GMがキャデラック・コルベットに「Google Gemini」搭載へ|車内AIが日本上陸

[更新]2026年6月27日

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「”Hey Google”、いい感じの店に寄って」。そんな曖昧なひと言を、これからの車は理解して動き出します。決まったコマンドを覚える時代は終わり、助手席の誰かに話しかけるように、車そのものと会話する時代が始まろうとしています。その担い手としてGMが選んだのは、Googleの生成AI「Gemini」でした。北米で動き出したこの変化が、いよいよ日本のキャデラックとコルベットにもやってきます。便利さに胸が高鳴る一方で、ふと立ち止まりたくなる問いも残ります。賢くなった車は、私たちのどんな言葉を聞き、どこまで覚えているのでしょう


ゼネラルモーターズ(GM)は、北米に続き日本、オーストラリア、ニュージーランド、ヨーロッパ各国で、「Googleビルトイン」を搭載したすべてのキャデラックEVおよびコルベットを対象に、生成AI「Google Gemini」を順次導入する。

現行の「Googleアシスタント」からのアップグレードであり、自然言語処理と文脈認識機能を備える。「Gemini」はインフォテインメントシステム内で動作し、Amazon Music、Audible、Prime Video、Spotify、YouTubeなどの車載アプリと連携する。対象は2025年モデル以降のキャデラックEVおよび2026年モデル以降のコルベットで、アップデートは数カ月かけて段階的に配信される。

利用には、キャデラックまたはコルベットのコネクテッドサービスの無償トライアルまたは有償契約が有効であること、Googleアカウントへのサインイン、18歳以上であることなどの条件がある。対応言語は日本語を含む16言語である。

From: 文献リンクGM、キャデラックとコルベットに「Google Gemini」を導入

【編集部解説】

まず押さえておきたいのは、今回の日本展開が北米発表の続編にあたる点です。GMは2026年4月28日に米国で先行発表し、Googleは2026年4月30日付の公式ブログで、米国英語のユーザーから順次展開中と説明しました。GMの説明によれば米国の対象は約400万台(approximately 4 million)にのぼり、生成AIを量産車へ載せた展開としては業界でも最大級だとしています。

ただし、日本やオーストラリアなどへの展開は、米国より対象が絞られています。米国ではシボレー、ビュイック、GMC、キャデラックの2022年モデル以降が広く対象でしたが、日本では2025年モデル以降のキャデラックEVと、2026年モデル以降のコルベットに限られます。国内ではまず、プレミアム層に向けたショーケースとしての投入という位置づけになります。

ここで、日本の読者に補っておきたい文脈があります。GMは2023年、シボレー・ブレイザーEVなどを皮切りに、自社のEVからApple CarPlayとAndroid Autoを段階的に外してきました。スマートフォンの画面を映す方式をやめ、Google built-in(Android Automotive OS)を土台にした自前の車載体験へ移行する判断です。メアリー・バーラCEOは2025年、The Vergeのインタビューで、この方針をガソリン車を含む全車種へ広げると認めています。

この決断は強い反発も招いています。Appleは2022年の発表で「米国の新車購入者の79%がCarPlay対応車しか検討しない」と主張したと報じられており、廃止に否定的な意見も根強く示されてきました。慣れ親しんだCarPlayを捨てる代償は、決して小さくありません。

だからこそ今回のGeminiは、「賭けの見返り」として読むのが本質に近いと考えます。自前のシステムに、スマホ投影では実現しにくい体験を載せられて初めて、CarPlay排除の判断は説得力を持ちます。会話の文脈を保ったまま複数の用件を一度にこなし、車載アプリ・EV充電・車両マニュアルの情報まで横断して答える——これは、車そのものを「ソフトウェアで定義されるプラットフォーム」へ作り替える長期構想の入口なのです。

GMはこの基盤を、約30年かけて築いたコネクテッド網「OnStar」の上に置いています。Geminiはあくまで近い将来の一歩で、米国側の発表では、年内によりGM独自のデータで最適化したアシスタントを投入する計画も示されました。今日の話題は完成形ではなく、序章である点は強調しておきたいところです。

一方で、見過ごせないリスクも存在します。GMは2026年1月14日、運転者の精密な位置情報や運転挙動を十分な同意なく収集・販売していたとして、FTC(米連邦取引委員会)との和解命令が最終化されたばかりです(FTCの主張に基づく和解)。この案件ではデータが時に3秒ごとに収集されていたと指摘され、5年間は信用情報機関へのデータ提供が禁じられ、20年間にわたり明示的な同意取得が義務づけられました。

