英国のシティ・オブ・ロンドン・コーポレーションが2026年2月4日に発表した報告書によると、テクノロジーおよび金融サービスで働く女性は、AIと自動化の利用増加により男性よりも職を失るリスクが高い。
5年以上の経験を持つミッドキャリアの女性が、硬直的で時には自動化された履歴書スクリーニングにより、デジタル職で見過ごされている。これらのスクリーニングは育児や介護によるキャリアギャップを考慮していない。
報告書は、今後10年間で主に女性が担う約119,000の事務職が自動化により置き換えられると推定し、リスキリングにより企業は最大約1,605億円の冗長性支払いを節約できる可能性があるとしている。テクノロジー分野では毎年最大60,000人の女性が昇進機会の欠如などで職を離れている。
2024年には120,000以上のデジタル職の空席が埋まらなかった一方で、女性は見過ごされ続けている。デジタル人材ギャップは2035年まで続くと予測され、英国は約1兆円以上の経済成長を逃す可能性がある。
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Women in tech and finance at higher risk from AI job losses, report says
【編集部解説】
今後10年間で主に女性が担う事務職の約119,000ポジションが自動化により置き換えられるという見通しは、単なる数字以上の意味を持ちます。これは英国のテクノロジーおよび金融セクターにおける構造的な問題を浮き彫りにしています。
AIと自動化の進展は、確かに労働市場全体に影響を与えていますが、その影響は決して平等ではありません。国際機関の調査によると、女性の職務の9.6%がAIによる自動化または大幅な変更のリスクに晒されているのに対し、男性では3.5%にとどまっています。この差は偶然ではなく、職業における性別の偏りが根深く存在していることを示しています。
問題の核心は、女性が事務職や顧客サービス職など、ルーティン化された認知作業を多く含む職種に集中していることです。これらは生成AIが最も効率的に代替できる領域です。一方で男性は、機械操作や建設といった物理的作業を伴う職種に多く従事しており、これらは現時点ではAIによる完全な代替が相対的に困難です。
さらに深刻なのは、「ミッドキャリア」と呼ばれる5年以上の経験を持つ女性たちが、デジタル職への転換において見過ごされているという現実です。報告書が指摘する「硬直的な採用プロセス」は、しばしば自動化されたシステムによって運用され、育児や介護によるキャリアギャップを適切に評価できません。つまり、AIが女性の雇用を奪うだけでなく、AIを使った採用システムが女性の再雇用を妨げているという皮肉な状況が生まれています。
2024年には120,000以上のデジタル職の空席が埋まらなかったという事実は、この問題の矛盾を鮮明に示しています。企業は賃金を引き上げることで人材不足に対処しようとしていますが、報告書が明確に述べているように、高い給与だけでは解決しません。必要なのは、既存の労働力を再教育し、デジタルスキルを身につけさせることです。
リスキリングによって企業が最大約1,605億円の冗長性支払いを節約できるという試算は、経済的な観点からも説得力があります。しかし、より重要なのは、テクノロジー分野で毎年最大60,000人の女性が昇進機会の欠如、認知不足、不十分な報酬などの理由で離職しているという事実です。これは単なる人材の損失ではなく、多様な視点とイノベーションの機会の喪失を意味します。
シティ・オブ・ロンドン・コーポレーションは2024年4月から「Women Pivoting to Digital Taskforce」を立ち上げ、IBM、Accenture、Salesforceなどの大手企業と協力して、非技術系のバックグラウンドを持つ女性がデジタル職に転換できるよう支援しています。しかし、職場でアップスキリングの機会を提供される女性はわずか2%に過ぎないという現実は、企業の取り組みがまだ不十分であることを示しています。
デジタル人材ギャップが少なくとも2035年まで続くと予測される中、英国は約1兆円以上の経済成長を逃す可能性があります。これは単に女性の問題ではなく、英国経済全体の競争力に関わる課題です。AI時代において、テクノロジーの開発と実装における多様性の欠如は、製品やサービスに偏見を組み込むリスクをもたらします。女性がAI開発の現場にいないということは、AIが女性のニーズや視点を適切に反映しない可能性が高まることを意味します。
この問題に対処するには、企業、政府、教育機関が連携し、構造的な変革を推進する必要があります。採用プロセスの見直し、キャリアギャップへの理解促進、リスキリングプログラムへの投資、そして最も重要なのは、女性がテクノロジー分野でキャリアを継続し、成長できる環境を整備することです。
【用語解説】
ミッドキャリア(Mid-career)
5年以上の職務経験を持つ職業人を指す。この層は実務経験とスキルを蓄積しているものの、デジタル分野への転換において見過ごされやすい傾向がある。
