2025年12月1日から3日にかけて、国内最大級のXR・メタバースカンファレンス「XR Kaigi 2025」が開催されました。今年のテーマは「AI」です。XR技術とAIの融合が加速する中、展示エリアでは技術の「実証」から「実装」へと舵を切った企業の姿が際立っていました。
XR Kaigi2025 (公式サイト)
https://www.xrkaigi.com/event/9316
本稿では、XR Kaigi 2025に出展した4社の取り組みを通じて、XR技術が現場でどのように活用されているのか、その最前線を紹介します。ハードウェアの革新、音響体験の進化、コンテンツ創出、業務DXまで、多様な切り口から「使える」XR技術の今を追いました。
いずれの企業も共通しているのは、技術デモではなく「課題解決」にフォーカスしている点です。XR技術はすでに、エンターテインメントから産業利用まで、幅広い領域で社会実装のフェーズに入っています。
NTTコノキュー

NTTコノキュー
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ソリューション/プロダクト-
XRグラスを活用した「ピッキング補助アプリケーション」を中心に、VR/AR/MR技術を活用した業務DX支援を幅広い業界に展開しています。XRデバイスの販売から受託開発、コンテンツ制作まで、ワンストップでXR導入を支援する体制を整えており、企業が抱える業務課題に応じたカスタマイズ可能なソリューションを提供しています。

- 解決する課題
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物流倉庫のピッキング作業では、「ピッキング対象の商品が保管された棚の位置がすぐに分からない」「棚の前に到着しても、どの棚枠に保管されている商品なのかを探すのに時間がかかる」といった課題が存在します。これらの探索コストは、作業効率の低下だけでなく、新人や派遣スタッフの負担増加にもつながっています。NTTコノキューのピッキング補助アプリケーションは、これらの課題を解消し、誰でも熟練者のようなスムーズなピッキング作業を実現可能にします。
- 活用技術と強み
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XRグラス上に、棚の位置やそこまでの道を示す「棚案内」と、棚に到着した後にどの棚枠に商品があるかを示す「棚枠表示」を組み合わせることで、直感的なナビゲーションを実現しています。


現場の熟練者が頭の中に持っている棚配置や動線の知識を、アプリケーション側が肩代わりすることで、経験の浅いスタッフでも短期間で高い生産性に到達できます。
また、デジタルピッキングシステムを全棚に適用したのと同様の作業効率化を、より低コストで実現できる点が大きな強みです。全棚に専用のランプやインジケーターを設置する従来のデジタルピッキングシステムと異なり、XRグラス側で「必要なときに、必要な場所を、必要な人にだけ」表示するアプローチにより、初期投資やレイアウト変更時の柔軟性という観点でも合理的なソリューションとなっています。
物流業界での実証実験では、作業効率が11%向上という具体的な成果を上げており、この実績をもとに製造、医療、教育など幅広い業界への展開を進めています。
- 導入先/ユースケース
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物流倉庫でのピッキング作業支援を中心に、製造現場での遠隔作業指示、医療分野での手術トレーニング、教育現場での体験学習など、B2B領域での活用が進んでいます。特に人手不足が深刻な業界において、作業効率化と人材育成の両面でXR技術の導入が進んでおり、NTTコノキューはその実装パートナーとしての役割を担っています。
私自身はピッキング業務の経験がありませんが、実際にXRグラスを装着して操作してみると、棚の位置を示す「棚案内」と、商品の場所を示す「棚枠表示」が直感的で分かりやすく、未経験者でもすぐに業務の流れが理解できました。これは実現場でも十分に通用するプロダクトだと強く感じました。
一方、実際にピッキング業務の経験を持つライターからは、さらに踏み込んだ評価を聞くことができました。
「通常、新人に業務を覚えてもらうには、倉庫の規模にもよりますが一か月程度はロケーションや商品を覚えるのにかかります。最初の3日くらいは一緒にピッキング業務をする必要もあり、慢性的に人手不足の現場では『人は欲しいけれど、実際に増えると教育の手間がかかる』というジレンマがありました。
でも、このXRグラスがあれば簡単な説明だけですぐに業務を始めてもらえます。自分で見て動くことで覚えるのも早くなるので、一人前のスタッフになるまでの時間がかなり短縮されると思います。
またQRコードで読み取りをするため、ヒューマンエラーが減り、ピッキング業務にありがちな『商品を間違えてピックして戻しに行く』といった手間も省けます。非常に作業しやすくなると感じました」
未経験者でも直感的に理解できる操作性と、経験者が実感する教育コスト削減・ミス防止効果の両方が実現されている点が、このアプリケーションの最大の価値です。単なる技術デモではなく、既存のデジタルピッキングシステムの代替・補完になりうるレベルまで落とし込まれた、現場実装に近いソリューションだと感じました。
Happy Life Creators

