(アイキャッチ撮影:innovaTopia編集部)
VRの没入感は、映像のリアルさだけで決まるわけではありません。手を動かしたときや道具を使った時に「返ってくる感覚」があるかどうか。反動や抵抗、慣性といった力学が身体に届いた瞬間、仮想空間は急に現実味を帯びます。
Diver-X株式会社(以下:Diver-X)が開発している「EXOS(エクソス)」シリーズは、そうした力学を含むフィードバックを、身体側に返すことを目指した取り組みです。本稿では現時点の体験をもとに、EXOSの中でも手首用デバイスで得られた感覚と、そこから見えてきた可能性を整理していきます。
Diver-X 会社紹介
Diver-Xは、VR領域の入力デバイスやトラッキング関連技術を中心に、研究開発と製品展開を行っている企業です。一般向けにはグローブ型VRコントローラー「ContactGlove」シリーズなどを展開し、手の入力体験を高めるアプローチを続けてきました。あわせて、用途に応じた周辺デバイスの取り扱いや、法人向けのオーダーメイドデバイス開発なども手がけています。
Diver-X公式サイト
製品販売ページ
Diver-Xが新たに本格化させる領域が、力触覚(フォースフィードバック)です。Diver-Xは、力触覚提示デバイス「EXOS」シリーズに関する事業ライセンスを、株式会社クロステック・マネジメントから2025年12月1日に取得したと発表しました。
EXOSシリーズはもともと、exiii株式会社によって、VR空間でCGの物体に触れた際の反力を再現する外骨格型デバイスとして開発されました。その後、exiiiの解散に伴いクロステック・マネジメントが継承していたところ、Diver-Xが当該ライセンスを取得し、事業として引き継ぐ形になっています。
ライセンス取得の対象には、関連知的財産一式に加え、「EXOS Wrist(手首の動作に力触覚を与えるデバイス)」「五指触覚グローブ(指先の感触を再現するグローブ型デバイス)」「Hand Unit(ロボットハンド等の基盤ユニット)」が含まれます。
今回体験したのはこのうちEXOS Wristであるため、本稿のレビューも手首側の力触覚に焦点を当てた内容になります。本来EXOSは、指先側のフィードバックデバイスも含む構成ですが、現時点では開発中のため、いくつか課題が残っており、製品版に向けての改良を進めているとのことでした。
EXOS Wrist体験レビュー
※今回体験したデバイスは開発中のものとなります。製品化の際には、仕様の一部が変更されている場合があります。


EXOS Wristは2軸の可動部によって、手首を手のひら側、手の甲側に曲げる(掌屈・背屈)動作と、親指側、小指側に曲げる(橈屈・尺屈)動作を再現します。
重さは約350gと、手で持つとやや重いのですが、使用時は腕にバンドでしっかり固定してある分、そこまで気になりませんでした。
状況に合わせて素早く、力強い反動を感じさせる反面、安全性や長時間の使用には十分考慮して設計されているため、デモ体験後でも、痛みや不快感、疲労などは特に感じませんでした。
フィードバックが働かないニュートラルの状態では可動部は抵抗なく動くため、通常の操作に影響が出ることもありません。
手に接する部分は汗を吸わない素材でできており、取り外せば水洗いすることもできるため衛生的です。
これを装着したうえで、別途VR用のコントローラーを手に持って操作します。
最初に、銃を撃つ体験を行いました。
トリガーを引いた瞬間、銃身が跳ねあがるかのように、手首が親指側に強く引かれるのを感じました。
安全のために、極端に強い力をかけられることはありませんが、十分に銃を撃った感覚だと認識できました。
発砲というアクションは、音や煙、マズルフラッシュ(発砲時に銃口から出る光)など、視覚、聴覚でもわかりやすい反応を演出できますが、手元に伝わる反動はより臨場感がありました。
このデモではハンドガンのみでしたが、オブジェクトごとに細かく設定することが可能です。例えば、様々な銃が登場するようなゲームにおいて、武器ごとに反動の大きさや向きに違いがあったり、連射したときのブレ、ライフルやショットガンなどの大型銃を撃った時の再現度が高ければ、より爽快感を高めてくれるでしょう。
次はドライバーを握り、ネジをドライバーでねじ込むといった動作を行いました。
ドライバーを握り、コントローラーのトリガーを引くと、軽い振動が手全体に伝わります。そのまま先端をネジ山に当てると少し強い振動がおきました。
そのままネジを最後まで差し込むと、振動はさらに強くなり、モーターの駆動音と合わさって、ネジが最後まで刺さった時の感覚がリアルに感じられました。ただ振動するだけでなく、状況に合わせてその強さが変わるため、ちゃんと最後まで回せたということが直感的に理解できます。
この振動も、よくあるバイブレーションではなく、2軸の可動部が細かく往復することで発生させています。細かいパターンを設定することでただの振動だけでなく、例えば「異常な手ごたえ」や「違和感」を設定することもできます。
VR空間上ではどうしても得られる情報が少なくなる中、「ちゃんと動作として成立した、完了した」というフィードバックを詳細に得られるのは画期的だと思いました。
続いて、モーニングスター型のオブジェクトを振り回す体験もしました。
これは特に印象的で、持ち手を振り始めると、鎖の先端についた球体の質量が生み出す慣性が明確に伝わってきます。
回転する球の位置に合わせて、2軸あるモーターがなめらかに動作し、手にかかる力の方向を忠実に再現していました。ドライバーがねじに触れる、銃のトリガーを引くといった単純な動作だけでなく、鉄球の位置とスピードという複雑な演算にも対応できるのは素晴らしいと思いました。
高速で回しても、キュイキュイと大きなモーター音を鳴らしながらではありましたが、しっかりと動作していました。激しい動きにも対応しつつも、手首に無理な力がかかることはありませんでした。
今回使用したコントローラーはサードパーティ製のものでしたが、EXOS Wristが手のひらにバンドを巻き、手の甲側までデバイスが覆うという関係で、コントローラーを正しい位置で握り続けるのが難しく、トリガー操作などがしにくくなるなどの難点も目立ちました。今後、多くの環境で快適に操作できるような改良が待ち望まれます。
そのほか、凹凸のある箱を触ったり、ボタンを押すといったデモもありましたが、コントローラーを握ったままでなければならない状態で、さらにフィードバックが来るのが手首のみというのがネックでした。
これまでの、特定の道具を握った状態と、コントローラーを握らなければならないという制約は相性が良かったのですが、主に指先が重要になる「触る」というアクションでは、手首用デバイスとしての限界を感じました。


