キャラクターの発信を増やせない理由として電通が挙げたのは、作る手間だけではありませんでした。ブランドの世界観を守るための監修負荷です。2026年8月12日に提供が始まった「CHARAMO」は、7つの機能のうち2つを承認の設計に充てています。
株式会社電通は2026年8月12日、AIを活用したIPグロースプラットフォーム「CHARAMO(キャラモ)」の提供を開始した。商標出願中。独自AIと専門クリエイターが一体となり、既存キャラクターのコンテンツ展開から新規キャラクター開発までをプロデュースする。
機能はAIキャラクターエンジン、キャラクターチャット、ポッドキャスト、インタラクティブイベント、SNSコンテンツ、ファン反応レポート、IPプロデュースの7つで、SNS投稿はすべて公開前にクリエイティブの承認を経る。第一弾は、吉本興業所属芸人のフリップ回答から生まれたキャラクターシリーズ「Flipples(フリップルズ)」。
株式会社YDCのAIキャラクターIP事業で、参加芸人はエバース、9番街レトロ、ヨネダ2000など。
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電通、AIを活用したIPグロースプラットフォーム「CHARAMO(キャラモ)」を提供開始

【編集部解説】
このリリースで最初に目を引くのは、AIの性能ではなく「監修負荷」という言葉です。
電通は、企業がIP資産を活用しきれない障壁の例として2つを挙げています。ひとつはタレントやクリエイターの稼働負荷。もうひとつが、ブランドの世界観を守るための監修負荷です。私が目を留めたのは後者でした。
キャラクターを持つ企業にとって、発信量を増やすこと自体は難しくありません。難しいのは、増やした発信のひとつひとつが「そのキャラクターらしいか」を確かめ続けることです。この確認が追いつかないから、結局は出せない。CHARAMOはそこを設計の出発点に置いています。
実際、7つの機能のうち2つが承認のプロセスそのものに関わっています。機能1のAIキャラクターエンジンは、プロフィールや口調と並べて「制約」を設計対象に挙げています。会話ロジックとNG設定、つまり何を言わないかを先に決める発想です。機能5のSNSコンテンツでは、すべての投稿が公開前にクリエイティブの承認を経ると明記されています。生成量を増やす道具でありながら、人間が最終的に線を引く場所を製品の内側に残している構造です。
生成AIとキャラクターの組み合わせで起きやすい事故は、意図しない発言による世界観の毀損です。そこに機能で答えている点が、この発表の技術的な芯にあたります。
8年かけて積み上がった系譜
CHARAMOは唐突に現れた製品ではありません。
電通は2018年12月、3Dバーチャルキャラクターによる接客VTuberサービス「Chara Talker」をエジェ社と共同開発しています。2021年10月には「キャラクターCXソリューション」を発表。2023年5月には、GPT-4を使った「キャラクターとの自動対話サービス」のプロトタイプを開発し、いらすとやのキャラクターを3Dモデル化した実証実験を始めています。
注目したいのは、その2023年の発表がすでに「責任あるAI」を目指したガイドライン策定に言及していたことです。当時のリリースは、人気キャラクターだけでなく、企業の有名キャラクターやご当地キャラクターの権利を持つ企業・団体との連携も視野に入れると書いていました。今回のCHARAMOが掲げる「休眠中のキャラクター資産の再稼働」は、この時点から続く射程の延長線上にあります。
なぜ第一弾が吉本興業だったのか
第一弾のFlipplesを手がける株式会社YDC(旧YDクリエイション)は、吉本興業の公式ヒストリーによれば2014年8月27日に設立され、2015年10月に電通デジタル・ホールディングスとの合弁会社として記録されています。現在も吉本興業のグループ企業一覧に名を連ねています。Roblox上の「月面劇場」でアバターライブやミニゲームを展開し、生成AIを用いてタレントと交流できるコミュニティ空間づくりにも取り組んできました。
10年以上にわたってデジタル領域で試行を重ねてきた座組が、そのまま製品の初号機になったという構図です。
もうひとつ、Flipplesの設計には見落とせない特徴があります。これは芸人本人のAIアバターではありません。芸人がフリップに書いた回答から生まれた、独立したキャラクターです。公開されているビジュアルも本人の似顔絵ではなく、本人が生み出した創作物のほうを育てる形をとっています。ポッドキャストの音声にどこまで本人由来の要素を使うかは公表されていませんが、出発点が本人の似姿ではないという設計は、タレントの肖像をAIで再現する取り組みが各所で進むなかで、摩擦の小さい入り口を選んでいます。
「ファンを解剖する」から「ファンと関係を築く」へ
電通は2026年4月、ファンが生まれるまでの過程をAIで可視化する「ファンAIリサーチ ブランド」を発表しています。SNSやECサイト、コミュニティ掲示板などの公開投稿から、ファン化の体験シナリオを構造的に読み解くツールでした。
あのときAIが担っていたのは分析です。CHARAMOが担うのは運用です。ファンの反応をレポートに集約し、次の番組や投稿、グッズ企画へ戻す循環がCHARAMOには組み込まれています。読み解いた構造を使って、実際にコンテンツを出し続ける側の道具が揃ったことになります。
国内電通グループは2026年5月、AI戦略を「AI For Growth 3.0」へ刷新し、専門AIを企業の業務プロセスに実装する段階へ進むと表明しました。CHARAMOは、その方針がIPとファンという領域で形になったものと読めます。
自社のキャラクターを思い浮かべながら読める発表
この発表が実務としていちばん効くのは、「休眠中のキャラクター資産の再稼働」という一節だと考えています。
