バイコヌールのソユーズ有人発射台に深刻な損傷 ISS運用とプログレス補給に影響か

[更新]2025年12月1日

BaikonurのSoyuz有人発射台に深刻な損傷 ISS運用とProgress補給に影響か - innovaTopia - (イノベトピア)

2025年11月27日にカザフスタンのバイコヌール宇宙基地Site 31で行われたソユーズ宇宙船による国際宇宙ステーション(ISS)行き有人打ち上げの翌日、ロスコスモスは発射台の損傷を確認したと発表した。

損傷は複数の発射台コンポーネントに及んでおり、RussianSpaceWeb.comのアナトリー・ザック氏が公開した画像では、ソユーズロケットを支えるモバイルサービスプラットフォーム(整備塔およびアクセス構造物)が、発射時の噴射を逃がす火炎ダクト(Flame Trench)内に崩落している様子が示されている。ロスコスモスは予備部品の存在を強調する一方で詳細な内訳は明かしておらず、ザック氏は修復に最大2年を要する可能性を指摘している。Site 31はISS向け有人打ち上げに対応した唯一の発射台であり、今回の損傷はプログレス補給船の打ち上げ計画やISS運用にも影響を与える可能性がある。

一部のクルー輸送や物資補給についてはSpaceXのクルードラゴンやカーゴドラゴンが肩代わりできるものの、ロシアモジュールのエンジン再補給など、ロシアの宇宙機が必須のタスクも残っている。こうした事情から、発射台の復旧見通しと代替手段の確保は、ロシアだけでなくISS全体の運用にとって重要な焦点となっている。

From: 文献リンクBaikonur’s only crew-capable pad busted after Soyuz flight

【編集部解説】

今回の事案は、「ロシア唯一のISS向け有人対応発射台が、一度の打ち上げで長期離脱するかもしれない」という、宇宙インフラの脆さを端的に示す出来事です。バイコヌール Site 31/6はSoyuz-2による有人ミッションに対応する唯一のパッドであり、この一点にクルー打ち上げ機能が集中していました。

ロシアの宇宙機関ロスコスモスは「複数コンポーネントの損傷」と「予備部品あり」を強調していますが、アナトリー・ザック氏が公開した写真や各社の衛星画像分析からは、モバイルサービスプラットフォームがフレームトレンチへ崩落しているなど、構造的なダメージが大きい可能性が指摘されています。修復に最大2年という見積もりはZak氏側の予測であり、ロスコスモスが公式に期間を認めたわけではない点は切り分けて捉える必要があります。

技術的な観点では、「単一の発射台に依存した有人宇宙インフラ」が抱えるリスクが、極めてわかりやすい形で露呈したと言えます。かつてはSite 1(Gagarin’s Start)をソユーズ2対応に改修する計画もありましたが、これはキャンセルされており、結果としてロシアの有人打ち上げ能力はSite 31に集約されていました。今回の損傷は、クラウドや通信ネットワークと同様に、「シングルポイント・オブ・フェイリア」を宇宙アクセスからどう排除するかという課題を突きつけています。

ISS運用への影響については、一部の見出しが「ロシア唯一の有人手段が失われた」「ISS危機」と強いトーンで報じているものの、状況はもう少し複雑です。クルー輸送という意味では、SpaceX クルードラゴンが既に実績を重ねており、米国側でのバックアップは存在します。しかし、ISSの軌道維持や姿勢制御、ロシアモジュールへの推進剤補給には現在もプログレス補給船が重要な役割を担っており、プログレスの打ち上げが長期的に制約される場合は、別の運用設計や代替手段を検討する必要が出てきます。

ポジティブな側面としては、宇宙インフラの多様化と商業化が、政治的・技術的なリスクへの「バッファ」となりうることがより明確になった点があります。NASAはクルードラゴンに加え、ボーイング スターライナーなど複数のクルー輸送手段を育てようとしており、今後は商業ステーションや他国・民間の打ち上げ事業者も含めた多極化が進んでいきます。プレイヤーが増えるほど、特定の国家や発射台に依存しない宇宙アクセスが実現しやすくなります。

同時に、こうしたトラブルが宇宙開発の「地政学化」をさらに押し進める可能性にも目を向ける必要があります。ロシアが自前のインフラ復旧や代替発射能力の確保を急ぐ中で、各国・企業がそれぞれのステーションや打ち上げ手段を囲い込む方向へ動けば、協調よりブロック化が強まる懸念もあります。人類全体として宇宙へのアクセスをどれだけオープンかつ冗長なものにできるかが、これから10年単位の重要なテーマになっていくはずです。

