AlibabaのQwen C-end Business Groupは12月22日、Quark AI Glassesの新モデル2種の予約注文を開始した。エントリーモデルのG1ファッション眉フレームは1,999元からと低価格ながら、フラッグシップS1シリーズと同等のハードウェア仕様を搭載している。
G1はデュアルフラッグシップチップ、デュアルシステム、bone conduction technology（骨伝導技術）を備えた5マイクアレイ、large-diaphragm speaker（ラージダイアフラムスピーカー）などを装備する。Qwen AIアシスタントが統合され、音声Q&A、リアルタイム翻訳、情報クエリ、インテリジェント撮影などの機能を提供する。S1シリーズには新たにラウンドフレームの鼈甲色オプションが追加され、選択肢が拡大した。
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Qwen accelerates into AI hardware: Two new Quark AI glasses launched, starting at 1999 yuan
【編集部解説】
AlibabaがAIグラス市場に参入した背景には、Meta Ray-Banスマートグラスの成功があります。EssilorLuxotticaのデータによれば、Meta Ray-Banの売上は過去1年間で3倍に成長しており、AIを搭載したウェアラブル端末への消費者需要が実証されています。市場調査では、AIグラスの出荷台数が2026年には1,000万台に倍増すると予測されており、この成長市場でAlibabaは価格競争力を武器にシェア獲得を狙います。
技術面で注目すべきは、Qwen大規模言語モデル（large language model）の実績です。Qwenはすでに4億回以上ダウンロードされ、14万以上の派生アプリケーションが開発されています。12月18日にはAmapとの統合が発表され、日々1,000億回以上のAPIコールを処理する空間インテリジェンスエンジンと、2億以上のpoint of interest（POI、関心地点）データベースにアクセス可能になりました。これにより、Qwen AIグラスは単なる音声アシスタントを超え、リアルタイムの地理空間データに基づいた実用的なソリューションを提供できるようになります。
Alibabaは「Everything in One」モデルを採用し、コマース、決済、地域サービスを単一のAIエントリーポイントであるQwenに集約する戦略を推進しています。これはGoogleの「One in Everything」アプローチ、つまりGeminiを複数の独立したアプリに組み込む戦略とは対照的です。Taobao、Alipay、Fliggy、Amapといった自社エコシステムへのシームレスな統合は、中国市場においてMetaにはない競争優位性となります。
一方で、AIグラスには重大なプライバシーリスクが存在します。カメラフィードを通じた顔認識、AI文字起こしによる声紋キャプチャ、視線追跡と視線分析、個人を識別可能な画像処理など、生体情報（biometric data）の収集機能が強化されているためです。カリフォルニア州消費者プライバシー法（CCPA）、イリノイ州生体情報プライバシー法（BIPA）、EUの一般データ保護規則（GDPR）では、生体情報に対して厳格な保護が求められています。2025年にはEUでAIスマートグラスのプライバシー懸念に関する審査が加速しており、より明確なラベリング要件と厳しいプライバシー管理が製造業者に課される見込みです。
【用語解説】
Qwen（通義千問）
Alibaba Cloudが開発した大規模言語モデル。4億回以上ダウンロードされ、14万以上の派生アプリケーションが開発されている主力AIモデル。
骨伝導技術（bone conduction technology）
音を骨を通じて内耳に伝える技術。耳を塞がずに音声を聞けるため、周囲の音も同時に認識でき、安全性と利便性が高い。
ラージダイアフラムスピーカー（large-diaphragm speaker）
大型振動板を持つスピーカー。より広い周波数帯域と豊かな低音再生が可能で、高品質なオーディオ体験を実現する。
POI（Point of Interest）
地図上の関心地点を示すデータ。店舗、施設、観光地などの位置情報とメタデータで構成され、位置情報サービスの基盤となる。
Amap（高德地図）
Alibaba傘下の中国最大級のマッピングサービス。日々1,000億回以上のAPIコールを処理し、2億以上のPOIデータベースを保有する。
生体情報（biometric data）
個人を識別可能な生物学的特徴データ。顔認識、声紋、虹彩、指紋などが含まれ、プライバシー法で厳格な保護対象となっている。
BIPA（Illinois Biometric Information Privacy Act）
イリノイ州生体情報プライバシー法。米国で最も厳格な生体情報保護法の一つで、収集前の明示的同意と厳格な管理を企業に義務付ける。
【参考リンク】
Alibaba Cloud – Qwen公式ページ（外部）
Alibaba Cloudが提供するQwen大規模言語モデルの公式情報。APIドキュメント、技術仕様、活用事例、開発者向けリソースが掲載されている。
Quark（夸克）公式サイト（外部）
AlibabaのQuarkブランド公式サイト。検索エンジン、ブラウザ、AIグラスなどの製品情報を提供している中国語サイト。
Alizila – Alibaba Group公式ニュースサイト（外部）
Alibaba Groupの公式ニュースプラットフォーム。企業戦略、製品発表、技術革新に関する一次情報を英語で発信している。
【参考記事】
Alibaba Quark AI Glasses vs Meta Ray-Bans: The battles（外部）
Alibaba Quark AI GlassesとMeta Ray-Banの詳細な比較分析。Qwenモデルが4億回以上ダウンロードされ14万以上の派生アプリを生み出している実績、Meta Ray-Banの売上が過去1年で3倍成長した市場動向、両製品の技術仕様と価格戦略の違いを解説している。
Alibaba’s AI Assistant “Qwen” Integrates Amap, Kicking Off Ecosystem Integration Strategy（外部）
QwenとAmapの統合戦略を詳述。日々1,000億回以上のAPIコールを処理する空間インテリジェンスエンジンと2億以上のPOIデータベースへのアクセス、Alibaba「Everything in One」モデルとGoogle「One in Everything」アプローチの戦略的相違を分析している。
Alibaba takes on Meta with $500 AI smart glasses（外部）
AlibabaのAIグラス市場参入の背景を報告。市場調査によるAIグラス出荷台数が2026年に1,000万台へ倍増する予測、中国市場におけるTaobao、Alipay、Fliggy、Amapとの統合による競争優位性を指摘している。
The Hidden Legal Minefield: Compliance Concerns with AI Smart Glasses（外部）
AIグラスに関する法的リスクを分析。カメラフィードによる顔認識、AI文字起こしでの声紋キャプチャ、視線追跡と分析、個人識別可能な画像処理など生体情報収集機能の強化、CCPA、BIPA、GDPRによる厳格な保護要件を解説している。
AI Smart Glasses Raise Significant Privacy Concerns Sparks EU Review in 2025（外部）
EUにおけるAIグラスのプライバシー審査動向を報告。2025年に加速する規制強化、製造業者に課される明確なラベリング要件と厳格なプライバシー管理、消費者保護の観点からの新たな規制枠組みの可能性を論じている。
【編集部後記】
1,999元という価格設定は、AIグラス市場の転換点となるかもしれません。Meta Ray-Banが席巻するAIグラス市場において、半額近い価格でフラッグシップ級の仕様を提供する戦略は興味深いものがあります。ただし、常時装着するデバイスが顔認識や声紋を収集し続けることへの社会的合意は十分でしょうか。EUでは2025年に規制強化が進む一方、中国市場ではAlibabaエコシステムとの統合が急速に進んでいます。価格破壊とプライバシー保護、利便性と監視リスク—この相反する要素をどう調和させていくのか、AIウェアラブルの未来を占う試金石となりそうです。