Happy Life Creators
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ソリューション/プロダクト-
世界最小・最軽量クラスのスマートディスプレイ「GUIDE01」。わずか10gという超軽量設計で、既存のメガネに装着できるウェアラブルデバイスです。AI翻訳機能、音声翻訳、ナビゲーション、プロンプター機能を搭載し、視界を遮らずに必要な情報を表示します。
世界最軽量級スマートディスプレイ GUIDE01(GUIDE01のクラウドファンディングページです。)

引用 公式クラウドファンディングページより - 解決する課題
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現場作業者がスマートフォンやタブレットで情報を確認する際、作業を中断せざるを得ないという課題があります。GUIDE01は、ハンズフリーで必要な情報にリアルタイムアクセスできる環境を提供することで、作業効率の向上と安全性の確保を両立させます。また、多言語対応により、インバウンド対応や国際的なビジネスシーンでのコミュニケーションの障壁も解消します。
- 活用技術と強み
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製造現場での作業指示表示、物流倉庫でのピッキング支援、観光ガイドでのリアルタイム翻訳、プレゼンテーション時のプロンプター利用など、多様な業種での活用が想定されます。特に複雑な作業手順が必要な製造現場や、多言語対応が求められるインバウンド対応、医療現場での情報参照など、ハンズフリーでの情報アクセスが求められる領域での需要が見込まれます。
会場で「GUIDE 01」を実際に試用させていただきましたが、メガネに装着しても重さによる負担をまったく感じず、その軽さに驚かされました。装着時のバランスも自然で、長時間の利用を想定してもストレスなく日常に溶け込むデバイスだと感じました。
視界をほとんど妨げない表示位置とサイズ感により、「何かを“見るために”デバイスを使う」というより、「いつもの視界の片隅に、必要な情報だけがそっと添えられる」という感覚に近い体験が得られました。このため、作業中や移動中でも意識を大きく切り替えることなく、自然な流れで情報へアクセスできます。
また、音声やAIによる翻訳表示と組み合わせることで、日常生活からビジネスシーンまで、さまざまな利用シーンが具体的にイメージできました。現場作業での手順確認、営業やプレゼンテーション時のプロンプター利用、海外来訪者対応など、実務ツールとしてのポテンシャルを強く感じました。
GMOペパボ株式会社

GMOペパボ株式会社
公式サイト
http://pepabo.com/
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pepabo.com/contact/
- ソリューション/プロダクト
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メタバース推進室による「メタバース活用パッケージ byGMOペパボ」です。VRChat社とのパートナーシップを軸に、企業・自治体向けのメタバース活用を総合的に支援するサービスを提供しています。3DCG制作、イベント企画・運営、コミュニティ構築、SNS連動キャンペーン、VTuber活用、EC・グッズ販売など、多様なメニューを通じて、メタバースの企画提案から導入・運用改善までを一貫してサポートしています。
- 解決する課題
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企業や自治体がメタバースに参入する際、技術的なハードルだけでなく、コミュニティ形成やコンテンツ企画といったソフト面での課題が存在します。また、地方自治体が抱える人口減少、高齢化、地域経済の縮小といった課題に対し、メタバースが観光誘致や移住促進、文化継承の新たな手段として活用される必要があります。GMOペパボは、これらの多様な課題に対して、技術提供だけでなく、メタバース空間でのコミュニティ運営ノウハウも含めた総合的な支援を提供することで、導入の障壁を下げています。
- 活用技術と強み
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VRChatという既存プラットフォームを活用することで、ゼロからメタバース空間を構築するよりも低コスト・短期間での導入を実現しています。個人・クリエイター向けサービスを長年提供してきたGMOペパボのノウハウを活かし、ワールド制作からイベント運営、コミュニティ構築まで、包括的なサポートを実施しています。制作されるメタバース空間はPC向けだけでなく、スマートフォンなどのモバイル端末にも最適化可能であり、幅広い利用環境に対応しています。
- 導入先/ユースケース
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企業のマーケティング施策、新卒採用説明会、イベント企画、自治体の地域プロモーション、文化継承、観光誘致といった多様なシーンで活用されています。特に、鹿児島県日置市との「ネオ日置プロジェクト」では、実在する神社のVRChatワールド制作や、日置市内の太鼓踊りをメタバース上で体験できるコンテンツの展開を進め、地域文化のデジタル継承と新たな交流人口の創出に貢献しています。また、VRChat上での新卒説明会開催の実績があり、70名以上の応募を集めるなど、採用活動の新しい形式としても活用されています。

