Blueskyは2026年3月28日、AIアプリ「Attie」を発表した。Atmosphereカンファレンスにて、元CEO(現・最高イノベーション責任者)のジェイ・グレイバーとCTOのポール・フレイジーが初公開した。AnthropicのClaudeを搭載し、AT Protocol上に構築されたスタンドアロンプロダクトである。ユーザーは自然言語の入力のみでカスタムフィードを構築できる。
暫定CEOのトニ・シュナイダーによれば、将来的にはvibe-codingによる独自ソーシャルアプリの作成も可能にする計画だ。サインインにはAtmosphereのログイン情報を使用する。現在はプライベートベータの段階にある。Blueskyは昨年クローズしたラウンドで1億ドルの追加資金調達を完了しており、ユーザー数は4,340万人である。
From:
Bluesky leans into AI with Attie, an app for building custom feeds | TechCrunch
【編集部解説】
今回のAttie発表が意味するのは、単なる新機能の追加ではありません。「誰がアルゴリズムを支配するか」という、ソーシャルメディアの根本的な権力構造への問いかけです。
現在のX(旧Twitter)やInstagram、TikTokといった主要プラットフォームでは、フィードのアルゴリズムはプラットフォーム側が独占的に管理しています。何が表示され、何が見えなくなるかを決めるのは運営企業であり、その判断基準はほとんど公開されていません。Attieが目指すのは、この構図をひっくり返すことです。自然言語で話しかけるだけで、自分だけのアルゴリズムを持てるようになるという発想は、「フィードの民主化」と呼んでも過言ではないでしょう。
技術的な背景も理解しておく必要があります。Attieが動作する基盤であるAT Protocol(atproto)は、ユーザーのデータとIDをプラットフォームではなくユーザー自身が保持するように設計されたオープンプロトコルです。AT ProtocolはBlueskyの基盤となるオープンプロトコルであり、Attieもその上に構築されています。AttieはAT Protocol上で動くエージェント型AIであり、Attieで作成したフィードは将来的にBlueskyや他のATProto対応アプリ内でも利用可能になる予定です。
また、Attieが搭載するAnthropicのClaudeが「エージェント型」として機能している点も注目に値します。単に質問に答えるだけでなく、ユーザーのこれまでの行動履歴や興味関心をオープンなエコシステムのデータから読み取り、フィード構築という具体的な「アクション」を実行します。これはAIアシスタントの進化の方向性——チャットから、実際に何かを「やってくれる」エージェントへ——をソーシャルメディアの文脈で体現した事例といえます。
将来的に計画されている「vibe-coding」による独自ソーシャルアプリ構築も見逃せません。プログラミング不要で自分だけのソーシャルアプリを作れるとなれば、これまで開発者にしか開かれていなかった扉が、一般ユーザーにも開かれることになります。WordPressがブログ文化を誰でも参加できるものにしたように、Atmosphereエコシステムがソーシャルアプリ開発を大衆化する可能性を秘めています。
一方で、潜在的なリスクも無視できません。オープンなシステムであるがゆえに、ユーザーのデータや行動履歴が複数のアプリ間で共有されることへのプライバシーの懸念は残ります。Bluesky自身もプロトコルへのプライバシー管理機能の追加を今後の課題として挙げており、現時点では未解決です。また、Attieが生成するフィードの品質やフィルターバブルの問題、AIによるコンテンツ操作の可能性も、今後の議論になってくるでしょう。
規制の観点からも、このモデルは前例のない問題を提起します。プラットフォームの責任が分散している場合、有害コンテンツや誤情報の流通に対して誰が責任を負うのか——各国の規制当局はこの問いへの答えをまだ持っていません。
いずれにせよ、Attieはまだプライベートベータに過ぎず、その真価が問われるのはこれからです。しかし、「AIはプラットフォームではなく人のために」という哲学を技術として実装しようとするこの試みは、ソーシャルメディアの次の10年を占う重要な実験といえます。
【用語解説】
AT Protocol(ATプロトコル/atproto)
