アパレルECにおけるモデル撮影は、新商品ごとに発生するコストと時間の壁です。生成AIがその解決策として注目されていますが、「サイズ感が伝わらない」「品質が安定しない」という現場の声は根強く残っています。サイズレコメンドエンジン「unisize」を手がけてきた株式会社メイキップが、その蓄積データを武器に参入したAI画像生成サービス「FitModel.AI」は、この課題にどう向き合っているのでしょうか。
2026年4月24日、株式会社メイキップはAI画像生成サービス「FitModel.AI(フィットモデルエーアイ)」の提供を開始した。
同社が運営するサイズレコメンドエンジン「unisize」のサイジング技術と体型データを生成AIと組み合わせ、平置きの商品画像から着丈・袖丈・ゆとりを1cm単位で再現したモデル着用画像を生成できる。たとえば「身長160cmの人が着丈80cmのスカートを着用した際に裾がどの位置にくるか」まで正確に描画される。
サービスの提供形態は「請負型」で、画像の生成・品質管理・納品をメイキップが一括して担う。専任のプロンプトエンジニアチームを社内に置き、モデルの体型・ポージング・背景のカスタマイズにも対応する。
導入企業が行う作業は商品の平置き画像とサイズ寸法情報の提供および最終確認のみとされており、社内にAI運用リソースを持たないブランドでも導入できる設計だ。大量SKUへの対応も可能で、最短3営業日での納品を実現するという。
From:
“サイズまで再現する”AI画像生成サービス「FitModel.AI」〜生成から品質管理・納品まですべてメイキップが対応〜
アイキャッチ画像:株式会社メイキップのPR TIMESより引用
【編集部解説】
「買う側のイメージしやすさ」を積み上げてきた企業の、次の一手
FitModel.AIは、メイキップが何年もかけて積んできた系譜の延長にあります。同社が一貫して追いかけてきたテーマ「買う側が、自分が着たらどう見えるかをイメージしやすくする」に、もう一段の回答を加えたサービスです。
出発点は、サイズレコメンドエンジン「unisize」でした。身長・体重・普段着のブランドなど、ユーザーが持つ情報から最適なサイズを推定する仕組みで、2023年1月時点で月間200万MAU、国内約250サイトに導入されていました。導入ブランドでは、サイズ理由の返品率30%改善や、CVRが非利用者比2.5倍に向上したという事例が報告されています。
次に2024年に本格提供が始まったのが、顔合成AI「FaceChange」です。ECサイト上のモデルやスタッフの顔をユーザー自身の顔に差し替えて着用イメージを可視化するサービスで、利用者の購買率は非利用者比4.2倍、unisizeと併用した場合のCVRは8倍に達したと報告されています。その後も、髪型を含めた自然な合成や1ステップ操作への改修、頭身比に合わせたスタイル調整機能と、アップデートが続いています。ユーザーからは「自分の顔でイメージできるため買い物しやすくなりました」「自分が着用した時の感じが良くわかってよかったです」といった声が寄せられているといいます。
これらのサービスは一貫して「自分が着たらどう見えるか」のイメージを支えてきました。そして今回のFitModel.AIは、「モデル着用シルエットそのもの」という最大の情報量をそこに加える位置づけになります。この積み上げの結果、メイキップには「どの体型の人が、どのサイズを、どのように着るか」という極めて具体的な知見が蓄積されており、汎用の画像生成モデルだけで参入する競合には容易に代替できない資産になっています。
多様な体型のイメージを手配するコストを削減
従来のモデル撮影では、1商品につき用意できるモデル着用イメージは、実質的にモデル1〜2人分に限定されてきました。身長160cmの読者が自分の着用感を知りたくても、掲載されているのは身長168cmのモデル1人分、というケースは珍しくありません。複数の体型のモデルを手配しようとすればキャスティング・スケジュール調整・スタジオ費・ヘアメイクなどの撮影コストが跳ね上がり、特にSKUの多いブランドでは現実的ではありませんでした。
FitModel.AIは、平置きの商品画像とサイズ寸法情報からモデル着用画像を生成できるため、この制約を構造的に外します。モデルの体型・ポージング・背景は組み替えに対応しており、同じ商品について「身長150cmの人が着た場合」「160cmの人が着た場合」「170cmの人が着た場合」といった複数のバリエーションを、原理的には無理のないコストで並べられるようになります。しかも、unisizeで培ったサイジング技術を背景に、着丈・袖丈・ゆとりは1cm単位で反映されるとされています。
買う側から見れば、ここは大きな変化です。「自分とは明らかに体型の違うモデルの一枚絵から、自分の着用姿を推測する」という作業から、「自分に近い体型のモデル画像を直接参照できる」という状況へ移行する余地が生まれる。身長150cm台の人、170cm台の人、体格のがっしりした人、細身の人、これまでモデル撮影の現場制約に縛られていた多様性が、AIのパッケージングで初めて商品ページに載せられるようになります。FaceChangeが「誰の顔か」をユーザー寄りに引き寄せたのに対し、FitModel.AIは「誰の体型か」の選択肢を広げる、というのが本質的な貢献です。
この仕組みは、アパレル企業側にとってモデル手配コストの削減と同時に、AI運用負荷そのものの解消でもあります。プロンプト設計・品質管理・SKU単位の修正指示・ブランドトーンの一貫性維持といった、AIツール導入時に必ず立ちはだかる運用の壁は、メイキップ側の専任プロンプトエンジニアチームが一括で担う「請負型」の設計で取り除かれています。
