Sandbox VRは2026年2月12日、欧州を米国・カナダと並ぶ中核的成長エンジンとして位置づけるグローバル展開の加速を発表した。直近でオーストリア・ウィーンに新施設をオープンし、欧州6か国(ドイツ、イングランド、アイルランド、スイス、イタリア、オーストリア)で19拠点を展開している。
世界全体では70以上の拠点に拡大しており、過去1年間の新規オープンの半数以上が欧州で実施された。欧州展開はドイツ企業Next Level Erlebnisseが牽引しており、同社はSandbox VR最大のフランチャイジーである。コンテンツ面では、Netflixとの提携による『Squid Game Virtuals』が2023年のリリース以来累計売上5000万ドルを突破。
今春にはNatural History Museum of Londonとの提携による『Age of Dinosaurs』のローンチを予定している。
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Sandbox VR Fuels Global Expansion, Establishing Europe as a Core Growth Engine
【編集部解説】
今回の発表は、ロケーションベースVR(LBVR)業界のリーダーであるSandbox VRが、欧州市場を本格的な成長基盤として確立しつつあることを示すものです。
Sandbox VRの体験は、家庭用VRヘッドセットとは根本的に異なります。同社は、ハリウッド映画制作にも使われるモーションキャプチャーカメラ、全身に装着する3Dボディトラッカー、触覚フィードバック付きのハプティックベストを組み合わせた独自のフルボディVRプラットフォームを開発しています。最大6人のグループが同じ仮想空間に入り、互いの動きをリアルタイムで確認しながら協力・対戦できるという点が、自宅では再現できない体験価値の核心となっています。
LBVR市場全体の成長も、Sandbox VRの拡大を後押ししています。複数の市場調査会社の推計によると、ロケーションベースVR市場は2025年時点で数十億ドル規模に達しており、多くのレポートが2030年代初頭にかけて年平均20〜35%程度の成長率を予測しています。家庭用VRヘッドセットの普及が当初の期待ほど進まなかった一方で、施設型の没入体験への消費者需要は着実に拡大しているという構図が見えてきます。
欧州展開において注目すべきは、フランチャイズモデルの活用です。ドイツのNext Level Erlebnisseは2023年にSandbox VRと10拠点の拡大契約を締結し、アルスフェルトやヴィースバーデンでの実績をもとにドイツ国内外で急速に展開を進めています。もう一つのパートナーであるRoyal Casino DGS GmbHはハンブルク、ベルリン、オスナブリュックの3拠点を運営しています。さらにイタリアではImmexia Srlが独占フランチャイズ権を取得し、最大40拠点の展開に向けて6000万ユーロ以上の投資を計画しています。
コンテンツ戦略もSandbox VRの差別化要因として重要です。Netflixとの提携による有名IPの活用は、単なる技術デモではなく、物語性のある体験として幅広い層を惹きつけることに成功しています。今春ローンチ予定の『Age of Dinosaurs』は、ロンドン自然史博物館との提携によるエデュテインメント(教育×娯楽)コンテンツであり、ファミリー層への訴求を狙った戦略的な一手と位置づけられます。
一方で、この業界にはリスクも存在します。かつてディズニーとも提携していたThe VOIDが経営破綻した事例は、施設運営の固定費負担が重い業態であることを示しています。フランチャイズモデルはこのリスクを分散させる有効な手法ですが、体験品質の均一性をいかに維持するかが長期的な課題となるでしょう。
また、資金調達面では、同社のプレスリリースでは累計調達額を1億3800万ドル以上としていますが、Tracxnが1億1900万ドル、PitchBookが1億2700万ドルとするなど、各種データベースの数値にはばらつきが見られます。2025年1月には680万ドルの転換社債による調達が確認されており、積極的な拡大戦略を支えるための資金需要が継続していることがうかがえます。
より広い視点で見ると、Sandbox VRの欧州進出は「体験経済」の潮流と合致しています。ミレニアル世代やZ世代を中心に、モノよりもコトへの消費志向が強まる中、高品質な没入型体験を提供するLBVR施設は、映画館やボウリング場に代わる新たなグループエンターテインメントの選択肢として定着しつつあります。博物館や文化施設との連携によるエデュテインメントの展開は、エンターテインメントの枠を超えた社会的価値の創出にもつながる可能性を秘めています。
【用語解説】
ロケーションベースVR(LBVR)
自宅ではなく、専用の施設(VRアーケード、テーマパーク、体験施設など)で提供されるバーチャルリアリティ体験の総称である。施設側が高性能な機材と専用コンテンツを用意し、来場者はヘッドセットやトラッカーを装着して没入体験を行う。家庭用VRでは実現が難しいフルボディトラッキングやハプティクス(触覚フィードバック)を組み合わせた高品質な体験を特徴とする。
フルボディVRプラットフォーム
手や頭だけでなく、手首、足首、胴体など全身の動きをモーションキャプチャーカメラとセンサーで追跡し、仮想空間内のアバターにリアルタイム反映させる技術基盤のこと。Sandbox VRはハリウッド映画制作にも使われるモーションキャプチャー技術とハプティックベスト(振動による触覚フィードバック付きベスト)を組み合わせた独自プラットフォームを開発している。
