Metaは、サードパーティ製Horizon OSヘッドセットの開発プログラムを「一時停止」したと発表した。約1年半前に同社はAsusとLenovoをパートナーとして、Horizon OS搭載のVRヘッドセットを開発すると発表していたが、どちらも製品化されない見通しとなった。
Metaの広報担当者は、VR市場を前進させるために世界水準の自社ハードウェアとソフトウェアの構築に注力すると説明している。この方針転換の背景には、Vision ProやAndroid XRの登場による競争環境の変化がある。MetaはXRにおける「Android」を目指していたが、Android XRの正式発表により、その座を脅かされる形となった。また、Metaが原価以下でヘッドセットを販売する中、ハードウェア販売から利益を得る必要があるAsusやLenovoにとって、価格競争が困難だという構造的な問題も存在していた。
【編集部解説】
今回のMetaによるサードパーティ製ヘッドセットプログラムの一時停止は、VR業界におけるプラットフォーム戦略の難しさを浮き彫りにしています。
最も注目すべき点は、Googleが2024年12月に正式発表したAndroid XRの存在です。Android XRは、AIグラスからディスプレイグラス、従来型のヘッドセットまで幅広いデバイスをサポートする統一プラットフォームとして設計されており、開発者に単一のエコシステムを提供します。これにより、GoogleはMetaが目指していた「XRのAndroid」というポジションを、文字通りAndroid自体で実現する形になりました。さらにGoogleは2026年から2027年にかけて3段階のXRグラス戦略を展開する計画で、段階的な市場浸透を図っています。
Metaのビジネスモデルにも構造的な課題が存在します。中国のアナリストグループによる分析では、Quest 3の部品コストは約398ドル、製造コストを含めると428ドル、税金を加えると478ドルに達すると推定されています。128GBモデルの販売価格が500ドルであることを考えると、Metaはハードウェアでほとんど利益を出していないか、場合によっては損失を出している可能性があります。CEOのマーク・ザッカーバーグも、できるだけ多くのユーザーを獲得するため、原価またはsubsidy(補助金付き)でデバイスを販売し続ける計画だと明言しています。
この価格戦略は、ハードウェア販売から利益を得る必要があるAsusやLenovoにとって参入障壁となります。プラットフォーム提供者自身が超低価格で自社ハードウェアを販売する中、サードパーティメーカーが競争力のある価格設定を行うことは極めて困難です。一方、Googleは現時点で自社ハードウェアでパートナー企業と直接競合していないため、Android XRはハードウェアメーカーにとってより魅力的な選択肢となっています。
長期的な視点では、この決定はMetaがReality Labsの事業を持続可能にするための戦略転換の一環と見ることができます。同社は製品の品質向上により多くの時間をかける方針に転換しており、Vision Pro競合機の2027年への延期や、将来のゲーミングヘッドセットの価格引き上げも検討されていると報じられています。これは短期的な市場シェア拡大よりも、収益性と製品完成度を重視する方向性を示唆しています。
【用語解説】
Horizon OS
Metaが開発したVR/XRヘッドセット向けのオペレーティングシステム。元々Quest専用だったOSをサードパーティにも開放する戦略の一環として2024年にリブランディングされた。
Android XR
Googleが2024年12月に発表したXRデバイス向けの統一プラットフォーム。スマートグラスからVRヘッドセットまで幅広いデバイスをサポートし、既存のAndroidエコシステムを活用できる。
【参考リンク】
Meta Quest 公式サイト(外部)
Metaの最新VR/MRヘッドセット製品ラインナップ、技術仕様、対応アプリケーション、開発者向けリソースなどを提供。Horizon OSの詳細情報も掲載されている。
Reality Labs 研究開発情報(外部)
MetaのReality Labsによる最新研究、技術デモ、プロトタイプ、将来ビジョンに関する情報を公開。AI、VR、AR、触覚技術などの研究成果を紹介している。
Apple Vision Pro 公式サイト(外部)
Appleの空間コンピューティングデバイスVision Proの製品情報、VisionOSの機能、対応アプリケーション、技術仕様などを掲載している。
【参考記事】
Meta “Pauses” Third-party Headset Program, Effectively Cancelling Horizon OS Headsets from Asus & Lenovo – Road to VR(外部)
Metaがサードパーティ製Horizon OSヘッドセットプログラムを一時停止したことを報じる原典記事。AsusとLenovoのヘッドセット開発が事実上中止され、Android XRの登場が戦略転換の要因となった背景を詳細に分析している。
Meta pauses third-party Horizon VR headsets program – The Verge(外部)
Metaの広報担当者からの公式声明を含む報道。同社が自社製ハードウェアとソフトウェアの構築に注力する方針に転換したことを確認し、プログラム再開の可能性についても言及している。
Third-Party Horizon OS Headsets, Including Asus ROG, Paused Indefinitely – UploadVR(外部)
AsusのROGブランドによるゲーミング特化ヘッドセットやLenovoの生産性向けデバイスなど、具体的な製品計画が中止された詳細を報じている。業界関係者の反応も掲載。
Google Reveals 3-Tier XR Glasses Strategy for 2026-2027 – Virtual Reality News(外部)
GoogleのAndroid XR戦略の詳細を報じる記事。2026年から2027年にかけて3段階でAIグラス、ディスプレイグラス、ヘッドセットを展開する計画を解説している。
Is Meta Quest 3 subsidized? One analysis suggests so – Mixed News(外部)
Quest 3の部品コストと製造コストの詳細分析。中国のアナリストグループによる推定では、総コストが販売価格に近く、Metaがハードウェアでほとんど利益を得ていない可能性を示唆している。
Zuckerberg: Meta Will Continue To Subsidize Headset Cost – UploadVR(外部)
Mark ZuckerbergがMetaのハードウェア補助金戦略について語ったインタビュー記事。できるだけ多くのユーザーを獲得するため、原価または補助金付き価格でデバイスを販売し続ける方針を明言している。
【編集部後記】
Quest一社体制に戻りつつある流れは、Android XRやVisionOSが広がる中で、どんなエコシステムの分岐を生むのでしょうか。価格補助前提のハード戦略と、巨大アプリストア連携の発想、どちらが長期的にユーザー体験を豊かにするのか。AsusやLenovoのようなプレイヤーが、今後どこでどんなXRデバイスを出してきたらワクワクするか、少し具体的にイメージしてみたくなります。































