米陸軍は、マイクロソフトが開発中の戦闘用AR(拡張現実)ヘッドセット「IVAS(Integrated Visual Augmentation System)」の価格を、当初予想された1台8万ドル(約1200万円)から「大幅に低下」させることを求めています。
IVASは、マイクロソフトのHoloLens 2をベースに開発された特殊なARヘッドセットで、2019年に米陸軍との契約が締結されました。契約総額は最大220億ドル(約3.3兆円)に上ります。
しかし、信頼性や堅牢性の問題により、これまでの実地試験で芳しい結果が得られていませんでした。最新の1.2バージョンでは、信頼性やディスプレイの明瞭度が向上し、フリップアップデザインが採用されるなど改善が見られます。
次回の実地試験は2025年4月から6月にかけて実施される予定です。米陸軍調達局長のダグ・ブッシュ氏は、「前回よりもはるかに良好な結果が出ている」と述べています。
IVASの構成要素には、センサーや熱画像機能を備えたARヘッドセット、バッテリー、情報表示用の胸部ユニットが含まれます。コストの約半分はこのシステム自体に、残りは陸軍のプログラム管理やマイクロソフトのエンジニアリング、ソフトウェアサポートなどに充てられています。
マイクロソフトは契約維持のため、パルマー・ラッキー氏の防衛スタートアップAndurilと提携し、リアルタイムの脅威検知機能を統合するLatticeプラットフォームをIVASに提供することを計画しています。
一方で米陸軍は、2024年後半に「IVAS Next」という新たなオープンコンペティションを開催し、IVASの主契約者をマイクロソフトから他社に変更する可能性も検討しています。
from:U.S. Army Needs Microsoft AR Headset to Be “substantially less” Than Projected $80K Price Tag
【編集部解説】
米陸軍とマイクロソフトが開発を進めている戦闘用ARヘッドセット「IVAS」の価格低減が求められています。この状況は、最先端技術の軍事利用における課題を浮き彫りにしています。
IVASは、従来の夜間暗視装置や熱画像センサーに加え、拡張現実(AR)技術を統合した革新的なシステムです。兵士の状況認識能力を大幅に向上させ、戦場での意思決定を支援することが期待されています。
しかし、開発過程では多くの技術的課題に直面しました。初期バージョンでは、兵士から視認性や装着感に関する不満の声が上がりました。マイクロソフトはこれらのフィードバックを基に改良を重ね、最新の1.2バージョンでは大幅な改善が見られています。
価格面では、当初想定されていた1台8万ドル(約1200万円)という高額が問題視されています。米陸軍は「大幅に低い」価格設定を求めており、これはIVASの大規模導入を実現するための重要な課題となっています。
興味深いのは、マイクロソフトがAnduril Industriesと提携し、AIを活用した脅威検知システム「Lattice」をIVASに統合しようとしている点です。これにより、IVASの機能性と実用性が更に向上する可能性があります。
一方で、米陸軍は「IVAS Next」という新たなプロジェクトを検討しており、マイクロソフト以外の企業にも門戸を開く可能性があります。これは、軍事技術の分野でも競争原理を導入し、より優れたソリューションを追求する姿勢の表れと言えるでしょう。
IVASプロジェクトは、最先端技術の軍事応用における課題と可能性を示す象徴的な事例です。技術的な問題の解決、コスト削減、そして実戦での有効性の証明という多くのハードルを乗り越える必要があります。
同時に、このような先進的な軍事技術の開発は、民生技術への波及効果も期待できます。ARやAI技術の進化は、医療、教育、産業など幅広い分野での応用可能性を秘めています。
しかし、軍事技術の民生転用には倫理的な問題も伴います。技術の二重使用性や、プライバシー、セキュリティの問題など、社会的な議論が必要となるでしょう。
IVASの開発動向は、テクノロジーと軍事、そして社会との複雑な関係性を示す興味深い事例として、今後も注目に値するでしょう。