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古いスマホから金を取り戻せ──中国の新技術が実現する98.2%回収率、2030年の82百万トン電子廃棄物問題に光明

[更新]2026年1月11日

古いスマホから金を取り戻せ──中国の新技術が実現する98.2%回収率、2030年の82百万トン電子廃棄物問題に光明 - innovaTopia - (イノベトピア)

1月8日に報じられたところによると、中国科学院傘下の広州エネルギー変換研究所と華南理工大学の研究者が、電子廃棄物から金を抽出する新手法を開発した。過硫酸カリウムと塩化カリウムの水溶液を用いた自己触媒浸出メカニズムにより、室温で20分以内に98.2%以上の金浸出効率を達成する。廃棄CPUやプリント基板からの回収が可能で、パラジウムの回収率は93.4%である。

10キログラムの廃棄基板から約1.4グラムの金を約72ドルのコストで回収でき、これは1オンスあたり約1,455ドルに相当する。従来技術と比較してエネルギー消費は約62.5%少なく、シアン化物ベースの方法と比較して試薬コストは93%以上削減される。研究は学術誌「アンゲヴァンテ・ケミー・インターナショナル・エディション」に掲載された。

From: 文献リンクChinese scientists recover 98% of gold from old phones in 20 minutes at low cost

【編集部解説】

この技術が持つ意義を理解するには、まず電子廃棄物という「都市鉱山」の実態を知る必要があります。

世界保健機関によれば、電子廃棄物は年間2.6百万トンずつ増加しており、2030年には82百万トンに達する見込みです。2022年時点で、世界で発生した62百万トンの電子廃棄物には、910億ドル相当の金属資源が含まれていました。しかし、そのうち正式にリサイクルされたのはわずか22.3%に過ぎません。

プリント基板1トンには平均140グラム程度の金が含まれており、これは天然金鉱石の40〜800倍という驚異的な濃度です。つまり、私たちが捨てている携帯電話やパソコンは、文字通り「金鉱」なのです。

しかし、従来の金回収方法には大きな問題がありました。シアン化物などの猛毒を使用するため、深刻な環境汚染と健康被害をもたらしてきたのです。中国の貴州省や、ガーナ、インドなどの電子廃棄物処理地では、土壌や水源の汚染により、住民の健康に深刻な影響が出ています。

今回の中国の研究チームが開発した手法は、この問題に対する画期的な解決策となる可能性があります。過硫酸カリウムと塩化カリウムという比較的安全な化学物質の水溶液を使い、金属自身が触媒として働く「自己触媒浸出」という仕組みです。溶液が金やパラジウムの表面に触れると、一重項酸素や次亜塩素酸などの活性酸素種が生成され、金属原子を酸化・溶解させます。

この手法の経済性も注目に値します。10キログラムの廃棄基板から約1.4グラムの金を72ドル(約1万800円、1ドル150円換算)のコストで回収できるということは、1オンスあたり約1,455ドルです。2026年1月初旬の国際金価格は1オンスあたり4,400ドルを超えており、今後10年の終わりまでには1万ドルを超えると予測されています。つまり、この技術を使えば、金のリサイクルが極めて収益性の高いビジネスになるのです。

エネルギー消費も従来技術と比較して約62.5%削減され、試薬コストは93%以上削減されます。有毒なスラッジなどの二次廃棄物の発生も大幅に減少します。

この技術が実用化されれば、電子廃棄物処理の経済性が劇的に改善され、より多くの廃棄物が適切にリサイクルされるようになるでしょう。それは、従来の金採掘による環境破壊を減らし、貴重な資源を循環させる「サーキュラーエコノミー」の実現に大きく貢献します。

ただし、課題も残されています。実験室レベルから産業規模へのスケールアップ、複雑な電子機器からの効率的な基板分離、そして世界各国での法規制への対応などです。また、回収した金属の純度や、連続使用時の溶液の劣化についても、さらなる検証が必要でしょう。

【用語解説】

自己触媒浸出メカニズム
金属自身が触媒として働き、化学反応を促進する仕組み。今回の手法では、金やパラジウムの表面が触媒となって過硫酸カリウムと塩化物イオンを活性化し、金属原子を溶解させる。外部触媒が不要なため、プロセスがシンプルで環境負荷が低い。

