GitHub、公開リポジトリを「CD-ROM」で郵送する4日間限定ジョーク企画─ソニーの物理ディスク終了に逆張り

「あなたのコードは、永遠にあなたのもの」──もしプラットフォームからそう言われたら、少しくすぐったい気持ちになりませんか。しかもそれが、画面の中のデータではなく、手のひらに乗る一枚のディスクとして届くとしたら。物理メディアが静かに姿を消していくこの時代に、あえて時代を巻き戻すような企画を打ち出したのが、世界中の開発者が毎日使うGitHubでした。ジョークのようで、けれど本当に申し込めてしまう。その絶妙な立ち位置の裏には、便利なはずのクラウドが抱え始めた思わぬ事情と、私たちがいつの間にか手放してきた「持っている」という感覚が、そっと透けて見えてきます。


GitHubは2026年7月2日、公式X(@github)で、ユーザーが自身の公開リポジトリをCD-ROMで入手できると発表した。投稿はgh.io/cdにリンクし、リンク先はMicrosoft Formsのページ「GitHub Presents: Your Code, On a CD」である。応募フォームは、GitHubユーザー名、公開リポジトリのURL、氏名、メールアドレス、国、配送先住所、電話番号など8項目の入力を求める。

ディスクを受け取れるのは先着1,000件の有効な応募のみで、1人1枚までとする。応募期間は2026年7月2日から7月6日までの期間限定である。投稿は数時間で100万回以上表示された。この発表は、ソニーが2028年1月に物理PlayStationディスクの製造を終了すると表明した後に行われた。

From: 文献リンクGitHub 公式X(@github)投稿「あなたの公開リポジトリをCD-ROMで」

【編集部解説】

まず押さえておきたいのは、この投稿がGitHubによる「ジョーク色の強い企画」だという点です。ソニーが2026年7月1日、PlayStation向け新作ソフトの物理ディスク生産を2028年1月に終了すると発表した直後のタイミングを突いています。物理メディアが静かに退場していく流れに、あえて「では、あなたのコードをCDに焼いて差し上げましょう」と逆張りで乗っかった、という構図なのです。

同じ週にはDomino’s UKやKFC Spainも「デジタル専用」を茶化す投稿を出していました。その意味でGitHubの発信も“時事ネタ大喜利”の一つと見るのが公平でしょう。ただ、他社と違ってGitHubは本物の応募フォームを用意した点で一歩踏み込んでいます。ネタで終わらせず、実際に手元へディスクが届く可能性を残したことが、話題を一気に広げた要因だと考えられます。

一方で、この企画には少しほろ苦い文脈が重なります。GitHub自身が、ここしばらく深刻な安定性の問題を抱えているからです。外部の障害集計サービスIncidentHubによると、2025年5月から2026年4月までの12か月間で257件のインシデントが記録され、うち48件が大規模障害に分類されたとされます(GitHub公式の集計ではない点に留意が必要です)。「あなたのコードは永遠にあなたのもの」と歌い上げた同じプラットフォームが、日々の可用性で苦しんでいる──この対比こそ、投稿を面白くも切なくもしている核心だと私は見ています。

その障害の背景としてGitHub自身が挙げているのが、AIエージェントによる需要の急増です。GitHubのCTOヴラディミール・フェドロフ氏は、2025年10月に容量を10倍へ増やす計画を始めたものの、2026年2月には「今日の30倍の規模を前提に設計し直す必要がある」と認めました。コードを自動生成し続けるエージェントの奔流が、リポジトリ作成やプルリクエストを押し上げ、将来を見据えた抜本的な作り直しを迫っている、という構造的な問題です。

