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TikTok米国事業、Oracle主導の新会社へ―ByteDance19.9%保持、2026年1月クロージング

[更新]2025年12月19日

 - innovaTopia - (イノベトピア)

TikTokのCEOであるShou Zi Chew氏は12月18日、米国事業を新たなジョイントベンチャー「TikTok USDS Joint Venture LLC」に移管することを従業員に通知した。取引のクロージング日は2026年1月22日とされている。

新会社の株式構成は、Oracle、Silver Lake、アブダビのMGXがそれぞれ15%を保有する新規投資家コンソーシアムが50%、ByteDanceの既存投資家関連会社が30.1%、ByteDanceが19.9%を保持する。

新会社は米国人が過半数を占める7人の取締役会によって統治され、米国ユーザーのデータ保護とアルゴリズムのセキュリティ確保を担当する。Oracleは「信頼できるセキュリティパートナー」として監査・検証を行う。

アルゴリズムは米国ユーザーデータで再トレーニングされ、外部操作から解放される。この取引は、2024年に成立した国家安全保障法に基づくもので、ByteDanceにTikTokの米国事業売却を義務付けていた。

トランプ大統領は9月に取引を承認する大統領令に署名し、習近平国家主席も提案の推進に合意した。

From: 文献リンクTikTok signs agreement to create new U.S. joint venture, memo says

【編集部解説】

TikTokの米国事業が新たな局面を迎えています。このニュースは、2020年から続いてきた米中間の技術覇権をめぐる攻防において、重要な転換点となる可能性があります。

まず注目すべきは、この取引の構造です。ByteDanceが19.9%の株式を保持し続ける点が、完全な売却ではなく「ジョイントベンチャー」という形態を採用した理由です。これは中国政府が完全な技術流出を避けたい意向と、米国側が国家安全保障上の懸念を解消したい意向の妥協点といえます。

新会社の株式構成を見ると、Oracle、Silver Lake、MGXという3社がそれぞれ15%ずつ、合計45%を保有します。残りの5%を含めた新規投資家全体で50%、既存のByteDance投資家が30.1%、ByteDance自身が19.9%という精緻な配分です。この構造により、形式上は「米国投資家が過半数を所有」という条件を満たし、2024年の国家安全保障法が定める「外国の敵対勢力による20%以上の所有禁止」という基準もクリアしています。

特に重要なのが、Oracleの役割です。同社は単なる投資家にとどまらず、「信頼できるセキュリティパートナー」として、国家安全保障条項への準拠を監査・検証する責任を負います。Oracleの創業者Larry Ellison氏はトランプ大統領の支持者として知られており、この取引における政治的な信頼関係も見逃せません。

アルゴリズムの扱いも注目点です。TikTokの競争力の源泉である推奨アルゴリズムは、米国ユーザーデータで「再トレーニング」されることになります。これは、中国からのデータアクセスや操作を防ぐための措置ですが、技術的にどこまで分離が可能なのかは議論の余地があります。実際、中国メディアは2025年9月時点で、ByteDanceが引き続き重要な運営役割を果たすと報じており、完全な分離ではない可能性を示唆しています。

一方で、グローバルなTikTok事業は引き続きByteDanceが管理し、eコマース、広告、マーケティングなどの商業活動も担当します。つまり、米国版TikTokは一定の独立性を持ちつつも、グローバルなエコシステムとは完全に切り離されないということです。

この取引に対しては、既に批判の声も上がっています。米中経済安全保障審査委員会の専門家は、「この構造は法律が求める完全な分離を満たしておらず、フランチャイズ契約のように見える」と指摘しています。ByteDanceがコア技術を保持し続けることへの懸念は、今後も議論を呼ぶでしょう。

興味深いのは、この取引の評価額をめぐる議論です。JD・ヴァンス副大統領は2025年9月にトランプ大統領が大統領令に署名した際、TikTok米国事業の価値を140億ドルと評価しました。しかし、この数字はウォール街を驚かせました。アナリストたちは、アルゴリズムを含めた場合の価値を1000億ドル以上、アルゴリズムなしでも400億~500億ドルと見積もっていたからです。ヴァンス氏の評価は、TikTokをSnapchatの親会社と同等の価値とするもので、「現実と大きく乖離している」との批判も出ています。

中国政府の正式な承認もまだ得られていません。トランプ大統領は習近平国家主席が提案の推進に合意したと述べていますが、中国外務省は具体的なコメントを避けており、「中国の法律と規制に準拠した解決策を歓迎する」という原則的な立場を繰り返すにとどまっています。取引完了には中国側の承認が不可欠です。

この取引は、米国の1億7000万人のTikTokユーザーにとって、サービスの継続を意味します。しかし、世界全体で20億人のユーザーを持つTikTokにとって、米国は10%未満に過ぎません。グローバル企業が国家安全保障という名目で分断される先例となる可能性もあり、今後のテクノロジー業界全体への影響も注視する必要があります。

また、この取引にはLemon8やCapCutといったByteDanceの他のアプリも含まれることが、トランプ大統領の大統領令で明記されています。TikTokだけでなく、ByteDanceの米国事業全体を再編する包括的な取引といえます。

