ヤマハ「JOG E」「GEAREV」7/17発売|ホンダ製交換バッテリーで挑む原付EVの狙い

[更新]2026年7月4日

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近所のコンビニに寄るくらいの気軽さで、原付を「充電する」のではなく「差し替える」時代が近づいています。ヤマハが電動スクーターを立て続けに送り出したこの一手は、単なる新製品の話にとどまりません。動かしているのは、長年しのぎを削ってきたライバル・ホンダが設計した電池です。仲間ではなかったはずの二社が、なぜいま同じ電池を分け合うのか。日常の足がひそかに姿を変えようとしている、その入り口をのぞいてみましょう。


ヤマハ発動機販売株式会社は2026年7月2日、原付一種の電動スクーター「JOG E」、ビジネス用電動スクーター「GEAREV」と新聞配達用「NEWS GEAREV」を7月17日に全国発売すると発表した

「JOG E」は交換式バッテリー「Honda Mobile Power Pack e:」を採用し、1充電あたりの走行距離は53km、充電時間は約6時間である。2025年12月から東京・大阪で車体のみを地域限定発売していたが、今回はバッテリーと充電器をセットで全国販売する。カラーはダークグレーとライトグレーの2色展開となっている。

ビジネス用電動スクーター「GEAREV」と新聞配達用「NEWS GEAREV」は48Vリチウムイオンバッテリー2個を直列接続した96V系システムを搭載し、1充電の走行距離は100km、リアデッキ30kg積載時に傾斜12°の登坂性能を持つ。いずれも、国のCEV補助金の対象となる。

From: 文献リンク電動スクーター「JOG E」(原付一種)全国発売~バッテリーと充電器をセット販売、日々のライフスタイルに適したスタンダードモデル~ – ニュースリリース | ヤマハ発動機株式会社

From: 文献リンク原付一種のビジネス用電動スクーター「GEAREV(ギアレヴ)」新発売~リチウムイオンバッテリーを搭載し、ビジネス用途での利便性・走行性能を実現~ – ニュースリリース | ヤマハ発動機株式会社

【編集部解説】

今回のニュースで注目したいのは、車両そのものよりその心臓部=バッテリーが誰の規格なのかという一点です。JOG E も GEAREV も、動力源はホンダが設計した交換式バッテリー「Honda Mobile Power Pack e:」です。とりわけ JOG E は、両社が2024年8月に合意した交換式バッテリー車のOEM供給の第1号にあたり、車両そのものもホンダから供給を受けています。ヤマハという長年のライバルが、ホンダ印の電池を積んだホンダ供給の車体を、自社ブランドで売る——これは電動二輪で静かに進む「協調」の到達点を示す出来事だと、私たちは受け止めています。

この共通化を担うのが、2022年に設立された Gachaco(ガチャコ)です。設立時の出資比率は ENEOS が51%、ホンダが34%、カワサキ・スズキ・ヤマハが各5%でした。そして2026年4月、ホンダが第三者割当増資を引き受けて出資比率を47%へ引き上げ、Gachaco を連結子会社化しています。街なかのステーションで充電済み電池と「交換」できる仕組みは、こうしてホンダ主導で加速していく構図です。共通仕様は自動車技術会規格 JASO TP21003 をベースにしています。

ではなぜ今回ヤマハはこの規格を揃えたのでしょうか。それは電動二輪の最大の弱点が航続距離と充電時間だからに他なりません。JOG E の航続は53km、GEAREV でも100km(いずれも30km/h定地走行値)。ガソリン車の感覚からすれば心もとない数字ですが、要所で数十秒の電池交換ができれば、この弱点は運用でカバーできます。「充電」を「交換」に置き換える発想の転換が、ここにあります。

なぜ今この動きが起きているのか。その背景には規制の変化があります。2025年11月から原付一種を含む50cc以下の原付バイクに新しい排出ガス規制が適用されました。ヤマハは、この規制適用を背景に JOG E を電動スクーターの新スタンダードモデルとして企画したと説明しています。GEAREV も新排出ガス規制の適用に合わせた電動モデル投入と位置づけられており、規制がEV化を後押しする、典型的な構図といえます。