導入企業の作業は、商品の平置き画像とサイズ寸法情報の提供、そして生成画像の最終確認のみ。アパレル企業から見れば「AIを導入した」というより「多様な体型のモデル撮影をまるごと外注した」という感覚で扱える設計であり、モデル手配コストと運用コストの両方に対する一貫した回答になっています。
商品画像の「もう一つの役割」に応える軸
ここで一歩引いて前提を確認しておくと、アパレルECの商品画像にはもともと二つの役割が同居してきました。
一つはブランドの世界観を伝える広告的な役割、もう一つは購入検討者が実用的に判断するための参考情報としての役割です。前者はプロのモデル・ライティング・構図で磨かれてきた領域であり、ブランドにとって手放せません。一方で後者の「自分が着たらどう見えるか」を具体的にイメージしたいという欲求に十分応えられていたかといえば、改善の余地が大きい領域でした。
生成AI時代の消費者がAI画像の扱いに一定の関心を持ち始めている背景もありますが、重要なのは、「ブランド広告としての画像」を置き換えるのではなく、「実用的な参考情報」の側にAIで厚みを加えるというこのサービスの設計思想です。ブランドや世界観を語るキービジュアルはこれまで通り人間のモデル・プロの撮影で、商品ページの詳細情報としてAIによる多様な着用イメージを、という棲み分けに向かえば、両者は排他ではなく補完の関係になります。
【用語解説】
SKU(Stock Keeping Unit / 在庫管理単位)
商品をカラー・サイズ・素材などの属性の組み合わせで管理する最小単位。例:同一デザインのシャツでも「ホワイト×Sサイズ」と「ホワイト×Mサイズ」はそれぞれ別のSKU。SKU数が多いほど撮影コストや管理コストが増大する。
MAU(Monthly Active Users / 月間アクティブユーザー数)
サービスを対象月に1回以上利用したユニークユーザーの総数。サービスの実質的な利用規模を示す指標として広く用いられる。
CVR(Conversion Rate / コンバージョン率)
ECサイトの訪問者数に対して、購入・問い合わせなど最終成果(コンバージョン)に至った件数の割合。訪問者1,000人のうち10人が購入した場合、CVRは1%。
平置き画像
アパレル撮影の業界用語。商品を平らな面に置いた状態で撮影した画像のこと。モデル着用画像と比較して撮影コストが低い一方、着用時のシルエットや丈感が伝わりにくいという欠点がある。FitModel.AIはこの平置き画像を入力として着用画像を生成する。
【参考リンク】
FitModel.AI 公式サービスサイト(外部)
平置き画像から着丈・袖丈を1cm単位で再現するAIモデル画像生成サービスの公式ページ。生成フロー・管理画面の仕様・対応アイテムを確認できる。
株式会社メイキップ 公式サイト(外部)
unisize・FaceChange・FitModel.AIを手がけるメイキップの企業・サービス情報ページ。製品ラインナップと企業概要を確認できる。
unisize(ユニサイズ)公式サイト(外部)
FitModel.AIの基盤技術を育てたサイズレコメンドエンジン。国内250サイト以上への導入実績を持つメイキップ社のサービス詳細を確認できる。
FaceChange(フェイスチェンジ)公式ページ(外部)
ECサイト上のモデル画像にユーザーの顔を合成し着用イメージを可視化するサービス。FitModel.AIと一体をなすメイキップの着用イメージ可視化サービス体系。
【参考記事】
Getty Images VisualGPS — AI画像の透明性に関する消費者調査(英語)(外部)
約90%の消費者がAI生成画像の開示を求めていると示したGettyの消費者調査レポート。AI画像活用時の消費者心理把握に役立つ一次資料。
Retailers Bet on AI Fitting Rooms to Slash Costly Returns — PYMNTS.com(外部)
ZaraやASOSがAI仮想試着をEC購入フローに組み込む最新動向を伝える英語記事。NRFによる2025年オンライン返品率(19.3%)の統計も引用。
How Apparel Brands are Using AI to Reduce Ecommerce Returns — Gobolt(外部)
アパレル返品の75%がサイズ問題由来というデータを軸に、AI活用による返品削減策の各アプローチを整理した英語記事。
7 Best AI Tools for Fashion and Clothing Industries in 2026 — crescendo.ai(外部)
2026年時点のアパレル業界向けAIツール7選を比較・解説した英語記事。PhotoRoomなど競合サービスの機能と市場での立ち位置を俯瞰できる。
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【編集部後記】
服を売る立場からすれば、「最もきれいに見せたい」と思うのは当然のことです。買う立場からすれば、きれいに映った写真の方が好印象を持つのも当然のことです。
しかし、服は部屋に飾るものでは無く、身に着けるものです。目を引く商品を見つけた次の瞬間には、「自分に似合うか」で頭がいっぱいになるはずです。実店舗とは違い、試着室も姿見もないECサイトでは、「後悔したくない」という気持ちも必然と強くなります。全額返金サービスがあっても、再梱包して発送しなおすことの心理的なハードルはなくせません。
AIが正確なサイズ感で着用イメージを生成して、さらに自分の顔も合成して、ここまでやっても、ひょっとしたらAIを信用しきれないという気持ちもあるかもしれません。
実際に手に取ることができないECサイトのジレンマを、AIは解決できるのでしょうか。











