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ニューヨーク州、TikTok・Instagram等に警告表示義務:タバコ同様の規制でメンタルヘルス保護へ

 - innovaTopia - (イノベトピア)

ニューヨーク州のキャシー・ホークル知事は2025年12月25日、ソーシャルメディアプラットフォームに対し、中毒性のある機能にメンタルヘルス警告ラベルの表示を義務付ける法案に署名した。

対象となる機能は無限スクロールフィード、自動再生動画、AIキュレーションフィードなど、TikTok、YouTube、Instagramなどで使用されているものである。

警告ラベルは、特に若年層に対して不安や抑うつといったメンタルヘルスリスクを通知する。

違反企業にはニューヨーク州司法長官が1件につき最大5,000ドルの罰金を科すことができる。カリフォルニア州とミネソタ州もすでに同様の法律を可決しており、オーストラリアは16歳未満向けソーシャルメディアを完全禁止した。

米国公衆衛生総監もこうしたラベルの導入を求めており、ニューヨークはそのアドバイスを法制化した最初の州となった。

From: 文献リンクNew York to start treating social media like cigarettes with warning labels

【編集部解説】

ニューヨーク州が踏み出したこの一歩は、デジタル時代における公衆衛生政策の転換点を示しています。無限スクロール、自動再生、AIアルゴリズムといった「中毒性のある機能」に警告ラベルを義務付けるこの法律は、単なる規制強化ではなく、テクノロジー企業と社会との関係性を根本から見直す試みです。

法案の正式名称は「The Stop Addictive Feeds Exploitation (SAFE) for Kids Act」で、法案番号はS4505/A5346です。この法律により、ニューヨーク州メンタルヘルス委員会が警告ラベルのデザインを担当し、プラットフォームは若年ユーザーが中毒性機能を最初に使用する際と、その後も定期的に警告を表示する義務を負います。重要な点は、ユーザーがこれらの警告をバイパスできないという点です。

この法律が注目されるのは、テクノロジー企業に対する「自主規制の時代の終焉」を告げるものだからです。違反企業には1件あたり最大5,000ドルの罰金が科され、ニューヨーク州司法長官が執行権限を持ちます。これは企業側に実質的な法的リスクをもたらします。

ニューヨーク州は決して孤立した動きではありません。コロラド州が2024年に最初に警告ラベル法を可決し、ミネソタ州が2025年に続きました。カリフォルニア州も2025年10月13日にAB 56を可決しており、2027年1月1日に施行予定です。これらの州法は、ソーシャルメディアが若年層のメンタルヘルスに与える影響について、科学的エビデンスに基づいて警告する必要性で一致しています。

国際的には、オーストラリアが最も急進的な対応を取りました。2024年11月29日に可決された法律により、2025年12月10日から16歳未満のユーザーはFacebook、Instagram、TikTok、X、YouTube、Snapchat、Reddit、Twitch、Threads、Kickなどの主要プラットフォームでアカウントを持つことが禁止されました。違反企業には最大49.5百万豪ドル(約32百万米ドル)の罰金が科されます。これは単なる禁止ではなく、プラットフォーム側に年齢確認システムの実装を義務付ける包括的な取り組みです。

この動きの背景には、米国公衆衛生総監のVivek Murthy博士の2024年6月17日の発言があります。彼はニューヨークタイムズの意見記事で、ソーシャルメディアプラットフォームにタバコや酒類と同様の警告ラベルを義務付けるよう議会に求めました。研究によれば、1日3時間以上ソーシャルメディアを使用する青少年は、不安や抑うつのリスクが2倍になるというデータがあります。平均的なティーンエイジャーは1日約4.8時間をソーシャルメディアに費やしているため、この問題の深刻さが理解できます。

さらに注目すべきは、学区からの大規模訴訟です。2023年1月にシアトル公立学区が最初の訴訟を起こして以降、200以上の学区がMeta、TikTok、YouTube、Snapchatなどのプラットフォームを提訴しています。これらの訴訟は「In re: Social Media Adolescent Addiction/Personal Injury Products Liability Litigation(MDL No. 3047)」として統合され、2025年3月時点で1,464件に達しています。学区側は、生徒のメンタルヘルス危機に対応するためのカウンセリングサービスやリソースの増加による財政的負担を主張しています。

2024年10月、連邦地裁のYvonne Gonzalez Rogers判事は、学区からの訴訟の多くを却下しないと判断し、訴訟を前進させました。これは、裁判所がソーシャルメディア企業の責任を認める可能性を示唆しています。

この一連の動きが示すのは、ソーシャルメディアが単なる「プラットフォーム」ではなく、脳の発達段階にある若年層に対して意図的に設計された「依存性のある製品」として扱われ始めているという事実です。無限スクロール、いいねボタン、プッシュ通知といった機能は、エンゲージメントを最大化するために脳科学を応用して設計されており、発達途上の若年層の脳には特に影響が大きいとされています。

