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Google Search・Gemini、統合か分岐か—責任者リズ・リードが語る「答えのない未来」

[更新]2026年3月10日

2026年3月6日、GoogleのVP兼Search責任者であるリズ・リードは、Access PodcastのインタビューでGoogle SearchとGeminiの関係について言及した。リードは、SearchはウェブとのつながりをもたらすInformation Product、GeminiはプロダクティビティとクリエイションのためのAssistantであると位置づけた。両製品は技術を共有しているが、方向性は異なり、統合・分岐・第三のプロダクトへの移行のいずれになるかは未定だと述べた。

また、エージェント同士がインターネット上でやり取りする未来を予測した。GoogleとChatGPTの競争については、一つの製品のみが残る世界にはならないとの見解を示した。さらに、ユーザーが信頼または課金している情報源を優先表示するPreferred Sources機能の拡充に取り組むと語った。

From: 文献リンクGoogle’s Liz Reid: Search and Gemini may converge, or diverge further

【編集部解説】

今回のニュースを理解するうえでまず押さえておきたいのが、リズ・リードという人物の立場です。彼女はGoogleに約22年在籍し、Google Mapsの礎となったGoogle Localチームを経て、2024年にSearch全体のトップに就任しました。ChatGPTの台頭によって検索の未来への不安が最も高まっていたまさにその時期に、Googleの「稼ぎ頭」を引き受けた人物です。

今回のAccess Podcastでの発言が注目されるのは、「わからない」という言葉をGoogle幹部が公の場で繰り返したという異例の率直さにあります。SearchとGeminiが統合されるのか、分岐するのか、あるいは第三のプロダクトに進化するのか——その問いに対してリードは明確な答えを持っていない、と認めました。これは企業PRとしてはリスクのある発言であり、裏を返せばそれだけ業界全体が答えを持てていない局面にあることを示しています。

技術的な背景として知っておきたいのは、GoogleがAIを検索に組み込んでいたのは、今に始まった話ではないという点です。BERTやMUMといった大規模言語モデルは以前から検索のランキング処理に使われていましたが、ユーザー向けの応答生成には「100ミリ秒単位の遅延でも検索行動が変わる」という応答速度の壁があり、長らく採用できませんでした。AI Overviewsが実現したのはモデルの能力向上だけでなく、処理速度の改善があったからこそです。2026年1月27日にはGemini 3がAI Overviewsのデフォルトモデルとして採用され、会話型のAI Modeへのシームレスな移行が可能になりました。

市場の動向を数字で見ると、状況の複雑さがよくわかります。ChatGPTのAIトラフィックにおけるシェアは2025年を通じて86.6%から64.6%へと低下しており、Geminiの存在感が高まっています。一方で、独立した調査機関はAI Overviewsが表示されるクエリにおけるオーガニックのクリックスルー率が前年比で最大54.6%低下したと報告しており、Googleの「クリックの質が向上している」という公式見解とは大きく乖離しています。この数字のギャップは、パブリッシャーと検索プラットフォームの間で最も鋭い対立点の一つとなっています。

エージェントに関するリードの発言も見逃せません。将来的にはAIエージェント同士がインターネット上でやり取りするようになるという見通しは、現在の「人間が検索して情報を得る」というモデルそのものを根底から問い直します。AI Modeのクエリは従来の検索クエリに比べて2〜3倍長いことが確認されており、これは検索の意図がより深く・複雑になっていることを意味します。エージェントが代わりに検索を行う世界では、広告のあり方やコンテンツの露出モデルも根本的に変わる可能性があります。

Preferred Sources機能の拡充については、ポジティブな側面とリスクの両面があります。Preferred Sourcesを設定したユーザーは、そのサイトへのクリック率が平均で2倍になるというデータは、ユーザーとメディアの関係を強化する可能性を示しています。しかし一方で、課金ユーザーや特定のソースに親しみのあるユーザーが優遇されるアルゴリズムは、情報の多様性や、サブスクを持たないユーザーへのアクセス格差という問題も孕んでいます。

