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ISRO、史上最大級の通信衛星打ち上げ。スマホ直接通信が現実に

[更新]2025年12月29日

ISRO、史上最大級の通信衛星打ち上げ。スマホ直接通信が現実に - innovaTopia - (イノベトピア)

インド宇宙研究機関(ISRO)は2025年12月24日、アンドラプラデシュ州スリハリコタから打ち上げロケットLVM3-M6を打ち上げ、米国AST SpaceMobileの通信衛星BlueBird Block-2を搭載した。重量6,100kgのこの衛星は、LVM3打ち上げ史上最重量のペイロードであり、低軌道約520km高度に配備される。

BlueBird Block-2は223平方メートルのフェーズドアレイを搭載し、改造していない標準スマートフォンに直接4Gおよび5G接続を提供する。AST SpaceMobileは2024年9月にBlueBird 1-5の5基を打ち上げ済みで、世界50以上のモバイル事業者と提携している。

このミッションはLVM3の6回目の運用飛行であり、7月には15億ドル規模のNASA-ISRO合成開口レーダーミッション(NISAR)を打ち上げている。

From: 文献リンクWhy BlueBird 6 Lift-Off Is A Milestone For ISRO: NDTV Explains

(参考:一部報道では高度約600kmとされていますが、ISROの公式ブローシャでは約520kmと記載されているため、本記事では公式表記に合わせています)

【編集部解説】

このニュースが持つ本質的な意味は、「宇宙からスマートフォンへの直接通信」という技術が、いよいよ実用段階に入ったという点にあります。

従来の通信衛星は地上の基地局を経由する必要がありましたが、BlueBird Block-2は改造していない普通のスマートフォンに直接4G/5G信号を届けます。これは223平方メートルという巨大なフェーズドアレイアンテナを搭載することで実現されており、低軌道に配備される商業通信衛星としては史上最大規模です。

技術的な進化も注目に値します。今回のBlock-2世代は、2024年9月に打ち上げられたBlueBird 1-5(Block-1世代)の約3.5倍の大きさで、データ容量は10倍に拡大しています。最大120Mbpsのピーク速度を実現し、音声通話だけでなく動画ストリーミングにも対応可能です。

ISROにとっても、この打ち上げは商業宇宙ビジネスにおける存在感を示す重要なマイルストーンとなりました。6,100kgというLVM3史上最重量のペイロードを低軌道に投入した実績は、SpaceXやBlue Originといった競合に対する技術力のアピールにもなります。

一方で、この技術には規制面での課題も存在します。各国の電波法や通信事業者との調整が必要であり、AST SpaceMobileは現在50以上のモバイル事業者と提携を進めています。SpaceXのStarlinkも同様の直接通信技術を開発中で、今後は宇宙からの通信インフラをめぐる競争が激化していくでしょう。

将来的には、山岳地帯や海洋、発展途上国など、地上インフラが届かない地域でも高速インターネットが利用可能になります。災害時の緊急通信手段としても期待されており、2026年初頭までに40基の衛星展開を予定しているAST SpaceMobileの動向は、通信業界全体に大きな影響を与えることになるでしょう。

【用語解説】

低軌道(LEO)
地球表面から高度160kmから2,000km程度の軌道を指す。通信遅延が少なく、衛星の製造・打ち上げコストが静止軌道より低い一方、地球をカバーするには多数の衛星が必要となる。

フェーズドアレイ
多数の小型アンテナ素子を配列し、電子的に制御することで特定方向へ電波ビームを形成する技術。機械的な可動部なしで高速にビーム方向を変更できるため、移動する地上の端末との通信に適している。

LVM3(Launch Vehicle Mark-3)
ISROが開発した大型ロケットで、愛称は「バーフバリ」。最大10トンのペイロードを低軌道に投入可能で、インドの有人宇宙飛行計画にも使用予定である。

NISAR(NASA-ISRO Synthetic Aperture Radar)
NASAとISROが共同開発した地球観測衛星。合成開口レーダーを用いて霧や雲を透過し、地表の微細な変化を観測することで、地震、氷床変動、森林変化などを監視する。

【参考リンク】

ISRO(Indian Space Research Organisation)(外部)
インド宇宙研究機関の公式サイト。LVM3-M6ミッションの詳細や打ち上げスケジュール、技術仕様などが掲載されている。

AST SpaceMobile(外部)
宇宙ベースのセルラーブロードバンドネットワークを構築する米国企業。BlueBird衛星の技術仕様、提携モバイル事業者の情報を提供。

SpaceX Starlink Direct to Cell(外部)
SpaceXが開発中の衛星直接通信サービス。既存のスマートフォンへ直接通信を提供する技術を2024年からテスト開始。

【参考動画】

DD NewsによるLVM3-M6打ち上げの公式映像。スリハリコタからの打ち上げシーケンス、ロケット分離、衛星展開までの全過程を収録。

AST SpaceMobileの公式解説動画。BlueBird衛星の直接通信の仕組み、フェーズドアレイ技術の詳細を説明している。

【参考記事】

LVM3-M6 / BlueBird Block-2 Mission – ISRO(外部)
ISRO公式サイトによるミッション概要。6,100kgのペイロード重量、打ち上げ日時と軌道パラメータなど技術的詳細を掲載。

AST SpaceMobile Deploys BlueBird 6, Largest Commercial Array in LEO(外部)
衛星通信専門メディアによる技術分析。223平方メートルのアンテナ、最大120Mbps通信速度など詳細を解説。

Next-Generation BlueBird – AST SpaceMobile(外部)
AST SpaceMobile公式のBlock-2世代技術解説。Block-1比3.5倍の大きさ、10倍のデータ容量について説明。

AST SpaceMobile Plans 40 Direct to Cellphone Satellites Early in 2026(外部)
2026年初頭までに40基の衛星展開計画、世界50以上のモバイル事業者との提携状況、競合分析を掲載。

【編集部後記】

スマートフォンが宇宙と直接つながる時代が、思っていたより早く訪れようとしています。山間部や離島、災害時にも途切れない通信環境は、私たちの生活をどう変えていくでしょうか。

一方で、宇宙からの通信が当たり前になったとき、プライバシーや電波資源の配分といった新たな課題も浮かび上がってきます。みなさんは、この技術にどんな可能性を感じますか?あるいは、どんな懸念を抱かれるでしょうか。未来の通信インフラについて、一緒に考えていければと思います。

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TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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