Baselink AI、小学生400人がAIコーチングを実地体験—糸井嘉男氏ら集結「VITAS野球教室」で出展

プロの指導を受けられる子と、そうでない子。その差を埋めるのは、もはや大人の情熱だけではないのかもしれません。野球特化型AI「Baselink AI」が糸井嘉男氏らの野球教室で見せた、新しい指導の風景とは。


株式会社SportsTech Japanは、2026年4月19日に京都で開催された「VITAS野球教室」において、野球特化型SNS・AI解析アプリ「Baselink AI」の体験ブースを出展した。

当日は参加した小学生約400名がAIエージェントによるアドバイス機能を体験した。野球教室には、元阪神の糸井嘉男氏、元ヤクルトの上田剛史氏、元西武の金子侑司氏、元阪神の今成亮太氏、元社会人野球チーム「ミキハウス」の吉田大輝氏に加え、元サッカー日本代表の柿谷曜一朗氏、京田辺市出身の大倉士門氏、SportsTech Japan代表の金澤賢人氏が参加した。同社は今回のフィードバックをもとにAI解析およびSNS機能のアップデートを行い、2026年10月にはゴルフ業界への展開を予定している。SportsTech Japanは2022年7月設立、本社は東京都港区北青山で、資本金は4329万円である。

From: 文献リンク400人の球児がAIコーチングを体験!野球SNS「Baselink AI」が糸井嘉男ら元プロ&日本代表による野球教室に特別出展。

【編集部解説】

「AIが子どものコーチになる」と聞くと、まだ少し先の話のように響くかもしれません。しかし今回のニュースは、その未来が京都のグラウンドで、すでに400人規模で実地に降りてきたという報告です。なぜこのタイミングで取り上げるのか——その背景には、日本の少年野球が抱える構造的な危機があります。

押さえておきたいのは、学童野球の競技人口が2010年代前半にかけて急減してきた事実です。大阪経済大学の研究レポートによれば、スポーツ少年団の軟式野球男子団員は2009年の17万3978人から2015年には11万8044人へと減少したとされ、少子化の進行速度(同期間で子ども人口は約4%減)をはるかに上回るペースで起きていることがわかります。指導者側も同様で、旧来型の根性論、保護者ボランティア依存、勝利至上主義といった構造的課題は、長年にわたり複数の専門家から警鐘が鳴らされてきた領域です。

「Baselink AI」が挑んでいるのは、この地殻変動の中心にある「指導格差」という問題です。都市部の名門クラブに通える子どもと、地方で保護者ボランティアに教わる子どもの間には、受けられる技術指導の質に無視できない開きが存在します。スマートフォン1台で骨格を検知し、フォームの課題を可視化するAIが普及すれば、この距離は理論上、一気に縮めうるものになります。

技術面で見ると、このアプローチは国際的にも急速に標準化しつつある領域です。カナダのウォータールー大学は、スマートフォン映像からの姿勢解析技術をMLB球団向けに応用する「PitcherNet」を2024年のCVPRで発表しています。また、高校生投手500人分の240fps映像を用いて投球フェーズを自動分類する研究も2025年に公開されており、学術と現場の距離は着実に詰まってきています。Baselink AIは、その延長線上にSNS機能と「AIエージェントによる助言」を接続した点にユニークさがあります。

もう一つ注目すべきは、提供元であるSportsTech Japanの打ち手の連続性でしょう。同社は2025年8月にアピリッツおよびクリプトメリアを引受先とする第三者割当増資を実施し(公表は同年9月1日)、2025年10月にはジャパンリーグと業務提携を発表。さらに2025年12月の日本野球学会でβ版を初公開という流れを経て、今回の400人規模の実地フィードバック獲得に至っています。研究者・投資家・プロ球団OB・子どもたちという異なる層を段階的に巻き込む運びには、スポーツテック・スタートアップとして筋の良さを感じます。

一方、潜在的なリスクも冷静に見ておく必要があります。第一に、成長期の子どもの身体情報(骨格や動作データ)をクラウドに蓄積する行為には、医療情報に準じる慎重さが求められます。同意取得のあり方や保護者の関与の設計は、今後の普及速度を左右するでしょう。第二に、AIの示す「正解フォーム」が画一化を招かないかという懸念。プロ選手のフォームが個性的であることが示すとおり、身体の多様性を無視した最適化は、かえって故障リスクを高めかねません。第三に、指導者側の「考える力」を奪いかねないという点。AIが助言を出す裏で、大人の指導者が思考停止に陥れば本末転倒です。

展開面では、同社は2026年10月にゴルフ分野への本格展開を予告しています。骨格解析の知見は、スイング系競技、テニス、武道など、他の身体動作競技への転用可能性が高く、単一競技に閉じない「運動学習プラットフォーム」へと進化する余地があります。長期的には、少子化で競技団体の運営自体が厳しくなる中、AIが指導の底上げを担い、人間の指導者は動機づけや人間的成長の伴走役に回る——そうした役割分担が定着していく可能性も見えてきます。

【用語解説】

DX(デジタルトランスフォーメーション)
デジタル技術を用いて業務や事業、組織のあり方を根本から変革する取り組みを指す。単なるIT化やペーパーレス化を超え、提供価値そのものをデジタル前提で再設計することが本質とされる。

