230環境団体が米国データセンター建設の全面停止を要求―AI需要で電気料金13%上昇、640億ドルのプロジェクトが遅延

[更新]2025年12月9日

 - innovaTopia - (イノベトピア)

Greenpeace、Friends of the Earth、Food & Water Watchを含む230以上の環境団体が、米国における新規データセンター建設の全国的なモラトリアムを要求した。

これらの団体は2025年12月8日、議会に対し、新しい規制が導入されるまでデータセンターの承認を一時停止するよう求める書簡を送付した。

Meta、Google、OpenAIなどの企業がAIの計算需要を満たすために数千億ドルを新規データセンターに投入する中、少なくとも16のプロジェクトが合計640億ドル相当でブロックまたは遅延されている。トランプ政権下で家庭の電気料金は13%上昇し、約8000万人のアメリカ人が電気とガスの請求書の支払いに苦労している。

PowerLinesの創設者Charles Huaによると、データセンターの電力消費は今後10年間でほぼ3倍になり、3000万の新しい家庭に電力を供給することに相当する。

現在の成長率では、データセンターは2030年までに最大4400万トンの二酸化炭素を大気中に追加する可能性がある。

From: 文献リンクMore than 200 environmental groups demand halt to new US datacenters

【編集部解説】

2025年12月8日、米国でAI時代の成長戦略と住民生活のバランスをめぐる重大な転換点が訪れました。230以上の環境団体が連名で議会に送付した書簡は、単なる環境保護運動の枠を超え、AIインフラの急拡大がもたらす社会的コストを問う声となっています。

この動きの背景には、データセンターの爆発的増加があります。Meta、Google、OpenAIなどのテック企業がAIの計算需要を満たすため、数千億ドル規模の投資を進めています。しかし、この急成長は地域社会に深刻な影響を及ぼしています。

最も顕著なのは電気料金の上昇です。トランプ政権下で家庭の電気料金は13%上昇し、約8000万人のアメリカ人が電気・ガスの請求書の支払いに苦労しています。ニュージャージー州では電気料金が20%以上も上昇し、バージニア州では13%、ジョージア州でも5%の上昇が記録されました。

この問題は2025年11月の選挙で重要な争点となりました。バージニア州知事選では民主党のAbigail Spanbergerが、データセンターに「公正な負担」を求める公約を掲げて当選しました。ニュージャージー州では民主党のMikie Sherrillが、就任初日に電気料金値上げを凍結する非常事態宣言を約束して勝利しています。

最も象徴的だったのはジョージア州公共サービス委員会の選挙です。Peter HubbardとAlicia Johnsonという2人の民主党候補が、20年ぶりに共和党現職を破りました。しかも26ポイント差という圧倒的な勝利でした。彼らはデータセンターへの「優遇取引」を批判し、住民の電気料金引き下げを訴えました。

データセンターのエネルギー消費規模は驚異的です。国際エネルギー機関(IEA)の推計によれば、米国のデータセンターは2024年に約183TWh(テラワット時)の電力を消費しました。これは国内総電力消費の4%以上に相当します。2030年までにこの数値は133%増加し、426TWhに達すると予測されています。

Food & Water Watchの分析では、2028年までにAI対応データセンターだけで年間3000億kWhの電力を消費する可能性があります。これは2800万世帯以上に電力を供給できる規模です。さらに驚くべきことに、今後10年間でデータセンターの電力消費は3倍近くに増加し、3000万の新しい家庭に電力を供給することに相当するとされています。

水消費も深刻な問題です。データセンターは高性能サーバーを冷却するため、膨大な量の水を必要とします。2023年、米国のデータセンターは直接冷却用に約17億ガロンの水を消費しました。Lawrence Berkeley National Laboratoryの報告によれば、2028年までにこの数値は2倍から4倍に増加する可能性があります。

Food & Water Watchは、2028年までにAI対応データセンターが年間7200億ガロンの水を消費すると推計しています。これは100万以上のオリンピックサイズプールを満たすのに十分な量で、1850万世帯の室内用水需要を満たせる規模です。

こうした成長は地域社会に具体的な影響を与えています。Data Center Watchの調査によれば、少なくとも16のデータセンタープロジェクトが合計640億ドル相当でブロックまたは遅延しています。うち180億ドル分が完全にブロックされ、460億ドル分が遅延しています。

反対運動は24州に広がり、142の住民団体が組織されています。注目すべきは、この反対が超党派であることです。公に反対を表明している公職者の55%が共和党、45%が民主党です。共和党は税制優遇措置と送電網への負担を懸念し、民主党は環境への影響を重視しています。

バージニア州は世界最大のデータセンター集積地で、世界のデータセンター容量の13%、世界のインターネットトラフィックの70%を処理しています。しかし同州では9億ドルのプロジェクトがブロックされ、458億ドルのプロジェクトが遅延しています。

気候変動への影響も無視できません。現在の成長率が続けば、データセンターは2030年までに最大4400万トンの二酸化炭素を大気中に排出します。これは道路に1000万台の車を追加することに相当します。

しかし、この問題には複雑な側面があります。データセンターは税収増加と経済発展をもたらし、AIは生産性向上の可能性を秘めています。Google、Microsoftなどの企業は24/7カーボンフリー電力の目標を掲げ、再生可能エネルギーへの投資を拡大しています。

問題の核心は、AIインフラの成長速度と送電網の整備速度のミスマッチです。新しい送電線の許可と建設には10年以上かかることがあります。PJMやERCOTなどの送電網では接続待ちが発生しており、再生可能エネルギー施設が準備できても、混雑により出力が制限されることがあります。