この技術で何ができるようになるのか。GEAREV が象徴的です。荷物を30kg積んで傾斜12°を登り、モーターで後退を助ける「後進アシスト機能」まで備える。なお、この機能は着座して両足を地面につけた状態で使う前提の、あくまで取り回しの補助です。宅配や新聞配達といった、毎日決まったルートを走る集配業務は、走行距離が読めるぶん電池交換型EVと相性が良い領域です。「まず商用から電動化が進む」という世界的な潮流を、日本の足元で具体化した製品だと位置づけられます。

ポジティブな側面は、規格が揃うことで生まれるネットワーク効果です。メーカーを問わず同じ電池を使い回せれば、ステーション網は誰にとっても価値を持ち、投資が回りやすくなります。使用済み電池を蓄電池などへ二次・三次利用する「BaaS(Battery as a Service)」の構想もここに接続していきます。

一方で、注意深く見ておきたい論点もあります。共通規格が事実上ホンダの電池を軸に成り立ち、そのホンダが Gachaco を連結子会社化した以上、インフラの主導権がホンダに集まっていく展開は現実味を帯びます。これは今の時点で不利益が生じたという話ではなく、あくまで今後を見守るべき構造上のポイントです。加えて、ステーションが東京・大阪など都市部を中心に整備されている現状では、地方での使い勝手は依然として課題でしょう。普及の規模感についても、一部報道では年間販売計画を JOG E 300台、GEAREV/NEWS GEAREV 200台と伝えており、まだ実証と普及の途上にあることがうかがえます。

長期の視点で見ると、これは「クルマのガソリンスタンド」に相当するインフラを、二輪の世界で誰がどう握るかという競争の一場面です。かつて携帯電話が充電器の形状で覇を競ったように、電池の規格を制する者がモビリティの土台を握る可能性があります。ヤマハがホンダの電池を選び、そのホンダがインフラ会社を傘下に収めた——今回の一連の動きは、その未来図の輪郭をはっきりと描き出しています。

【用語解説】

Honda Mobile Power Pack e:(モバイルパワーパック イー)
ホンダが開発した交換式バッテリー。国内二輪4社が共通仕様として採用し、JOG E・GEAREV の動力源となっている。

スコープ3/カテゴリー11
企業の温室効果ガス排出区分のうち、自社活動外の排出を指すのがスコープ3。カテゴリー11はそのうち「販売した製品の使用による排出」を指す。

マルチパスウェイ
カーボンニュートラルの達成手段をEVだけに絞らず、複数の技術経路を併用する考え方。

BaaS(Battery as a Service)
バッテリーをモノとして売り切るのでなく、交換・循環利用を含めたサービスとして提供する考え方。ENEOSが構想の中心に置いている。

JASO TP21003
自動車技術会が定めた交換式バッテリーのガイドライン(テクニカルペーパー)。国内4社の共通仕様の土台となっている。

Gachaco(ガチャコ)
交換式バッテリーのシェアリングと交換ステーション網の整備を担う会社。2022年4月にENEOS・ホンダ・カワサキ・スズキ・ヤマハの5社が設立した。2026年4月、ホンダが追加出資して出資比率を47%とし、連結子会社化している。

新排出ガス規制(2025年11月)
2025年11月から50cc以下の原付バイクに適用された排出ガス規制。従来型のガソリン原付の設計・生産に影響し、JOG E など電動モデル投入の背景となった。

【参考リンク】

ヤマハ発動機「JOG E」製品サイト(外部)
JOG E の仕様・価格・取扱店などを掲載する公式製品ページ。全国発売モデルの詳細を確認できる。

ヤマハ発動機「GEAREV」製品サイト(外部)
ビジネス用電動スクーター GEAREV/NEWS GEAREV の装備や仕様を紹介する公式製品ページ。

ヤマハ発動機 ニュースリリース(JOG E 地域限定先行発売)(外部)
JOG E がホンダ・ヤマハ合意に基づくOEM供給第1号であることや企画背景を記した公式発表文。