スポーツテック
スポーツ領域に情報技術、AI、センサー、データ解析などを掛け合わせた事業領域の総称である。競技力向上、指導、観戦体験、健康維持、スタジアム運営など、対象範囲は広い。

骨格検知(姿勢推定、ポーズエスティメーション)
画像や動画内の人体から、関節の位置を自動的に抽出する技術である。Baselink AIではスマートフォンで撮影した投球・打撃フォームを解析し、改善点を可視化する用途で使われている。

AIエージェント
ユーザーの目的に応じて自律的に情報収集や判断、助言を行うAIソフトウェアを指す。単なる質問応答型のチャットボットと異なり、文脈に応じた能動的な働きかけができる点が特徴である。

β版(ベータ版)
製品やサービスの正式公開前に、限定的な利用者からフィードバックを集めるための試験版を指す。本件では、2025年12月の日本野球学会においてBaselink AIのβ版が初めて公開された。

第三者割当増資
企業が特定の第三者(事業会社や投資家)に対し新株を割り当てて資金を調達する手法である。SportsTech Japanは2025年に同手法で出資を受けている。

PitcherNet / CVPR
CVPRは、コンピュータービジョン分野における世界最大級の国際学術会議(IEEE/CVF Conference on Computer Vision and Pattern Recognition)である。PitcherNetは、カナダのウォータールー大学が2024年のCVPRで発表した、スマートフォン映像からMLB投手の動作を解析する研究プロジェクトだ。

【参考リンク】

SportsTech Japan 公式サイト(外部)
Baselink AIの開発元であるスポーツテック企業の公式サイト。AIコーチや骨格検知、フィットネス向けサービスなど複数事業を展開している。

Baselink AI 公式サイト(外部)
野球特化型SNS・AI解析アプリの公式サービスサイト。AI骨格解析、動画共有、公認コーチへの指導依頼、練習記録管理などを提供する。

Baselink AI iOS版(App Store)(外部)
iPhone向けBaselink AIのダウンロードページ。動画投稿、AIフォーム分析、コメント機能などが無料で利用できる。

Baselink AI Android版(Google Play)(外部)
Android向けBaselink AIのダウンロードページ。動画共有、AI解析、フォロー機能など野球技術向上を支援する機能を備える。

【参考記事】

Automated Classification of Baseball Pitching Phases Using Machine Learning and Artificial Intelligence-Based Posture Estimation(MDPI Applied Sciences)(外部)
スマホで撮影した240fps映像を用い、高校右投手500名の投球動作を5フェーズに自動分類するシステムを検証した2025年の学術論文。

PitcherNet helps researchers throw strikes with AI analysis(University of Waterloo)(外部)
ウォータールー大が2024年CVPRで発表したAI姿勢解析技術PitcherNetを紹介。低解像度映像からの投手解析の可能性を示した公式リリース。

絶滅危惧野球〜消え続ける野球少年たち〜(大阪経済大学 田島ゼミナール)(外部)
スポーツ少年団の軟式野球男子団員が2009年から2015年で約30%減少したと報告した学生研究レポート。少年野球の構造的課題を整理する。

株式会社SportsTech Japanへの出資についてのお知らせ(アピリッツ適時開示)(外部)
アピリッツがSportsTech Japanへの第三者割当増資引受出資を決定した2025年8月29日付の公式開示資料。投資の狙いが明記されている。

AIスポーツテックベンチャー「株式会社SportsTech Japan」、アピリッツなどから資金調達を実施(PR TIMES)(外部)
SportsTech Japanが2025年9月1日に公表した第三者割当増資のプレスリリース。アピリッツとクリプトメリアが引受先に名を連ねる。

野球特化型SNS×AIコーチ「Baselink AI」β版を初公開(ATPRESS)(外部)
SportsTech Japanが2025年12月の日本野球学会でβ版を初公開した公式告知。今回の出展に至る開発の経緯を確認する一次情報。

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【編集部後記】

小学生の頃、誰かに褒められた一言や、的確に指摘してくれたひと言が、その後の練習姿勢を変えた——そんな経験はありませんか。

昨日4月20日、innovaTopiaではLDHとソフトバンクが提供開始した「AI DANCE LAB Supported by SoftBank」も取り上げました。野球とダンス、対象も提供形態も異なる2つのサービスが並んだことは、AI骨格推定が「身体の学び」の現場に一斉に降りてきた小さな節目のように感じます。

みなさんが身近な子どもの練習を撮るなら、AIにどんなフィードバックを期待しますか。自分の学生時代にこのアプリがあったら、何を見てほしかったでしょう。よろしければ、SNSで感想を聞かせてください。

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Ami
テクノロジーは、もっと私たちの感性に寄り添えるはず。デザイナーとしての経験を活かし、テクノロジーが「美」と「暮らし」をどう豊かにデザインしていくのか、未来のシナリオを描きます。 2児の母として、家族の時間を豊かにするスマートホーム技術に注目する傍ら、実家の美容室のDXを考えるのが密かな楽しみ。読者の皆さんの毎日が、お気に入りのガジェットやサービスで、もっと心ときめくものになるような情報を届けたいです。もちろんMac派!