トランプ政権はAI拡大を積極的に推進していますが、州レベルでのAI規制を制限する大統領令を検討していると報じられています。一方で、超党派組織PowerLinesの創設者Charles Huaは「電気料金に関する新しい政治の時代に入っている」と指摘しています。

この問題は2026年の中間選挙でさらに大きな争点となる可能性があります。カリフォルニア、ジョージア、ミシガン、オハイオ、ペンシルベニア、テキサスなど、電気料金の急上昇やデータセンター集積地を抱える激戦州で、議会の議席争いが繰り広げられるからです。

innovaTopiaが注目するのは、この事案が示す「技術進歩のコスト」という普遍的なテーマです。AI革命は確かに人類の可能性を拡張します。しかし、その恩恵が一部のテック企業に集中し、コストが一般市民に転嫁される構造では、持続可能な発展は望めません。

今後の焦点は、データセンターの立地戦略、エネルギー効率の向上、再生可能エネルギーの導入加速、そして何より公正なコスト負担の仕組みづくりにあります。技術革新と社会的公正のバランスをいかに取るか—この問いが、2025年のアメリカ社会に突きつけられています。

【用語解説】

PJM Interconnection
米国最大の地域送電機関で、中部大西洋岸から中西部・南部の一部にまたがる13州、6500万人以上に電力を供給する送電網を運営している。データセンターの電力需要増加により、この送電網では電力コストが記録的な水準に達している。

テラワット時(TWh)
電力量の単位で、1テラワット時は10億キロワット時に相当する。データセンターのエネルギー消費を表現する際に使用される。2024年、米国のデータセンターは約183TWhの電力を消費し、これは国内総電力消費の4%以上に該当する。

ハイパースケールデータセンター
Google、Amazon、Microsoft、Metaなどの大手テック企業が運営する超大規模データセンター。数万台から数十万台のサーバーを収容し、AI処理や大規模クラウドサービスに対応する。一般的なデータセンターと比較して電力・水消費量が桁違いに大きい。

蒸発冷却システム
データセンターのサーバー冷却に使用される冷却方式の一つ。冷水をパイプに流してサーバーの熱を吸収し、その水を蒸気として大気中に放出する。冷却効果は高いが、水が失われるため水消費量が非常に大きい。

PowerLines
電力料金の削減を目指す超党派組織。創設者はCharles Hua。米国で約8000万人が電気・ガスの請求書の支払いに苦労している現状を踏まえ、電力コストの問題を政治的アジェンダとして推進している。

Data Center Watch
データセンター建設に対する全国的な反対運動を追跡する調査組織。AIセキュリティおよびインテリジェンス企業10a Labsのプロジェクト。2023年から米国各地でのデータセンタープロジェクトのブロック・遅延状況を調査・報告している。

【参考リンク】

Food & Water Watch(外部)
今回の議会への書簡を主導した全米環境団体。食料、水、気候問題に取り組む非営利組織

Greenpeace USA(外部)
環境保護を目的とする国際的非営利団体の米国支部。データセンターモラトリアム要求の署名団体

Friends of the Earth(外部)
1969年設立の国際環境保護団体。気候変動対策や持続可能な開発を推進する非営利組織

International Energy Agency (IEA)(外部)
国際エネルギー機関。エネルギーに関する統計・分析を提供する政府間組織。データセンター電力消費の推計を発表

Data Center Watch(外部)
データセンター建設への地域反対運動を追跡する調査プロジェクト。プロジェクトの遅延・中止状況を報告

PJM Interconnection(外部)
米国最大の地域送電機関。中部大西洋岸から中西部にかけて13州の送電網を運営している

【参考記事】

230+ Groups Call for National Moratorium on New Data Centers(外部)
Food & Water Watchによる公式発表。230以上の団体が議会に送付した書簡の内容を報告

Skyrocketing electricity prices fuel political backlash(外部)
2025年11月の選挙でデータセンター問題が争点となった経緯を詳細に報告

What we know about energy use at U.S. data centers(外部)
Pew Research Centerによる調査。2024年に米国データセンターが183TWhを消費

$64 billion of data center projects blocked or delayed(外部)
Data Center Watchの詳細レポート。16プロジェクト、640億ドル相当が遅延

Energy demand from AI – Analysis(外部)
国際エネルギー機関の分析レポート。2030年にデータセンターが945TWhを消費と予測

We did the math on AI’s energy footprint(外部)
MIT Technology ReviewとLawrence Berkeley National Laboratoryの共同分析結果

Electricity Bills: The Kitchen Table Issue(外部)
League of Conservation Votersによる2025年選挙結果の分析レポート

【編集部後記】

AI革命の電力消費問題は、遠い国の出来事ではありません。日本でも今後、大規模データセンターの建設計画が進む中、同様の課題に直面する可能性があります。技術の恩恵を享受する私たち一人ひとりが、そのコストを誰がどう負担すべきなのか、考える時期に来ているのかもしれません。みなさんの地域にデータセンターが建設されるとしたら、どんな条件なら受け入れられるでしょうか。電気料金の上昇、水資源への影響、環境負荷—これらとAIがもたらす利便性を、どうバランスさせていくべきか。私たちinnovaTopia編集部も、みなさんと一緒に考えていきたいと思います。

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Satsuki
テクノロジーと民主主義、自由、人権の交差点で記事を執筆しています。 データドリブンな分析が信条。具体的な数字と事実で、技術の影響を可視化します。 しかし、データだけでは語りません。技術開発者の倫理的ジレンマ、被害者の痛み、政策決定者の責任——それぞれの立場への想像力を持ちながら、常に「人間の尊厳」を軸に据えて執筆しています。 日々勉強中です。謙虚に学び続けながら、皆さんと一緒に、テクノロジーと人間の共進化の道を探っていきたいと思います。

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