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PayPayとVisa提携、米国進出へ新会社設立──NFC×QRコード「デュアルモード」で世界展開

PayPay株式会社とVisa Inc.は2026年2月12日、決済事業を中心とした戦略的パートナーシップ契約を締結した。本提携の柱は2つある。第一に、PayPayのグローバル展開の第一弾として、米国市場への進出を共同で推進する。PayPayが主導して新会社を設立し、NFC(タッチ決済)とQRコード決済の双方に対応したデジタルウォレットの展開を検討する。

初期ステップとしてカリフォルニア州などの一部地域でQRコード決済加盟店ネットワークの構築を目指す。第二に、日本国内事業の連携を強化する。Visaの技術を活用し、「PayPay残高」「PayPayカード」「PayPay銀行」の機能を一つのVisaクレデンシャルに集約するサービスを提供予定である。加えて、PayPay加盟店へのVisa決済の受け入れ拡大、およびクロスボーダー決済領域の強化にも取り組む。

From: PayPayとVisa、グローバルおよび日本国内におけるペイメントイノベーション推進のための戦略的パートナーシップ契約を締結

PayPay株式会社公式プレスリリースより引用

【編集部解説】

今回の提携で注目すべきは、日本発のモバイル決済プラットフォームが、世界最大のカード決済ネットワークと手を組み、米国市場への本格参入を明言した点です。PayPayにとってこれは初の本格的な海外事業展開となります。2025年9月に開始した韓国での利用は、あくまで日本のPayPayユーザーが渡航先で使える仕組みでしたが、今回は米国在住の一般利用者をターゲットとしており、本質的に異なるチャレンジといえます。

技術的な鍵を握るのが、Visaが提供する2つのプラットフォームです。1つ目は「Visa Flexible Credential」で、1枚のカード(または1つのデジタルクレデンシャル)に複数の資金源を紐付け、ユーザーが手動で選択するか、事前設定したルールに基づいて自動的に資金源を切り替えられる仕組みです。日本では三井住友カードが「Oliveフレキシブルペイ」として先行導入しており、PayPayではこれを「PayPay残高(キャッシュ)」「PayPayカード(クレジット)」「PayPay銀行(デビット)」の3つの資金源に適用する計画です。

2つ目は、会見で言及された「Visa Pay」プラットフォームで、既存の銀行アプリなどにQRコードとNFCの両方の決済機能を組み込むことを可能にする基盤技術です。米国展開においては、このVisa Payを通じてPayPayアプリにNFCタッチ決済機能を持たせる構想が示されています。

米国市場への参入には明確なハードルが存在します。米国ではApple PayやGoogle Walletに代表されるNFCベースのタッチ決済が主流であり、QRコード決済は店舗レベルではほとんど普及していません。中国系のAlipayですら米国での店頭QR決済網は限定的です。そのためPayPayは現地で新会社を設立し、カリフォルニア州などからQRコード加盟店を一から開拓する必要があります。

一方で、PayPay CEO中山一郎氏が会見で指摘したように、米国には年間約300兆円規模の現金決済市場が依然として残っています。これは日本の消費者決済市場の年間規模に近い水準です。米国のデジタルウォレット利用が急速に拡大するなかで、NFCとQRコードの「デュアルモード」対応は、既存のタッチ決済インフラしか持たない競合との差別化要因になる可能性を秘めています。

日本国内の施策にも注目すべき点があります。Visa Payプラットフォームの活用により、PayPay加盟店に設置された既存のQRコードを、海外のVisa Payアプリ利用者がそのまま読み取って決済できるようになります。つまり、加盟店側は新たな機材を導入せずとも、訪日外国人のVisa決済を受け入れられるようになります。現在、PayPay加盟店では14の国と地域から28のキャッシュレス決済サービスが利用可能ですが、Visaネットワークとの接続はこの受け入れ範囲を大幅に拡大し得ます。なお、複数の報道によると、このVisaクレデンシャル統合サービスは2026年中の開始が想定されています。

規制面では、米国での事業ライセンス取得と関係当局の承認が前提条件となっています。米国は州ごとに送金業(Money Transmitter)のライセンス規制が異なるため、全米展開には相応の時間とコストが見込まれます。具体的なサービス内容や開始時期は未定であり、本提携はあくまで「検討開始」の段階にあることには留意が必要です。

長期的な視点では、この提携が日本のフィンテック企業のグローバル展開モデルとして先例になるかどうかが問われることになります。アジア発の決済プラットフォームが米国市場に参入した例は、これまでAlipayやWeChat Payの在米中国人コミュニティ向けサービスに限られてきました。PayPayが現地の一般消費者を取り込めるかどうかは、Visaのネットワーク活用の巧拙と、加盟店開拓の実行力にかかっています。

【用語解説】

NFC(Near Field Communication)
近距離無線通信技術の一種。スマートフォンやカードを決済端末にかざすだけで支払いが完了する「タッチ決済」の基盤技術である。

