Digital Cooperation Organization(DCO)は2026年2月4日から5日にかけて、クウェート国の議長国のもと第5回総会を開催し、「グローバルなデジタル繁栄のための責任あるAIに関するクウェート宣言」を採択した。
加盟国はDCO 4ヵ年アジェンダ(2025年〜2028年)の進捗を確認し、Model Digital Economy Agreementを承認した。総会ではサウジアラビア王国が2027年のDCO理事会議長国を務めることが発表され、サウジアラビア王国を議長とし、ガーナ共和国、ルワンダ共和国、ジブチ共和国、パキスタン・イスラム共和国、クウェート国、モロッコ王国で構成される執行委員会の設立が発表された。
DCO理事会議長国は2026年にクウェート国からパキスタン・イスラム共和国へ引き継がれ、次回総会は2027年にパキスタンで開催される。DCOはInternational Chamber of Commerce(ICC)、Edraak – Queen Rania Foundation、TikTokと覚書に署名し、Arab Newsとエンゲージメントレターに署名した。

【編集部解説】
2026年は「AIガバナンスの真実の年」とも言われています。なぜなら、AIはもはや実験段階を超え、政府運営、企業戦略、金融市場、公共インフラの基盤として組み込まれているからです。このような状況下で開催されたDCO第5回総会は、AIガバナンスの新たな潮流を示す重要な転換点となりました。
DCO(Digital Cooperation Organization)は、2020年に設立された世界初のデジタル経済に特化した政府間組織です。バーレーン、バングラデシュ、キプロス、ジブチ、ガンビア、ガーナ、ギリシャ、ヨルダン、クウェート、モロッコ、ナイジェリア、オマーン、パキスタン、カタール、ルワンダ、サウジアラビアの16カ国が加盟し、合計GDP約3.5兆ドル、人口約8億人を代表しています。特筆すべきは、その70%以上が35歳以下であり、デジタルネイティブ世代が中心となっている点です。
今回の総会で最も注目すべきは、「AI条約に向けた交渉を開始した」という事務総長ディーマ・アルヤヒヤ氏の発言です。これは単なる宣言ではなく、法的拘束力を持つ国際条約を目指すという明確な意思表示と言えます。
現在のAIガバナンスの国際的な枠組みは断片化しています。欧州連合のAI規則、米国の州ごとに異なる規制、中国の独自のアプローチなど、主要国・地域ごとに異なる方向性が存在します。一方で、国連の報告によれば、世界193カ国のうち118カ国が既存の主要なAIガバナンスイニシアチブに参加していません。つまり、グローバルサウスを含む多くの国々の声が、現在のAIガバナンスの議論から抜け落ちているのです。
DCOの試みは、この「代表性のギャップ」を埋める可能性を秘めています。国連総会でオブザーバー資格を持つDCOは、既存のOECD AI原則やUNESCOのAI倫理勧告といった「規範的基盤」と、EU AI規則のような「法的拘束力のある規制」の間に位置する、新たなガバナンスの道筋を示そうとしています。
また、総会で承認されたModel Digital Economy Agreement(モデルデジタル経済協定)は、信頼できる国境を越えたデータフローを可能にする新しい枠組みです。これはデジタル貿易における共通基盤を構築し、加盟国間でのデータ主権を尊重しながら経済協力を進める試みと言えます。
さらに、「オンライン偽情報対策のためのDCOキャンペーン」の立ち上げも重要です。2026年、ロシアの国営メディアが大量生産した記事がAIモデルの学習データに混入し、AIシステムそのものが偽情報を増幅するリスクが指摘されています。Anthropicや英国AI安全研究所の研究によれば、わずかな量の誤ったデータでも大規模モデルを「汚染」できることが実証されており、DCOの取り組みはこうした新たな脅威への対応と言えます。
今回の総会では、TikTokやInternational Chamber of Commerceとの覚書締結も発表されました。民間企業との連携を通じて、規制と実装のギャップを埋めようとする姿勢が伺えます。
2026年から2027年にかけて、DCO理事会議長国はクウェートからパキスタン、そしてサウジアラビアへと移行します。この中東・アジアを中心とした連携は、米国・中国・欧州という従来の「AI三極構造」に対する「第四の極」として機能する可能性があります。
ただし、課題も存在します。法的拘束力のある条約の交渉は容易ではありません。各国の政治哲学、経済優先事項、そして大国間の信頼の欠如という障壁が立ちはだかります。また、AI人材、資本、計算能力の大部分を主要国が支配している構造的な不平等も、包括的なガバナンスを実現する上での障害となります。
それでも、DCOの取り組みは「協力か分断か」「責任か躊躇か」「信頼か恐怖か」という選択を迫っています。AIが人類史の新たな章を開く技術であるならば、その統治のあり方を決めるのは一部の先進国だけではなく、すべての国々の参加による対話でなければならない。クウェート宣言は、その理念を具体的な行動へと移す第一歩なのです。