今後、他の州がニューヨークの例に続く可能性は高く、企業側は州ごとに異なる規制に対応する「パッチワーク」状態に直面するかもしれません。これは最終的に、企業が中毒性のある機能自体を廃止するか、連邦レベルでの統一規制を求める動きにつながる可能性があります。

この問題の本質は、テクノロジーと人間の幸福のバランスをどう取るかという、デジタル時代における最も重要な課題の一つです。警告ラベルはその第一歩に過ぎませんが、より健康的なデジタル習慣を構築するための重要な「スピードバンプ」として機能することが期待されています。

【用語解説】

無限スクロール(Infinite Scroll)
ページの下部に到達すると自動的に次のコンテンツが読み込まれる機能。終わりが明確でないため、ユーザーを長時間プラットフォームに留まらせる効果がある。

自動再生(Auto-play)
動画やコンテンツが自動的に次々と再生される機能。ユーザーの意思決定を介さずにコンテンツ消費を継続させる。

AIキュレーションフィード(AI-curated Feed)
人工知能がユーザーの興味関心を分析し、エンゲージメントを最大化するようにパーソナライズされたコンテンツを表示する仕組み。

MDL(Multidistrict Litigation / マルチディストリクト訴訟)
複数の連邦裁判所管轄区から提起された類似の訴訟を、効率的な審理のために一つの裁判所に統合する米国の法的手続き。

Section 230(通信品位法第230条)
オンラインプラットフォームを、ユーザーが投稿したコンテンツに対する法的責任から保護する米国の法律。テック企業の免責特権として機能してきた。

【参考リンク】

Governor Hochul Signs Legislation to Require Warning Labels on Social Media Platforms(外部)
ニューヨーク州知事の公式発表。法案の詳細と背景が記載されている。

NY State Senate Bill 2025-S4505(外部)
法案S4505の全文と立法背景。警告ラベル義務化の法的根拠が確認できる。

Social media age restrictions | eSafety Commissioner(外部)
オーストラリアの16歳未満ソーシャルメディア禁止に関する公式情報サイト。

Meta Lawsuit | Social Media Mental Health Litigation(外部)
Metaに対する訴訟の最新情報。MDL 3047の進捗状況が詳しく記載されている。

【参考記事】

NY Governor Hochul signs bill requiring warning labels on ‘addictive’ social media | TechCrunch(外部)
ニューヨーク州が警告ラベル法案に署名。ユーザーは警告をバイパスできず、定期的に表示される仕組みが導入される。

Eight States Enact Minor Social Media Bans Despite Court Fights | MultiState(外部)
コロラド州が2024年に最初の警告ラベル法を制定、ミネソタ州が2025年に続いた。カリフォルニア州も2025年10月13日に同様の法律を可決。

Australia is trying to enforce the first teen social media ban | CNBC(外部)
オーストラリアが2025年12月10日に16歳未満のソーシャルメディア禁止を施行。違反企業には最大49.5百万豪ドルの罰金。

U.S. surgeon general calls for tobacco-style warning labels for social media | NPR(外部)
2024年6月17日、米国公衆衛生総監Vivek Murthy博士がソーシャルメディアにタバコ様式の警告ラベルを求めた。1日3時間以上の使用でメンタルヘルスリスクが2倍に。

Lawsuit alleges social media giants buried their own research on teen mental health harms | CNN Business(外部)
Meta、TikTok、YouTube、Snapchatの内部文書が公開され、企業が若年層への有害性を認識していた証拠が明らかに。

School District Lawsuits Against Social Media Companies Are Piling Up | Education Week(外部)
2023年1月のシアトル公立学区を皮切りに、200以上の学区がソーシャルメディア企業を提訴。生徒のメンタルヘルス危機対応の財政負担増加を主張。

Meta Lawsuit | 2025 Mental Health Lawsuit Updates | Motley Rice(外部)
MDL 3047として統合された訴訟は2025年3月時点で1,464件。2024年10月にYvonne Gonzalez Rogers判事が学区からの訴訟を前進させる判断を下した。

【編集部後記】

私たちが何気なく使っているソーシャルメディアの機能一つひとつが、実は緻密に設計されたものだという事実に、あらためて向き合う時が来ているのかもしれません。無限スクロールや自動再生、いいねボタンといった機能は、私たちの脳科学的な反応を計算して作られています。ニューヨーク州の決断は、こうした「見えない設計」に光を当て、私たち自身が選択できる環境を取り戻そうとする試みです。皆さんは、デジタルツールとどのように付き合っていきたいですか? この法律が提起する問いは、私たち一人ひとりのデジタルライフにも関わる重要なテーマだと感じています。

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Satsuki
テクノロジーと民主主義、自由、人権の交差点で記事を執筆しています。 データドリブンな分析が信条。具体的な数字と事実で、技術の影響を可視化します。 しかし、データだけでは語りません。技術開発者の倫理的ジレンマ、被害者の痛み、政策決定者の責任——それぞれの立場への想像力を持ちながら、常に「人間の尊厳」を軸に据えて執筆しています。 日々勉強中です。謙虚に学び続けながら、皆さんと一緒に、テクノロジーと人間の共進化の道を探っていきたいと思います。

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