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PresenZ技術が実現する映画品質VR体験 — ピクサー級CGIの世界に入り込む日が近づく

 - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-04-17 10:57 by admin

PresenZは映画品質のCGIコンテンツをVR向けの6DOF(6自由度)ボリューメトリックビデオに変換するプロフェッショナル向けツールである。2025年4月現在、PC VR向けの「Immersix」アプリで、この技術を新しくリリースされたコンテンツでデモ体験できるようになっている。Meta Quest向けのストリーミング版も現在開発中である。

Immersixは2024年末にリリースされたプラットフォームで、PresenZ技術を使用してボリューメトリックビデオに変換されたCGIコンテンツを再生し、快適で没入感のある6DOF視聴をサポートしている。最近のアップデートでは、宇宙的なビジュアルを持つ無料視聴のミュージックビデオ「Weightless」と、4ドル(約600円)のアプリ内購入「Sharkarma: Guardian of the Oceans (Part 1)」が追加された。

ボリューメトリックビデオは通常のステレオスコピック180度や360度ビデオよりも快適で没入感があるとされている。これは、従来のVRビデオが頭の回転にのみ反応するのに対し、ボリューメトリックビデオは空間内での移動にも対応するためである。

PresenZ技術は元々ベルギーのNozon社が開発し、2016年後半に開発者兼パブリッシャーのStarbreezeに売却された。その後、2018年後半にStarbreezeが経営危機に陥った際、独立した事業体としてスピンアウトされ、最終的にビデオ圧縮を専門とするV-Nova社に買収された。V-Novaは2011年にGuido Meardiらによって設立されたロンドンに本社を置く多国籍企業である。

V-Novaは、PresenZ買収以来、大きなファイルサイズという課題を解決するために技術を洗練させてきた。同社はピクサーやドリームワークスなどの主要CGIスタジオが使用するレンダリングツール用のPresenZプラグインを開発し、既存のCGIをボリューメトリックビデオに効率的に変換できるようにした。

現在のImmersixアプリはPC VR向けだが、V-NovaはMeta Quest向けにクラウドレンダリング版も開発中である。このバージョンはクラウドでレンダリングされた映像をQuestヘッドセットに送信するもので、高速な帯域幅と最適化されたWi-Fi環境が必要となる。

from Hands-on: ‘PresenZ’ Tech Converts Cinema-quality CGI into Volumetric Video on PC VR & Quest

【編集部解説】

PresenZ技術が注目される理由は、VR体験における「没入感」と「映像品質」という、これまで両立が難しかった2つの要素を解決する可能性を秘めているからです。

現在のVRコンテンツには大きく分けて2つの種類があります。一つは180度・360度動画で、高品質な映像を提供できますが、頭の回転にしか対応せず、前後左右の移動(6DOF)ができないため没入感に限界があります。もう一つはリアルタイムレンダリングの3D空間で、6DOFに対応し高い没入感を提供できますが、処理能力の制約から映像品質はプリレンダリングされた映画のCGIには及びません。

PresenZはこの両方の長所を組み合わせる技術です。映画品質のプリレンダリングCGIでありながら、6DOFの動きに対応する没入感を実現します。これはピクサーやドリームワークスのような高品質CGIアニメーションを、単に「見る」のではなく、その世界に「入り込む」体験を可能にするのです。

技術的な側面から見ると、PresenZはポイントクラウドファイル形式を採用しています。この形式は「アバター」や「ファインディング・ニモ」のような映画制作パイプラインと同等の品質を持ちながら、固定カメラポイントではなく「視野ゾーン」を作成することで、視聴者が無限の視点から体験できる革新的な仕組みとなっています。

ボリューメトリックビデオの最大の課題はデータサイズです。キャラクターの顔の毛一本一本まで表現するには、毎秒数十億ポイントの動きを記録する必要があり、圧縮前のデータ量は膨大になります。V-Novaの圧縮技術は、この課題に対応するために開発されました。

市場の観点からは、ボリューメトリックビデオ市場は急速に成長しています。Ariztonの最新レポートによれば、2023年の市場規模は25.5億ドルで、2030年には102.9億ドルに達すると予測されています。年間成長率は26.18%と非常に高く、この分野への投資も活発化しています。

