ヨーロッパ発・没入型アート「リュミエール」が有明へ─世界10拠点目の没入型デジタルアートが有明に開く

没入型アートの市場が、静かに、しかし着実に広がっています。チームラボが世界規模での展開で証明してきた「体験としてのアート」の需要に応えるように、今度はヨーロッパ発の異なるアプローチが日本に上陸します。フランスで誕生し、世界に拠点を持つ「ATELIER DES LUMIÈRES」の系譜を受け継ぐ施設が、東京・有明に6月に開設されます。光と古典芸術の融合というチームラボとは対照的な文脈で、没入体験の新たな選択肢が生まれようとしています。


テレビ朝日は6月12日(金)、東京ドリームパーク(東京都江東区有明)8階に没入型デジタルアート施設「RÊVE DES LUMIÈRES(レーヴ・デ・リュミエール)」をグランドオープンする。最大天井高8m、約1,500㎡の空間に106台の高精細プロジェクターと63台のスピーカーを配し、光と音が融合する没入体験を提供する。

フランス発の「ATELIER DES LUMIÈRES(アトリエ・デ・リュミエール)」を発祥とするリュミエールシリーズの世界10拠点目として日本初上陸。施設は7ゾーンで構成され、メインホールではメインプログラム(約40分)とショートプログラム(約10分)を上演。主催はテレビ朝日、企画はCulturespaces STUDIOが担う。

From: 文献リンク世界的ブランドの本格デジタルアート施設「RÊVE DES LUMIÈRES」6月12日(金)グランドオープン決定!|PR TIMES

【編集部解説】

プレスリリースには「日本初上陸」「世界10拠点目」と書かれています。事実としてはその通りなのですが、その短い言葉の背後には、ヨーロッパで生まれた一つの事業モデルが世界に拡張する流れと、日本の没入型アート市場の現在地、そしてテレビ朝日というメディア企業の事業転換が重なり合っています。

ATELIER DES LUMIÈRESという「光と古典の系譜」

リュミエールシリーズの本家であるATELIER DES LUMIÈRESは、2018年4月にパリ11区の旧鋳造所を改装してオープンした没入型デジタルアート施設です。運営するCulturespacesは1990年にBruno Monnier氏が設立したフランスの文化事業会社で(コンテンツ制作はCulturespaces STUDIOが担う)、もともとパリのアヴィニョン法王庁宮殿などの管理などからスタートしています。

彼らが「AMIEX(Art & Music Immersive Experience)」と名付けて商標登録した没入展示の手法は、いきなりパリで生まれたわけではありません。2012年にプロヴァンスの旧採石場「Carrières des Lumières」でゴッホとゴーギャンを題材にした展示を行ったのが、事業としての原型でした。鉱山、鋳造所、潜水艦基地、銀行跡——使われなくなった産業遺構や歴史的建造物の壁と床を、巨大なスクリーンに変える。歴史ある空間にクラシックの巨匠を解き放つという発想が、彼らのDNAです。

東京・有明のRÊVE DES LUMIÈRESは、その系譜を継ぐ世界10拠点目にあたります。Culturespaces公式サイトのネットワーク一覧で確認すると、Paris(Atelier)、Bordeaux(Bassins)、Les Baux-de-Provence(Carrières)、New York(Hall)、Amsterdam(Fabrique)、Dortmund(Phoenix)、Hamburg(Port)、Seoul(Théâtre)、Jeju(Bunker)と並び、Tokyoが10番目として加わるかたちです。

ただし、一つ補助線を引いておく必要があります。これらの拠点では基本的に同じプログラム(クリムト、ゴッホ、シャガール、ダリなど)を世界共通のコンテンツとして巡回上映する方式が採られています。このフォーマット性は、後述するチームラボのアプローチと対照的な意味を持ちます。

チームラボとの違いは「優劣」ではなく「アプローチ」

国内の没入型アート市場で圧倒的な存在感を放つのがチームラボです。東京の2施設(豊洲のプラネッツと麻布台のボーダレス)の2025年通年来館者数は合計で約420万人に達しています。プラネッツが約251万人、麻布台ボーダレスが約169万人。麻布台ボーダレスでは訪日外国人比率が約65%に達し、来館者の約25%が「チームラボボーダレスを目的に訪日した」と回答しているほど、目的地としての引力を持っています。

両者を「同じ没入型アート」と並べて比較したくなりますが、出発点の哲学はむしろ正反対です。

リュミエールシリーズが扱うのは、すでに美術史に位置づけられた既存の作品群です。クリムトの絵画、ゴッホのひまわり、シャガールの色彩——文化的に確立された遺産を、巨大空間と音響でデジタル的に「再提示」します。誤解を恐れずに言えば、観客が体験するのは「絵画体験の拡張」であり、原作という参照点が常にあります。

一方のチームラボが手がけているのは、デジタルネイティブのオリジナル作品です。来館者の動きや存在に応じてリアルタイムに変化する作品群は、その場でしか発生しない一回性を持ちます。展示空間も会場ごとにゼロから設計され、麻布台のボーダレスと豊洲のプラネッツは別物として体験設計されています。