株式会社Gachaco 公式サイト(外部)
交換式バッテリーのシェアリングサービスとステーション網を運営する会社の公式サイト。

【参考記事】

ヤマハ、新型電動スクーター3モデル発売 価格32万3400円から(Car Watch)(外部)
3モデルの価格を明示。JOG E は32万3400円、GEAREV 69万800円、NEWS GEAREV 70万1800円と報じる。

ホンダ、電動二輪向け電池交換会社を連結子会社に(日本経済新聞)(外部)
ホンダがGachacoに追加出資し、出資比率を34%から47%へ引き上げ連結子会社化したと報じる記事。

Gachacoの連結子会社化について(Honda 企業情報サイト)(外部)
連結子会社化の一次情報。設立5社の構成や東京・大阪中心のステーション網拡大を公式に記載。

ヤマハ「GEAREV」「NEWS GEAREV」を7/17発売、航続100kmを実現(バイクブロス)(外部)
両モデルの価格と、年間販売計画を国内200台と記載。航続100kmや後進アシスト機能を要約している。

ヤマハ、電動スクーター「JOG E」7/17に32万3400円で発売(Webikeプラス)(外部)
セット価格32万3400円に対し、車体本体のみの価格を15万9500円と併記した記事。

ホンダからOEM供給で実現!! ヤマハの「JOG」が生まれ変わって登場(バイクのニュース)(外部)
JOG E がOEM供給第1号であること、2024年8月の両社合意の経緯を報じる記事。

【関連記事】

ヤマハ初のバッテリーシェア対応「JOG E」登場|原付一種の電動化が加速する理由
2025年11月の東京・大阪先行発売を報じた記事。今回の全国発売はこの続報にあたり、あわせて読むと展開の流れがつかめる。

Honda ICON e: 発表─航続81km・22万円、電動で「日常の足」は変わるか
同じ「原付2025年問題」を背景に登場したホンダの電動原付。交換式と車両専用電池、二つの設計思想を読み比べられる。

ガソリンスタンドが変わる。出光興産、小型モビリティ「mibot」の販売拠点に
エネルギー企業が既存インフラを再定義する動き。Gachacoの交換ステーション網と重ねて読みたい一本。

【編集部後記】

この一件で心に残ったのは、性能表の数字よりも、「ライバルの電池を積む」という選択そのものでした。かつては自社のエンジン、自社の技術を競い合うことが当たり前だった二輪の世界で、電池の形をそろえ、街に置くステーションを一緒に育てていく。競争の舞台が「一台の完成度」から「みんなで使う土台づくり」へと、静かに移りつつあるように感じます。

もっとも、その土台を支える会社はいま、ホンダの傘の下に入りました。共通の規格が広がることは、私たちにとって選びやすさや便利さにつながる一方で、その仕組みの手綱を誰が握るのかという問いも残します。便利さと、偏りへの目配り。その両方を持ちながら見ていきたいところです。

そしてもうひとつ。集配の現場で毎日走る一台や、狭い場所でそっと後押ししてくれる機能のように、こうした変化はきらびやかな未来像としてではなく、働く人の手元や暮らしの動線から、少しずつ形になっていくのだろうと思います。もし街角で満タンの電池に差し替える光景を見かけたら、それはきっと、その少しずつが積み重なった先の景色です。次にどんな一歩が続くのか、みなさんと一緒に見ていけたら嬉しいです。

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omote
デザイン、ライティング、Web制作を行っています。AI分野と、ワクワクするような進化を遂げるロボティクス分野について関心を持っています。AIについては私自身子を持つ親として、技術や芸術、または精神面におけるAIと人との共存について、読者の皆さんと共に学び、考えていけたらと思っています。