オフィスで隣のデスクにいるのが、人ではなくロボットになる未来を、どれくらいリアルに想像できるでしょうか。
安川電機とソフトバンクが組む「フィジカルAI」は、その未来を研究段階から一気に「現場レベル」へ引き寄せようとしている取り組みです。
株式会社安川電機とソフトバンク株式会社は、2025年12月1日にフィジカルAI領域における協業について覚書(MOU)を締結したと発表した。
安川電機のAIロボティクスとソフトバンクのAI-RANを融合し、ロボットが対応できる作業領域の拡張を目指す。オフィス環境で活躍するフィジカルAIロボットのユースケースを共同開発し、2025年12月3日から6日に開催される国際ロボット展(iREX)の安川電機ブース(東京ビッグサイト西1ホール、小間番号W1-01)で公開する。
安川電機は自律ロボット「MOTOMAN NEXT」を展開し、ソフトバンクはAI-RANやMEC基盤を活用したリアルタイム処理技術を開発している。
両社は人とロボットが同じ空間で協調して働く未来の実現に向け、フィジカルAI領域の新たな自動化ソリューションの社会実装を目指す。
From:
安川電機とソフトバンク フィジカルAIの社会実装に向けて協業開始
【編集部解説】
この協業が注目される理由は、産業用ロボット分野で圧倒的な実績を持つ安川電機と、通信インフラを握るソフトバンクという、異なる領域のリーディングカンパニーが手を組んだ点にあります。従来の産業用ロボットは工場の生産ラインなど、環境が管理された空間で活躍してきましたが、今回目指すのはオフィスや病院、商業施設といった「人と同じ空間」での稼働です。
技術的な核心は、ロボット単体の判断力と、通信ネットワーク経由で提供される「外部の視点」の融合にあります。安川電機の自律ロボット「MOTOMAN NEXT」は、2023年に発表された新プラットフォームで、環境認識や状況判断、自律的な動作計画を実現する独自のアーキテクチャを搭載しています。一方、ソフトバンクのAI-RANとMEC(マルチアクセスエッジコンピューティング)基盤は、建物管理システムやカメラ、センサーからの膨大な情報を低遅延で統合・解析し、ロボットに最適な指示を出す役割を担います。
この組み合わせが実現するのは「マルチスキル機能」です。従来のロボットは特定作業に特化していましたが、MECで動作するAIがリアルタイムに状況を判断することで、1台のロボットが複数の役割をこなせるようになります。例えば、オフィスでの配送作業中に清掃が必要になれば、優先順位を判断して柔軟にタスクを切り替えることが可能です。
今回のデモンストレーションは12月3日から東京ビッグサイトで開催される国際ロボット展で公開されます。実用化に向けた課題としては、不特定多数の人がいる環境での安全性確保や、建物管理システムとの連携における標準化、さらにはプライバシーへの配慮が挙げられます。しかし、少子高齢化による人手不足が深刻化する日本において、このフィジカルAI技術は労働力不足を補う重要なソリューションとなる可能性を秘めています。
【用語解説】
AI-RAN(AI-Radio Access Network)
AIと無線アクセスネットワーク(RAN)を融合した技術概念である。基地局近くでAI処理を実行することで、従来のクラウド処理では数百ミリ秒かかっていた応答時間を数十ミリ秒に短縮できる。8K映像などの大容量データを基地局付近で処理することで、リアルタイムな高度処理を実現する。
MEC(Multi-access Edge Computing)
計算リソースとサービスをネットワークのエッジ(末端)に配置する分散コンピューティングアーキテクチャである。データ処理をデータソースの近くで行うことで遅延を最小化し、IoT、AR/VR、自動運転車など遅延に敏感なアプリケーションに特に有効である。5Gネットワークとの統合により、低遅延・高帯域幅のアプリケーションを実現する。
フィジカルAI
物理世界で動作するロボットやデバイスにAIを統合し、リアルタイムで環境を認識・判断・行動する技術である。従来のデジタル空間でのAIと異なり、センサーやアクチュエーターを通じて物理的な作業を自律的に実行できる。
【参考リンク】
株式会社安川電機 公式サイト(外部)
産業用ロボット、サーボモータなどFA機器の総合メーカー。モーション制御技術で世界的評価を得る。
MOTOMAN NEXT 公式ページ(外部)
安川電機の適応型ロボットプラットフォーム。AIと機械学習で状況認識し自律的にタスクを実行。
ソフトバンク AI-RAN技術解説ページ(外部)
超低遅延処理と8K映像など大容量データを基地局近くで処理する技術。AI時代の社会インフラ。
ソフトバンク ニュースリリース(外部)
AI-RANとMEC基盤を活用したフィジカルAIの社会実装に向けた協業の詳細を発表。
【参考動画】
The Next Step toward AI – Concept presentation(YASKAWA Europe GmbH公式)
MOTOMAN NEXTプラットフォームのコンセプトを紹介する公式動画。OTとITを統合したロボット制御システムの特徴や各種サービスを解説。
【参考記事】
SoftBank Corp. and Yaskawa Electric Corporation Begin Collaboration(外部)
AI-RANとMEC基盤でロボット情報と外部システムを統合。マルチスキル機能で複数役割をこなす。
AI-RAN: The Social Infrastructure Supporting the AI Era(外部)
クラウド処理の数百ミリ秒からAI-RANの数十ミリ秒へ。超低遅延と高容量処理を数値で解説。
What is multi access edge computing(外部)
ネットワークエッジでデータ処理し遅延を最小化。IoT、AR/VR、自動運転に有効な技術。
【編集部後記】
今回の協業は、ロボットがオフィスや病院で私たちと同じ空間を共有する未来への大きな一歩です。みなさんの職場や日常に、このようなフィジカルAIロボットが導入されたら、どんな働き方や暮らし方の変化を期待しますか?一方で、安全性やプライバシーの観点から不安に感じる点はあるでしょうか。
技術の進化を社会がどう受け止め、活用していくか――その対話こそが、本当の意味での「社会実装」につながるのではないでしょうか。みなさんの率直な想いをぜひ聞かせてください。






