ネオ日置プロジェクト - 展示内容
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XR Kaigi 2025では、VRChat社との連携による企業・自治体向けメタバース活用の具体的な事例を展示しました。ネオ日置プロジェクトの成果、新卒説明会のVRChat開催事例、各種イベント運営のノウハウなど、実装フェーズにあるメタバース活用の最新事例を通じて、メタバース推進室の総合的なサポート内容が紹介されていました。
GMOペパボ様のメタバース推進室の取り組みを拝見して、特に印象的だったのが、地方創生とエンターテインメントの融合です。
鹿児島県日置市との「ネオ日置プロジェクト」では、実在する神社をVRChat上に再現し、さらに地域の伝統である太鼓踊りをメタバース空間で体験できるコンテンツを展開されています。このアプローチは、単なるデジタル化ではなく、物理的な距離を超えて地域文化に触れる新しいチャネルを創出するものです。
従来、地方の伝統文化や神社などの文化資源は、現地への来訪によってしかアクセスできませんでした。しかし、メタバースを活用することで、世界中のどこからでも、いつでもこれらの文化体験が可能になります。同時に、若い世代がメタバース上で地域文化と出会うことで、観光誘致や移住促進にも繋がるという、文化継承と地域経済の活性化が一体となった取り組みになっていると感じました。
また、エンターテインメント的な面白さと地域のアイデンティティをうまく組み合わせることで、義務的な「文化学習」ではなく、自発的に「体験したい」「もっと知りたい」という動機を生み出している点が秀逸です。このような地域課題の解決にメタバース技術を活用する事例は、XR技術が単なるテクノロジーの追求ではなく、社会的な価値創造へと進化していることを象徴していると考えます。
株式会社SPICE

