先週19日の人工知能戦略本部で示された基本計画案が、12月23日に正式な国家戦略として確定した。AISI200人体制、政府職員10万人のAI活用、1兆円超の投資──高市総理が掲げた「信頼できるAIで日本再起」が、ついに実行フェーズに入る。
日本政府は2025年12月23日、人工知能基本計画を閣議決定した。人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律(令和7年法律第53号)第18条第1項に基づく計画である。
基本構想では「世界で最もAIを開発・活用しやすい国」を目指すとし、信頼できるAIによる日本再起を掲げる。政府はAIセーフティ・インスティテュート(AISI)を抜本的に強化し、英国AI Security Instituteの規模をベンチマークとしつつ、人員を直ちに現行の2倍程度に拡充する。
英国機関は2025年9月時点で約200名以上の人員、初期予算は1億ポンド(約200億円)である。計画では3原則と4つの基本方針を定め、AI利活用の加速的推進、AI開発力の戦略的強化、AIガバナンスの主導、AI社会に向けた継続的変革を掲げる。
From:
人工知能基本計画 令和7年12月23日 閣議決定

【編集部解説】
今回閣議決定された人工知能基本計画は、2025年6月に公布されたAI基本法に基づく日本初の包括的なAI戦略です。法律制定からわずか半年でこの計画が策定された背景には、生成AIの急速な普及と国際競争の激化があります。
注目すべきは、計画が「反転攻勢」という強い言葉を使っている点です。実際、スタンフォード大学の調査によれば、日本のAI競争力ランキングは2021年の4位から2023年には9位へと下落しており、UAEや韓国に追い抜かれています。政府はこの危機感を率直に認めた上で、「出遅れ」からの巻き返しを明確に打ち出しました。
具体的な施策として、政府自らが生成AIを「普段使い」する環境整備が掲げられています。これは単なる業務効率化ではなく、「利活用から開発へのサイクル」を回すという戦略的意図があります。実際に使うことでデータが蓄積され、それが日本独自の「信頼できるAI」開発につながるという好循環を目指しています。
AIセーフティ・インスティテュート(AISI)の強化も重要なポイントです。2024年2月に設立されたばかりの組織ですが、今回の計画で人員を2倍に拡充するとしています。ベンチマークとされた英国のAI Security Instituteは約200名以上の人員体制で初期予算1億ポンド(約200億円)の組織であり、日本も本格的な評価体制を構築する姿勢を示しました。
一方で、この計画には具体的な予算規模や実施スケジュールが明示されていません。「戦略的に投資する」という表現にとどまっており、米中が兆円規模の投資を行う中で、どこまで実効性を持つかが問われることになります。
また、フィジカルAIやAI for Scienceを「日本の勝ち筋」として位置づけている点は興味深い戦略です。基盤モデル開発での投資規模競争では後れを取った日本が、製造業やロボティクス、材料科学といった強みを持つ分野でAIを活用することで、独自のポジションを確立しようとする姿勢が読み取れます。
【編集部追記】
NotebookLMを使って今回の記事をスライドにしました。
【用語解説】
AI基本法(人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律)
2025年6月に公布された日本初のAI包括法。AI技術の研究開発と利活用の推進、適正性の確保、国際協調を基本理念とし、政府にAI基本計画の策定を義務付けている。
広島AIプロセス
2023年5月のG7広島サミットで日本が主導して立ち上げた国際的なAIガバナンス枠組み。生成AIなど先進的AIシステムの安全・安心・信頼できる利用を促進するための国際指針と行動規範を策定した。
フィジカルAI
現実世界で物理的なタスクを実行できるAI技術の総称。自律型ロボット、自動運転、工場やインフラの管理など、サイバー空間だけでなく物理的な制約下で動作するAIシステムを指す。
AI for Science
科学研究にAIを広く活用する取り組み。創薬、材料科学、ライフサイエンスなどの分野で、AIが実験の自動化やデータ分析、新物質の予測などを行い、研究開発を加速させる。を超え、複数のツールやサービスを組み合わせて目標達成まで自動で遂行する。
【参考リンク】
日本AIセーフティ・インスティテュート(Japan AISI)(外部)
2024年2月に設立されたAI安全性評価機関。今回の計画で人員を2倍に拡充することが決定された。
内閣府 人工知能基本計画(外部)
2025年12月23日に閣議決定された人工知能基本計画の公式ページ。計画の全文PDFや関連資料を公開。
広島AIプロセス(Hiroshima AI Process)(外部)
2023年G7広島サミットで立ち上げられた国際的なAIガバナンス枠組みの公式サイト。
英国AI Security Institute (UK AISI)(外部)
英国政府が設立したAI安全性評価機関。日本のAISI強化のベンチマークとされている組織。
【参考記事】
Japan’s AI Decline: From 4th to 9th in Global Rankings(外部)
スタンフォード大学の調査データを基に、日本のAI競争力が2021年の4位から2023年には9位へ低下したことを報じる記事。
AI Safety Agency to Triple Staff to Bolster Defenses Against ‘Backdoors’ in Foreign-Made AI(外部)
日本政府がAISIの人員を3倍に増強する計画を報じた記事。外国製AIのバックドアや安全性評価への対応を強化する。
Government to invest over £2 billion in the UK’s AI ecosystem(外部)
英国政府が2025年度予算でAIエコシステムに20億ポンド以上を投資すると発表した内容を報じる記事。
The Hiroshima AI Process: Leading the Global Challenge to Shape International AI Governance(外部)
日本政府公式サイトによる広島AIプロセスの解説記事。2023年のG7での合意内容や国際的なAIガバナンス枠組みとしての意義を詳述。
【編集部後記】
政府が「反転攻勢」という言葉を使うほど、日本のAI競争力低下は深刻です。でも私たちにとって本当に大切なのは、順位よりも「AIとどう向き合うか」ではないでしょうか。
皆さんの職場や日常生活で、AIをどのくらい使っていますか?使っているとしたら、どんな場面で役立っていますか?あるいは、使いたいけれど躊躇している理由は何でしょう。
この計画が掲げる「まず使ってみる」という姿勢は、私たち一人ひとりの選択から始まります。AIが身近になる未来について、一緒に考えていきませんか。