塩化カリウム(KCl)
カリウムと塩素からなる化合物。肥料や食品添加物としても使用される比較的安全な物質。この技術では、金属イオンと結合して溶液中に溶かす役割を果たす。

一重項酸素
通常の酸素分子とは異なるエネルギー状態にある活性酸素種。強い酸化力を持ち、金属原子を分解する役割を担う。医療や化学合成でも利用される。

次亜塩素酸
化学式HOClで表される弱酸性の酸化剤。漂白剤や消毒剤として広く使用される。この技術では微量が生成され、金属の酸化に寄与する。

シアン化物
炭素と窒素の化合物で、猛毒として知られる。従来の金採掘やリサイクルで広く使用されてきたが、環境汚染や健康被害のリスクが高い。今回の技術はこれを使用しない点が画期的。

パラジウム
白金族元素の一つで、触媒や電子部品に使用される貴金属。金と同様に電子廃棄物に含まれており、今回の技術では93.4%の回収率を達成している。

プリント基板(PCB)
電子部品を実装するための板状の基材。銅の配線パターンと金メッキされた接点を持ち、金、銀、パラジウムなどの貴金属が含まれる。電子廃棄物における主要な金の供給源。

サーキュラーエコノミー
資源を循環させる経済モデル。従来の「採掘→製造→廃棄」という一方通行ではなく、廃棄物を資源として再利用することで、環境負荷を減らしながら経済活動を持続させる考え方。

都市鉱山
都市部に蓄積された電子機器などの人工物に含まれる金属資源を鉱山に見立てた概念。天然鉱石よりも高濃度で貴金属が含まれることから、有望な資源供給源として注目されている。

【参考リンク】

中国科学院(Chinese Academy of Sciences)(外部)
中国最大の科学研究機関。広州エネルギー変換研究所を傘下に持つ。

華南理工大学(South China University of Technology)(外部)
広州に位置する中国の主要工科系大学。今回の技術の共同開発に参加。

世界保健機関(WHO)(外部)
国連の専門機関。電子廃棄物の健康・環境への影響を調査・報告。

Angewandte Chemie International Edition(外部)
ドイツ化学会発行の世界的権威ある化学専門誌。今回の研究を掲載。

【参考記事】

Chinese team unveils cleaner way to mine gold from e-waste(外部)
広州エネルギー変換研究所の金回収技術の詳細。1オンス1,455ドルのコストを実現。

Green Recovery of Precious Metals from E-waste(外部)
学術誌掲載の原著論文。エネルギー消費62.5%削減、試薬コスト93.2%削減を確認。

Global E-waste Statistics(外部)
2022年の世界の電子廃棄物は62百万トン。2030年には82百万トンに達する見込み。

The Hidden Value of Printed Circuit Board Scrap(外部)
PCBスクラップ1トンには100〜300グラムの金が含まれ、天然鉱石の約50倍の濃度。

Electronic waste is a gold mine waiting to be tapped(外部)
1トンのPCBに200kgの銅、0.4kgの銀、0.09kgの金。天然鉱石の10倍の濃度。

Global e-Waste Monitor 2024(外部)
国連報告書。2022年のリサイクル率22.3%。620億ドル相当が未回収のまま。

【編集部後記】

使わなくなったスマートフォンやパソコン、みなさんはどうされていますか? 私たちも、引き出しの奥で眠っている古いデバイスを見つけるたびに、「これをどうすべきか」と悩みます。

今回ご紹介した技術は、そんな電子機器が実は「都市の金鉱」であることを改めて教えてくれました。テクノロジーが生み出す廃棄物を、テクノロジーの力で資源に変える。この循環が当たり前になる未来を、みなさんはどう思われますか? もしよければ、お手元の古いデバイスをどう処分されているか、ぜひSNSで教えていただけると嬉しいです。

投稿者アバター
Ami
テクノロジーは、もっと私たちの感性に寄り添えるはず。デザイナーとしての経験を活かし、テクノロジーが「美」と「暮らし」をどう豊かにデザインしていくのか、未来のシナリオを描きます。 2児の母として、家族の時間を豊かにするスマートホーム技術に注目する傍ら、実家の美容室のDXを考えるのが密かな楽しみ。読者の皆さんの毎日が、お気に入りのガジェットやサービスで、もっと心ときめくものになるような情報を届けたいです。もちろんMac派!

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