2026年1月22日のクロージング予定日まで、中国政府の承認や規制当局の最終審査など、まだ乗り越えるべきハードルが残されています。下院中国特別委員会のJohn Moolenaar委員長は、2026年に新TikTok事業体の経営陣を議会公聴会に召喚する計画を表明しており、取引完了後も厳しい監視が続くことが予想されます。

【用語解説】

ByteDance(バイトダンス)
中国・北京に本社を置くテクノロジー企業。2012年に張一鳴(Zhang Yiming)氏によって設立された。TikTokおよび中国版の抖音(Douyin)の親会社として知られ、AIを活用したコンテンツ推奨アルゴリズムで急成長を遂げた。2025年11月時点での企業評価額は約3300億ドルとされる。

ジョイントベンチャー(Joint Venture)
複数の企業が共同で新会社を設立し、事業を運営する形態。各社が資本や技術、ノウハウを出資し、リスクと利益を分担する。完全な売却や買収とは異なり、元の親会社も一定の関与を維持できる点が特徴。

国家安全保障法(National Security Law)
正式名称は「外国の敵対勢力が管理するアプリケーションからアメリカ人を保護する法律(PAFACA)」。2024年にジョー・バイデン前大統領が署名し、ByteDanceにTikTokの米国事業売却を義務付けた。最高裁判所は2025年1月にこの法律を支持する判決を下した。違反した場合、AppleやGoogleなどのアプリストア事業者やインターネットサービスプロバイダーに罰則が科される。外国の敵対勢力による20%以上の所有を禁止している。

アルゴリズムの再トレーニング
機械学習モデルを新しいデータセットで再度学習させるプロセス。TikTokの場合、中国からのデータアクセスを遮断し、米国ユーザーのデータのみを使用してコンテンツ推奨アルゴリズムを再構築することで、外部操作のリスクを低減する狙いがある。

Lemon8(レモンエイト)
ByteDanceが運営する画像・動画共有SNSアプリ。InstagramとPinterestを組み合わせたようなプラットフォームで、ライフスタイルコンテンツに特化している。今回のTikTok米国事業の取引に含まれる。

CapCut(キャップカット)
ByteDanceが提供する動画編集アプリ。TikTok動画の編集に広く使用され、世界中で人気を博している。今回の取引により、米国での運営も新ジョイントベンチャーに移管される。

【参考リンク】

Oracle Corporation(外部)
米国の大手ソフトウェア企業でクラウドインフラとデータベース管理で世界的シェアを持つ。

TikTok(外部)
短編動画共有プラットフォーム。世界で20億人以上、米国で1億7000万人が利用。

ByteDance(外部)
TikTokの親会社である中国のテクノロジー企業。AI技術を活用し世界150カ国以上で事業展開。

Silver Lake(外部)
テクノロジー分野に特化した世界最大級のプライベートエクイティ投資会社。運用資産総額は1000億ドル超。

【参考記事】

TikTok U.S. Joint Venture Deal Set to Close in January With Investors Including Oracle, Silver Lake(外部)
TikTok USDS Joint Venture LLCの詳細を報じる。7人の取締役会構成やデータ保護責任を詳述。

TikTok has signed the deal to spin off its US entity with American investor group(外部)
取引構造と中国政府承認待ち状況を詳述。中国外務省報道官のコメントを含む。

TikTok signs deal to give U.S. operations to Oracle-led investor group(外部)
米中経済安全保障審査委員会からの批判や取引構造が完全な分離ではない懸念を取り上げる。

Trump approves TikTok deal through executive order, Vance says business valued at $14 billion(外部)
2025年9月25日の大統領令署名時の報道。ヴァンス副大統領の140億ドル評価を報じる。

JD Vance values TikTok the same as Snapchat’s parent, and Wall Street loses its mind. ‘This is crazy’(外部)
ヴァンス副大統領の140億ドル評価に対するウォール街の反応とアナリストの評価を詳述。

ByteDance signs deal to sell over 80% of TikTok’s US assets to avoid ban(外部)
中国メディア報道を含む包括的記事。ByteDanceの運営関与可能性と2026年の公聴会計画を報じる。

【編集部後記】

TikTokという身近なアプリをめぐる今回の動きは、テクノロジーと地政学が交錯する現代を象徴する出来事といえるでしょう。私たちが日常的に使うサービスが、国家間の力学によってどのように変容していくのか。データ主権やアルゴリズムの透明性といった概念が、具体的な形で問われ始めています。興味深いのは、この取引が「完全な分離」なのか「形式的な再編」なのか、専門家の間でも意見が分かれている点です。2026年1月のクロージング後、米国版TikTokがどのように変化し、あるいは変化しないのか。グローバルなデジタルサービスの未来を占う試金石として、この展開を一緒に見守っていきましょう。

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Satsuki
テクノロジーと民主主義、自由、人権の交差点で記事を執筆しています。 データドリブンな分析が信条。具体的な数字と事実で、技術の影響を可視化します。 しかし、データだけでは語りません。技術開発者の倫理的ジレンマ、被害者の痛み、政策決定者の責任——それぞれの立場への想像力を持ちながら、常に「人間の尊厳」を軸に据えて執筆しています。 日々勉強中です。謙虚に学び続けながら、皆さんと一緒に、テクノロジーと人間の共進化の道を探っていきたいと思います。

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