リスキリング(Reskilling)
既存の職務とは異なる新しい職種やスキルセットを習得するための再教育プロセス。自動化により職を失うリスクのある労働者が、デジタル分野など成長分野に転換するために必要とされる。
アップスキリング(Upskilling)
現在の職務をより高度に遂行するため、あるいはキャリアアップのために新しいスキルや知識を追加で習得すること。リスキリングが職種転換を意味するのに対し、アップスキリングは既存の職務の延長線上でのスキル向上を指す。
ルーティンタスクインテンシティ(RTI: Routine Task Intensity)
職務における定型的・反復的な作業の割合を示す指標。RTIが高い職種ほど自動化されやすい。女性は平均的に男性よりもRTIの高い職務に従事している傾向がある。
生成AI(Generative AI)
テキスト、画像、音声などのコンテンツを生成できる人工知能。ChatGPTなどの大規模言語モデルが代表例で、事務作業、顧客サービス、コンテンツ作成など、従来人間が担っていた認知作業を代替できる。
デジタルスキルギャップ(Digital Skills Gap)
労働市場で求められるデジタルスキルと、実際の労働力が持つスキルとの乖離。英国では40万以上の専門職の空席がある一方で、必要なスキルを持つ人材が不足しており、年間約1兆3,356億円の損失をもたらしている。
冗長性支払い(Redundancy Payments)
英国の労働法において、企業が人員削減を行う際に解雇される従業員に支払う義務がある補償金。勤続年数や給与に基づいて計算される。
スクエアマイル(Square Mile)
ロンドン中心部の金融街を指す通称。約1平方マイル(2.6平方キロメートル)の範囲にロンドン証券取引所や多数の金融機関が集中している。
【参考リンク】
City of London Corporation – Women Pivoting to Digital(外部)
シティ・オブ・ロンドン・コーポレーションが運営する、女性のデジタルキャリア転換を支援するタスクフォースの公式サイト。
The Guardian – Business(外部)
英国の主要報道機関であるガーディアンのビジネスセクション。経済、雇用、テクノロジーに関する最新ニュースを提供。
techUK(外部)
英国のテクノロジー業界を代表する業界団体。デジタルスキルギャップや人材育成に関する調査研究を実施している。
The Alan Turing Institute(外部)
英国の国立データサイエンス・AI研究所。AI分野における女性の割合などの統計データを提供している。
Randstad(外部)
世界最大級の人材サービス企業。AIによる雇用への影響に関する国際的な調査を実施している。
【参考記事】
The future of women at work: Transitions in the age of automation(外部)
マッキンゼーによる調査。女性が担う職務の52%が定型的な認知作業を含むため自動化のリスクが高いこと、2030年までに女性の職務転換が必要になることを指摘。
Women, Technology, and the Future of Work(外部)
国際通貨基金の分析。30カ国で2,600万人の女性の職が自動化リスクにさらされており、女性は男性よりも9%対3%と高いリスクに直面していることを明らかにしている。
AI impacting labor market ‘like a tsunami’ as layoff fears mount(外部)
2026年1月の報道。IMF専務理事がAIが「津波のように」労働市場に影響を与えていると発言。従業員のAI関連の失業懸念が2024年の28%から2026年には40%に急上昇したことを報告。
AI’s Unseen Impact: Why Women’s Jobs Face Higher Risk of Automation(外部)
ロイターの報告を基にした分析。事務職など女性が多く従事する職種がAI駆動の自動化により特に脆弱であることを強調している。
77 AI Job Replacement Statistics 2026(外部)
2026年のAI関連雇用統計。2025年最初の6ヶ月間でAIに直接起因する技術職の解雇が77,999件発生し、女性は男性の約3倍の自動化リスクに直面していることを報告。
【編集部後記】
AIが労働市場に与える影響は、もはや遠い未来の話ではありません。特に女性が直面している構造的な課題は、私たち全員が考えるべき問題です。あなたの職場では、デジタルスキルを学ぶ機会は平等に提供されているでしょうか。採用プロセスは、多様なキャリアパスを適切に評価できているでしょうか。この記事が、職場での対話のきっかけになれば幸いです。テクノロジーの進化は避けられませんが、その恩恵を誰もが享受できる社会を築くことは、私たち自身の選択にかかっています。






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