Business Insiderの報道によると、GoogleはOpenClawの競合となるAIエージェントを、コードネーム「Remy」として開発している。Remyは現在、Googleの従業員によってテスト中であり、Geminiアプリの従業員限定版で稼働している。
Googleの他のサービスへの統合も可能だという。社内文書には、Remyが仕事・学校・日常生活のための24時間365日対応のパーソナルエージェントであり、Geminiアプリを、ユーザーに代わって行動を実行できるアシスタントへと進化させるものと記されている。Seeking Alphaのコメント要請に対し、Googleからの即時の回答はなかった。Googleは2026年5月、年次イベント「Google I/O」を開催予定である。OpenClawの創業者ピーター・スタインバーガー氏は、2026年2月にOpenAIへ移籍した。OpenClawはユーザーのマシン上でローカルに稼働し、WhatsAppやTelegramと統合してカレンダー管理やメール送信を自動化する。
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Google reportedly building OpenClaw competitor codenamed ‘Remy’
【編集部解説】
このニュースが流れたタイミングは、偶然ではありません。Googleは今月、年次開発者会議「Google I/O」を控えています。社内開発中のプロダクトの存在がBusiness Insider経由でリークされる流れは、業界の注目を会期前に集めるための観測気球とも読み取れます。実際、IT Proなど一部メディアはGemini 4の発表観測とあわせて報じています。
そして、競合とされる「OpenClaw」は、2026年初頭にオープンソースの自律型エージェントとしてシリコンバレーを席巻した存在です。NVIDIAのジェンスン・フアン氏が評価し、ベンチャーキャピタリストのジェイソン・カラカニス氏は「OpenClawを倒すことが大規模言語モデル業界の課題だ」とまで発言したと報じられています。
OpenAIはその重要性をいち早く察知し、2026年2月に創業者のピーター・スタインバーガー氏を迎え入れました。次世代のパーソナルAIエージェント開発を担う立場での起用と業界では受け止められています。一方、Claudeを提供するAnthropicは、AI需要の急増によるコンピュート負荷を背景にOpenClaw側のアクセスを絞り、先月には月額200ドルの標準プランにおいて、一部サードパーティツール経由でのClaude利用を対象外とする措置にも踏み切ったと報じられています。Remyの登場は、こうした「AIエージェント戦争」の最前線におけるGoogle側の応答と位置づけられます。
なぜ業界がこれほど一つのオープンソースプロジェクトに反応するのでしょうか。それは、AIの主戦場が「質問に答える」段階から「行動を代行する」段階へと、本格的に移行し始めているからです。Remyの社内向け説明にある「単に質問に答えたりコンテンツを生成したりするだけでなく、真のアシスタントへ」という表現は、この転換点を象徴する一文と言えます。
Googleが持つ最大の戦略的アドバンテージは、エコシステムへのネイティブ統合です。Gmail、Googleカレンダー、Googleドライブをはじめとする Google Workspace群、さらにGoogleマップやAndroidまで、すでに数十億人が日常的に使用するサービスに、エージェントが「内側から」アクセスできる立場にあります。Geminiのサポートドキュメントによれば、現時点でもGitHub、Spotify、YouTube Music、Googleフォト、WhatsApp、Google Homeなどとの連携が用意されており、Remyはこの土台の上に構築されると見られます。サードパーティAPIに依存して連携を構築せざるをえない他社とは、出発点が大きく異なる構造です。
技術的にはRemyはまだ「ドッグフーディング」と呼ばれる段階にあります。これは社員が自社プロダクトを実務で使い倒しながら品質を磨く手法で、公開時期は明示されていません。ベースとなるGeminiのモデルバージョン、自律性の水準、ユーザーの事前承認をどこまで求める設計か、といった技術的詳細も、現時点では非公表のままです。
ポジティブな側面から見れば、Remyは「専属の秘書を持つ」感覚を一般ユーザーに開放する可能性を秘めています。複雑なタスクを先回りで処理し、好みを学習し、複数サービスを横断して文脈を理解する——そうしたアシスタントが生活に入り込む未来は、知的生産のあり方を根底から組み替えるでしょう。
一方で、留意すべき論点も少なくありません。24時間365日ユーザーの生活を観察し続けるエージェントは、定義上、きわめて深いプライバシー領域にアクセスします。GoogleはGemini Privacy Hubで設定管理を提供してはいるものの、エージェントが「どこまで自律的に判断し、どの段階で承認を求めるか」という設計思想こそが、今後の最大の論点になっていくはずです。
規制との関係も見過ごせません。EUのAI法をはじめ、世界各国でAIエージェントの説明責任、誤動作時の責任所在、自動化された意思決定の透明性が議論されています。「ユーザーに代わって行動するもの」が普及するほど、誰の責任で何が起きたのかを記録・検証する仕組みの設計が、ますます重要性を増していくと考えられます。
長期的な視座から眺めると、この動きは単なる「Google対OpenAI」の構図には収まりません。クローズドな大手ベンダー、OpenClawに代表されるオープンソース陣営、そしてエージェントを動かすCPU需要を背景に再活性化する半導体業界——複数の力学が交差する地点で、私たちは「AIが行動するインフラ」の標準を誰が握るのか、その分岐点を目撃しているのかもしれません。
