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電子廃棄の年間排出量11.2kg、IDCアナリスト警鐘 ― デバイス寿命1年延長で200万台の車削減効果

電子廃棄の年間排出量11.2kg、IDCアナリスト警鐘 ― デバイス寿命1年延長で200万台の車削減効果 - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-05-17 18:25 by admin

2025年5月16日、The Registerに掲載されたTEDトークの報告によると、IDCのEMEA担当デバイス部門バイスプレジデントであるフランシスコ・ヘロニモ氏は、電子廃棄物問題の深刻さと解決策について講演した。2022年には世界で6,200万トンの電子廃棄物が発生し、一人あたりの電子廃棄物排出量は年間11.2kgに達している。

ヘロニモ氏は、消費者がデバイスの寿命を延ばすことと、新品ではなくリファービッシュ(再生)デバイスを購入することを提案した。欧州連合のユーザーが洗濯機、ノートパソコン、掃除機、スマートフォンの寿命を1年延長するだけで、約400万トンのCO2排出量が削減できるという2019年の欧州環境局の調査結果を引用した。製品の寿命を平均1年延長することは、毎年200万台の車を道路から取り除くのと同等の効果があるとしている。

一方、米国の非営利団体Public Interest Research Group(PIRG)の調査によると、2024年から2025年にかけて、最新世代のスマートフォンは修理可能性が向上したものの、ラップトップメーカーの多くは修理可能性の改善で停滞していることが明らかになった。AppleとDellのラップトップは分解のしやすさにおいて改善が見られたが、他のブランド(HP、Acer、Lenovo、Microsoft、Samsung、ASUS)はほとんど変化がなかった。

リファービッシュデバイスの販売成長は新品デバイスを上回っており、2023年にはリファービッシュスマートフォンの出荷台数が世界的に9.5%増加して3億940万台に達した一方、新品のハンドセット出荷は3.2%減少した。

2024年3月の国連の報告書によると、テクノロジー業界はリサイクルするよりも約5倍速く電子廃棄物を生み出しており、2022年に世界で発生した6,200万トンの電子廃棄物のうち、適切にリサイクルされたのは推定1,380万トン(22.3%)にとどまっている。電子廃棄物のリサイクルには、温室効果ガス排出回避による230億ドルの貨幣価値と、金、銅、鉄などの回収材料による280億ドルの便益があると推定されている。

References:
文献リンクAnnual electronic waste footprint per person is 11.2 kg

【編集部解説】

皆さん、電子機器の廃棄問題は私たちの生活に密接に関わる重要な課題です。今回のTEDトークでフランシスコ・ヘロニモ氏が指摘したように、電子廃棄物は年々増加の一途をたどっています。

まず、記事で紹介された数値を確認してみましょう。2022年に世界で発生した電子廃棄物は6,200万トンとされていますが、これは国連の「グローバルEウェーストモニター2023」の報告書とも一致しています。また、一人あたりの年間電子廃棄物排出量11.2kgという数字も正確です。

注目すべきは、電子廃棄物のリサイクル率の低さでしょう。世界全体では22.3%にとどまり、この数年間で改善が見られていません。国や地域によって大きな差があり、欧州が約40%と最も高く、アフリカではわずか1%未満にとどまっています。

日本は電子廃棄物の排出量で世界第3位(約2,500キロトン)、リサイクル率は約24%と報告されています。これは世界平均より高いものの、欧州諸国と比較するとまだ改善の余地があることを示しています。

ヘロニモ氏が提案する「循環性」というアプローチは非常に重要です。製品の寿命を1年延長するだけで、CO2排出量の大幅削減につながるという点は、私たち消費者が直接貢献できる部分として注目に値します。

リファービッシュ市場の成長も見逃せません。2023年の世界市場規模は約500億ドルに達し、2030年までに約1,000億ドルまで拡大すると予測されています。年平均成長率は10%前後と、新品市場を大きく上回るペースで成長しているのです。