メタファーで言えば、リュミエールは「映画」に近く、チームラボは「演劇」に近い。どちらもエンターテインメントとしての強度を持ちますが、再生可能性と一回性、世界共通のフォーマットと土地固有の生成、参照と創作。観客が支払う2時間で得る体験の性質はかなり異なります。

どちらが優れているかではなく、何を体験させようとしているかの設計思想が違う。日本の市場には、まずこの選択肢が並んだという事実が新しいのです。

テレビ朝日が海外IPに賭けた背景

東京ドリームパークは、テレビ朝日が2023年3月に発表した中期経営計画「BREAKOUT STATION!」で示した「メディアシティ戦略」の中核として開発されました。「すべての価値の源泉はコンテンツにある」という理念のもと、自社IPを軸にしたリアルイベント事業を拡張する——これが表向きのストーリーです。

実際、開業時の目玉となったのは「100%ドラえもん&フレンズ in 東京」で、これはテレビ朝日が長く手がけてきた『ドラえもん』というIP資産のリアル展開でした。SGCホール有明では、こけら落とし公演としてB’z、山下達郎、サカナクション、湘南乃風などの音楽ライブが組まれており、放送局がこれまで音楽番組制作で培ってきたネットワークが活きています。

そのなかで、RÊVE DES LUMIÈRESはやや異質な存在に見えます。テレビ朝日が一から企画した自社IPではなく、フランスのCulturespaces STUDIOがコンテンツを提供する海外IPのライセンス展開だからです。

自社IPのリアル展開には限界もあります。アニメや音楽番組というIPは強力ですが、毎年新しい目玉コンテンツを供給し続けるには、調達源を多角化する必要があります。実績のある海外フォーマットを持ち込むことは、施設稼働率を安定させる現実的な選択でもあるはずです。報道によれば、テレビ朝日は東京ドリームパーク全体で初年度200万人以上の来場を見込んでいます。この数字を裏打ちするためには、自社IPと外部IPの組み合わせが現実的です。

放送局がリアルイベント事業に本格的に乗り出すこと自体は、テレビ朝日に限らず業界全体のトレンドでもあります。動画配信の隆盛で広告収入の構造が変化するなか、コンテンツ資産を放送以外のチャネルで現金化する動きは加速しています。RÊVE DES LUMIÈRESは、その流れのなかで「海外で実績のあるフォーマットを国内施設に組み込む」という一つのモデルケースになる可能性があります。

「目醒める」というコンセプトが指し示すもの

施設のコンセプトは「アートのシャワーで、目醒める。」です。この語の選び方には少し立ち止まる価値があります。

美術館の伝統的な体験は「鑑賞」、つまり対象を一定の距離から観察する行為でした。それに対してリュミエールシリーズもチームラボも、観客を作品の「内部」に置くという点で、距離を消去しています。「シャワーを浴びる」という比喩は、絵画を観るというより、絵画に「浸かる」という経験を指しています。

ここに没入型アート全般に対する美術批評の論点が潜んでいます。一部の美術批評家からは、没入型デジタルアートが原作の文脈や時代背景を切り離し、視覚的・音響的なインパクトを優先することで教育的な深みが失われるのではないか、という批判的な見方があります。原作という参照点を持ちながらも、それを圧倒的なスケールと音楽で包み直す体験が、どこまで芸術理解を深めるのか——という問いは、没入型アート施設が拡大するにつれて繰り返し浮上してきます。

これは批判として一面的かもしれませんが、論点としては残ります。クリムトの絵を巨大スクリーンに投影し、ワーグナーの音楽を流して感動するという体験は、美術館でクリムトの実物の前に立つ体験と何が違うのか。どちらが「正しい」アート体験なのか——という問いに、一つの答えはありません。

それでも残る問い

開業前の現時点では分からないことがいくつかあります。

第一に、入場料金が公表されていません。施設や時期によって異なりますが、欧州の拠点では十数〜20ユーロ前後の価格設定が多く見られます。東京での価格は明らかになっておらず、チームラボボーダレスやプラネッツとの比較で、価格戦略がどこに置かれるかは無視できない要素です。

第二に、第1弾プログラムはゴッホをテーマとした展示で、2025年9月の公式発表で明らかになっています。ゴッホの世界を没入体験で再解釈するコンテンツが予定されていますが、第2弾以降のプログラムは現時点では公表されていません。世界各拠点での過去の事例を見れば、クリムト、シャガール、ダリなどが続く可能性が高いと思われますが、東京独自の演出や日本向けのプログラム選択があるかどうかは、開業後に明らかになっていきます。