つまりGMは、車内データの扱いで信頼を損ねた直後に、コネクテッドサービスと結びついたクラウド連携型のAIを車内へ置こうとしているわけです。Geminiの利用条件にも「コネクテッドサービスの有効化」「Googleアカウントへのサインイン」が含まれ、利便性とデータ提供が表裏一体である構造は変わりません。日本では個人情報保護法の枠組みのもと、この同意設計がどこまで丁寧に運用されるかが、普及を左右しそうです。

規制と競争の観点でも示唆に富みます。これはフロンティアLLMを消費者向けハードウェアへ大規模に載せた先行事例であり、Apple CarPlayや各社独自の音声システムとの競争条件を塗り替える動きです。Google built-inを採用するボルボやポールスター、ホンダなどの追随も見込まれますが、GMの説明によれば台数規模では同社が先行しています。車が「走るスマートフォン」に近づくほど、車内AIの主導権争いと、その裏側のデータガバナンスは重みを増していきます。

手も視線も奪われずにAIと自然に対話できる車内は、これまでスマートスピーカーやスマホが取りこぼしてきた“移動中の数十分”を、新しい接点へと変えていきます。そこで主役になるAIを誰が握るのか——今回の発表は、その覇権争いが自動車の世界で本格化したことを告げる号砲だと、私たちは受け止めています。

【用語解説】

大規模言語モデル(LLM)
膨大なテキストで学習し、文脈を踏まえて文章を理解・生成するAIの基盤技術。Geminiもこれにあたる。解説中の「フロンティアLLM」は最先端級の大規模モデルを指す。

Googleビルトイン(Google built-in)
スマートフォンを接続せず、車両自体にGoogleマップやアプリ、音声機能を組み込む方式。Android Automotive OSを土台とする。

Gemini Live
自由で継続的な対話ができるGeminiの機能。「”Hey Google”、話そう」で起動する。提供時点ではベータ(試験)段階で、18歳以上が対象である。

コネクテッドサービス
車を通信網に常時接続し、ナビ更新や緊急通報などを提供する仕組み。GMの通信基盤「OnStar」がこれにあたる(日本向けでは「コネクテッドサービス」と表記)。利用には無償トライアルまたは有償契約が必要となる。

ソフトウェア・デファインド・ビークル(SDV)
車の機能をソフトウェアで定義・更新する考え方。販売後もOTA(無線)更新で性能や機能を追加できる。

【参考リンク】

GMジャパン ニュースルーム(外部)
今回の日本向け発表を掲載するGMジャパンの公式ニュースルーム。リリース内容や報道関係者向けの問い合わせ先を確認できる。

Google公式ブログ(車載Geminiの使い方)(外部)
Googleによる車載Geminiの公式解説。できることや、今後Gmail・カレンダー連携を広げる方針が具体例とともに記されている。

Google Gemini 公式(外部)
Googleの生成AI「Gemini」の公式ページ。対話型AIの機能や、利用を始めるための手順をまとめて確認できる。

OnStar「Google built-in」(外部)
GMのコネクテッドサービスが提供する車載Google機能の公式解説。Geminiを有効化するための条件も記載されている。

Apple CarPlay 公式(外部)
iPhoneの画面やアプリを車載ディスプレイに表示するAppleの規格。GMが自社EVから段階的に外した対象でもある。

Android Auto 公式(外部)
スマートフォンの画面を車載画面へ投影するGoogleの規格。CarPlayと並ぶ代表的なスマホ連携方式のひとつである。

キャデラック プレスルーム(日本)(外部)
日本向けキャデラックの公式プレスルーム。今回の発表に関する報道問い合わせ先のひとつとして案内されている。

シボレー プレスルーム(日本)(外部)
日本向けシボレーの公式プレスルーム。コルベットに関する発表や報道関係者向けの情報を確認できる。

個人情報保護委員会(外部)
日本の個人情報保護法を所管する行政機関。車内で集まるデータの取り扱いを考える際の参照先となる。

【参考記事】

★GM brings Google Gemini to millions of vehicles on the road(外部)
GMの公式リリース。米国で約400万台・2022年式以降が対象、OnStar基盤ゆえの規模との幹部発言や自社AI投入計画を伝える。

