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米FCC、外国製ドローンを全面規制 DJI・Autelの新モデル販売停止へ

 - innovaTopia - (イノベトピア)

米連邦通信委員会(FCC)は12月22日、外国製ドローンの新規販売を禁止すると発表した。この措置により、DJIやAutelなどの中国製ドローンが米国市場から締め出される。

FCCは審査の結果、外国製のすべてのドローンと重要部品が米国の国家安全保障に受け入れがたいリスクをもたらすと判断した。ただし国防総省や国土安全保障省がリスクなしと認定した製品は免除される。

FCCは2026年ワールドカップや2028年ロサンゼルス五輪などの大規模イベントを控え、ドローンの脅威に対処する必要性を強調した。

DJIは決定に失望を表明し、データセキュリティの懸念は証拠に基づかない保護主義だと反論した。

米国のドローン製造業者は国内生産拡大の機会と見る一方、グローバルなサプライチェーンへの影響を懸念する声もある。

From: 文献リンクFCC bans new Chinese-made drones, citing security risks

【編集部解説】

米国ドローン市場で圧倒的なシェアを持つDJIに対する規制が、ついに実行段階に入りました。今回のFCCの決定は、当初予想されていた範囲を大きく超える内容となっています。

当初、2024年末に可決された国防権限法(NDAA)では、DJIとAutelという2社の中国製ドローンについて安全保障審査を実施し、リスクがあると判断された場合に販売を禁止するという内容でした。審査期限は2025年12月23日で、もし審査が実施されなければ自動的にFCCの「対象リスト」に追加される仕組みでした。

しかし12月22日、FCCが発表した内容は予想を上回るものでした。ホワイトハウスが招集した省庁間機関が、DJIとAutelだけでなく「外国で製造されたすべてのドローンと重要部品」が米国の国家安全保障に受け入れがたいリスクをもたらすと判断したのです。これにより、中国製だけでなく、ヨーロッパや他の同盟国で製造されたドローンも含まれる可能性があります。

DJIの市場支配力は圧倒的です。2024年時点で、DJIは米国ドローン市場の約76〜80%、世界市場では90%以上を占めています。農業での農薬散布、映画撮影、警察の法執行活動、災害対応、インフラ点検など、あらゆる分野で使用されています。世界全体で40万台以上のDJI農業用ドローンが稼働していると推定されています。

今回の規制は「新規モデル」のみが対象で、既に販売されているドローンや使用中のドローンには影響しません。テキサス州の法執行訓練専門家が保有する9機のDJIドローンも、引き続き使用できます。ただし、FCCの認証を受けていない新しいモデルは米国で輸入、販売、マーケティングができなくなります。

FCCが今回の決定の理由として挙げたのは、2026年ワールドカップ、2028年ロサンゼルス五輪、America250記念行事といった大規模イベントにおけるセキュリティリスクです。ドローンが「犯罪者、敵対的な外国勢力、テロリスト」によって悪用される可能性を懸念しています。

しかし、決定文書には重要な例外条項があります。国防総省または国土安全保障省が特定のドローンやドローンのクラスがリスクをもたらさないと判断した場合、FCCに対してその旨を通知することで免除されます。つまり、Blue UASリストに掲載されている承認済みドローンや、個別に審査を通過した製品は引き続き販売できる可能性があります。

米国のドローン製造企業にとっては大きなビジネスチャンスです。テキサス州のドローンメーカーHylioのCEOは、DJIの撤退により米国企業が成長する余地が生まれ、農業用スプレードローンの生産拡大に向けた投資が流入していると述べています。米国のドローン業界団体AUVSIも、国内生産の拡大とサプライチェーンの確保を歓迎しています。

一方で、グローバルなサプライチェーンへの影響を懸念する声もあります。多くのドローンは国際的な部品供給網に依存しており、「外国製」という包括的な規制がどこまで適用されるのか不透明です。同じHylioのCEOも、規制の範囲があまりにも広範であることを「狂気」で「予想外」だと批判しています。

DJIは今回の決定に失望を表明し、データセキュリティに関する懸念は証拠に基づいておらず、オープン市場の原則に反する保護主義だと反論しています。同社は何度も米国政府機関に対して製品の安全性審査を要請してきましたが、どの機関も審査を開始しませんでした。結果として、DJIは証拠に基づく判断ではなく、期限切れによる自動的な措置で事実上禁止されることになりました。

今回の措置は、単なる中国製品への規制ではなく、米国のドローン産業基盤の再構築という戦略的な意図が明確です。しかし、既存のDJI製品への依存度が高い現場からは、代替品の性能や価格面での課題を指摘する声も上がっています。規制強化と実用性のバランスをどう取るか、今後の展開が注目されます。