また、手首の動きにはEXOSが再現している掌屈・背屈、橈屈・尺屈だけでなく、手のひらを回す(回内・回外)の動きもありますが、これは、上記の2つの動作が手首を軸にしているのに対し、腕の中の2本の骨(橈骨・尺骨)が肘を軸にしてねじれるように、前腕(肘から先)全体で回る動きなので、外部のデバイスで制御するためには大掛かりになってしまいます。
手首のやや腕側をしっかりと、強く握った状態だと、骨が動けなくて手首が回せないのがわかりやすいと思います。この動きを制御するには、前腕ではないところに軸を用意する必要があるのです。
EXOSの未来
EXOS Wristが提示していたのは、振動の強弱といった単純な触感というより、手首に返ってくる反力や抵抗、慣性といった「力学」でした。こうした力学が加わると、VR空間の出来事が視覚だけの演出ではなく、身体の経験として理解できます。
コンシューマー向けでは、ゲーム体験やVRへの没入感の底上げが分かりやすい価値になります。銃の反動や道具の抵抗が身体に返ってくれば、プレイヤーは操作結果を視覚だけでなく、身体の納得感として受け取れます。
トリガーを引いても銃を撃った反動がなければ、弾切れなどで発砲できなかったとすぐに気付けるでしょう。武器が敵に当たった手ごたえが返ってくれば、自分の操作がちゃんとゲーム内のアクションとして成立していることがよりわかりやすくなり、ゲーム体験を高めてくれます。
一方、ビジネス向けでは、産業や医療の現場におけるOJTや訓練シミュレーションへの応用を目指しています。現場で重要になるのは、手順の暗記だけではなく、力の入れ方やタイミング、道具の扱い方といった「身体で覚える部分」です。視覚・聴覚だけでは伝えにくい要素を、反力や抵抗として返せるようになれば、訓練の質や再現性を高める手がかりになります。
また、遠隔操作(テレオペレーション)のように、実機と操作感がずれる場面でも、身体感覚の差を埋める技術としても開発されています。重機などの遠隔操作では、動かしている物体の重さによって変化するレバーの重さを再現したり、何かと衝突しそうになった時に適切なフィードバックを返すことで安全性を高めることができます。
こうしたフィードバックはその場で自動的に処理されるものではなく、事前にオブジェクトやアクションごとに細かく設定しなければなりませんが、Diver-Xはこのフィードバック設定もソリューションとして提供しています。
ビジネスシーンでは、一度設計してしまえば、デバイスを用意するだけで何人も同時に訓練することができます。仮に、大型の機械や、特定の設備など、同時に使用できる人数や、時間帯などが限られたシチュエーションでも、基礎的な訓練ならば、制約を気にすることなく、繰り返し学習することができます。
今回は体験することはできませんでしたが、指先用のデバイスも開発が進めば、物体の細かな形状を感じ取れたり、医療の現場など、より細やかな手作業が求められる領域でも精密なフィードバックを得られる可能性があります。
さらに、Diver-XはフィジカルAI分野への応用を狙っています。設計されたフィードバックがデータとして蓄積していけば、それを学習したAIがより複雑な作業や危険な作業、製造ラインなどの自動化を進める。そんな未来への第一歩でもあるのです。

手先という人体の優れたセンサーをどう納得させるのか、あるいは錯覚させるのかというのはまだまだ研究段階ですが、どのような発展を遂げるのか、注目の分野です。







