QRコード決済
画面に表示されたQRコードを読み取る、または店舗に掲示されたQRコードをカメラでスキャンすることで決済を行う方式。日本や中国で広く普及している。

デジタルウォレット
スマートフォン上で決済情報を管理し、店舗やオンラインでの支払いに使用するアプリケーション。Apple PayやGoogle Walletなどが代表的である。

Visaクレデンシャル(Visa Credential)
Visaが発行する決済用の認証情報。物理カードやデジタルカードとして機能し、加盟店での支払いに使用される。

Visa Flexible Credential
Visaが提供する、1つのクレデンシャルに複数の資金源(クレジット、デビット、プリペイドなど)を紐付け、ユーザーが手動で選択するか、事前設定したルールに基づいて自動的に資金源を切り替えられる仕組み。日本では三井住友カードの「Oliveフレキシブルペイ」として先行導入されている。

Visa Pay
提携会見で言及された、Visaが提供するプラットフォーム。既存の銀行アプリなどにQRコードおよびNFCの決済機能を組み込むことを可能にする技術基盤である。

クロスボーダー決済
国境をまたいで行われる決済のこと。訪日外国人が日本国内で自国の決済手段を使って支払うケースや、日本人が海外渡航先で決済するケースなどを指す。

Visa Managed Services
Visaが提供するコンサルティングサービス群。決済事業のパートナーに対し、戦略立案や運用最適化、専門知見の提供などを包括的に支援するプログラムである。

特定社会基盤事業者
金融庁が指定する、社会インフラとして重要な役割を担う事業者。PayPayは2023年11月にこの指定を受けた。

PayCAS
PayPayが提供する店舗向けの決済端末。QRコード決済に加え、クレジットカードなど多様な支払い手段に対応する。

【参考リンク】

PayPay株式会社 公式サイト(外部)
日本最大のQRコード決済サービス「PayPay」の公式サイト。サービス概要や加盟店情報を掲載している。

PayPay株式会社 企業情報(プレスリリース)(外部)
PayPayの企業情報サイト。今回の提携プレスリリースを含む公式発表が時系列で確認できる。

Visa Inc. 公式サイト(外部)
世界200以上の国と地域で決済ネットワークを展開するVisaのグローバル企業サイト。

Visa Flexible Credential 製品ページ(外部)
1つのクレデンシャルで複数の資金源を管理できるVisa Flexible Credentialの公式製品ページ。

Visa Flexible Credential(米国向け詳細)(外部)
米国市場向けのVisa Flexible Credential紹介ページ。消費者意向データなども掲載されている。

【参考記事】

PayPay、年300兆円のアメリカ市場へ「茨の道」歩む。Visaと組む勝算 – Business Insider Japan(外部)
Visa PayやVisa Flexible Credentialの技術的構造、米国現金市場300兆円など会見の詳報。

PayPay Teams Up With Visa to Break Into the U.S. – News on Japan(外部)
PayPayの国内1000万か所超の利用実績や韓国展開、米国でのQR決済普及課題などを報じた英語記事。

PayPay might form company with Visa for U.S. expansion – The Japan Times(外部)
PayPayの初の海外進出、Visaが取引量ベースで世界最大の決済ネットワークであることなどを簡潔に報道。

PayPayとVisa戦略提携 カード/コード決済融合 – Impress Watch(外部)
Visaクレデンシャル統合が2026年中開始想定、PayPay利用者が世界1億7500万加盟店で利用可能になる点を詳報。

Visa Flexible Credential Goes Global – Visa Inc.(外部)
Visa Flexible Credentialの米国展開をAffirmと開始した公式リリース。フォレステル氏がビジョンを説明。

Visa Recasts Digital Wallet Landscape – PYMNTS.com(外部)
Visa Flexible Credentialの自動ルーティング機能を含む技術的詳細をVisa幹部が解説した記事。

【編集部後記】

日本で生まれたQRコード決済が、Visaのグローバルネットワークを携えて米国市場に挑もうとしています。タッチ決済が主流の米国で、PayPayの「デュアルモード」戦略はどこまで通用するのでしょうか。

一方で、国内ユーザーにとっても、複数の支払い手段が1つに集約される体験は日常を変える可能性を秘めています。みなさんが普段使っている決済手段は、5年後も同じ姿をしているでしょうか。この提携の行方を、一緒に追いかけていければうれしいです。

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Ami
テクノロジーは、もっと私たちの感性に寄り添えるはず。デザイナーとしての経験を活かし、テクノロジーが「美」と「暮らし」をどう豊かにデザインしていくのか、未来のシナリオを描きます。 2児の母として、家族の時間を豊かにするスマートホーム技術に注目する傍ら、実家の美容室のDXを考えるのが密かな楽しみ。読者の皆さんの毎日が、お気に入りのガジェットやサービスで、もっと心ときめくものになるような情報を届けたいです。もちろんMac派!

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