【用語解説】
クウェート宣言(Kuwait Declaration on Responsible AI for Global Digital Prosperity)
2026年2月にDCO第5回総会で採択された、責任あるAIによる世界的なデジタル繁栄を目指す宣言。AIの潜在能力を認めつつ、不平等、バイアス、プライバシー、セキュリティといったリスクへの倫理的ガバナンスの必要性を強調している。
Model Digital Economy Agreement(モデルデジタル経済協定)
DCO加盟国が承認した、信頼できる国境を越えたデータフローを可能にする政策および実行フレームワーク。デジタル貿易における共通基盤を構築し、各国のデータ主権を尊重しながら経済協力を進めることを目的とする。
AIガバナンス
AIシステムの開発、展開、運用を倫理的かつ責任ある形で管理するための枠組み。透明性、説明責任、公平性、プライバシー保護、安全性などの原則に基づき、技術的頑健性、法的コンプライアンス、社会的影響を包括的に扱う。
グローバルサウス
主に開発途上国や新興国を指す概念。かつての「発展途上国」に代わる、より中立的な表現として使われる。地理的には南半球の国々を中心とするが、経済発展の段階や国際的な力関係における位置づけを示す用語でもある。
データ主権
国家や組織が、自国・自組織内で生成されたデータに対して管理・統制する権利。データの保管場所、アクセス権限、利用方法などを自己決定できる権利を含み、デジタル時代における国家主権の重要な要素となっている。
AIモデルの汚染(AI Poisoning)
AIモデルの学習データに意図的に誤った情報や偏った情報を混入させ、モデルの出力を操作する手法。わずかな量の誤ったデータでも大規模モデルの挙動に影響を与えることができ、偽情報の拡散に悪用される懸念がある。
【参考リンク】
Digital Cooperation Organization(DCO)公式サイト(外部)
2020年設立の世界初デジタル経済特化型政府間組織。16カ国加盟、GDP約3.5兆ドル、人口約8億人を代表。
UNESCO AI倫理勧告(外部)
2021年UNESCO加盟193カ国採択の世界初AI倫理グローバル規範枠組み。人権、尊厳、包摂性を重視。
International Chamber of Commerce(ICC)(外部)
1919年設立の国際商業会議所。130カ国以上に4,500万社以上の会員。DCOと覚書締結。
Global Partnership on Artificial Intelligence(GPAI)(外部)
責任あるAIガバナンスと協力推進の国際マルチステークホルダーイニシアチブ。研究と政策開発を実施。
【参考記事】
Digital Cooperation Organization adopts Kuwait Declaration on Responsible AI(外部)
DCOは16加盟国で構成、GDP約3.5兆ドル、人口約8億人を代表。70%以上が35歳以下。
AI Governance Imperative(外部)
2026年時点で約90カ国がAI戦略確立、33カ国がAI法制定。118カ国が既存イニシアチブ不参加。
Eight ways AI will shape geopolitics in 2026(外部)
2026年、国連主導でAIガバナンスが初のグローバル段階へ。欧米中で異なる規制アプローチが展開。
Cyprus positioned as EU gateway at DCO general assembly(外部)
キプロスが湾岸諸国のEUゲートウェイに位置づけ。60〜62のスタートアップが恩恵。2026年6月にイベント開催。
The UN’s new AI governance bodies explained(外部)
193カ国中118カ国が既存AIガバナンスイニシアチブ不参加。責任あるAI完全運用化組織は1%未満。
【編集部後記】
AIのルール作りは、遠い国際会議の話ではありません。私たちが日々使うサービス、働き方、情報の信頼性に直結する問題です。
日本は2025年12月に「人工知能基本計画」を閣議決定し、広島AIプロセスを軸に国際的なAIガバナンス形成に関与する姿勢を示しました。一方、今回のDCOクウェート宣言は、米中欧とは異なる「第四の極」としてのAIガバナンスの可能性を示しています。
興味深いのは、日本が主導する広島AIプロセスとDCOの動きが、どちらも「既存の枠組みに含まれない国々の声」を取り入れようとしている点です。日本はG7の一員として先進国の視点を持ちながら、アジアの一国として新興国との橋渡し役も果たせる立場にあります。
DCOのような中東・アジア・アフリカを中心とした組織の動きに、日本はどう関わるべきでしょうか。オブザーバーとして参加するのか、技術協力のパートナーとなるのか、それとも独自の道を歩むのか。グローバルサウスの声を取り入れたAIガバナンスは、私たちにどんな未来をもたらすのでしょう。皆さんはどう考えますか。







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