バイコヌールの事故は、「たった一つの発射台にどれほど多くの人とミッションの運命が乗っていたのか」という事実を可視化しました。ポストISSや商業宇宙ステーションに向かうこれからのフェーズで、宇宙インフラのレジリエンス設計について、読者のみなさんと一緒に考えていければと思います。

【用語解説】

Soyuz(ソユーズ)
ロシアが運用する有人・無人宇宙船およびロケットシリーズの名称で、ISSへのクルー輸送や物資補給に広く用いられている。

International Space Station(ISS)
複数国が共同運用する地球低軌道上の有人宇宙ステーションで、長期滞在実験や技術実証のプラットフォームとなっている。

Baikonur Cosmodrome(バイコヌール宇宙基地)
カザフスタンに位置する宇宙基地で、旧ソ連時代からロシアの主要な打ち上げ拠点として利用されている。

Site 31/6
Baikonur宇宙基地内にある発射施設の一つで、Soyuz-2によるISS向け有人打ち上げに対応した唯一の発射台である。

mobile service platform / service cabin
ロケットを打ち上げ直前まで支えるとともに、技術者がロケット各部にアクセスするための構造物で、発射台のフレームトレンチ周辺に配置される。

Progress(プログレス)
ロシアが運用する無人補給船シリーズで、ISSへの物資輸送や推進剤補給などを目的としている。

Gagarin’s Start(Site 1)
ガガーリンの初飛行で使用されたBaikonurの歴史的発射台で、Soyuz-2対応への改修計画があったが中止された施設である。

【参考リンク】

Roscosmos(ロシア国営宇宙開発公社)(外部)
ロシアの宇宙開発を統括する政府機関の公式サイトで、打ち上げやISS関連ミッションの最新情報を掲載している。

RussianSpaceWeb.com(外部)
Anatoly Zakが運営するロシア宇宙開発専門サイトで、BaikonurやSoyuz、各種発射台の技術的背景を詳しく解説している。

NASA(外部)
アメリカ航空宇宙局の公式サイトで、ISS計画、商業クループログラム、ポストISS構想などの情報を幅広く提供している。

SpaceX(外部)
Crew DragonやCargo Dragon、Falcon 9を運用する民間宇宙企業の公式サイトで、ISSへのクルー・貨物輸送や商業打ち上げの実績を紹介している。

European Space Agency(ESA)(外部)
欧州宇宙機関の公式サイトで、ヨーロッパ各国による宇宙開発プロジェクトや打ち上げインフラ、探査計画などを発信している。

Arianespace(外部)
フランス領ギアナ・KourouからArianeやVegaロケットを打ち上げる企業の公式サイトで、商業打ち上げサービスや発射施設の概要を掲載している。

【参考記事】

Baikonur launch pad damaged after Russian Soyuz launch to International Space Station(外部)
Roscosmosの公式発表を中心に、損傷箇所の概要や運用停止見込み、Progress補給ミッションとISS運用スケジュールへの影響可能性を報じている。

Launch pad damaged as Russian rocket blasts off for space(外部)
打ち上げ自体は成功しクルーはISSへ到着した一方で、発射台設備が損傷した事実と、SpaceX Crew Dragonなど他手段との関係やISS運用への影響を解説している。

Russian cosmodrome damaged after Soyuz launch to ISS(外部)
Baikonurの損傷をロシア宇宙インフラの老朽化や資金制約の文脈で捉え、Site 31/6の歴史と発射インフラの冗長性欠如が生むリスクを整理している。

Russia’s Launch Pad Damaged After Soyuz MS-28 Launch(外部)
Soyuz MS-28打ち上げ後の発射台損傷を宇宙政策の観点から分析し、修復期間の見積もりやISS共同運用の責任分担、将来の商業ステーションへの影響を論じている。

Russian launch pad incident raises concerns about future of space station(外部)
発射台事故の背景として運用手順や安全文化の問題を指摘し、今回の事案がISSの将来と国際宇宙協力に与える長期的な影響を検討している。

【編集部後記】

宇宙インフラのニュースは、どうしても遠い世界の出来事のように感じやすいかもしれません。それでも、今回のバイコヌールでのトラブルは、「人類がどんな前提で宇宙へ出ていくのか」という足元の設計そのものに関わる話だと受け止めています。

もし自分が宇宙に行ける時代になったとして、その旅がどんなインフラの上に成り立っていてほしいか。国家と民間の役割分担はどうあってほしいか。そんなイメージを、この記事をきっかけに少しだけ言葉にしてみてもらえたらうれしいです。

投稿者アバター
omote
デザイン、ライティング、Web制作を行っています。AI分野と、ワクワクするような進化を遂げるロボティクス分野について関心を持っています。AIについては私自身子を持つ親として、技術や芸術、または精神面におけるAIと人との共存について、読者の皆さんと共に学び、考えていけたらと思っています。

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