かつてGetty Imagesは、AI企業を法廷に引きずり出す「最も手強い権利者」として知られていました。そのGettyが今度は、生成AIの代名詞とも言えるOpenAIと手を組む——。敵だったはずの相手と握手するこの一手には、画像を「守る」だけでは立ち行かなくなった時代の、新しい生存戦略が透けて見えます。あなたが次にChatGPTで目にする一枚の画像は、もう「拾いもの」ではないのかもしれません。
AIに何かを尋ねたとき、添えられた一枚の画像が「誰のものか」を意識したことはあるでしょうか。Getty Images(NYSE: GETY)は2026年6月21日、OpenAIとの表示パートナーシップを発表しました。複数年にわたるこの契約により、Getty Imagesのライセンス済みコンテンツライブラリが、ChatGPT内のOpenAIの検索・発見(search and discovery)体験全体に表示されるようになります。
本契約はChatGPT内での表示用途としてGetty Imagesのコンテンツ利用を可能にし、ビジュアルによる回答を充実させるものです。Getty Imagesは、Getty Images、iStock、Unsplashの各ブランド、ウェブサイト、APIを通じてサービスを提供し、約60万人のコンテンツクリエイターおよび約360のコンテンツパートナーと協働。毎年16万件を超えるニュース、スポーツ、エンターテインメントのイベントを取材しています。最高経営責任者(CEO)はクレイグ・ピーターズです。
From:
Getty Images Announces Display Partnership with OpenAI
【編集部解説】
「あの」Getty Imagesが、生成AIの本丸と手を組む——。このニュースの本当の見どころは、提携そのものよりも、Getty Imagesという企業が立っている位置の変化にあると私は見ています。
まず押さえておきたいのが、今回の契約が「display(表示)」を対象としている点です。これはChatGPTがAIモデルを学習させるためにGettyの画像を使う、という話ではありません。ユーザーが検索・調べものをした際に、その回答にGettyのライセンス済み画像が表示される、という仕組みです。学習用ライセンスと表示用ライセンスは、まったく別のものとして理解する必要があります。なお、画像にクレジット(出典)をどう添えるかといった具体的なUI仕様は、今回の発表文では明示されていません。
ここで参考になるのが、すでにある先例です。Getty Imagesは2025年10月31日に、AI検索エンジンのPerplexityとほぼ同型の複数年契約を結んでいます。そのリリースでは、画像にクレジットと元ソースへのリンクを表示し、ユーザーが画像を合法的に使う方法を学べるようにする、という点が明記されていました。OpenAIとの提携でも同様の配慮がなされるのかは、現時点では公表情報からは読み取れません。ただ、Gettyが「AIの回答に、対価を払った正規の画像を出す」という方向の取り組みを重ねていることは、2件の契約から見て取れます。
ここで効いてくるのが、Gettyのもう一つの顔——訴訟を厭わない権利者としての姿です。同社は2023年1月、画像生成AI「Stable Diffusion」を開発するStability AIを英国で提訴しました。Stable Diffusionの学習をめぐっては、Gettyが「自社コンテンツに関する1200万件のリンクが無断でスクレイピングされ、学習に使われた」と主張した一件です。しかし2025年11月4日、英国高等法院は著作権侵害の中心的な主張を退け、商標(ウォーターマーク)に関するごく限定的な侵害のみを認める判決を下しました。Gettyにとっては、大部分で目的を果たせなかった結果だったと言えます。
訴えても、学習データの無断利用を法廷で完全に押し戻すのは難しい。一方で、AI企業の側にも正規コンテンツを求める動機がある。この二つが重なる地点で、Gettyは訴訟とライセンス契約を並行させる局面に入ったと私は見ています。「訴訟か、ライセンスか」ではなく、「訴訟も、ライセンスも」という構えです。
OpenAI側の事情も見逃せません。同社はChatGPTを、単なるチャットボットから、買い物・予約・外部アプリ連携までこなす「スーパーアプリ」へと作り変えようとしていると報じられています。検索・発見機能が中核に据えられるほど、回答に添える画像の質と権利のクリーンさは重要度を増します。権利関係の整った画像を確保することは、訴訟リスクの抑制とユーザー体験の向上の両方に寄与すると考えられます。
読者の利益という観点でも、期待できる面があります。AIの回答に出てくる画像が、出どころ不明のものではなく、撮影者やライセンスがはっきりした正規コンテンツに置き換わっていく。これは「誰が作ったのか」を尊重する文化をAI時代にも引き継ぐ試みとして、前向きに評価できる動きだと感じています。
一方で、注意したい影も残ります。今回のリリースには契約金額も契約年数の具体値も示されておらず、規模感は読み取れません。また、複数のストックフォト・報道各社が大手AI企業とライセンス契約を結ぶ動きは、裏を返せば、AIプラットフォームへの依存と交渉力の集中を強める可能性もはらみます。契約に基づくクリエイターへの還元方法は公開されておらず、その実効性は今後の透明性が問われる部分でしょう。
最後に、規制への示唆です。Getty自身、Stability AI訴訟の判決後に、知的財産法の近代化とAI学習の透明性ルール強化を政府へ求める声明を出しています。英国政府も著作権法の見直しを進めていると報じられており、AIと著作物をめぐるルール作りは2026年が一つの節目になりそうです。今回のような商業的な合意の積み重ねが、立法に先行して業界の慣行を形づくっていく——その可能性を、私たちは注視していく必要があります。
【用語解説】
display agreement(表示契約/表示パートナーシップ)