周年記念で作ったまま止まっているマスコット、担当者が替わって更新が絶えたご当地キャラ、パッケージにだけ残っている昔の看板キャラクター。大企業に限らず、自治体にも中小企業にも、動かせるはずのキャラクターは眠っています。稼働負荷と監修負荷という2つの障壁は、リソースの限られた組織ほど重くのしかかります。
価格や提供形態は公表されておらず、どの規模から現実的な選択肢になるかは今後の情報を待つことになります。それでも事業に関する問い合わせ先が公開されている以上、自社のIPを携えて相談してみる価値のある発表です。
キャラクターにAIを喋らせる作法は、業界全体としてまだ整いきってはいません。何をどこまで自動で生成し、どこで人が線を引くのか。その線の引き方が、これから各社の設計思想として問われていきます。CHARAMOが承認のプロセスを製品の内側に組み込んだことは、その問いへのひとつの回答であり、後続が参照できる型でもあります。
眠っていたキャラクターが、また喋りはじめる。その光景をどれだけの企業が自分ごととして思い浮かべられるか。このプラットフォームの真価は、そこで測られることになりそうです。
【関連記事】
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アニメ・ゲームのIP権利管理を扱った記事。キャラクターを実際に動かす前段にある、権利整理の話が読める。
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物語IPのゲーム化を支援する実証を扱った記事。IP活用にAIを組み込む国内の動きとして、重ねて読める内容だ。
【編集部後記】
8年前のリリースを読み返すと、企業がバーチャルキャラクターを起用する理由のひとつとして「キャストのスキャンダルリスクの低さ」が挙げられていました。人を介さないことが利点だった、ということです。
今回のCHARAMOはその逆で、芸人が自分の手で描いたフリップからキャラクターが生まれています。人を避けるための技術が、人の発想を残すための技術に変わりました。
みなさんの会社や地域に眠っているキャラクターは、どちらの生まれ方をしたものでしょうか。
【用語解説】
IP(Intellectual Property/知的財産)
キャラクター、物語、世界観など、著作権などの権利で守られた創作資産の総称。コンテンツ業界では「キャラクター」とほぼ同じ意味で使われることが多い。
IPグロースプラットフォーム
今回のリリースで使われている電通独自の呼び方で、業界共通の一般名詞ではない。IPを一度使って終わらせるのではなく、継続的に育てて広げていくための基盤、という意味合いで用いられている。
AIキャラクターエンジン
CHARAMOの中核となる機能。タレントやブランドの情報から、キャラクターのプロフィール、口調、制約を設計する。既存のキャラクターをAIコンテンツとして動かすための土台にあたる。
会話ロジックとNG設定
AIキャラクターエンジンが設計する「制約」の中身。どんな話題にどう応じるかの決まりごとと、言ってはいけないことの線引きを指す。生成の前に発言ルールを定める考え方である。
VTuber
3Dやイラストのキャラクターの姿で動画配信や接客を行う存在。2018年の「Chara Talker」は、この形式を店頭などでの接客に応用したサービスだった。
GPT-4
OpenAIが開発した大規模言語モデル。電通が2023年に公開した「キャラクターとの自動対話サービス」のプロトタイプに使われた。
【参考リンク】
CHARAMO 公式サイト(外部)
電通が提供するIPグロースプラットフォームの公式サイト。7つの機能の概要と、導入について相談するための問い合わせ窓口が確認できる。
Flipples(フリップルズ)公式サイト(外部)
吉本興業所属芸人のフリップ回答から生まれたキャラクターシリーズの公式サイト。各キャラクターが順次公開されている。
株式会社電通(外部)
1901年創業の国内最大手広告会社。AI戦略「AI For Growth」を軸に、マーケティング領域の変革を進めている。
電通「AI For Growth」特設ページ(外部)
国内電通グループのAI戦略の特設ページ。3.0に至るまでの系譜と、各種AIソリューションの概要がまとめられている。
株式会社YDC(外部)
Flipplesを手がける会社の公式サイト。Roblox上の「月面劇場」など、これまでの取り組みが一覧で並んでいる。
吉本興業 グループ企業一覧(外部)
吉本興業の公式グループ企業一覧。株式会社YDCの所在地、役員、資本金といった現行の会社情報がここで確認できる。
【参考記事】
ChatGPTを活用した「キャラクターとの自動対話サービス」のプロトタイプを開発(外部)
GPT-4を使った「キャラクターとの自動対話サービス」の発表。2021年と2018年の前史にも注釈で触れられている。
国内電通グループ、新戦略「AI For Growth 3.0」のもと統合AIプロダクトを提供開始(外部)
2026年5月25日発表。専門AIを企業の業務プロセスへ実装する段階に進むと表明した、AI戦略刷新の内容である。
電通、企業やブランドのファンが生まれるまでの過程をAIで可視化する「ファンAIリサーチ ブランド」の本格運用を開始(外部)
2026年4月9日発表。SNSやECサイト、コミュニティ掲示板の公開投稿から、ファンになるまでの過程を可視化する。
吉本興業ヒストリー(外部)
吉本興業の公式年表。2014年8月27日のYDクリエイション設立と、2015年10月の合弁会社設立の記録が並んでいる。
電通とエジェ社、簡便で安価に導入できる3Dバーチャルキャラクターの接客VTuberサービス「Chara Talker」を共同開発(外部)
電通とエジェ社による3Dバーチャルキャラクターの接客VTuberサービス。8年前の出発点にあたる発表である。
















