Last Updated on 2025-06-10 09:06 by admin
Seagateが2025年6月9日時点で、HAMR(熱アシスト磁気記録)技術を使用した100TBディスクドライブの開発を継続している。
同社は現在30TB Exos M HAMRドライブと32TB・36TB SMRドライブを出荷中である。HAMR技術は25年近く前から存在するが、量産化が困難で、2012年に1Tb/in²の実現を予測したものの達成されず、16TB(2019年サンプル出荷)、20TB、24TB(2020年発表)、30TB(2023年発表、2024年1月実際発表)と段階的に開発が進んだ。
2024年12月に最初のクラウドサービスプロバイダーが大量出荷を承認し、2025年6月時点で上位8社中3社が認定を完了している。
現在40TB以上のMozaic 4+サンプルを納入済みで、実際の生産出荷は2025年後半または2026年初頭を予定している。
同社はプラッター当たり6.5TBを実証済みで、通常デモから生産まで5年かかるため2030年にMozaic 6+製品が利用可能となり、プラッター当たり10TB以上の技術により2033年頃に100TBディスクドライブの製品化が可能としている。
From: Storage
Seagate still HAMRing away at the 100 TB disk drive decades later
【編集部解説】
HAMR(熱アシスト磁気記録)技術は、記録時にレーザーで磁性体を瞬間的に加熱することで、従来不可能だった高密度記録を実現する革新的な技術です。しかし、この技術の実用化が25年近くかかっている理由は、レーザーの精密制御、熱管理、磁性材料の安定性確保など、複数の技術課題を同時に解決する必要があるためです。
市場競争の構図変化
興味深いのは、SeagateがHAMR技術で先行しているにも関わらず、Western DigitalやToshibaが11プラッター構成を採用することで容量面での劣勢を補っている点です。これは技術革新が必ずしも市場優位に直結しないことを示しており、エンジニアリングの複雑さと商業的成功のバランスの重要性を物語っています。
データセンター運用への影響
100TBドライブの実現は、データセンターの運用効率を劇的に改善します。同じ容量を得るために必要な物理的スペース、電力消費、冷却コストが大幅に削減され、特にAIワークロードで急増するデータストレージ需要に対応できるようになります。
投資家の期待と財務目標
Seagateは2025年5月の投資家向けイベントで、2028年度までの新たな財務目標を発表しました。売上高は低〜中程度の10%台のCAGRを目指し、HAMR技術の採用により粗利率40%以上を目標としています。また、50億ドルの自社株買い承認を発表し、技術への投資と株主還元の両立を図っています。
潜在的なリスクと課題
一方で、HAMR技術の複雑性は信頼性への懸念も生み出しています。レーザー部品の寿命、熱サイクルによる劣化、製造歩留まりの問題など、量産化における課題は依然として存在します。また、Seagateが過去に複数回発表した製品化スケジュールが遅延している事実は、技術予測の困難さを示しています。
長期的な業界への影響
2030年代に向けて、ストレージ業界は大きな転換点を迎えます。HAMR技術の成熟により、従来のPMR技術は段階的に置き換えられ、プラッター当たり10TB以上の密度が標準となる可能性があります。これにより、クラウドサービスプロバイダーのインフラコストが大幅に削減され、最終的にはエンドユーザーのサービス料金にも影響を与えるでしょう。
規制・標準化への影響
大容量ストレージの普及は、データ保護規制やバックアップ要件の見直しを促す可能性があります。また、エネルギー効率の向上により、データセンターの環境規制対応にもポジティブな影響をもたらすと予想されます。
【用語解説】
HAMR(Heat-Assisted Magnetic Recording)
熱アシスト磁気記録技術。レーザーで磁性体を瞬間的に加熱して記録密度を向上させる技術。従来のPMRでは実現困難な高密度記録を可能にする。
PMR(Perpendicular Magnetic Recording)
垂直磁気記録方式。現在主流のHDD記録技術で、磁気ビットを垂直方向に配置する。室温での書き込みを行うため、高密度化に限界がある。
SMR(Shingled Magnetic Recording)