株式会社SPICE
連絡先
https://spice-group.jp/contact/
- ソリューション/プロダクト
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バーチャルプロダクション技術を展開するスタジオです。「MOOV by Composition Inc. with SPICE」として、マーカーレスモーションキャプチャとリアルタイムレンダリングを組み合わせたシステムにより、大規模ライブでのXR演出を可能にしています。
特殊なマーカーやモーションキャプチャスーツを一切必要とせず、普段着のまま即座にキャプチャを開始できる手軽さと、指の動きまで繊細に捉える高精度な追従性を両立させた点が最大の特徴です。リアルとバーチャルをシームレスに融合させる技術を通じて、新しいライブパフォーマンスの表現形式を実現しています。
- 解決する課題
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ライブパフォーマンスにおいて、リアルとバーチャルをシームレスに融合させることは技術的に高いハードルです。特に大規模会場での安定した動作、リアルタイム性、演者の自由な動きの確保という3つの要素を同時に満たす必要があります。従来のモーションキャプチャは特殊なマーカーやセンサーの装着を必須としており、演者の負担が大きく、動きの自由度が制限されていました。また、装着の準備時間が必要で、即座にパフォーマンスを開始することが困難でした。スパイスはこれらの課題に対して、普段着のまま準備なしで使えるマーカーレス技術による解決策を提供しています。
- 活用技術と強み
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マーカーレスモーションキャプチャ技術により、演者は普段着のまま、特別な装備を身につけることなく、サクサクと即座にキャプチャを開始できます。マーカーレスシステムの中でも特に精度が高く、手や指の微細な動きまで繊細に追従することで、表情豊かな演技や細やかなジェスチャーも正確に再現できます。大規模ライブに対応したリアルタイムシステムは、数千人規模の観客を前にしても安定した演出を実現する処理能力を備えています。これにより、パフォーマーは準備時間や装備の制約から解放され、創造性の制限が最小化されることで、より表現力豊かなライブ体験が実現されます。
- 導入先/ユースケース
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アーティストのライブコンサート、企業イベント、展示会でのショーパフォーマンスなど、エンターテインメント業界での活用が中心となります。バーチャルキャラクターとリアルパフォーマーの共演という、従来は実現困難だった新しいライブ体験の創出に貢献しています。準備不要で即座に使える手軽さと、指先まで捉える高精度な追従性により、リハーサルから本番まで効率的な運用が可能です。大規模会場での安定動作を実現していることから、国内外の大型イベントでの導入事例が増加しており、ライブエンターテインメント業界における標準的なソリューションの一つとなりつつあります。
- 展示内容
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XR Kaigi 2025では、バーチャルプロダクション技術の実装事例や、普段着のまま使えるマーカーレスモーションキャプチャの手軽さと、指の動きまで捉える精度を示すデモンストレーション、大規模ライブでの運用ノウハウなどを展示しました。リアルとバーチャルの融合がいかに自然に、そして安定して実現できるのかを、具体的な事例を通じて紹介されていました。
株式会社SPICEのブースでは、バーチャルプロダクション技術がいかに大規模ライブイベントを変えつつあるのかが実感されました。
展示されていたマーカーレスモーションキャプチャの実装を確認することで、従来のモーションキャプチャが抱えていた課題がいかに解決されているかが理解できました。特殊なマーカーやセンサーを装着することなく、演者の自然な動きを高精度で取得できるシステムは、パフォーマーの創造性の制限を最小化し、より表現力豊かなパフォーマンスを可能にします。
注目すべきは、このテクノロジーが数千人規模の観客を前にしても安定して動作するレベルまで成熟しているという点です。リアルタイムでバーチャルキャラクターとリアルパフォーマーが同期されることで、観客にとって完全にシームレスな舞台体験が成立します。かつて想像でしかなかった「ホロプロジェクションのような光景」が、すでに大規模ライブの現場で実運用されている現実は、エンターテインメント業界にとって大きなターニングポイントです。
これにより、アーティストの表現の幅が著しく拡がります。亡くなったアーティストとの共演、CG制作されたキャラクターとの協演、物理的には実現不可能なビジュアルエフェクトの実装など、従来は技術的制約で実現できなかった表現が可能になります。
SPICEのバーチャルプロダクション技術は、単なるテクノロジーの進化ではなく、ライブエンターテインメント自体の概念を拡張する取り組みだと感じました。
XR Kaigi 2025の取材を通じて明確になったのは、XR技術がもはや「未来の技術」ではなく、「今、現場で機能している技術」へと移行したという事実です。
物流倉庫での作業効率を11%向上させるピッキング支援、わずか10gの超軽量デバイスによるハンズフリー情報アクセス、数千人の観客を前に安定稼働するバーチャルプロダクション。これらはすべて、技術デモではなく、実際のビジネス現場や地域課題の解決に貢献している実装事例です。
特筆すべきは、どの企業も「技術的に何ができるか」ではなく、「どんな課題を解決できるか」を起点に据えている点です。XR技術は、人手不足、教育コスト、地域衰退、表現の制約といった、社会が直面する具体的な困難に対する実効性のある答えを提示し始めています。
XR Kaigi 2025の展示フロアには、XR×AIの融合が切り拓く新しい可能性が満ちていました。この技術革新の波は、エンターテインメント、産業、地域社会のあり方を確実に変えつつあります。
次にこの技術を手にするのは、大企業だけではありません。コストの低減と使いやすさの向上により、中小企業、自治体、そして個人クリエイターにも、XR技術は開かれ始めています。あなたが抱えている課題の解決策が、すでにここに存在しているかもしれません。