フランチャイズモデル
ブランドや事業ノウハウ、技術プラットフォームを本部(フランチャイザー)が提供し、各地域のパートナー企業(フランチャイジー)が施設を運営する事業展開の手法である。Sandbox VRは直営とフランチャイズの両方を組み合わせて世界展開を進めている。
IPパートナーシップ
知的財産権(Intellectual Property)を保有するエンターテインメント企業との提携のこと。Sandbox VRの場合、Netflixの人気シリーズ(『Stranger Things』『Squid Game』など)をVR体験コンテンツとして独占的に展開する権利を取得している。
エデュテインメント
教育(Education)と娯楽(Entertainment)を組み合わせた造語である。『Age of Dinosaurs』のように、楽しみながら学びを得られるコンテンツ形態を指す。
【参考リンク】
Sandbox VR 公式サイト(外部)
世界70以上の拠点でフルボディトラッキングとハプティクスを組み合わせたグループ向け没入型VR体験を提供。予約も可能。
Sandbox VR フランチャイズ情報(外部)
Sandbox VRのフランチャイズプログラムに関する情報ページ。参加条件や事業モデルの詳細を掲載している。
Next Level Erlebnisse × Sandbox VR 戦略的拡大契約(Business Wire)(外部)
2023年12月にドイツ国内10拠点の拡大契約を締結した際のプレスリリース。世界最大のフランチャイジーである。
Natural History Museum, London(ロンドン自然史博物館)公式サイト(外部)
英国ロンドンに所在する国立博物館。『Age of Dinosaurs』コンテンツの制作パートナーで恐竜研究の世界的権威。
Netflix 公式サイト(外部)
『Stranger Things』『Squid Game』等でSandbox VRとIPパートナーシップを結ぶ世界最大級のストリーミングサービス。
Andreessen Horowitz(a16z)によるSandbox VR投資発表(外部)
シリーズA投資を主導した米大手ベンチャーキャピタルによる公式アナウンス。ビジョンや技術背景を詳しく解説。
【参考記事】
Next Level Erlebnisse and Sandbox VR Announce Strategic Expansion with Ten New Locations(外部)
2023年12月、ドイツ国内10拠点の拡大契約を発表。2026年末までに全拠点の運営開始を予定している。
Sandbox VR Adds Italy to its Roster of Global Locations with New Treviso Venue, Now Open(外部)
2026年1月、イタリア初拠点がトレヴィーゾにオープン。Immexia Srlが6000万ユーロ以上を投じ最大40拠点を計画。
From Zero to $200 Million: The Sandbox VR Story(外部)
累計売上2億ドル突破の経緯を分析。2024年単年の売上は7500万ドル超、83のフランチャイズユニット販売実績も紹介。
What You Need to Know About Sandbox VR’s New Funding and Its Implications(外部)
2025年1月の680万ドル転換社債による資金調達を分析。LBVR業界の投資環境と資金調達戦略の課題を解説。
Location Based Virtual Reality Market(Mordor Intelligence)(外部)
LBVR市場を分析した調査レポート。2025年の市場規模21億ドル、2031年には106.9億ドル到達と予測(CAGR 31.2%)。
Sandbox VR targets European growth(InterGame)(外部)
アミューズメント業界専門メディアによる報道。ウィーン開業と欧州6か国19拠点への拡大を業界視点から伝えている。
Sandbox VR — Tracxn Company Profile(外部)
Sandbox VRの企業データを掲載。累計調達額を4ラウンド合計1億1900万ドルとしており、調達額のクロスチェックに使用。
【編集部後記】
VR体験と聞くと、自宅でヘッドセットを被って一人で遊ぶ姿を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、Sandbox VRが提供しているのはまったく異なる体験です。友人や家族と一緒に施設へ足を運び、全身にセンサーを装着して仮想世界に入り込む。仲間とハイタッチしたり、背中合わせで敵を迎え撃ったりといった「身体を使った共有体験」は、画面越しのオンラインゲームでは決して得られないものです。
今回の欧州6か国19拠点への拡大は、こうした施設型VR体験への需要が、北米だけでなく欧州でも本格的に立ち上がりつつあることを示しています。日本にはまだSandbox VRの拠点はありませんが、世界的なLBVR市場の急成長を考えれば、アジア太平洋地域へのさらなる展開も視野に入ってくるでしょう。テクノロジーが「体験」そのものを変えていく最前線として、引き続き注目していきたい動きです。






































