Last Updated on 2025-06-04 14:05 by admin
Metaが『Quest 4』の開発を中断し、新たな超軽量ミックスドリアリティヘッドセットの開発に注力していることが明らかになった。
Metaは、来年発売が予想されていた『Quest 4』ヘッドセットの開発を中断し、代わりに2026年末から2027年初頭にかけてのリリースを目指す方向にシフトした。この情報は、UploadVRが複数の情報源から得たものであり、2025年6月3日(現地時間、日本時間6月4日)に米国のテクノロジーメディア「ザ・ヴァージ」で報じられた。
『Quest 4』は内部コード名「Pismo Low」と「Pismo High」の2モデルが計画されていたが、これらが事実上棚上げされたことで、次世代『Quest』は数年先になる可能性が高い。また、Metaは昨年、2027年に登場予定だったハイエンドヘッドセット「La Jolla」の開発も中止している。
今回発表された新しいヘッドセットは、コードネーム「Puffin(パフィン)」と呼ばれ、プロセッサーやバッテリーをポケットサイズの外部ユニットに分離し、本体の重量を大幅に軽減した設計となっている。本体はわずか110グラムで、『大型のサングラス』のような外観を持ち、コントローラーは付属せず、目の動きやジェスチャーで操作できる。ディスプレイは複数のオプションが検討されているが、どの仕様で出荷するかは未定である。また、同デバイスは『Quest』シリーズと同様に『HorizonOS』を搭載し、主に生産性やエンターテインメント用途を想定している。
この件について、MetaのCTOアンドリュー・ボズワース(Andrew Bosworth)は、昨年「発見(ディスカバリー)」フェーズの開発に移行したことを明かしている。
from:Meta reportedly sidelined ‘Quest 4’ designs for a goggles-like mixed-reality headset | The Verge
【編集部解説】
Metaのこの戦略転換は、VR/MR業界における根本的なパラダイムシフトを示しています。従来のオールインワン型ヘッドセットから、軽量化を最優先とした分離型デザインへの移行は、Apple Vision Proが提示した新たな方向性への対応と見ることができます。
技術的革新の意義
「Puffin」の最大の革新は、わずか110グラム未満という驚異的な軽量化にあります。現行の『Quest 3』が515グラムであることを考えると、約80%の軽量化を実現しています。これは単なる重量削減ではなく、VR/MRデバイスの使用シーンを根本的に変える可能性を秘めています。
従来のVRヘッドセットは主にゲーミング用途で短時間の使用を前提としていましたが、「Puffin」は長時間の作業やエンターテインメント消費を想定しています。仮想マルチモニター環境として機能することで、物理的なオフィス環境に依存しない新しい働き方を提案しています。
市場戦略の転換
Metaが『Quest 4』の開発を中断した背景には、競合他社との差別化戦略があります。Apple Vision Proの市場反応と自社のQuest Pro販売不振を踏まえ、異なるアプローチでの市場攻略を選択しました。軽量化と手頃な価格を両立させることで、より広範なユーザー層への普及を狙っています。
また、ASUSやLenovoといったパートナー企業がHorizonOS搭載ヘッドセットを開発していることで、Metaはハードウェア製造から一歩引いた立場でエコシステム構築に注力できます。これはスマートフォン市場におけるGoogleのAndroid戦略と類似しています。
技術的課題と展望
「Puffin」の成功には、いくつかの技術的課題の解決が必要です。外部処理ユニットとの接続安定性、バッテリー持続時間、視線追跡の精度向上などが挙げられます。特に、コントローラーレス操作の実用性は、デバイスの成否を左右する重要な要素となります。
しかし、Metaが「発見フェーズ」と表現していることからも分かるように、このプロジェクト自体がキャンセルされる可能性も否定できません。実際、同社は過去に多くのヘッドセットプロジェクトを中止しており、「La Jolla」もその一例です。
業界への影響
「Puffin」の登場は、VR/MR業界全体に新たな競争軸をもたらす可能性があります。軽量化競争が激化することで、技術革新が加速し、最終的にはユーザーにとってより使いやすいデバイスの登場が期待できます。
また、生産性向上ツールとしてのVR/MRデバイスの位置づけが明確になることで、企業市場での普及も進む可能性があります。リモートワークが定着した現在、物理的な制約を超えた作業環境の提供は大きな価値を持ちます。
【用語解説】
ミックスドリアリティ(MR):現実世界とデジタル世界を融合させる技術。VR(仮想現実)とAR(拡張現実)の中間に位置し、現実空間にデジタルオブジェクトを配置して相互作用できる。
HorizonOS:メタが開発したVR/MR向けオペレーティングシステム。『Quest』シリーズに搭載され、サードパーティ製ヘッドセットにも提供予定。
ピンチ操作:親指と人差し指をつまむ動作でデバイスを操作する手法。Apple Vision Proが採用し、コントローラーレス操作の標準となりつつある。
【参考リンク】
Meta公式サイト(外部)メタの企業情報、製品ラインナップ、最新ニュースを掲載する公式サイト。Reality Labsの取り組みやメタバース戦略についても詳細に説明されている。
Meta Quest公式サイト(外部)Meta Questシリーズの製品情報、仕様、価格、対応アプリケーションなどを網羅的に紹介する公式製品サイト。
【参考動画】
【参考記事】
Meta Prioritizing Ultra-Light Headset With Puck Over Traditional Quest 4 Until 2027 | UploadVR今回のニュースの主要情報源。メタがPuffinを優先し、Quest 4を2027年まで延期する内部情報を詳細に報じている。
Meta Quest 4 ‘Canceled’ In Favor Of New Style Of Headset | Forbesフォーブスによる分析記事。メタの戦略転換の背景と業界への影響について専門的な視点から解説している。
Meta Launches Puffin: A New Mixed Reality Headset as Compact as Traditional Eyewear | Glass Almanac
Puffinの技術的特徴と市場への影響について詳細に分析した専門記事。軽量化技術の革新性について深く掘り下げている。
【編集部後記】
今回のメタの戦略転換は、VR/MR業界の転換点を象徴する出来事として記憶されるかもしれません。わずか110グラム未満という「Puffin」の軽量化は、VRに興味がある新規ユーザーにとっては嬉しいニュースになるでしょう。
編集部として特に注目したいのは、メタがゲーミング中心のアプローチから生産性重視へとシフトしている点です。Apple Vision Proが切り開いた高価格帯市場に対し、メタがどのような価格戦略で挑むのか、そして軽量化と機能性をどこまで両立できるのか。2026年末という目標に向けて、業界全体の動向から目が離せません。