規制の観点からも、このインタビューは重要な示唆を持ちます。SearchとGeminiの境界が「わからない」と認められた今、EUや各国の競争当局が注目するGoogleの市場支配力の定義も、改めて問われる局面が来るかもしれません。単一の製品として規制対象を定義することが難しくなるためです。

「今、答えがない」と公言したリードの発言は、弱さではなく、変化の速度の大きさを正直に反映したものと捉えるべきでしょう。SearchとGeminiのどちらが「勝つ」かという問いは、おそらく正しい問いではありません。私たちが注目すべきは、その二つを超えた「第三のプロダクト」が生まれるとすれば、それはどんな姿なのか——という点です。

【用語解説】

BERT(Bidirectional Encoder Representations from Transformers)
Googleが2019年に検索ランキングへ導入したトランスフォーマー型の言語モデル。単語の前後の文脈を双方向に読み取ることで、クエリの意味をより正確に把握できるようになった。ユーザー向けの応答生成ではなく、検索結果の順位付けに使われていた。

MUM(Multitask Unified Model)
BERTの後継として開発されたGoogleの大規模言語モデル。複数の言語と複数のメディア形式(テキスト・画像など)を横断して処理できる。能力は高かったが、応答速度の問題から限定的な用途にとどまっていた。

AIエージェント(AI Agent)
人間の指示を受けて自律的にタスクを実行するAIシステム。単に情報を提示するだけでなく、検索・判断・行動を連続的に行う。将来的にはエージェント同士がインターネット上でやり取りする「エージェント間通信」が起きると予測されている。

AI Mode
Google検索内で提供される会話型AI検索モード。従来の検索クエリよりも2〜3倍長いクエリが入力される傾向があり、ユーザーの検索意図がより深く・複雑になっていることを示している。

プロダクトの「北極星(North Star)」
製品開発における究極の目標・方向性を指す業界用語。航海における北極星のように、チーム全体が迷ったときに立ち返る指針となるコンセプトのこと。

【参考リンク】

Google Search(外部)
世界最大のウェブ検索エンジン。AI Overviewsを標準搭載し、AIによる要約を全世界で展開している。

Google Gemini(外部)
GoogleのAIアシスタントアプリ。プロダクティビティやクリエイション支援に重点を置き、Searchとは異なる「北極星」を持つ。

ChatGPT(OpenAI)(外部)
OpenAIが提供する対話型AIサービス。2025年を通じてシェアは低下傾向にあるが、主要なAI情報ツールの一つ。

Google Preferred Sources(パブリッシャー向け公式ドキュメント)(外部)
信頼・課金しているメディアを優先表示する機能の公式ガイド。2025年12月に英語圏全域へ拡大された。

Access Podcast(Vox Media Podcast Network)公式YouTubeチャンネル(外部)
アレックス・ヒースとエリス・ハンバーガーが共同ホストを務めるテクノロジー系ポッドキャストの公式チャンネル。

【参考動画】

【参考記事】

Google’s Liz Reid on why search won’t die when AI answers everything(外部)
ChatGPTのシェア推移(86.6%→64.6%)やクリック率54.6%低下など具体的数値を多数引用した詳細分析記事。

Google’s Liz Reid Says LLMs Unlock Audio And Video Indexing(外部)
Preferred Source設定ユーザーのクリック率が平均2倍になるデータと、音声・動画インデックス拡充を詳述。

Liz Reid on where Google Search ends and Gemini begins(外部)
インタビュー担当のアレックス・ヒース自身が、リードの「わからない」発言の異例さを当事者視点で解説。

Google’s Liz Reid: It isn’t AI or search; it’s AI in search(外部)
2025年6月時点でのリードへの別インタビュー。今回の発言との連続性を理解するうえで有用な背景情報を提供。

Watch Google’s Liz Reid On AI Search, Ad Clicks, Publishers & More(外部)
2025年10月のWSJインタビュー記事。モバイル移行期との比較や「自社を内側から破壊する」戦略の発言を収録。

【編集部後記】

「SearchとGeminiの未来はわからない」—Googleのトップ自らがそう語る時代に、私たちは立っています。

あなたは今、情報を探すとき何を使っていますか?検索、AI、それとも両方?その選択の積み重ねが、次のインターネットの形をつくっていくのかもしれません。

投稿者アバター
TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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