電子廃棄物リサイクル市場も2024年の約400億ドルから2030年には約650億ドルへと拡大が見込まれています。しかし、リサイクル率の低さを考えると、まだまだ発展の余地があるセクターと言えるでしょう。

修理のしやすさも重要な要素です。PIRGの調査ではAppleとDellがラップトップの修理のしやすさで改善を見せていますが、業界全体としてはまだ進展が遅いのが現状です。製品選びの際には、性能だけでなく修理のしやすさも考慮する価値があるでしょう。

電子廃棄物問題は単なる環境問題ではなく、経済的な側面も持ち合わせています。国連の報告によれば、電子廃棄物のリサイクルには温室効果ガス排出回避による230億ドル、回収材料による280億ドルの便益があるとされています。一方で、処理コスト100億ドルと外部コスト780億ドルも発生しており、総合的な視点での対策が必要です。

私たち消費者にできることは何でしょうか。まず、製品を長く使うこと。修理可能な製品を選ぶこと。そして、新しい製品が必要な場合はリファービッシュ製品を検討することです。これらの小さな選択が、大きな環境負荷の軽減につながります。

テクノロジーの進化は私たちの生活を豊かにする一方で、廃棄物問題という課題も生み出しています。持続可能な未来のために、私たち一人ひとりが「循環型経済」の一員として意識的な選択をしていくことが求められているのです。

【用語解説】

e-waste(電子廃棄物)
電気電子機器廃棄物の略称。使用済みのテレビ、パソコン、スマートフォンなど電子機器の廃棄物のこと。有害物質を含むことが多く、適切な処理が必要とされる。2022年には世界で約6,200万トンが発生し、2030年までに約8,200万トンに増加すると予測されている。

リファービッシュ(refurbish)
不良品や中古機器を整備し、新品に準じる状態に仕上げること、またはその製品自体を指す。単なる中古品と異なり、専門家による検査、修理、部品交換、クリーニングなどが行われ、多くの場合保証付きで販売される。

EMEA
Europe, the Middle East and Africaの略で、ヨーロッパ・中東・アフリカの3つの地域を意味する。グローバル企業やマーケティング会社が世界の地域を分類する際によく使用される用語。

IDC
International Data Corporationの略。ITおよび通信分野に関する調査・分析、アドバイザリーサービスを提供するグローバル企業。世界110か国以上で1,000人を超えるアナリストが市場動向の調査・分析および市場予測を行っている。

PIRG
Public Interest Research Groupsの略。消費者保護、公衆衛生、交通などの問題に関する草の根組織と直接的な擁護活動を行う米国とカナダの非営利組織の連合体。

【参考リンク】

IDC Japan株式会社(外部)
IT市場調査・分析を行うグローバル企業の日本法人。テクノロジー市場の動向や予測に関する情報を提供している。

バックマーケット(外部)
リファービッシュ製品を専門に扱うマーケットプレイス。品質保証付きの再生電子機器を提供している。

Public Interest Research Group(外部)
消費者保護や環境問題に取り組む米国の非営利組織。電子廃棄物問題にも積極的に取り組んでいる。

国連環境計画(UNEP)(外部)
電子廃棄物問題を含む環境問題に取り組む国連機関。「グローバルEウェーストモニター」などの報告書を発行している。

【参考動画】

【編集部後記】

みなさんは普段、使わなくなったスマートフォンやパソコンをどうしていますか?引き出しにしまったまま?それとも適切にリサイクルしていますか?実は私たち一人ひとりの小さな選択が、地球環境と資源の未来を大きく左右しています。リファービッシュ製品を選ぶことや、修理して長く使うことが、年間200万台の車を道路から減らすのと同等の環境効果をもたらすとしたら?次に電子機器を購入・処分する際、ぜひ「循環」の視点で選択肢を見直してみませんか?あなたのアクションが未来を変えるかもしれません。

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TaTsu
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