Pleos Connect・Gleo AI搭載の新型アバンテ―現代(ヒュンダイ)自動車が示す車載AIの現在地

コックピットはいま、AIと物理ボタンをどう共存させるかという問いに直面しています。現代自動車が6年ぶりに全面刷新したアバンテは、大型タッチスクリーンと生成AIエージェントを搭載しながら、あえて物理ノブを残すという選択をしました。その設計判断が示すのは、車載AIの「現在地」かもしれません。


現代(ヒュンダイ)自動車は2026年6月、第8世代アバンテ(北米名:エラントラ)を韓国・釜山モビリティショーで正式公開した。先代から6年ぶりのフルモデルチェンジで、2027年型として北米導入が予定されている。

車体は先代比で全長55mm・全幅30mm・ホイールベース30mm拡大し、全長4,765mm・全幅1,855mm・ホイールベース2,750mmとなった。現代自動車によると室内空間はミドルサイズセダンに近い水準に達したという。

デザインは「Art of Steel」言語を採用し、先代との連続性をほぼ断ち切った新意匠。インテリアには14.6インチまたは12.9インチのタッチスクリーンを採用し、新インフォテインメントOS「Pleos Connect」と生成AIエージェント「Gleo AI」を搭載する。物理ボタン・ノブは画面下に残されている。

パワートレインは、先代の1.6Lガソリン(123PS)から排気量を拡大した自然吸気2.0Lガソリン(149PS/147hp)と、1.6Lハイブリッド(システム合計157PS/155hp)の2種類。韓国での販売は2026年Q3(第3四半期)開始予定。

From: 文献リンクHyundai’s 2027 Elantra Is Bigger, Sharper, And Barely Recognizable|Carscoops

【編集部解説】

今回の新型アバンテで最も注目すべき変化は、デザインでも車体拡大でもなく、車載AIエージェント「Gleo AI」の搭載です。現代自動車グループのソフトウェア子会社42dotが開発したこのエージェントは、大規模言語モデル(LLM)を基盤としており、従来の音声認識システムとは根本的に異なるアプローチをとっています。

従来の車載音声アシスタントは、あらかじめ決められたコマンド体系の中でしか機能しませんでした。「エアコンを25度に設定して」は認識できても、「少し暑いな」は認識できない、という類いの限界です。Gleo AIはこの壁を、LLMの文脈理解能力によって突破しようとしています。「そこに案内して」「近くにいい感じの店ある?」といった曖昧な自然言語を、走行中の状況や直前の会話の流れと組み合わせて解釈し、複数の操作を一度の発話でこなすマルチコマンド処理にも対応します。スマートフォンのAIアシスタントが車内に本格移植された、という表現が最も近いかもしれません。

重要なのは、このGleo AIが現代自動車グループの自社開発であるという点です。VolvoはGoogle Geminiを、GMもGoogle Geminiを採用しました。BMWは中国市場向けにDeepSeekを統合しています。いずれも外部のAI基盤に乗る戦略ですが、現代自動車グループは42dotを通じて自前のLLMエージェントを開発しました。自社開発には車両データとの深い統合、OTAによる継続的な改善、そしてデータ主権の確保という利点があります。一方で開発コストと品質の維持は、外部AIを採用するより重い課題になります。

Pleos ConnectとGleo AIは今年5月、まずフラッグシップのグレンジャーに搭載されました。新型アバンテへの展開はそのわずか1か月後です。この速度は、現代自動車グループが単なる製品搭載にとどまらず、SDV(ソフトウェア定義車両)プラットフォームとしての横展開を本格的に動かし始めたことを示しています。グループは2030年までにHyundai・Kia・Genesisの計約2000万台にPleos Connectを展開する計画を掲げており、アバンテへの搭載はその量的拡大の最初の一歩です。コンパクトセダンという大量販売モデルに載せることで、実走行データの蓄積量が一気に跳ね上がります。LLMベースの車載AIにとって、データ量は性能に直結します。