AIの学習用ではなく、AIサービスの画面上に画像を「表示する」ための利用許諾を指す。本件では「display within ChatGPT」と説明されており、モデルを学習させる契約とは性質が異なる。
search and discovery(検索・発見)体験
ユーザーが調べものや探索をする過程を指すChatGPT内の機能領域。従来の一問一答に留まらず、関連情報やビジュアルを提示してユーザーの「発見」を助ける部分を指す。
ライセンス済みコンテンツ(licensed content)
権利処理(撮影者やモデルの許諾、対価の支払い)が済み、商用利用が法的に安全とされる画像・映像。出どころ不明のコンテンツと対比される概念である。
インデムニフィケーション(indemnification/補償)
提供したコンテンツが第三者の権利を侵害していた場合に、提供側が利用者の損害を補償する仕組み。Getty Imagesが生成AIツールで「商用上安全」を打ち出す際の根拠となっている。
Stable Diffusion
Stability AIが開発した画像生成AIモデル。テキストや画像の指示から画像を生成する。学習にGettyの画像が無断で使われたとGettyが主張し、英国での訴訟の対象となった。
二次的著作権侵害(secondary copyright infringement)
著作物を直接複製する一次侵害ではなく、侵害物の輸入・所持・取引などの下流の行為に関わる侵害類型。英国のGetty対Stability AI裁判では、AIモデルがこの「侵害物(infringing copy)」に当たるかが争点となった。
スーパーアプリ
チャット、検索、買い物、予約、外部アプリ連携などを一つに統合したアプリの構想。OpenAIがChatGPTを単なる対話AIから多機能プラットフォームへ拡張する方針を指して、報道で用いられている。
【参考リンク】
Getty Images(公式サイト)(外部)
世界有数のビジュアルコンテンツ制作・販売企業の公式サイト。報道・スポーツ・クリエイティブ画像などライセンス済みコンテンツを提供する。
Getty Images Newsroom(公式ニュースルーム)(外部)
Getty Imagesの公式発表や声明を掲載。AI関連の提携や訴訟に関する一次情報を確認できるページである。
OpenAI(公式サイト)(外部)
ChatGPTやDALL-Eなどを開発する米国のAI企業の公式サイト。製品発表や研究成果が掲載される。
ChatGPT(公式サービスサイト)(外部)
OpenAIが提供する対話型AIサービス。検索・発見機能や画像生成機能が統合されつつある。
iStock(公式サイト)(外部)
Getty Imagesが運営する、手頃な価格帯のストック素材サービス。写真・イラスト・動画を提供する。
Unsplash(公式サイト)(外部)
Getty Images傘下の画像プラットフォーム。高品質な写真を扱うサービスである。
Stability AI(公式サイト)(外部)
画像生成AI「Stable Diffusion」を開発する、英国拠点のAI企業の公式サイトである。
Perplexity(公式サイト)(外部)
出典を明示するAI検索エンジン。2025年にGetty Imagesと表示ライセンス契約を結んだ企業である。
【参考記事】
Getty Images and Perplexity strike multi-year image partnership(外部)
OpenAI提携のひな型にあたるPerplexityとの契約発表。画像クレジットと元ソースリンクの表示方針が明記されている。
Getty Images largely loses landmark UK lawsuit over AI image generator(外部)
英国高等法院判決の報道。著作権の中心的主張で大部分敗訴し、商標で限定的に勝訴したことを伝える。
Getty Images v Stability AI 判決文(英国司法府)(外部)
判決の一次資料。二次的著作権侵害の争点や、Getty側の「1200万件のリンク」主張、限定的な商標侵害認定の経緯が記されている。
Getty Images issues statement on ruling in Stability AI UK litigation(外部)
判決を受けたGetty自身の声明。政府に知的財産法の近代化と透明性ルール強化を求める姿勢が示されている。
OpenAI plans ChatGPT ‘superapp’ overhaul ahead of listing, FT reports(外部)
FTの報道を引き、OpenAIがChatGPTを多機能な「スーパーアプリ」へ刷新する計画を伝える記事である。
【関連記事】
Getty Imagesは生成AIとどう向き合うか?戦略開発担当にインタビュー|Perplexity提携の真意
今回のOpenAI提携を読み解く前提となる記事。Getty幹部が「Perplexity提携は学習ではなく表示のための統合だ」と明言したインタビューである。
ゲッティ・イメージズとStability AIの英国判決 – AI学習と著作権侵害の境界
本文で触れた2025年11月4日の英国判決を詳報した記事。「訴訟するGetty」という文脈を補完する内容である。
Emotional Perception AI / Getty Images – 英国裁判所がAI特許と著作権の未来を左右する2大訴訟
Getty対Stability AI訴訟の係争中の解説。今回の提携に至る訴訟の出発点を知るための記事である。
【編集部後記】
AIに何かを尋ねたとき、添えられた画像の「出どころ」を、みなさんは気にしたことがあるでしょうか。これまで私自身、答えの文章ばかりに目を向けて、画像のクレジットまで意識できていませんでした。けれど今回の動きは、AIが見せる一枚一枚に「誰が撮ったのか」が宿りはじめる予兆かもしれません。次にChatGPTで調べものをするとき、画像の出どころにそっと目をやってみませんか。そこから、これからのAIとの付き合い方が、少し違って見えてくる気がしています。