★GM rolling out Google’s Gemini to 4M vehicles in the US(WardsAuto)(外部)
約400万台が対象で初期は米英語のみ、2028年基盤がAI性能を最大35倍に高めるなど、数値面を詳しく整理した業界誌報道。

★Gemini replacing Google Assistant on Android Automotive for 4 million GM cars(9to5Google)(外部)
約400万台・2022年式以降という対象に加え、四色ライトバーのUIやGemini Liveの起動方法など操作面を詳述する。

FTC Finalizes Order Settling Allegations that GM and OnStar Collected and Sold Geolocation Data(FTC)(外部)
位置情報を時に3秒ごとに収集・無断販売したとし、5年の提供禁止と20年の同意義務を課す、車載データ初の執行案件。

GM Will Remove Apple CarPlay And Android Auto From All Its Cars, Not Just EVs(InsideEVs)(外部)
廃止の経緯を整理。米国でCarPlayを残すGM EVはリリックとハマーEVに限られていたなど、起点を把握できる。

【関連記事】

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Geminiを標準搭載した量産EVの代表例。今回のGMの事例と最も近いテーマで、プライバシー論点も共通する。

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他社(メルセデス)の車載Gemini採用例。車載AIアシスタント競争の文脈を押さえるのに役立つ。

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Geminiの車載統合の起点(Google I/O 2025)を解説。今回の「北米に続く展開」の前史として読める。

【編集部後記】

ナイトライダー世代の筆者としては、そろそろ運転席で「相棒、頼む」とつぶやき、マイケルと名乗るときがきたかと思っています。話しかければ答えてくれる車という、あの頃テレビの向こうにあった憧れが、ついにディーラーのショールームに並ぶ。そう考えると、胸の高鳴りを抑えるのはなかなか難しいものです。もっとも、こちらのGeminiはハンドルを握って勝手に駆けつけてはくれませんし、ボンネットを光らせて気の利いた皮肉を返すわけでもありません。それでも、車と言葉を交わす時代が冗談でなくなったことに、まずは素直にわくわくしています。

その高揚を抱えたまま、この記事を書きながら何度も立ち返ったのは「車内という場所の特別さ」でした。車の中は、家でも職場でもない、半ば閉じた小さな個室です。鼻歌を歌い、ひとりごとを言い、同乗者と本音をこぼす——人がもっとも素の自分でいられる空間のひとつかもしれません。そこに、聞き取り、覚え、応えてくれるAIが据えられる。これは利便性の話であると同時に、私たちが日々こぼしている言葉の宛先が、ひとつ増えるという話でもあります。

Geminiがもたらす体験そのものは、確かに魅力的です。手も視線も奪われずに目的地を探し、気分に合う曲が流れ、知らない街の風景について教えてくれる。移動の時間が、ただの移動でなくなる可能性は本物だと感じます。だからこそ私たちは、その光の部分を率直に伝えたいと思いました。技術を冷たく突き放すのではなく、何ができるようになるのかを、まず正面から見つめたかったのです。

それでも、便利さと引き換えに何を手渡しているのかという問いは、消えません。コネクテッドサービスとアカウントに結びついたAIは、どこへ行き、何を話し、どう過ごしたかを知り得る立場にあります。GMがデータの扱いをめぐって直前に和解したばかりという事実は、この問いを抽象論ではなく、いま現実に向き合うべきものとして突きつけてきます。日本でこの仕組みがどう運用されるのか、私たちは関心を持って見ていきたいと思います。憧れのナイト2000にも、たぶん相応の取扱説明書が必要だったはずなのです。

innovaTopiaが大切にしているのは、未来を煽ることでも、こわがらせることでもありません。新しい技術がやってくるとき、その手触りを正確に伝え、読者のみなさんが自分の言葉で判断できる材料を渡すことです。話せる車は、きっと数年のうちに当たり前になります。そのとき主導権を握るのが誰なのか、そして私たちは何をどこまで託すのか。答えはまだ、誰の手にもありません。だからこそ、いま一緒に考え始める価値があると、私たちは信じています。さて、相棒と呼ぶ日に備えて、こちらも少し練習しておくとしましょうか。

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omote
デザイン、ライティング、Web制作を行っています。AI分野と、ワクワクするような進化を遂げるロボティクス分野について関心を持っています。AIについては私自身子を持つ親として、技術や芸術、または精神面におけるAIと人との共存について、読者の皆さんと共に学び、考えていけたらと思っています。