【用語解説】

FCC(連邦通信委員会)
Federal Communications Commissionの略。米国における通信およびメディアを規制する独立政府機関である。無線周波数の割り当て、通信機器の認証、放送事業の監督などを担当する。

NDAA(国防権限法)
National Defense Authorization Actの略。米国議会が毎年可決する国防予算と政策を定める法律である。国防総省の活動予算だけでなく、国家安全保障に関わる幅広い政策が含まれる。

対象リスト(Covered List)
FCCが管理するリストで、国家安全保障上のリスクがあると判断された通信機器やサービスを提供する企業を掲載する。リストに掲載された企業の製品は、FCCの機器認証を受けられなくなり、米国での販売が事実上不可能になる。

Blue UAS
国防総省が承認した安全なドローンのリストである。主に米国製または同盟国製のドローンが含まれており、政府機関や連邦資金を使用する組織が調達できるドローンを限定する。

BVLOS(Beyond Visual Line of Sight)
目視外飛行の略。操縦者が直接目視できない範囲でドローンを飛行させる運用方法である。商業用途での効率的な運用に不可欠だが、安全性確保のため特別な認可が必要となる。

【参考リンク】

FCC(連邦通信委員会)(外部)
米国の通信・メディアを規制する独立政府機関の公式サイト。無線周波数管理や機器認証に関する情報を提供

DJI公式サイト(外部)
世界最大のドローンメーカー。民生用および業務用ドローンで世界シェア90%以上を占める中国企業

Autel Robotics(外部)
中国のドローンメーカー。DJIに次ぐ規模を持ち、今回の規制対象に含まれている企業

Hylio(外部)
米国テキサス州を拠点とする農業用ドローンメーカー。スプレードローンの開発・製造を行う

AUVSI(国際無人機システム協会)(外部)
無人機システムとロボティクスに関する世界最大の非営利団体。業界の発展と政策提言を行う

Skydio(外部)
米国のドローンメーカー。自律飛行技術とAI搭載ドローンを開発し、DJI規制を機に市場拡大を図る

FAA無人航空機システム(外部)
米国連邦航空局のドローン関連情報ページ。登録、認証、規制に関する詳細を提供している

【参考記事】

FCC Adds Foreign-Made Drones and Components to Covered List(外部)
FCCによる外国製ドローンの対象リスト追加について詳細に報じた記事。規制の範囲がDJI単独ではなく全外国製に拡大した経緯を解説

FCC Bans Most Foreign-Made Drones, Parts From Future US Sales(外部)
Bloombergによる報道。FCCの決定が既存モデルに影響しないこと、今後の輸入・販売のみを規制することを明確に説明

FCC blacklists foreign-made drones over security, spying concerns(外部)
The Hillの記事。下院中国共産党対策特別委員会の反応や、DJIの反論声明を含む政治的背景を詳述

DJI Statistics By Usage, Sales, Revenue and Facts (2025)(外部)
DJIの市場シェアに関する統計データ。米国市場で76.8%、世界市場で90%以上のシェアを持つことを数字で示す

The Complete DJI Ban Guide [Updated for 2025](外部)
DJI禁止措置の完全ガイド。2024年末のNDAA可決から2025年12月の期限、そしてFCC決定に至るまでの時系列を整理

FCC Bans All Foreign And DJI Drones: America Just Made Itself Weaker(外部)
批判的な視点からの分析記事。審査を実施せずに禁止した米国政府の対応を「弱さの表れ」と評価している

DJI – Wikipedia(外部)
DJIに関する包括的な情報。企業の歴史、製品ライン、米国政府による過去の規制措置の詳細を網羅

【編集部後記】

今回のFCC決定は、単なる中国製品排除にとどまらない、より大きな産業構造の転換点かもしれません。圧倒的なシェアを持つDJI製品に依存してきた現場では、代替品の確保や新たな運用体制の構築という現実的な課題に直面しています。一方で、米国のドローン産業にとっては国内製造基盤を強化する好機でもあります。安全保障と実用性、自国産業保護と国際協調、このバランスをどう取るのか。ドローン産業の未来を左右する決定が、どのような影響をもたらすのか、皆さんはどうお考えでしょうか。

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Satsuki
テクノロジーと民主主義、自由、人権の交差点で記事を執筆しています。 データドリブンな分析が信条。具体的な数字と事実で、技術の影響を可視化します。 しかし、データだけでは語りません。技術開発者の倫理的ジレンマ、被害者の痛み、政策決定者の責任——それぞれの立場への想像力を持ちながら、常に「人間の尊厳」を軸に据えて執筆しています。 日々勉強中です。謙虚に学び続けながら、皆さんと一緒に、テクノロジーと人間の共進化の道を探っていきたいと思います。

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