シングル磁気記録方式。書き込みトラックを部分的に重複させることで記録密度を向上させる技術。容量は増加するが、書き直し速度が低下する。
MAMR(Microwave-Assisted Magnetic Recording)
マイクロ波アシスト磁気記録技術。Western DigitalとToshibaが採用する技術で、マイクロ波を使用してPMRの密度を向上させる。
面密度(Areal Density)
単位面積あたりのデータ記録密度。Tb/in²(テラビット毎平方インチ)で表される。HAMRでは1Tb/in²以上の密度が実現可能。
CSP(Cloud Service Provider)
クラウドサービスプロバイダー。Google、Amazon、Microsoftなどの大手クラウド事業者。HDDの主要顧客として製品認定を行う。
エクサバイト
データ容量の単位。1エクサバイト=1,000ペタバイト=100万テラバイト。大規模データセンターの容量を表す際に使用される。
【参考リンク】
Seagate Technology公式サイト(外部)
世界最大手のHDDメーカー。HAMR技術とMozaic 3+プラットフォームの開発・製造を行う。
Seagate HAMR技術解説ページ(外部)
SeagateのHAMR技術に関する詳細な技術解説。Mozaic 3+プラットフォームの特徴を説明。
Western Digital公式サイト(外部)
世界第2位のHDDメーカー。MAMR技術を経てHAMR技術への移行を計画している。
Toshiba Storage公式サイト(外部)
世界第3位のHDDメーカー。2025年のHDD市場動向とSMR技術への取り組みを提供。
Seagate投資家向け情報(外部)
Seagateの財務情報、投資家向けプレゼンテーション、決算発表資料を提供。
【参考動画】
【参考記事】
Seagate to triple hard drive capacity by 2030 to meet AI demand – CNBC(外部)
SeagateのCCO BS Teh氏による2030年100TB HDD実現の発表。AI需要の急増とデータストレージ市場の成長予測を詳述。
Seagate Technology Holdings: It’s HAMR Time – Kerrisdale Capital(外部)
投資会社KerrisdalによるSeagate投資分析。HAMR技術の収益性向上効果と2026-2027年の業績予測を詳述。
Seagate confirms 40TB hard drives have already been shipped – TechRadar(外部)
2025年5月時点でのSeagate 40TB Mozaic 4+サンプル出荷の最新状況。2026年本格生産開始の計画と顧客認定プロセスを報告。
More Than Half Of HDDs Could Use HAMR By 2027 – Forbes(外部)
業界アナリストによる2027年HAMR技術普及予測。Seagate、Western Digital、Toshibaの技術開発競争と市場シェア分析。
【編集部後記】
みなさんは普段SSDを使っていますか?ノートPCやデスクトップPCの多くがSSDに移行している中で、今回のSeagateのHAMR技術による100TBドライブの話を聞いて、どのように感じられたでしょうか?
実は、私たちの身の回りではSSDが主流になりつつありますが、データセンターやクラウドの世界では、まだまだHDDが圧倒的な存在感を示しています。AIの発展により生成されるデータ量は爆発的に増加しており、その膨大なデータを保存するには、コスト効率の良いHDDが不可欠なのです。
25年という長期間をかけてHAMR技術を開発し続けるSeagateの執念には、正直驚かされました。技術革新の裏側にある膨大な時間と投資、そして量産化の困難さは、私たちが普段使っているデバイスの進歩がいかに奇跡的なものかを物語っています。
皆さんのデータ保存に対する考え方はいかがでしょうか?クラウドに頼りがちな現代ですが、その背後には今回紹介したような巨大なHDDが静かに働いていることを想像すると、なんだか感慨深いものがあります。2030年代に100TBドライブが実現した時、私たちの働き方やデータとの関わり方はどう変化するのでしょうか?
ぜひSNSで、皆さんの視点をお聞かせください。SSD派の方も、HDD技術の進歩に対する率直な感想をお待ちしています。