ただし、現時点で確認できることには限りがあります。Gleo AIが実際の運転環境でどの程度の精度と応答速度を発揮するか、日本語を含む多言語への対応時期、そしてOTAによる機能更新がどのサイクルで行われるかについては、公式情報がまだ出ていません。発表されたのはあくまでシステムの概要であり、実用品質の判断は実車登場後になります。車載AIは「搭載した」より「使えた」の方がはるかに難しい領域です。その点は、Gleo AIも例外ではありません。

【用語解説】

アバンテ(Avante)
現代自動車が韓国・一部市場で販売するコンパクトセダンの名称。北米ではエラントラ(Elantra)として販売される。1990年に初代が登場し、韓国市場では長期にわたり最量販乗用車のひとつ。

Art of Steel
現代自動車が採用するデザイン言語の名称。鋭利なラインと筋肉質な面構成を組み合わせ、力強さと動的なスタンスを表現するスタイリング指針。

Pleos Connect
現代自動車グループが2026年に投入した次世代車載インフォテインメントOS。大型タッチスクリーンとスリムなフォワードディスプレイ、物理ボタンを組み合わせたUI設計を採用。AI音声エージェント「Gleo AI」、オープンアプリマーケット、OTA(無線)アップデート対応が主な特徴。

Gleo AI
現代自動車グループのソフトウェア子会社「42dot」が開発した車載AIエージェント。大規模言語モデル(LLM)を基盤とし、文脈を理解した自然な会話で車両操作・ナビ・情報検索に対応する。

SDV(ソフトウェア定義車両)
Software-Defined Vehicleの略。車両の機能・性能をソフトウェアで制御・更新できる次世代自動車の概念。OTAアップデートにより販売後も機能追加が可能で、車両をスマートフォンと同様の「進化し続けるプラットフォーム」として位置づける。

ADAS(先進運転支援システム)
Advanced Driver Assistance Systemsの略。自動ブレーキ・車線維持・クルーズコントロールなどの運転補助機能群の総称。

42dot
現代自動車グループが設立したソフトウェア専門子会社。SDV技術の開発、Pleos ConnectおよびGleo AIの設計・開発を担当する。

【参考リンク】

現代自動車(Hyundai Motor)グローバル公式サイト(外部)
現代自動車グループのグローバル情報ポータル。新型アバンテを含む全車種情報、ニュースルーム、SDV戦略に関する公式発表を掲載している。

Pleos Connect 公式発表(Hyundai Newsroom)(外部)
Pleos ConnectとGleo AIの仕様・設計思想・2030年展開計画を詳細に説明する現代自動車グループの公式プレスリリース。

【参考記事】

Hyundai Motor Group Redefines In-Vehicle Experience with ‘Pleos Connect’|Hyundai Newsroom(外部)
Gleo AIの設計思想(UXスタジオでのドライバー行動調査に基づくタッチ+物理ボタン併存)、アプリマーケットの仕様、2030年2000万台展開目標を記載した一次情報源。

Hyundai Motor unveils redesigned AI-driven Avante sedan|The Korea Times(外部)
2026年Q3受注開始・価格未定の確認、Pleos ConnectがグレンジャーについでアバンテがSDV搭載2モデル目であることを報じた韓国英字紙の記事。

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【編集部後記】

AIが得意な操作と物理ボタンが得意な操作を分けて設計する、という発想は当たり前のようで、実際にはそれを実装しているメーカーは少数派です。私たちは「AIでできるなら全部AIに」という方向に流れがちですが、新型アバンテの構成はその前提を少し立ち止まって問い直しているように見えます。便利さとは、新しい技術に統一することではなく、それぞれの技術が得意な場面を正しく分担することかもしれません。

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乗杉 海
SF小説やゲームカルチャーをきっかけに、エンターテインメントとテクノロジーが交わる領域を探究しているライターです。 SF作品が描く未来社会や、ビデオゲームが生み出すメタフィクション的な世界観に刺激を受けてきました。現在は、AI生成コンテンツやVR/AR、インタラクティブメディアの進化といったテーマを幅広く取り上げています。 デジタルエンターテインメントの未来が、人の認知や感情にどのように働きかけるのかを分析しながら、テクノロジーが切り開く新しい可能性を追いかけています。