【用語解説】
AIエージェント(エージェント型AI)
ユーザーの指示を受けて、複数のステップを自律的に判断・実行するAIシステムを指す。質問応答や文章生成にとどまらず、メール送信、予定調整、調査、ファイル操作などのタスクを「代行」する点が特徴である。
Remy(レミー)
Googleが社内で開発中とされるAIエージェントのコードネーム。Geminiアプリ上で動作し、Googleの各種サービスと統合してユーザーの代わりにタスクを実行する設計と報じられている。
OpenClaw(オープンクロウ)
オープンソースの自律型AIエージェント。創業者はピーター・スタインバーガー氏。ユーザーのマシン上でローカルに動作し、WhatsAppやTelegramと連携してメッセージ返信、調査、メール送信、カレンダー管理などを自動化する。2026年初頭にシリコンバレーで急速に注目を集めた。
ドッグフーディング(dogfooding)
自社で開発中の製品を、まず社員自身が実務で使用して品質を高めるソフトウェア業界の慣行を指す。「自社のドッグフードを自分で食べる」という比喩から来ている。一般公開前の最終検証段階で多用される。
Google I/O
Googleが毎年開催する開発者向け年次カンファレンス。新製品、新サービス、最新技術が披露される場として知られ、業界全体の方向性を示すイベントとして注目度が高い。
Gemini Privacy Hub
Geminiにおけるユーザーのプライバシー設定を一元管理する機能。会話履歴の保存、自動削除、AIモデル改善への利用可否などをユーザー自身が制御できるよう設計されている。
EUのAI法(EU AI Act)
欧州連合が制定した、AIシステムをリスク水準に応じて段階的に規制する世界初の包括的AI法制。透明性、説明責任、人間による監督などを定めており、エージェント型AIの設計にも影響を及ぼすと見られている。
【参考リンク】
Google Gemini(外部)
GoogleのAIアシスタント「Gemini」公式サイト。マルチモーダルAIで、Remyの基盤プラットフォームである。
Google I/O(外部)
Googleが毎年5月頃に開催する開発者カンファレンスの公式ページ。最新セッション情報やアーカイブが掲載されている。
Google DeepMind(外部)
GoogleのAI研究部門の公式サイト。CEOデミス・ハサビス氏はデジタルアシスタント構築の構想を公言している。
OpenAI(外部)
ChatGPTを提供するAI企業の公式サイト。OpenClaw創業者スタインバーガー氏が2026年2月に移籍したと報じられている。
Anthropic(外部)
AIアシスタント「Claude」を提供するAI企業の公式サイト。OpenClawはClaudeを利用して動作していたと報じられている。
【参考記事】
Google is building its own OpenClaw alternative — Remy ‘elevates the Gemini app into a true assistant'(IT Pro)(外部)
Remyがドッグフーディング段階にあること、Gemini 4の発表観測との関連、Google Cloud Nextで発表されたAgent Runtimeとのつながりなど、エンタープライズ視点での文脈を厚く解説した記事である。
Google Tests New AI Agent To Take On OpenClaw With Advanced Task Automation: Report(Benzinga)(外部)
NVIDIAフアン氏の「次のChatGPT」評、カラカニス氏の発言、Anthropicによる月額200ドルプランでの一部Claude利用打ち切りなど、業界の力学を多角的に伝えている。
Google tests Remy AI agent for Gemini as focus turns to user control(AI News)(外部)
Remyのアーキテクチャや自律性の水準が現時点で非公開であることに焦点を当て、Geminiの公式Connected Appsを整理して伝えている。
Google and Gemini: Meet Remy, your personal AI agent(Viral Methods)(外部)
Googleエコシステムへのネイティブ統合がGoogleの戦略的優位であること、Geminiのマルチモーダル基盤がRemyに継承されることを整理した記事である。
【関連記事】
ClawdbotからOpenClawへ─急成長するセルフホスト型AIエージェントの実力と危険性
Remyが対抗する「OpenClaw」の出自、シリコンバレーで急成長した経緯、商標問題などを詳述した記事。本記事を読む前提として推奨。
Kimi Claw発表:Moonshot AIがOpenClawをクラウド統合
OpenClaw創業者ピーター・スタインバーガー氏のOpenAI移籍経緯を詳述。本記事の編集部解説で触れた「2026年2月の移籍」の補強に最適である。
Gemini Enterprise Agent Platform正式発表—Google Cloud Next ’26が告げる「エージェント時代」の本番開幕
Google側のエージェント戦略全体像を把握できる直近記事。Remyはこの大きな戦略の一環と位置付けられる。
【編集部後記】
「AIに行動を任せる」という発想は、これまでの「AIに尋ねる」習慣とは別の景色を私たちに見せてくれそうです。もしRemyのようなエージェントが日常に入ってきたとき、皆さんはどこまでをAIに委ね、どこから先は自分の手で決めたいと感じるでしょうか。
仕事の段取り、家族との予定、買い物の判断——線の引き方は人それぞれだと思います。エージェントAIの進化を一緒に追いかけながら、その境界線について、ぜひ皆さんの感覚も聞かせてください。











