。寿命も長く、メンテナンス費用も下がりました。2017年度には信号機の表示面の直径が300mmから250mmに変更され、製造コストが約17%削減、重量は約6割軽量化されました。

AI が制御する未来の交差点

自律的に判断する信号機

次世代信号機の核心は、AI による自律制御です。NEDOとUTMS協会は、電波レーダーやプローブ情報から得た交通データを活用し、AI を組み込んだ適応型の自律・分散交通信号機を開発しています。

現在の信号機は、曜日や時間帯でプログラムが変わる「プログラム多段制御」や、交通管制センターからの指示で動く「集中信号機制御システム」で運用されています。しかしこれらは、突発的な混雑には対処できません。AI 搭載信号機は、この課題を解決する可能性を持っています。

5G・IoT・自動運転との連携

信号機にセンサーを組み込み、5G 通信で機器同士を連携させる。大量のデータを瞬時にやり取りし、交通流を最適化する。自動運転車は信号の切り替えタイミングを事前に把握し、最適な速度で走行する。

これらの技術は、渋滞削減だけでなく環境負荷の軽減にも貢献します。渋滞によるアイドリングで排出される二酸化炭素、経済損失。スマート信号機は、これらの問題にも取り組みます。

内閣府のSIP第2期「自動運転」やPRISM「交通信号機を活用した5Gネットワークの構築」と連動し、信号機は交通制御装置からデジタル社会の基盤インフラへと進化しつつあります。

1868年から2025年へ

ガス式信号機の爆発から157年。LED化、そしてAI制御へ。技術は進化しましたが、「交通の安全と円滑化」という願いは変わっていません

システムが進化しても、利用するのは人間です。AIが制御しているのか、人が制御しているのか、見た目では分からないでしょう。急にシステムが切り替われば、混乱が生じるかもしれません。

銀座の交差点で戸惑った1931年の通行人たちのように、私たちも今、新しい技術の前に立っています。色の光が意味を持つまでには、時間が必要でした。未来の信号機が社会に溶け込むにも、同じように時間が必要なのかもしれません。


Information

参考リンク

用語解説

LED(Light Emitting Diode / 発光ダイオード)
電流を流すと発光する半導体素子。従来の白熱電球に比べて消費電力が少なく、寿命が長い。

プローブ情報
走行中の車両から収集される位置情報や速度情報。交通状況の把握に活用される。

Society 5.0
内閣府が提唱する未来社会のコンセプト。サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する社会。

UTMS(Universal Traffic Management Systems)
高度道路交通システムの一つ。交通管制の高度化を目指す技術体系。

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Satsuki
テクノロジーと民主主義、自由、人権の交差点で記事を執筆しています。 データドリブンな分析が信条。具体的な数字と事実で、技術の影響を可視化します。 しかし、データだけでは語りません。技術開発者の倫理的ジレンマ、被害者の痛み、政策決定者の責任——それぞれの立場への想像力を持ちながら、常に「人間の尊厳」を軸に据えて執筆しています。 日々勉強中です。謙虚に学び続けながら、皆さんと一緒に、テクノロジーと人間の共進化の道を探っていきたいと思います。

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