ここに、この企画が“意図せず言い当ててしまった真実”があります。クラウドは本来、「ディスクを失くす心配のない、どこからでも永久に取り出せる保管庫」であるはずでした。ところがAI時代に入り、そのクラウドを支えるインフラ投資が桁違いに膨らんでいます。報道によれば、Microsoft、Google、Amazon、Metaの4社は、今年AI需要を背景にした設備投資で合計約7000億〜7250億ドル(2026年7月3日時点のレート、1ドル=161円換算でおよそ113兆〜117兆円)に達する見通しです。「永遠のクラウド」という前提が、実はかなりのコストと負荷の上に危うく成り立っていると分かります。

だからこそ「棚に置いたディスクは、企業の決算がどうだろうと関係なく、そこにあり続ける」という素朴な事実が、逆に効いてきます。もっとも、CD-Rの寿命は一般に10〜30年程度とされますが、これは保存環境や媒体品質で大きく変動し、条件次第では30年を超える例もあります。文字どおりの「永遠」ではないうえ、そもそも読み取るドライブが手元に残っているか、という別の問題も付いて回ります。投稿末尾の「失くさなければの話ですが」という自己ツッコミは、そのあたりまで見越した上での洒落なのかもしれません。

読者のみなさんに関わりうる論点として、プライバシーにも触れておきます。応募フォームは氏名・住所・電話番号などを含む8項目を集めます。GitHubは「発送目的のみに使用し、送付後は削除する」と説明していますが、短期間・1000枚のジョーク企画のために個人情報を提供する価値があるかは、各自が天秤にかけるべきところでしょう。話題性と引き換えに情報を差し出す構図は、キャンペーン全般に共通する“楽しさと引き換えの小さなリスク”を思い出させます。

長期的な視点では、この一件は「所有とは何か」という問いを私たちに投げかけています。ソフトも、ゲームも、そしてコードすらも、私たちは年々「買う」のではなく「アクセス権を借りる」方向へ進んできました。GitHubのCD-ROMは、その流れへのささやかな抵抗であり、同時に皮肉でもあります。手元に残る一枚のディスクが妙に魅力的に映るのだとしたら、それは私たちが、便利さの裏でそっと手放してきた「確かに自分のものだという感覚」を、まだどこかで求めている証なのだと思います。

【用語解説】

リポジトリ(公開リポジトリ)
ソースコードや変更履歴を保管する「入れ物」のこと。公開リポジトリは、インターネット上の誰でも閲覧・複製できる状態で公開されたものを指す。今回CD化の対象となるのは、この公開分に限られる。

CD-ROM/CD-R
データを記録する光ディスクの一種。本来CD-ROMは読み出し専用、CD-Rは一度だけ書き込める記録用媒体を指す。GitHubの企画は「焼いたCD(burned CD)」と案内されており、実物はCD-R相当とみられる。寿命は一般に10〜30年程度とされるが、保存環境で大きく変わる。

AIエージェント(エージェンティック開発)
人間の指示を受け、コード生成やプルリクエスト作成などを半自動でこなすAIのこと。2025年末以降に利用が急拡大し、リポジトリ作成やAPI利用の急増を通じてGitHubの基盤に大きな負荷を与えている。

インシデント/大規模障害(outage)
サービスに不具合や停止が生じた事象をインシデントと呼び、影響が広範なものを大規模障害という。今回引用した件数は、外部集計サービスIncidentHubによる2025年5月〜2026年4月の数値である。

可用性(アベイラビリティ)
サービスが停止せず正常に使える度合いのこと。「99.9%」のように稼働率で示され、この数値が下がるほど障害で使えない時間が増える。

CTO(最高技術責任者)
企業の技術戦略全体に責任を持つ役職。GitHubではヴラディミール・フェドロフ氏がこれを務め、障害対応や大規模な設計見直しの方針を公式ブログで公表している。

【参考リンク】

GitHub(公式サイト)(外部)
世界最大級のソースコード共有・開発プラットフォーム。今回のCD-ROM郵送企画を公式アカウントから発信した、話題の張本人である。