Blueskyが開発したオープンな分散型ソーシャルメディア用プロトコル。ユーザーのIDやデータをプラットフォームではなくユーザー自身が保持できる設計で、異なるアプリ間でもデータを持ち運べる「アカウントポータビリティ」が特徴。Blueskyの基盤となるオープンな分散型ソーシャルメディア用プロトコル。異なるアプリ間でもデータを持ち運びやすい設計が特徴である。
エージェント型AI(Agentic AI)
質問に答えるだけの従来型AIとは異なり、ユーザーの意図を読み取ったうえで、実際のタスクを自律的に「実行」するAIのこと。Attieの場合、ユーザーの好みを把握してフィードを構築するという具体的なアクションを担う。
カスタムフィード(Custom Feed)
ソーシャルメディアにおいて、プラットフォームが一律に提供するアルゴリズムではなく、ユーザーや開発者が独自のルールで作成した情報の流れのこと。Blueskyではすでに4万件以上のカスタムフィードが存在するとされるが、作成には従来コーディングの知識が必要だった。
vibe-coding(バイブコーディング)
プログラムの細かい仕様を逐一指定するのではなく、AIに大まかな「雰囲気・意図」を自然言語で伝えることでソフトウェアを生成・構築する手法。専門知識がなくてもアプリ開発が可能になることから、開発の民主化を象徴するキーワードとして注目されている。
Atmosphere(アトモスフィア)
AT Protocol上に構築されたアプリやサービス全体のエコシステムの総称。Blueskyはその最大の実装例だが、他にも複数のアプリが存在する。「大気圏」を意味するこの名称は、開かれた共有空間というコンセプトを象徴している。
True Ventures
シリコンバレーを拠点とするベンチャーキャピタル。Blueskyの出資者であり、暫定CEOのトニ・シュナイダーはそのパートナーでもある。
【参考リンク】
Bluesky(bsky.app)(外部)
AT Protocol上に構築された分散型ソーシャルメディア。ユーザーが自分のデータとIDを管理できる設計が特徴。
AT Protocol 公式サイト(外部)
Blueskyが開発したオープンプロトコルの公式ドキュメントサイト。仕様書やAPIリファレンスを公開している。
Anthropic(外部)
Attieの内部エンジンとして採用されているAIモデル「Claude」を開発・提供する米国のAI安全性研究企業。
Automattic(外部)
WordPress.comを運営する企業。暫定CEOのトニ・シュナイダーの前職であり、分散型エコシステムのロールモデルとしてBlueskyが参照している。
【参考記事】
Bluesky Launches Attie, AI-Powered Custom Feed Builder|TechBuzz AI(外部)
AttieとMetaやXのアルゴリズム戦略を比較分析。「Show me tech news but skip crypto drama」など具体的なプロンプト例も紹介している。
Bluesky Uses AI to Build the Custom Feed You Never Could|The AI Economy(外部)
AttieとFlipboardのSurfアプリを比較。Graber氏による「エージェント型ソーシャルの実験場」という位置付けも紹介。
Bluesky’s next product is an AI assistant that helps build custom social media feeds|Engadget(外部)
Attieウェブサイト上の実際のプロンプト例を引用。ウェイトリスト登録が可能である旨も伝えている。
Bluesky Has a New App, and It’s All About AI|Gizmodo(外部)
Atmosphereカンファレンスの位置付けを解説。Attieがまだ未完成のベータ版であることにも言及している。
【編集部後記】
あなたが毎日見ているSNSのフィードは、誰が決めていますか? おそらく、あなた自身ではないはずです。
Attieはその「当たり前」に、静かに問いを投げかけています。自分のアルゴリズムを自分で持てる時代が来たとき、あなたはどんなフィードを作りたいですか? ぜひ想像してみてください。







