第三に、訪日外国人にとっての引力という論点があります。チームラボの強みは「東京でしか体験できない」ことに紐づいていました。これに対してリュミエールシリーズは、世界10都市で類似の体験ができる「世界共通フォーマット」です。海外からの来館者にとって、東京でわざわざRÊVE DES LUMIÈRESを訪れる動機が、パリでもニューヨークでも同じ体験ができるなかで、どう成立するか。日本独自の演出やプログラムが用意されるのか、現時点では情報がありません。

これらは批判ではなく、開業後に確かめていきたい論点です。テレビ朝日とCulturespaces STUDIOがこの10拠点目をどのように差別化するか——日本における没入型アート市場が「複数の選択肢が並ぶ市場」へと成熟していく過程として、観察する価値があります。

【用語解説】

ATELIER DES LUMIÈRES(アトリエ・デ・リュミエール)
フランスのCulturespacesが2018年4月にパリ11区の旧鋳造所を改装して開設した没入型デジタルアート施設。リュミエールシリーズの起点となった拠点で、年間約100万人が訪れる。施設名は「光のアトリエ」を意味する。

Culturespaces(キュルチュールスパス)
1990年にBruno Monnier氏が設立したフランスの文化事業会社。もともと歴史的建造物や美術館の運営受託からスタートし、2012年以降は没入型デジタルアートセンターの開発・運営に注力。コンテンツ制作部門は「Culturespaces STUDIO」として独立している。フランスにおける民間文化施設運営のリーディングカンパニー。

Carrières des Lumières(カリエール・デ・リュミエール)
プロヴァンス(レ・ボー=ド=プロヴァンス)の旧石灰岩採石場を活用した没入型デジタルアート施設。Culturespaces が2012年にデジタル没入展示を導入し、リュミエールシリーズの実質的な原型となった。壁・天井・床すべてに映像を投影する手法はここで確立された。

AMIEX(アミエックス)
「Art & Music Immersive Experience」の略。Culturespaces が商標登録した没入型展示のフォーマット名称。高精細プロジェクターで壁・床・天井を覆う大規模映像に、音楽を組み合わせて没入感を生み出す手法を指す。

RÊVE DES LUMIÈRES(レーヴ・デ・リュミエール)
施設名。フランス語で「光の夢」を意味する。東京・有明の東京ドリームパーク8階に2026年6月12日グランドオープン。リュミエールシリーズの世界10拠点目かつ日本初上陸となる施設。

BREAKOUT STATION!(ブレイクアウト・ステーション)
テレビ朝日グループが2023年3月に発表した中期経営計画(2023〜2025年度)の名称。「すべての価値の源泉はコンテンツにある」を基本理念に掲げ、コンテンツの360°展開と放送外収益の拡大を戦略の柱に据える。東京ドリームパークはこの計画における「メディアシティ戦略」の中核施設として位置づけられている。

【参考リンク】

RÊVE DES LUMIÈRES(公式)(外部)
東京・有明の施設公式サイト。チケット情報・プログラム詳細・アクセスはこちらから。

Culturespaces(公式)(外部)
リュミエールシリーズを展開するフランスの文化事業会社。世界各拠点の情報や事業沿革を掲載。

ATELIER DES LUMIÈRES・パリ(公式)(外部)
リュミエールシリーズの本拠地。パリで上映中のプログラムや拠点の成り立ちを紹介。

東京ドリームパーク(公式)(外部)
テレビ朝日が運営する複合型エンタテインメント施設の公式サイト。施設概要・イベント情報を掲載。

チームラボボーダレス(公式)(外部)
麻布台ヒルズの没入型デジタルアート施設。来館者数・外国人比率などの公式データを掲載。

チームラボプラネッツ(公式)(外部)
豊洲の没入型デジタルアート施設。2025年の年間来館者数約251万人の一次情報源。

【参考記事】

Our history | Culturespaces(Culturespaces公式)(外部)
Culturespaces の設立(1990年)からリュミエールシリーズの世界展開までの公式沿革。

Interview: Bruno Monnier on the Future of Digital Art Spaces(Paris Unlocked)(外部)
Culturespaces創業者へのインタビュー。没入型アートの発想の起源と世界展開の戦略を語る。

【編集部後記】

没入型アートと一括りにされがちですが、リュミエールとチームラボでは観客が浸かる「時間」の質が異なります。世界共通の名画を巨大空間で再生する体験と、その場限りの作品に身を置く体験。どちらに惹かれるか、惹かれる理由はどこにあるのか。複数の選択肢が並んだ東京で、私たちは自分が何に反応するのかを確かめられる時期に入っているのかもしれません。

投稿者アバター
乗杉 海
SF小説やゲームカルチャーをきっかけに、エンターテインメントとテクノロジーが交わる領域を探究しているライターです。 SF作品が描く未来社会や、ビデオゲームが生み出すメタフィクション的な世界観に刺激を受けてきました。現在は、AI生成コンテンツやVR/AR、インタラクティブメディアの進化といったテーマを幅広く取り上げています。 デジタルエンターテインメントの未来が、人の認知や感情にどのように働きかけるのかを分析しながら、テクノロジーが切り開く新しい可能性を追いかけています。