技術の普及を後押しする要因としては、3Dキャプチャ技術の進歩、高性能GPUやエッジコンピューティングの普及、そして戦略的投資の増加が挙げられます。2024年には複数のスタートアップ企業が空間コンピューティング向けのボリューメトリックビデオツールに投資を集めるなど、業界全体の成長が加速しています。

また、Meta、Microsoft、Appleなどの大手テック企業がAR/VR技術に積極的に投資していることも、没入型デジタル体験への需要の高まりを示しています。特に2024年に世界展開されたAppleのVision Proは、空間コンピューティングデバイスとして注目を集め、高品質な空間ビデオへの関心を高めました。

PresenZ技術の将来性を考える上で重要なのは、既存のCGIコンテンツを活用できる点です。アニメーションスタジオは、すでに高品質CGIの制作に多大な時間と費用を投じています。これらのコンテンツを効率的にボリューメトリックビデオに変換できれば、数百万のVRヘッドセットユーザーという新たな配信プラットフォームにアクセスできるようになります。

一方で課題もあります。現状ではPC VR向けの「Immersix」アプリは高性能PCを必要とするため、アクセシビリティに制限があります。この課題を解決するために、V-NovaはQuestなどのスタンドアロンヘッドセット向けにクラウドレンダリング版を開発中です。これにより、処理能力の制約を超えて、より多くのユーザーに高品質なボリューメトリックビデオ体験を提供できる可能性が広がっています。

今後の展望としては、5Gの普及とクラウドインフラの発展により、ストリーミング配信の品質と安定性が向上し、より多くのユーザーがこの技術にアクセスできるようになると予想されます。

【用語解説】

6DOF(6自由度):6 Degrees of Freedomの略で、3次元空間内での動きを表す概念である。前後・左右・上下の3方向への移動と、3軸(ピッチ・ヨー・ロール)での回転を含む。通常のVR動画(180度・360度)は回転のみに対応するが、6DOFは空間内での移動も可能にする。例えるなら、通常のVR動画は「固定された椅子に座って周りを見回せる」体験で、6DOFは「部屋の中を自由に歩き回れる」体験である。

ボリューメトリックビデオ:3次元空間全体を捉えて再構築する技術である。通常の2D動画が平面的な情報を記録するのに対し、ボリューメトリックビデオは空間の「体積(Volume)」を持つ情報を記録する。これにより視聴者は任意の視点から映像を見ることができる。例えるなら、通常の動画が「窓から外を眺める」体験なら、ボリューメトリックビデオは「部屋の中に実際に入る」体験である。

プリレンダリング:あらかじめ高品質な映像を事前に計算・生成しておく技術である。リアルタイムレンダリング(ゲームなど)が即時に映像を生成するのに対し、プリレンダリングは時間をかけて高品質な映像を作成する。例えるなら、リアルタイムレンダリングが「即席料理」で、プリレンダリングは「時間をかけて作る本格料理」のようなものである。

クラウドレンダリング:複雑な映像処理をローカルデバイスではなくインターネット上のサーバー(クラウド)で行い、結果だけをストリーミングする技術である。これにより、処理能力の低いデバイスでも高品質なコンテンツを体験できる。例えるなら、自宅のキッチンで料理するのではなく、プロのシェフが別の場所で調理したものを配達してもらうようなものである。

ポイントクラウド:3D空間内の点の集合で、各点は3D座標(X, Y, Z)と色情報を持つ。これらの点の集まりによって3D空間の物体や環境を表現する。PresenZ技術では、このポイントクラウドを活用して6DOF体験を実現している。例えるなら、粘土細工ではなく、無数の小さな点で立体を表現する「点描画」の3D版のようなものである。

【参考リンク】

PresenZ公式サイト(外部)PresenZ VR技術の公式サイト。6自由度(6DOF)のVR映画や画像を制作するための技術情報とツールを提供している。

Immersix公式ドキュメント(外部)V-Nova社が提供するImmersixアプリのドキュメントサイト。OpenXRヘッドセット向けのマルチコンテンツアプリに関する情報を掲載している。

V-Nova公式サイト(外部)PresenZ技術を所有するV-Nova社の公式サイト。ビデオ圧縮技術やその他のソリューションに関する情報を提供している。

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乗杉 海
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