GitHub Presents: Your Code, On a CD(応募フォーム)(外部)
公開リポジトリをCD化する応募ページ。Microsoft Forms上で情報を入力し、7月2〜6日の期間限定・先着1000件が対象となる。

PlayStation.Blog(物理ディスク生産終了の発表)(外部)
ソニーが2028年1月に新作ソフトの物理ディスク生産を終えると告知した公式ブログ。今回のジョークのきっかけとなった一次情報である。

Microsoft(公式サイト)(外部)
GitHubの親会社であり、応募フォームに使われたMicrosoft Formsの提供元。Windows等を擁する世界的テクノロジー企業である。

【参考記事】

Microsoft GitHub is burning free CDs of your public code to troll PlayStation(Windows Latest)(外部)
本件を最も詳しく報じた記事。応募条件や期間に加え、GitHubの障害状況やAIインフラ投資額などの数値を幅広く伝えている。

The Pulse: AI load breaks GitHub – why not other vendors?(The Pragmatic Engineer)(外部)
CTO発言をもとに、容量10倍計画が30倍規模の再設計へ拡大した経緯を分析。30倍が将来目標である点を確認できる。

GitHub Outages 2025 – 2026: Reliability Analysis and Outage History(IncidentHub)(外部)
257件のインシデント・48件の大規模障害の出所となった外部集計。2025年5月〜2026年4月の実績を分析している。

Sony to stop making physical discs for PlayStation starting in 2028(CBS News)(外部)
ソニーの物理ディスク終了を報道。新品物理ゲーム市場が2025年に15億ドルへ縮小したCircanaのデータを伝えている。

Google Cloud pulls ahead as Big Tech’s AI bet swells to $700 billion(Reuters)(外部)
Big Tech 4社のAI関連投資が約7000億ドル規模へ膨らむと報道。設備投資額の出典として参照した。

Big Tech’s AI spending plans reach $725 billion(Tom’s Hardware)(外部)
2026年のBig Tech設備投資が7250億ドルに達するとの分析。投資額上限の根拠として補足参照した。

PlayStation will end physical disc production for new games in 2028(CNBC)(外部)
ソニーの発表に加え、AI需要のメモリ高騰でPS5が549.99→649.99ドルへ値上げされた周辺動向を報じている。

【編集部後記】

正直に打ち明けると、この企画を知って最初に頭をよぎったのは「どのリポジトリを焼こうか」という、ちょっと浮ついた楽しさでした。数年前に書いた、今見ると恥ずかしくなるような拙いコード。動くかどうかもう分からない、けれど当時の自分が夜な夜な向き合っていた記録。クラウドの中では他の何万というデータと同じ顔で並んでいるそれが、一枚のディスクになって手元に届くと想像した瞬間、なぜか急に「自分のもの」という手触りが戻ってくる気がしたのです。

不思議なものだと思います。同じデータのはずなのに、掌に乗る重さがあるだけで、扱いが変わる。棚に置けば、失くさない限りそこにあり続ける。会社の業績にも、サービスの終了にも左右されない。その素朴な安心感を、私たちは「便利さ」と引き換えに、いつの間にかそっと手放してきたのかもしれません。

もちろん、ディスクが万能なわけではありません。年月が経てば劣化しますし、そもそも読み取る機械が手元に残っているかも怪しい。「永遠」という言葉は、少し大げさな洒落として受け取るくらいがちょうどいいのでしょう。それでも、あの投稿がこれほど広く共感を集めたのは、私たちの多くが心のどこかで、消えない形で何かを残しておきたいと願っているからではないでしょうか。

あなたなら、どの一枚を選びますか。動かなくてもいい、誰にも見せなくてもいい、それでも手元に置いておきたいと思えるコードや作品が、きっと一つはあるはずです。この小さな遊び心を入り口に、「自分にとって残したいものは何か」を一緒に考えてみられたら、こんなに嬉しいことはありません。

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山本 達也
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。